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後始末 その1

 堀さまは、「ではこれから準備にかかる故、後は些細頼む……」と言い残し、力なく戻って行った。


 それをニヤニヤしたお顔で見送っている姐さんを見るに、キッチリ追加料金が取れたのだろう。


 しかし、どうもわたしが何かをされるようだけどすっかり蚊帳の外だ。


「で、姐さん。わたし何をさせられるんですか?」


 今日は一日中あっちこっち行ったので疲れてます。もう嫌ですよ!

 プイっと横を向きながら言うと、


「まぁまぁ。ほら、疲れてるんなら甘いモンだろ?」


 後ろの茶箪笥を開けると、黒い塊が乗ったお皿を出してきてわたしの目の前に置いた。

 それは艶やかに黒光していて、僅かに白く輝く粉がキラキラと光っている。


「こ、これはもしかして……」

「そうさね。本郷は藤むらの羊羹さ。蒸しじゃなくてちゃんと練りだよ」


 練羊羹!こんな高級品、話には聞いていたけど初めて見た!

 そんなモノを出されては何も言えない。

 内容を聞く前に頭を振って了承するしかなかった……




 こんな大層なものを隠し持っていたなんて……全く気付かなかったわ……知っていれば姐さんの寝ている間にでも……不覚……


 真面の笑みを浮かべ、大事そうに羊羹を食べながら、ハルは鶴吉の話しを大人しく聞いた。


「まぁ、お前の話しを聞いていて、どうせこうなるだろうとは思ってたがね」


 どうやら姐さん、以前お不動さまがやらかした事についてはご存知だったらしく、わたしからの話を聞いて、「またかい……」って呆れてたらしい。


 例の祭典の時、お不動さまってばお神輿を見て、「八幡の神さまだけズルい!ワシも行きたい!」的なこと言って駄々をこね、牛さんが引いてる山車だしを見つけて、「アレはワシの為のものだろ!」とか騒いでしまい、関係者一同大変困ってしまったそうな。


 ……山車は確かに神さまが降臨されるための依代なので、ある意味間違いはないのですけど、八幡さまのお神輿はお舟を使って川も渡御とぎょするから、さすがに牛さんが引く山車では無理ですよね……

 

 て、その対処のために連れて来られたのが例の市子さん。

 市子さん自身を直接依り代にしてお不動さまを降ろし、神輿の跡をついていくことで渡御させ、その場を収めたらしい。

 でも、それが元で市子さんはお亡くなりになってしまったのだと。


 ……ご愁傷さまです……お不動さまってば、お力が強そうですものね……あと、もう姐さんのお歳には突っ込みませんよ……


「お不動さまがその市子を望んでたのは渡御が目的だったんだろうから、今回も取り合えず渡御さえさせれば満足する筈さ」


 今の寺社奉行では、その市子さんがすでに亡くなっていることは突き止められても、当時の詳しい内容までを知ってる者はいないだろうね……ですって。


 確かまだ寺社奉行さまが深川を管理されてた頃のはずですから、姐さま方とお役人さま達がズブズブの関係だった時よね?

 うわ……おタエさんの暗躍っぷりが目に浮かびます……


「お不動さまのお目当ては市子さん本人よりもお神輿の渡御でしたか。よっぽど江戸の町をお気に召したのですね。ならどうするんですか?お神輿を出すんですか?」


 いくら寺社奉行さまとはいえ、一旦延期が決まった祭典を今更やるには簡単なことではないだろう。

 それに、そもそもあのお神輿は八幡の神さまの物だ。まさかお神輿の上にある御神体を入れる場所にお不動さまをねじ込むわけにもいかないだろうし。

 どうするんだろう?

 そこまで考えていてハタと気付いた。


 ……いや、それとも……


「……もしかして、前回みたく依り代になる人を探してきて、そこに降ろすんですか?」


 そんなことをすればその人は確実に……

 で、その人ってば……嫌な予感がして手元にある羊羹をジッと見つめた後、その視線を姐さんに戻した。


「そりゃもちろん、お前がお不動さまをお連れして渡御するんだよ」

「!」


 ニコリと良い笑顔で、さっき堀さまとはそういう話しでまとまったのだと言われてしまった。


 あぁ!やっぱり!

 あの市子さんみたく、わたしを依代にして渡御するおつもりですか⁉

 他の人じゃダメなんですか⁉

 それってわたし、死んじゃいません?

 そんな……羊羹が元で死んじゃうなんて……


 途端に、今までとろけるように甘かった小豆が苦いものに感じてきた。

 思わず手に持っていた羊羹をポロリと落とし、呆然としているわたしを見て、


「ばかだね、お前は。何の為にお前にやらせるんだと思ってんだい」

「?」


 あきれ顔で、「お前が昼間に終わらせとけば済んだ話しだったんだから、ある意味自業自得だよ。諦めな」って。

 それから小さく、「そんな勿体無いことする訳ないだろ」と笑いながらおっしゃってましたけど、それは好意的な意味で受け取ってもよろしいのでしょうか?


 一抹の不安を拭えないまま、姐さんを黙って見つめるしか無かった。

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