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若武芸者との出逢い

 美青年?いや、美男子かしら……?

 

 いや、今そんなのはどっちでもいい。

 慌てて彼から視線を外し、周りを見回したけれどもわたしのことを襲った彼等の姿はどこにもなかった。


 ……ということは……この人が追っ払ってくれたのかしら?

 どうやら助かったみたい……


 彼は倒れていたわたしを座らせると、正面に跪いて抱き合うような形で「サァ、もう大丈夫だよ。すぐ外してあげるからね」と、手を伸ばしてさるわぐつを外してくれたのだけど……


 ───ちょっ、ちょっと待って!顔、顔が近いです!

 

 「あれ?お嬢ちゃん、随分と顔が赤いようだけど大丈夫かな?何処か痛いのかい?」


 吐息がかかる程の距離で心配そうに覗き込んでくるもんだから、「興奮して、胸がドキドキして苦しいです!」なんて正直に言えるわけもないので、


「いえ……落とされた時に少し顔を打ってしまったようで……」


 顔をそらしながら笑って誤魔化すしかなかった。


「それよりも貴方さまが助けて下さったのですよね?ありがとう存じます」


 手足の拘束も外してもらったので、やっと自由に動けるようになりホッと安堵する。

 立ち上がってお辞儀をしてお礼を言い、顔を上げて彼を改めてよく見るのだけれども……


 ……ほんと、惚れ惚れするような美形よね……

 

 思わずホゥ…っとため息が出てしまう。

 端正な顔立ちの中にちょっと少年ぽさが残っている。

 歳の頃は十代後半かしら?腰には大小を刺しているし、袴姿なのでお侍さん?って思ったけど、元服は終えてそうなお歳なのに前髪を落としていない総髪だ。

 髪も後ろでキチンとコヨリでまとめられて、全体的に清潔感がある。その辺りもわたしにとってはポイントが高い。

 ジロジロと見ていると、彼が少し申し訳なさそうに、


「怖い思いをさせて申し訳ない。もう少し早く気が付けば良かったんだが……面目ない……」


 いえ!そんなこと無いですよ!大変助かりました!


 なんでもそこの妙見さまへ参拝に来た後、天神さまへも行こうとここを通ったら、なにやら三人組の男達がゴソゴソと怪しげな動きをしていたので不審に思い、とっさに隠れて様子を見ていたそうだ。

 暫くしたら一人がゴザを抱えて動き出したので注意して見ていたら、そのゴザが急に動き出し、男共が静かにしろ!とそれを叩くのを見て、まさか中に人が⁉︎さすがにこれはただ事ではないだろうと、飛び出してくれたのだと。


 ……きっと彼等に囲まれてた時、わたしのことはちっちゃくて見えてなかったのね……


 待てっ!と男共に声を掛けると、懐から刃を抜いて襲いかかってきたので返り討ちにしたら、わたしを放り出して逃げていってしまったので、とっ捕まえて番所に突き出すかとも考えたけど、放り出されたわたしの方が心配だったので追っかけるのをやめてしまったそうだ。


 ━━なにそれ!カッコよくって、強くって、優しいだなんて!


 是非とも彼等を退治しているその雄姿を見たかった!

 初対面だけど彼の好感度がグングン上がる。


 わたしが感動のあまり恍惚としていた表情を怖くて放心しているとでも思ったのか、「そんな顔をして……怖かったろう。でももう大丈夫だよ。わたしがお家まで連れて行ってあげるからね」と優しげな笑顔を向けて、頭を撫でて慰めてくれるのだけど……

 

 ……ちょっと待って?……わたしのこと幾つだと思ってます?


 そう言えばご挨拶がまだでしたね、と自己紹介がてらにわたしの年齢を伝えると少々気まずそうに「お嬢さん、ご自宅までお供させて頂いても宜しいでしょうか?」と言い直したので、わたしは少し背伸びをしながら「よろしくってよ」すまし顔で返した。




 彼はわたしのことをこの辺りの近所の子供だと考えていたと思ったから、わたしも最初は冗談のつもりで言ったので、さすがに深川までは結構です。と遠慮したのだけど、「いえ、わたしも帰る途中ですので」と、落ちているわたしの風呂敷包みを拾い上げてるとさっさと歩き出してしまったので、大人しく着いていくことに。


 でも、内心はデートみたい!って嬉しかったけどね!


 道々、彼が自分のことを話してくれた。

 辰之進だと名乗った彼は最近、信濃国から江戸へ出てきたばかりなのだと。

 彼は国元で藩の元剣術師範だったお爺さんと二人暮らしだったそうだ。

 で、そのお爺さん、最近江戸で道場を開いている兄弟弟子が体調を崩したとの連絡を受け、代わりに道場を頼むと言われたので江戸へ行くことになったんだそうだ。それに合わせてお爺さんの元で授業中の身だった彼も一緒に江戸へとやってきたんだって。

 なるほど、剣術使いですか。どうりで細身でも引き締まった体つきをしていらっしゃること。なお、歳は十六になったばかりと。


 ……ほぅほぅ……六歳違いですか……


 彼の案内でそんなことを話しをしながら歩いていたら、あっという間に深川までたどり着いてしまった。

 

 あまりにも順調に迷わず帰って来れてしまったので、あら?この辺りのことお詳しいのですか?もしかして遊び慣れていらっしゃる?って思ったけど、深川へ入ると町の喧騒に目を白黒させていたのでそうでは無いようだ。

  

 わざわざ家まで連れて来てもらったので、せっかくだから何かお礼ができないものかと、家にいた姐さんに事の顛末を伝えると、


「そうかい。そりゃ大変だったね。なら、芸者らしくお礼がてらにお座敷でも一席……」


 その旨を伝えると顔を真っ赤にしながら「いえ、無作法で若輩者ですゆえ……それに帰りが遅くなると祖父が心配しますし……」またいずれ、と恥ずかしそうにして辞退されてしまった。


 むぅ……残念だけど仕方ない。無理強いは出来ないよね。


 なら、と姐さんが代わりにって何やら金子きんすを渡そうとしていたけど「そんなつもりで助けた訳ではありません。武士として当然の事ですので……」と頑なに受け取ろうとしなかった。


 まぁ!なんて高潔な方!


 わたしの中での彼の株が益々上る。


 別れ際、いつか必ず遊びに来て下さいね!と必死に見送るハルの姿を、鶴吉は生暖かい目で見守っていた。

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