初めてのお仕事の後で その2
「しっかし、こいつもお座敷に呼ばれた時はこんなガキにつとまるのかと不安だったが、存外役に立ったじゃないか」
「そりゃそうさね。安くない金で連れて来たんだ。役に立ってもらわないとね」
二人からニコリと微笑まれたが、とうてい嬉しい気分にはなるはずもなく、むしろその笑顔はわたしを不安にさせた。
そうよね……ここへは遊びに来たわけではないのよね……
村の家族の為に、ここへ買われて来たんだから……
家族の為ならなんでもする。その心意気でここに来たはずだ。
ならしっかりしないと!
意を決して顔を上げ、「お役に立てて何よりです。コレからもよろしくお願い致します」と、ぎこちない笑顔で返すしかなかった。
いずれにしても、わたしが役立つ間はここに置かせて貰えるのだから、がんばらないと!
いったい借金が幾らあるのか検討もつかないけれど、さっさと稼いで村に戻りたい。その為にもお稽古をしっかりやって、一人立ち出来るように一人前の芸者にならなければ!
そう決心するハルであったが……
……でも、わたしが役に立つからってここへ連れて来た理由って、お座敷で神さまのお相手をすることなのよね?
なら、別わざわざ芸者にならなきゃいけないってこと、無いんじゃ無いかしら?
ふと、疑問に思った。
その都度必要な時に人を呼んでたって話しだし、前のお座敷では歩き巫女さんがその役目をしていたとも聞いた。
だったらこのまま、ただのお酌でいても、いいんじゃないかしら?
……いや、別にお稽古がキツいので嫌って訳では無いですよ?全く上達しないからお稽古したくないなぁ〜なんて、そんなこと無いですよ?
そのあたりのことを恐る恐る聞いてみた。
「そうかい?でもお前は芸者にでもなるしかないと思うがね?」
そう言われても、不思議そうな顔をして見返すしかなかった。
目の前にいる姐さんを見て改めて思うけども、とてもわたしが芸者に向いてるとは思えない。三味線も下手だしね……
「だって言ったんだろ?お前が言うところの『お社さま』、『おタマ』に向かって、何時かは彼奴を立て直し、盛り立ててやるって事をさ」
今は落ちぶれてしまった神だけど、崇拝者を増やし、本来の美しい姿に、かつての栄華を取り戻す手伝いをするって。そのようなことをさっ、て……
───いやいや、待って下さい!そんなことわたし言ってないですよ!
慌てて首を振り、訂正する。
そう。確かに以前お社さまに「たてなおしたい」的なことを言った記憶はあるけど、それはあの古いお社さまの建物、神社その物のことだ。
ボロボロなままじゃ可哀想なので、大人になったらいつかは修繕とか手直ししたいなぁ~程度のことでしか言ってないはずだ。
いや、そりゃお社さまにお力が戻ることに関しては喜ばしいことですよ?でもわたしがそのお手伝いをするなんてそんな面倒な……もとい、おこがましいこと、とても無理ですよ!
それは誤解です、とおタエさんにその時の状況を話すのだけれども、
……でもちょっと待って……お社さまってば、神社自体も建て直す気でいらっしゃるのかしら……
ちょっと嫌な考えが頭をよぎった。
……まさか、わたしの借金にお社さまの神社の修繕費……建て直すお金とかは、入って無いですよね?
ちょっと怖くなってきたので、その辺りも聞いてみたかったけど、「あぁ勿論さ」とかでも言われでもしてしまったら目も当てられないので、そこは堪えて聞かないようにした。
「そうなのかい?その話を聞いた時は子供のくせに大それた事を言う奴だと思ったもんだけど……まぁなにやら行き違いがあった様だけど、でもね、彼奴はそのつもりだよ」
お社さまってば、そんな風にとらえてらしたのね……
だから観念しなって、おタエさんは苦笑いしているけどそんな訳にはいかない。コレは早急に訂正しておかなければならないのではないか。そんな大役、到底無理です!
……それに下手すると余計な借金まで負わされる気がするし……お手紙とかでも大丈夫かしら?
さてどうしよう考えていると、
「あぁ、そりゃぁ、おハルが悪いね。諦めな」
わたしが困惑している姿を見て、姐さんが突き放すように言ってくる。
───曰く、例え落ちぶれてるとはいっても神は神。そもそも人とは全く理が違う。物事をどう受け取るかなんてわかりゃしない。勘違いでもなんでも向こうがそう考えているのならそうなってしまう。そもそも存在自体が理不尽なのだから、と。
それに神との約束は絶対だ。なので神と交渉する時は慎重にしなければならないのだから……とも。
……だから神の相手は面倒なんだよ……と溢しているけど、昔しに何かあったのかしら?
「それにね、巫女にはなる気は無いって、お前が言ったんだろ?」
それについては覚えています。確かに言いました。
はいそうですね、とおタエさんを向いてコクリと頷く。
あの時はまだおっ父ぅもお兄ぃも健在だったし、家を離れてまで巫女になりたいとは思わなかった。今では状況が違うけれども……
「あんたにとっては気安い仲なのかもしれないがね、彼奴はあんな見かけでも、結構古くて、厄介な神だよ」
そう言えばわたしはお社さまについて、そんなに詳しくなかった。知っている事と言えば本体は白い狐で人型になるとわたしと同じくらいの女の子。食いしん坊で可愛らしいイメージでしかない。昔の事を聞こうとしてもよくはぐらかされていた気がする。
どう言う意味でしょう?と首を傾げていると、
「彼奴の過去の事を知らないなら別に知る必要は無いがね、これから先、嫌でも長く付き合う事になるんだから……」
巫女やら宮司やらとか神職につくって話しなら別だけど、何も知らなきゃ対処の仕様が無い。なら神との付き合い方を知るためにもって……
「まぁ今更ジタバタした所でどうしようもないだろ。どのみち借金も返さなきゃならないんだ。それにこれから色々と金もかかるだろうから、ここでしっかり学んで神に仕える立派な芸者におなり」
……あちゃ……その言い方だとお社さま分も入ってるっぽい……
投げやりな感じで言い放ち、この話はお終いだよ、と残った麦湯を飲み干した。
その後にポツリと「彼奴を野放しにしとく訳にもいかなしね……」と聞こえた気がしたが、これ以上の面倒事は勘弁なのでそれは聞かなかった事にする。
どうにもこうにも、わたしが知らない内に色々と面倒なことになっているのは確実だけど、確かに今更だ。今のわたしにはどうしようもない。
……まぁ……なるようにしか、ならないよね……
諸々の不安を飲み込むように、残っている最中をモソモソと頬張った。




