異世界からの転生 その3
それにしてもここの人達、一体なんの種族なんだろう?あたしの知っているドワーフとも違うようだし……
おじいさんの話を思い出し、やっと見えてきた目で彼等の様子を見るにつけ、だんだんと胸騒ぎがしてきた。
『……でな、昔この街をゴブリンの群れが襲って来たんだよ。あいつらは魔物のくせに結構器用でな、火は使うし、人間様から奪った武器を使って襲ってくるんだ』
……ここの人達って、部屋の真ん中で火を焚いてる位だから普段から火を使ってるよね……それにその火の回りで藁を編んでたり、木を削ったりしてて器用そう……
──いやいや。流石にそれだけでは……
『体つきはな、背は低いが、ガタイはがっしりしていて、けっこう力があってな。凄く凶暴なんだ』
凶暴かどうかはわかんないけど……ここに居る一番大きそうな個体でも子供かと思う位に小柄よね……もしかして、死んじゃう前のあたしと比べても、ちょっと大きい位?
でも……小さくてっても、体つきはがっしりしてて、力は結構ありそうよね……
『そいでな、髪の毛が薄くってな、大体、頭は剥げてる』
そう!彼等を見ていて何か違和感があるって思ってたんだけど、あの大きい個体、オス?なのかな、頭がハゲてるのよね。頭のてっぺんにちょこんと毛が乗っかってるだけで。何なの?あの変な髪型。小さい個体もてっぺんに毛があって、周りはハゲげてるし……
今まで見たことが無い。すごく不思議な頭だ。
もうしかして、ここの個体って、みんなハゲてるの?
ドキドキしながら周りを見渡すと、女性らしい個体はちゃんと髪があった。ただ、頭の上で髪を纏めているようで見た事ない不思議な髪型だ。
それでもちょっとホッとした。
『で、肌の色は俺たちみたく白じゃなくてな……』
ん~何色って言ってたっけ?青?緑?……彼等の肌の色って、白って言うよりも黄色っぽいって言うか、黒ずんでいるような……
まだ赤ん坊なので、視力は完全では無いのだろう。色のは良く見えない。それでもあたしの知っている人族の肌の色とは違う気がした。
『人から奪ったんだろう、粗末な服を着ているヤツもいるが、大体は裸のヤツの方が多かったかな』
そうそう。ここの人達の服って見た事が無い服なのよね。ボタンは見当たらないし、前を併せて腰のあたりで簡単に紐を巻いて止めて着てるだけの簡素な服だ。……どちらかというと粗末で、継ぎ接ぎの様子があっちこっちに見える。生地の色数も少ない様で、藍色っぽい生地だ。
あたしが今巻かれてる生地もそうだけど、動物より植物っぽいし……と考え込んでいると……ガラっと木の扉が開く音がしたのでそちらに視線を移すと、見慣れない女性が入ってきた。
頭には何か布の様な物を巻いて、下半身も布の様な物を巻いている。だけど上半身には何も着けて無い。裸だ。なので女性だという事がすぐにわかったのだが……彼女は胸を隠すそぶりも見せない。周りの様子を見るとそれが当然の様子なようだ。
……恥ずかしくないのかしら?
むしろ見ているあたしの方が恥ずかしかった。
『で、茂みとか物陰からからいきなり飛び出して、真っ黒な口の中からデッカイ牙を光らせて噛みついてくるんだ!!』
おじいさんは何時もここで大きな声を出して脅かしてたっけ。小さい子達は泣いてたのよね。
……で……口の中は……
恐る恐る、今あたしの事を抱いている、多分、今世のあたしの母親なんだろう存在に顔を向けてみる。
あたしがとても不安そうな顔をしていたからなのだろうか。
見上げて目が合うと、優しく微笑んでくれた。それは前世のお母さんの顔とは似ても似つかない顔だったけど、同じようにとても安心する顔だ。
……口の中は見えなかったけど……まぁそんな事あるハズ無いよね。考えすぎ考えすぎ。
あまりにも違う環境にちょっとナーバスになってたみたい。
あたしはホッコリとした心持になり微笑み返した。
───だけど安心したのは束の間だった。
さっき入ってきた半裸の女性が近づいて来ると、あたしの事をひょいっと抱き上げ、ニカっと笑いかけてきた瞬間、あたしは笑顔のまま引きつった。
その開いた口の中は黒々と光っていた。
生まれ変わって初めて、いや前世でもこんなにはと言うほど、大きな声で泣いてしまった。