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お不動さま その2

 直ぐ近くだから仕方が無いけど、呆気なく永代寺に着いてしまった。残念……


 入り口で中へと入ろうと、やる気に満ちたわたしはお寺の人にお奉行さまからの許可証を意気揚々と見せたのだけども、「ここは子供が来る所じゃない!」「忙しいのだ!煩わさせるな!」取り付く島もなく、にべもない対応だ。

 見かねた辰之進さまが代わりに対応してくれると、打って変わってデレデレしながら直ぐに中へと入れてくれた。


 生臭坊主達め!解せぬ!


 そう言えば辰之進さまって、わたしがこれから何をするのかご存知なのかしら?


 思いがけずお会い出来た喜びに、これからすることなんか頭からすっぽりと抜けてしまってたけど、今更ながら気になった。 

 でも、お話しを聞いてここにいらっしゃるってことはきっとご存知なのよね?

 

 お不動さまの所まで来ると、怖いお顔が目の前に現れてもいいように覚悟を決め、グッと気合を入れる。

 神さまのことを認識出来る様に視線と意識をずらし始めた。


 ボワッと、お不動さまらしきお姿と、その両隣に眷属である二体の童子のお姿が浮かび上がって……


 ……あれ⁉︎……


 見えてきた三体は共に後ろ姿だった。


 なぜ後ろを向いているのかなんて考えてもわからないので、取り敢えずそのままご挨拶をしてみたけれど何も反応が無い。


 こちらの声、聴こえていらっしゃらないってことも無いと思うけど……寝ていらっしゃる?


 回り込んでお顔を直接拝見しようと思っても、これ以上は前に進めない。

 仕方が無いので声を張り上げてみたり、猫撫で声で話しかけてみたり……色々と試してみたけども全く反応はが無い。


 ……疲れた……


 暫く叫び続けて喉もガラガラだ。

 今までこんな無反応な神さまなんてお会いしたことがない。

 取り敢えずお声を掛ければ、快く対応してくれるかは別としても何かしらは反応が有るものなんだけど……

 いっそのこと故事に倣って、歌や音楽を奏でて裸になって踊ったりすれば反応してくれるかしら?……じっと自分の手足を見るけども、


 ……こんな子供、お呼びじゃないわよね……


 自分で思って傷付いた。


 それにそんな恥ずかしいこと、辰之進さまの前で出来るはずもない。


 わたしが悪戦苦闘する姿を辰之進さまはただ静かに見守っていてくれたのだけど、一息ついていると話しかけてきた。


「成程。神様へのお伺いとはこの様にするものなのですか」

 

 わたしには見えないのですが、そこに居られるのですか……しかし、これはまた随分と大変なお仕事なのですね。と妙に感心されてしまった。


 ……いえ、普段はこんな感じではないのですけれど……


 恥ずかしくなって笑って誤魔化す。


 「普段は芸者らしく、お座敷でお唄や演奏、お料理にお酒でおもてなしをするんですよ……」


 そこまで言って、そう言えば普段神さまをおもてなしする時は事前に準備されていたお座敷ばかりで、外で神さまにお会いするのはお使いの用事ばかりだったことを思い出した。


 そうだ!お供え物!


 無視されているみたいなので、こちらに興味を引かなくてはお話しも出来ない。


 大事な物を忘れていました。と辰之進さまにお礼を言って一緒に考え始めた。


「……お寺なので唄や踊りは流石に不味いかもしれませんが、お供え物を……お花はあるようなので、後はお酒と……そう言えばお不動さまの好物って何かしら?」

「地方によってはお赤飯をお供えすると聞いた事がありますよ」

「それですね!」


 わたしは知らなかったけど有名なようだ。さすが!辰之進さま!


 わたしはすぐにお供え物の準備を始めた。


 用意するのは簡単だ。

 お赤飯はお菓子屋さんで買えるし、お酒は家に行けば姐さんのが沢山あるしね。

 

 姐さんを起こさないよう、そっと家の中へ入り……やっぱり神さまにお供えするんだから、上等そうなお酒がいいかしらね?と、姐さんのお酒を置いてある場所で探したのだけど……姐さんてば、随分とお持ちなのね……


 結構なお酒の量に途方にくれた。


 お酒なんて呑まないからどれが良いお酒なのか正直よく分からない。

 そろそろわたしもお酒の勉強をしなければいけないのかしら?


 どれが良いかしら?と色々見ていたら、前に姐さんが「コレはいい酒なんだ」って仰っていた、大和〜なんとかの九年〜なんとかっていうお酒が目に付いたのでそれを持っていくことに。

 下り酒っぽいから、きっと美味しいんでしょうね。

 

 急ぎお寺に戻り、お不動さまの前にお供え物を並べてからもう一度お声をかけてみたのだけど……先程と変わらず無反応……


 ……お気に召しませんでしたか?


 仕方が無いので何件か違うお店で幾つかお赤飯を買ってきてみて、家からも幾つかお酒を持ってきたけど……やはり相変わらずだった。


 ……もうお小遣い無いよ……


 先程まであったやる気も懐も、もう空っぽ。

 項垂れていると、今までわたしが右往左往する様を黙って見ていた辰之進さまが心配そうに……


「あのぉ……おハルちゃん。門外漢が余計な口を挟むようで心苦しいのですが、もしかしたら根本的に思い違いをしているのではないでしょうか?」

「いえ、そんなことはございませんよ。お気づきになられましたのでしたら是非お願い致します」

「神様ですのでお酒はいざ知らず、不動明王様は本当にお赤飯がお好きなのでしょうか?」


 それを聞いてハタと気付いた。


 お赤飯はハレの日の物だし、お不動さまのお供えにはお赤飯だと聞いたからそうだとばかり思っていたけど、もしかしたら違うのかもしれない。

 それに好物だとしても、いつもお供えされているのだから飽きちゃっているのかも……

 かと言って、わたしはお不動さまのことなんて詳しく知らない……


 こう言ったことに詳しそうな人は身近に二人いる。

 一人は今起こすと確実に怒られるので除外するとして、残るはおタエさん一人なのだけど……


 ……姐さんから、終わったらその報告をおタエさんにしろって言われているのよね……


 お腹の空き具合からもそろそろお昼だ。

 それなのに今さらそんなことをノコノコと聞きに行ったら、「今時分に何言ってんだ。遊んでんのかい!」って怒られるに決まってる。

 わたしにとってはある意味お不動さまより怖い存在なので躊躇してしまう。


 ……でも……


 隣にいる辰之進さまをチラ見して、覚悟を決めた。

 彼の前で見っともないとこは見せられないよね!


「詳しそうな人に心当たりがありますので、今からお伺いに行きましょう!」




 おタエさんの所へ行く前に、このお赤飯勿体無いので辰之進さまお食べになります?と伺った所、遠慮されてしまったので、お腹も空いてきたから丁度良いから一人で平げて、やる気はともかくお腹は満たし、気合を入れなおして辰之進さまと一緒に向かった。

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