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お勤め終了

 その後は約束通りに残りを燃やしてあげた。


 …… あぁ、煙い煙い……さて、と……


 お不動さまからお話しは聞けたので、これでわたしの仕事は終わりだ。


 後ろを振り向くと心配そうに見ている辰之進さまと目が合い、「大丈夫ですよ」と笑いかけると安堵した表情に変わり、満面の笑みを返してくれた。


 ……あぁ!コレッ!これが欲しくて頑張ったのよ!


 眩しいほどに光り輝くその笑顔に、愉悦に浸り身体が震えてくるのを感じる。

 気を抜くとニヤけそうになるのをグッと堪え、軽い足取りで辰之進さまの元へ向かい、お不動さまから聞いたお話しの内容を伝えた。


 わたしがする話しを聞きいて、最初は目をギョッとさせ、その後はなんとも言えない不可思議なお顔になり、聞き終わると、「まぁ……その……なんとも俄かには信じがたい不思議な話しですが、あそこまで頑張ったおハルちゃんがそう仰るのでしたらそうなんでしょう……」諦め顔で頷いてくれた。


 そうです。大変だったんですよ!

 まぁ微妙なお顔をされるのも最もですよね。直接お伺いしたわたしも納得出来ませんもの。

 でも、神さまってば大体こんなもんですから諦めが肝心です。

 でも、そう悲観することも無いと思いますよ。


「……で、辰之進さま、その市子さんをお探しする件ですが……」


 寺社奉行には各寺社の神官僧侶はもちろんですけど、修験者や陰陽師、歩き巫女さん達の管轄もお仕事ですので宗門人別改帳帳で確認すればお探しするのはそう大変じゃないと思いますよ、とついでに付け加えておいた。

 それを聞いた辰之進さまは、


「おハルちゃん、色々とありがとう。お疲れ様」


 後のことはそう大変でもないことがわかるとホッとしたようで、優し気な笑顔でわたしの頭を撫でてくれた。


 ……幼い子に対する様な撫で方にちょっと引っ掛かるところも有りますけど、頭を撫でられること自体はとても嬉しいので大歓迎です!


 わたしもニコリと満足げな笑顔で返し、苦労が報われた!ってちょっと浸っていたのだけど……


 ……そうそう、大事なことを忘れてました……


 ちょっと真面目な顔に戻し、


「あの〜一つ宜しいですか?」

「何かありましたか?」


 辰之進さまはビクッとなり、撫でていた手を離すと、少し不安げなお顔でこちらを覗き込んでくる。

 その凛々しいお顔にちょっとキュンとなる。


「……そろそろ八ツの鐘も鳴る頃ですし……」


 女のわたしから誘うなんてはしたないことかも知れませんが、この機会を逃すと次はいつ会えるかもわかりませんもの。勇気を振り絞って、


「朝からお忙しくて、お昼もまだでしたし、ちょっとその辺りでお食事でも……」


 わたしはさっきお赤飯を頂いたけど辰之進さまは何も食べていらっしゃらなかったはずだ。

 お昼も過ぎたのでわたしもちょっとお腹が空いてきたし。

 モジモジしながらチラッと辰之進さまを見ると、そのお顔はスッと無感情で真面目なお顔に変わり、


「いえ、今伺った件を急ぎ兄上にお伝えしなければいけませんので」


 かの者の探索しなければならないだろうから急ぎ伝えに行かなければ、と仰る。


 しまった!余計なこと言わなければよかった!


 市子さんのことだけ伝えて、後はおタエさんの報告へ一緒に行きましょうって言えば、その分時間が取れたのに!


「それに、今は胸が一杯です」


 申し訳なさそうな顔をしながら、「おハルちゃんと共にいると、始終気を張りっぱなしでしたから」ですって。

 

 え~っと、これはどう受け取れば良いんだろ?




