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本所へのお出かけ その2

 仙台堀に入ると、お米などを積んでいる荷足り船が目立つようになってきた。

 それ以外にも色んな舟が行き交っているけど、その中で一隻の屋根船とすれ違った時、すれ違いざまに前で竿をつかってる船頭さんが親しげに挨拶をしてきたので、見知らぬ人だったけどつられて会釈をした。

 誰だっけ?以前お座敷で会った人かしら?と考えていると後ろで漕いでいる亀吉さんが、


「さっきの奴はね、俺んとこの息子だよ」


 亀吉さん、以前は日本橋の船宿にいたそうで、今は息子さんがその船宿で船頭しているとのことだ。亀吉さん本人はいったんは引退したのだけど、今はおタエさんのお店の専属なんだって。おタエさん曰く船頭は古い方が良いってことで雇ったらしい。

 

 半分隠居状態で普段はのんびりしたものだけど、今日は色々と忙しいらしく、「嬢ちゃん送ったら次んとこ行かなくちゃならないんでね」帰りは送れなくてすまんね、と。

 で、せっかくだからと色々観光案内をしてくれた。


「この川をな、まっつぐ進むと砂村だ。今日はそっちまではいかねぇがね」

 

 深川の富岡八幡さまは、元々はその砂村新田あったそうで今の所に移動してきたらしい。今でもそこには本殿とかもあって元八幡さまって呼ばれているんだって。


 そのまま仙台堀を進むと大横川を過ぎた辺りから、さっきまで回りに沢山見えていた木の置き場が見え無くなり風景が変わってきた。


「で、こっち側が六万坪、あっちが十万坪って言うんだがね……」


 左右の川岸を指差しながら、さっきまでの笑顔から少し真面目な顔つきになって……

 なんでも、ここの埋め立て地、借家が沢山建てられたのだけど不便だからと人があまり集まらなかったらしい。でも、今年の二月の終わりにあった江戸の大火で家を失くした人が沢山集まってきて、今では逆に住宅難な程だと言う。


「そいでな、ほら、色んな奴が集まってると、中には行儀の悪い者もいるんでね……」


 帰る時はここらへんは通らん方がいいよって言われた。


 ……おぉぅ……はい。気をつけます。

 

 そして左に折れて(横)十間川に入る。そのまま暫く真っ直ぐに進んでいくと、田んぼばかりだった風景が段々と賑やかな街並みに変わっていき、人の往来も多くなってきた。 

 そしてその賑やかな町の橋下の土手沿いにある桟橋へと舟が止まる。


「ほら、着いたよ。ここを上がれば亀戸村の天神さまはすぐそこさ」

 

 下駄を出してもらい、荷物を受け取る。

 荷物はちょっと重いけど、すぐそこなら大丈夫だろう。

 お礼をいって「じゃ、きーつけてな」と漕ぎ出していく亀吉さんを見送くると、わたしは亀戸天神の境内に向かって歩き出した。




 境内に入るとその広さや賑やかさに驚いた。

 茶店や料理屋なども沢山立ち並んでる。

 さっき亀吉さんに「あそこは藤の花や梅が名物だから、今ん時期じゃぁ勿体ないな」って言われたから、閑散としてるのかな?って思ってたけど随分な人出だ。


 藤や梅は終わってるけど、萩の花は奇麗で見頃ですよ。


 色々と面白そうなので見て回りたいけど、まずはちゃんとお仕事しないとね。

 さて……と、おタエさんに渡された紙を取り出す。


 ……この荷物……誰に渡すのかな?

 

 そう言えば亀戸天神の神さまってば菅原道真公なのよね?確か色々あって怨霊になったって本に書いてあった気がする。

 最近姐さんに「もうちっと教養を身につけな」と、よく貸本を借りてもらって勉強中。でも歴史書とかは難しくって……人情本とか読本は面白いから好きだけど。因みに姐さんはもっぱら艶本専門。


 で、この荷物をお渡しするのは道真公なのかしら?そう考えるとちょっと怖くなり、恐る恐る書き付けに目を落とす。


 結局、神さまに直接では無く神社の人宛だった。


 


 つつがなく一軒目のお使いを済まして茶店で一服する。


 意外と簡単に終わってお団子も美味しくって気分が良い。

 楽勝楽勝。でもこれなら別にわたしじゃ無くても良かったんじゃない?それとも暇してるのがわたしだけなのかな?などと考えながらお茶を飲み、さて、次は……書き付けを確認すると、もう一件の行先は近所にある香取神社だそうだ。で、本命はこっちだと言わんばかりに受け取りは直接そこの神さまに、と書いてある……




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