後始末 その2
姐さんがおっしゃるには……
わたしなら直接自分自身でなくても、依り代にお不動さまを降ろすことで運べるだろう、と。
なるほど。それなら大丈夫かしら?
なら依り代のために、お不動さまに縁のある物や絵姿とかでも用意すればいいですか?って聞いたら、
今のお不動さまはわたしが一所懸命あの草を焚いたお陰で、どうやらかなり「シヴァ神」さま寄りになっていると思われるので、シヴァ神さまの象徴となるような「像」を用意する必要があるって言われた。
でもシヴァ神さまの像なんて何処にあるのかしら?
確か遠い印度の神さまでいらしたのよね?
小首を傾げていると、
「ほらお前、昼間にお仙の店に行ったんだろ?そこならその像もそれに近いモンも沢山あるさ」
ですって。
あの不思議な物を置いてあるお店には色々な物があるらしい。
そんな訳で今からお仙さんのお店へ行くことに。
今はもう夜ですけど開いているのかしら?って聞いたら、むしろ夜の方が本番なお店なのだと。
お店に着くと、昼間には見かけなかったお客さんがチラホラいた。
「今晩は~!お仙さん。先程はありがとう御座いました!」
お店に入り元気良く挨拶をすると、中にいた人達が早速さと外へ出て行ってしまった。
あれ?何でだろう?と不思議に思っていたら、奥から猫さんを抱いたお仙さんが姿を現し、
「商売の邪魔をするんじゃ無いよ〜」
って、怒られた。ごめんなさい。声が大き過ぎましたか?
お仙さんにここへ来た事情を説明して、「……そんな訳でして、こちらに来ればシヴァ神さまの像か、それに近い物が沢山あるって伺ったのですが……」そう尋ねると、「それは鶴吉が言ったのかい?」少し強い口調と共に細い目が少し見開いた。
そのヒリっとした様子に、あれ?何かまずい事言ったのかしら?……恐る恐る、「はい……」と答えると、お仙さんは目を瞑って少し考え込んだ後、「……リンガ、ヨニの像か……」とポツリと呟いた。
……りんが?よに?……なんですか?それ。
「違います。そんな変な名前の像じゃなくって、欲しいのはシヴァ神さまの像ですよ。無ければ代わりにそれに近い物でも良いそうです」
わたしが直接ソレに降ろすことになるから、その物ズバリでなくても縁のある物であれば大丈夫らしい。姐さんに言われたことをそのまま伝えると、
「ハル坊はその像がどんなモノとか、どんな形してるモノとか鶴吉から聞いてるのかい?」
って。
言われてみればわたしはシヴァ神さまの「象徴となる像」としか聞いてない。
「そういえば聞いてませんでした」
「聞いてないのなら、良いんだよ」
お仙さんは深い息を吐きながらお店の中をゆっくりと見渡すと、
「その像はハル坊が使うんだろ?」
わたしが降ろしてわたしが神さまをお運びするのだからわたしが使うことになるんだろう。
だから、「はい。わたしが使います」と返事をした。
「それで神輿渡御の真似事をするんなら、町中をソレ持って歩く訳か……」
川も渡ることになるから、お舟も使うとは思うけど、基本的にはそうなると思う。
なので、「はい。ですからあまり大きくないと有難いんですけど……」と返事をする。
「……ったく……あの子ったら面白がって……」
話しをしている内に、穏やかな表情だったお仙さんのお顔が段々と冷えびえとした笑顔に変わってきて、思わず身震いした。
お仙さんの膝上に乗っている猫さんは何故か笑っている気がする。
……何か気に触ることでも言ってしまったのかしら……
何かわからないけど取りあえず謝ろう。そうしよう。と思っていたら、
「ごめんね。今ちょっとその像や近い物も切らしてるんでね〜」
すぐにいつもの穏やかなお顔に戻ったのでホッとし、胸を撫で下ろしたのだけど在庫無しだと言われて困ってしまった。
それは不味い!どうしよう?このままではわたしが依代にされてしまう!
誰かお持ちの方って知りませんか?って尋ねたら、
「要はアレだろ?ハル坊がその神様降ろした依り代持って、渡御さえ出来れば良いんだろ?」
コクリと頷くと、それならシヴァ神さまがお乗りになるのに丁度良いのがあるよって、店の奥から持って来た物を掌に握らされたのだけど……
……あの、コレって……どっかのお店の縁起棚で同じ物を見たような気がしますけど……
ホントにこんな物で大丈夫なんですか?と心配そうに訪ねるが、「大丈夫、大丈夫」とお仙さんにそれを押し付けられ、「鶴吉には今度わたしからもよく言っとくから!」ってちょっと怒られながら店から追い出されてしまった。
仕方が無いのでそのまま家に戻り、「お店にシヴァ神さまの像が無いそうなので、代わりにこれを渡されました」と姐さんにそれ見せたところ、
「無けりゃぁ無いで、肥後ずいきかなんか張型でも渡してくるかと思ったが、代わりに撫で牛を寄越すたぁ、アイツもお優しいこって」
ですって。
洒落が利いてるって笑ってる。ハリカタ?なんだろう?
この渡された寝そべった牛の像は、「撫牛」って言うらしい。
牛の像を撫でて病気が治るように願うのを撫牛信仰と言うらしく、この臥牛の像は縁起物で、今巷で流行っているんだって。
どうりで見たことあると思った。
因みに向島の牛嶋神社とかが有名らしいので、近いから今度行ってみよ。
で、この信仰は大黒天さまとも深い関係があるらしく、その大黒天さまってばシヴァ神さまの化身でもあるらしい。
シヴァ神さまってば、遠い大陸からこっちへいらして、色々な神さまになっていらっしゃるのですね。大活躍ですね。
姐さんは、「そもそもシヴァ神の乗り物は牛に決まってるんだから丁度良い。これでも大丈夫だろうさ。お前にはお似合いかもね」ってまだ笑ってる。
まぁ、わたしにとっては小さくて持ち運びし易そうですし、わたしの代わりに依り代になってくれるなら、なんでも良いんですけどね……




