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お不動さま その5


 愕然とした。

 失敗してしまったことを確信し、身体から力が抜けていく。


 ……そんな……辰之進さまにせっかく良いとこ見せようと頑張ったのに、神さま違いなんて……

 半日も引きづり回した挙句、やっぱりダメでしたなんて言ったら幻滅されてしまう……


 ショックで項垂れているハルを他所に、神様は煙にご満悦だ。

 その様子を見てハルは少しカチンとくる。


 ……何の神さまか知らないですけど、わたしは悲しくって落ち込んでいるのに、随分とお幸せそうですこと……


 目の前にいる神さまがお目当ての神さまで無いならば、こんな神さまに用は無い。

 それよりも早く次の手立てを考えなければ……

 後ろでお待ちになってる辰之進さまになんと言えばいいのだろう……あぁ……おタエさん、きっと怒るだろうな……

 

 この後のことを考えると憂鬱になる。

 ため息を吐きながら火を消すべく香炉の蓋を閉め、「失礼致します」と帰ろうとすると、突然神さまが、


「ま、待て!何をする!」


 今まで悠然としていたのにいきなり声を上げ、「ワシへの喜捨(きしゃ)だろう!」と大慌てだ。


「何をって……御用は済みましたので帰らせて頂きますよ」


 いきなり声をかけられたので驚いたけど、今更なんですか。こっちが話しかけてもちゃんと答えてくれないし……

 ツンっと、横を向く。

 普段なら神さま相手にそんな態度は取らないのだけど、今はちょっと虫の居所が悪い。

 煙だからってタダじゃ無いんですよ!用の無い神さまなんか知りません!

 ということを丁寧に言うと、


「ワシは阿遮羅囊他でも有るが不動明王でも在る」


 ?何を言ってるのかよく分からないって顔をしていると、


「───そもそも湿婆(シバ)は~……三輪身といってだな、法界体性智、大円鏡智〜……大日如来〜……」


 さっきとは打って変わって饒舌になり、何やら色々と説明してくれたのだけど、そんな小難しいこと言われてもサッパリだ。

 熱弁をふるうのを暫く黙って聞いていたけど途中で面倒くさくなり、


「結局、貴方さまはわたしが御用のある、お不動さまと考えて宜しいわけでしょうか?」


 話しを途中でぶった斬る。


「うむ!」


 尊大ながらもとても良いお返事だ。

 だからその煙を早く寄越せ!と。


 ……はぁ、よっぽど煙がお好きなのですね……


 取り敢えず目的のお不動さまで間違いではないようなので、ホッと胸を撫で下ろす。


 「何故かは知らぬが、その喜捨、随分とこの身に染入る……」

 

 どうやらだいぶお気に召したようだ。それはなにより。

 舶来の印度産だからかな?その中でも特に良い物なのかしら?それともわたしが直接この手で火を点けたことによって?……

 理由はともかく気に入ってくれたのなら幸いだ。


「ではまたお点けさせて頂きますが……その前に少々お話しをお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ニコリと微笑みかける。




 主導権はこちらにあるので嫌とは言わなかった。

 わたしがここへ来た訳を話すと、ちょっと言い淀みながらもちゃんと話してくれた。


 でもそのお話しの内容は姐さんの予想通り、つまらない、理不尽で呆れたものだった。


「……では、前にこちらに出開帳でいらした時にお会いした市子(いちこ)さんに、またお会いしたかったからこのようなことをなさった、と……」


 頭がクラクラしてきた。


 市子さんというのは要するに歩き巫女さんのことで、梓弓(あずまゆみ)を鳴らすことで神さまとコンタクトする巫女さんだ。たしか江戸には夏にしか来ないって話を聞いたことがある。


 なんでもお不動さまが初めて出開帳で永代寺にいらした時は、時期がずれてたので深川八幡祭りの祭典は無かったらしく、二回目にいらした時、その年は同じ時期に祭典も行われていて、お不動さまってばお祭りを楽しみ過ぎてしまってちょっとやらかしてしまったみたい。その時にくだんの市子さんがいらして、お不動さまの対応をなさってくれたらしく、大層お気に召したそうだ。

 それ以降、深川のお祭りを楽しみにしていたのだけど、その次に行われた出開帳は違う場所。

 で、次に永代寺に来た時はなんでも延焼の橋が多くって神輿は無く、お祭り自体も小規模だったらしい。

 で今年、出開帳の時期に祭典がある予定だったので大層楽しみにしていたみたいなのだけど、残念ながら祭典は延期に。

 そんな訳で色々と不満が溜まってすねてたらしい。


 扉を開けないようにしていたのは、そうすればあの市子さんがまた来てくれるかな?って期待していたのがあったそうな。


 ……はぁ……全くどうしようもないですね……


 呆れながらお不動さまのお話しを聞いていたのだけど、そこまで聞いていて色々と気になった。


 ……そんなことなさったから、わたしが来た訳ですが……そうですか、わたしでは役不足ですか……


 お会いした事も無いその市子さんにちょっと嫉妬した。

 

 それにしても……

 

「あのぅ……でも二回目にこの永代寺で出開帳が行われたのって、たしか享保の頃事ですよね?」


 お手伝いのお文さんが出開帳好きで色々教えてくれたので覚えている。

 確か第一回は元禄十六年、二回目は享保十八年だったはず。そうすると今からもう四十年も前だ。その市子さんてば御存命だとしても結構なお年じゃないだろうか?そう言うと、


「人の子を見るに器でなくその芯を見る」


 若くてもお年を召していても関係ないらしい。そもそも当時もお若いのかどうかもわからないみたい。


 ……なら、神さまにはわたしってどう見えてるのかしら?


 ちょっと気になったけどそれはともかく、


「御不満な理由は理解いたしました。ではその市子さんにお会い出来たとしたら御機嫌は治りますか?」

「是。祭りならば尚の事」


 そりゃわたしもお祭り見たいですけれども、神さまだからってなに調子に乗ってるんですか!流石に延期したお祭りを今更どうこうするのは無理ですよ!

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