お不動さま その4
「アンタも店の入り口なんか塞いでないで、中に入ってらっしゃいな~」
店の中に入るのを躊躇していた辰之進さまだったけど、声をかけられると一旦わたしの顔を見て、意を決したようにお店の中へ足を踏み入れた。
それでも入り口付近でまた立ち止まってしまい、わたし達がいる奥までは入って来ないでいる。
……遠慮がちな方ですよね。
でも、なにをそんなに居心地悪そうにしてるんだろう?
ちょっと薄暗くって不思議な物が置いてあるだけの普通のお店ですよ?
お店の人も怖くないですし、かわいい猫さんもいますしね!
そう心配そうにして見ていたら、
「で、こんな店にハル坊みたいな子が何の用だい?」
仙と名乗った彼女は上り口に腰を下ろすと、わたしから奪い取った猫さんを膝に抱いて、撫でながら話しかけてきた。
……むぅ……わたしが抱いたら暴れたくせに……
嫉妬しちゃう。
で、こんな店がなんの店なのかは知らないけれども、
「実は……」
ここに来た要件を伝えると、「あぁアレかい」って直ぐに出してくれた。その様子だと舶来品と聞いたけど特に珍しい物ではないのかもしれない。
お仙さんから片手で持てるほどの軽い包みを渡されて、「一応言っとくがね」って、
「燃やした時にね、ハル坊は慣れてないと思うから、あんまり煙を吸っちゃいけないよ」
どうやら煙は慣れてないと危ないらしい。
「燃やす時は口と鼻に布でも当てとくようにしな。あんまり吸い過ぎると余計なもんが見えるようになっちまうからね〜」
ニコリと笑いながら、使用上の注意もしてくれた。
ありがとうございます。そうですよね。これ以上変な物が見えるのは勘弁ですから気をつけます!
お代を渡してお礼を言い、猫さんにサヨナラして帰ろうとしたら、お仙さんが相変わらず入り口付近で固まっている辰之進さまに視線を移すとニヤニヤしながら、
「お前さん、さっきから店ん中が気になってるようだけど何か良いもんでも見つけたかい?ハル坊と一緒に使うんならまだちっと早いかもだけど、お前さんが使うのかい?なら負けといてやるよ〜」
ですって。
ここにあるお薬みたいな物や変な物、一体どう使うのかもわかりませんけど……
「先日のお礼もまだでしたし、辰之進さまにお気に召した物がありましたら、お代はわたしが払いますから是非どうぞ!」
と、笑顔でお声をかけたのですけれど……
辰之進さまは、「……いえ……わたしにもまだ早いですので……遠慮致します……」顔を真っ赤にして「では用も済んだようなので、お先に……」わたしを置いて足速に店を飛び出てしまった。
……辰之進さまってば、奥ゆかしい上に結構人見知りよね。お店の中でもずっと黙っていらしたし……カワイイ!
一先ず目的の物は入手出来たので、わたしも急ぎ辰之進さまの後を追いかけお寺に戻った。
ほどなくしてお寺に着き、火を焚くことになるからとお寺の人にその旨を伝え、ついでに高炉も借りた。
もちろんわたしが言うとチャチャを入れられそうなので、スムーズに話しが進むように交渉は辰之進さまにお願いした。
「……煙は吸い込みすぎると良くないらしいので……」
焚く必要が無くなったら直ぐ火を消せるよう、わざわざ蓋を閉めて消火出来る香炉を借りてきてくれた。
……なんてお優しいお心配り!痛み入ります!
準備が整ったので、辰之進さまには少し離れた場所で待機してもらい、煙避けに手拭いで口と鼻を塞いでから火を点けて、わたしも少しだけ下がる。
……さぁ、どうかな……
思ったよりもモクモクと煙が上がっていく。
その向こう側にあるお不動さまの方をジッと見ていると……
「……ムゥ……良い香じゃな……懐かしい……」
やった!反応してくれた!
お声が聞こえたことで成功を確信し、グッと心の中で拳を握る。
ホッとしてそのまま様子を見ていると、煙の中からお不動さまらしきお姿が現れた。
よし!ちゃんとこちらを向いていらっしゃる!
煙を堪能していらっしゃるようで目を瞑り、恍惚とした表情で満足そうだ。
よかった!ここまでは予定通りに順調だ!
よし!後は時期を見計らってお声をかけてお話しをするだけね!……って思ってたのだけども……
……よく見るとあのお顔、あまり怖くないわよね……どちらかと言うと穏やかそうな感じ……
怖いのは簡便なので、やさしいお顔なのはありがたいのだけど、あの厳つい、睨んでいるお顔を想定していただけにちょっと拍子抜けだ。
あと、朝に見た時は童子さまと一緒に後ろを向いて立っていらっしゃったのだけど、今は足を組んでお座りになっていて、両脇にいたはずの童子さまのお姿も見あたら無い。
その様子に、まさか人……いや、神さま違いしちゃった?ってちょっと嫌な予感がした。
一瞬、場所を間違えたのかとも思ったけど、でもお寺の人に案内されてここへ来たのだから間違いはないはずた。わたし一人が案内されたのならあやしいけど、辰之進さまも御一緒だったのだし……
デレデレしていたお寺の人を思い出して、いや、そうでもないかな?って思い直した。
それに場所が合ってたとしても、ここはお寺なんだし、他の神さまがいらっしゃってもおかしくないわよね?
わたしでは幾ら考えても分からないので、直接聞いてみることにした。
ご満悦中の神さまのご機嫌を損なわないように……
「お愉しみのところ、お声がけを失礼致します。恐れ入りますがお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
慇懃にお声をかけると、尊大なお声で、
「うむを汝は阿遮羅囊他である」
……え?あちゃ……?何ですかそれ⁉︎
聞き慣れない言葉に一瞬固まり、
「……あのう……お不動さま、不動明王さまではいらっしゃいませんか?」
恐る恐るもう一度問いかけてみたけど、聞こえてないのか無視されたのか、それには答えてくれずに、「ほぅほぅ……コレは甘露甘露……」と満足そうに頷づいているだけだった。