 足早にお寺を後にする辰之進さまを見送り、わたしは一人トボトボとおタエさんの所へ報告に向かった。

 おタエさんにお不動さまから聞いた話しを伝え、辰之進さまはお兄さまの所へ向かったことも伝えると、「そうかい。お疲れさん」いつもの冷たい笑顔でお駄賃をくれたので問題はなかったようだ。


 家に帰ると姐さんはもう起きてらしたので、同じ様に詳細を報告をした。でも……


「バカだね、お前は」  


 って、呆れられてしまった。


 ……むぅ……おタエさんには誉められたのに……


 不貞腐れて睨みつけると、フンッと鼻で笑われ、


「お前が焚いたもんをお不動さまが気に入ったんだろ?」


 そのまま扉を開けるよう交渉しとけばその場で終わった話しだ。ですって。


 言われてみればそうですね。気がつきませんでした!


「まぁ、訳を聞くまでが仕事だから」


 後のことは奉行所に任せときゃいい。金払いも悪いしな。ですって。


 取り合えず怒られずに済んで良かったって思ったんだけど……


「で、勝手に持ってっちまったあたしの酒はどうしたんだい?」


 笑顔でずいっと睨んでくるその目は笑ってない。


「あ……」


 ごめんなさい!使わなかったので、そのまま置きっぱなしです!


 慌てて直ぐにお寺へ取りに戻った。




 その晩、お文さんが予め下拵えをしていてくれた晩御飯の準備をしていた。


 江戸では普通、朝にご飯を沢山炊いて、昼も夜そのご飯を食べるのだけど、ウチはお座敷の関係で不規則だったり、わたしが食べ尽くしたりするので、夜までご飯が残っていない時はお文さんが気を利かせて炊いといてくれる。

 西の方で生まれたお文さんにとっては逆に夜にご飯を炊いて、それを朝・昼に食べるのが普通らしいのだけど。

 

 今晩は炊き立てのご飯だ!喜びながらいそいそとお膳の準備をしていたら、


「御免!」


 急な来客があった。


 現れたのは昨日お座敷でお会いした、辰之進さまのお兄さまである寺社奉行同心の渡辺さまだった。


 ……相変わらずお顔のお色は良くないようですけど、動けるようにはなったのですね。良かったです。


「こんばんは。渡辺さま。如何なさいましたか?」

 

 ……これからご飯なので面倒事は勘弁なのですけど……


「おハルと言ったか。今日は苦労を掛けたな。鶴吉殿は御在宅か?」


 取り敢えずわたしの御用ではないようなのでホッとし、姐さんに繋ぎをつける。


 


 茶の間へと上がってもらい、火鉢を挟んで姐さんと何やら話し込んでいる。

 

 夕飯のお膳の準備は済んでいるので後は食べるだけなのですけど……

 堀さまもご一緒にお食事なさりますか?などととても言える雰囲気では無い。

 しかしこのままではせっかくの暖かいご飯が冷めてしまう。

 仕方が無いので「お先に頂きますね」と、お話し中の二人を他所にさっさと食事を始めた。


 今日のおかずは取れたばかりの鰯で作った梅煮だ。

 お文さんありがとう!脂が乗ってて美味しいです!

 蜆のお汁も暖かい内に食べないと勿体無いですよね。


 何やらお話し合いは面倒臭いことになっているようだ。

 堀さまは厳しいお顔で姐さんに食ってかかってる。

 姐さんはそれを涼しいお顔で受け流している。


 食べながら聞き耳を立てていると、どうやら件の市子さん、すぐにどなたかは判明したのだけど、やっぱり既にお亡くなりになっていたそうで、それでどうにかしろと姐さんの所へ来たんだそうだ。でも姐さんはもう料金分は働いたのだから、とあしらっている最中。


 ……そりゃそうでしょうね……


 話しは平行線だ。

 

 食事が終わる頃、ようやくお話し合いの決着がついた様で、堀さまは深く項垂れていて、姐さんは勝ち誇ったようなお顔で煙管を使っている。


 堀さまが諦めになられたのかしら?


 お茶を飲みながら二人の様子を見ていたら、


「おハル。追加で仕事だよ」


 いつもより底冷えする笑顔でニヤリと笑いかけられた。

 

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