後日談 最強の魔法少女は、未来を駆ける 後編
「二人に見せたいものが、他にもあるんですよ!」
純連は涙を拭う。
いつまでも悲しませるわけにはいけない。
少しでも両親を安心させたくて、赤い目のままではあったが、とびきりの笑顔を浮かべてみせた。
スマホを操作して表示させた画面を、両親の遺品である髪留めに向ける。
そこには『京都の街を救った魔法少女、東京へ』という見出しのニュース記事が書かれていた。
「純連は、ようやく『夢』を見つけられたんです」
手をかかげて、魔法の力を湧出させる。
綺麗な水色の魔力だ。綿のように柔らかそうなそれは、手を握ると簡単に霧散して消失した。
「魔物を倒すことはできなくても、みんなを守ることができる。この魔法を求めてくれる人がいるのなら、それに応えたい」
これは、かつて求めたような、戦うための力ではない。
自分の魔法が魔物を倒すのに向いていないことは、よく分かってる。
しかし、もう拘りはない。
「だから……」
夢の先まで導いてくれた『ある人』が教えてくれた。
今、歩もうとしている道が間違っていないと、心の底から信じることができた。
「純連の大活躍を、空の上から見ていてくださいね」
両親の墓前で、とびきりの笑顔を浮かべた。
誰よりも愛している人を安心させるには、十分な言葉であった。
――八咫純連は、IFの未来を知っている。
”ある人”の記憶を覗いた純連は、この世界がゲームを象っていることを知った。
その世界の自分は、あまりに弱い姿で停滞していた。
弱いまま誰からも必要とされず、惨めに消えていく運命をたどった。
その内容全てを手放しで信じているわけではないが、もしも切っ掛けがなければ、同じ結末を辿っていたはずだ。
あの頃は、強い魔物と闘うことが何よりも恐ろしかった。
今は、あの頃のような弱い自分に戻ることが、何よりも恐ろしいことだった。
* * *
「すみません。ちょっとだけ遅れてしまいました」
「ようやく戻ってきたのね」
桜花学園に用意された、控室に入った純連は謝罪した。
すでに記者会見の用意を終えて待っていた相棒・七夕琴海は、じとりと純連を見る。
腕を組んでいたが、相棒として行き先は知っていた。だから深く責めなかった。
「とにかく早めに用意を済ませるべきです。今日は忙しくなりますよ」
「あ、あの……」
「何ですか」
鋭くて短い返事に、純連はおずおずと尋ねた。
「これから純連たちは、いろんな人の前で喋るんですよね……?」
「ええ」
「ここに来るまでに、今までに見たことがないくらい人がいるのが見えたのですが……本当にあそこに立つんですか?」
「その通りよ」
琴美は何でもないことのように、さらりと言ってのけた。
だが、それを聞いた純連はさっと青ざめる。
「あ、あんなたくさんの前で喋るなんて……ことちゃんは緊張しないのですか」
「最後の、あの魔物を倒すよりは楽でしょう」
「比較対象がおかしいです!」
両親の墓前とはうってかわって、あまりにも弱気であった。
これから待っているのは、魔法少女としての活躍を語る記者会見だ。
世間にとって今回の一件は劇的であったが、同時に謎にも包まれている。
どのように魔物を打ち倒したのか、街の中心部には何が存在していたのか。
そして魔法少女の"進化"とは何なのか。
その答えを持った自分たちが、すべてを語る役割を負っていた。
世界中の人間が、二人が現れるのを待っているのだ。
「緊張で吐きそうです……」
素直な感想がこぼれでる。
こうなるとは思っていたが、話の規模が、あまりにも想像を上回っていたのだ。
オドオドと萎縮した親友に、琴海は息をついて向き直った。
「純連」
「は、はいっ、ことちゃん」
「あなたは昔『最強の魔法少女になりたい』と言っていましたね」
「はい……」
厳しい口調に怒られていると思ったのか、純連は声をすぼめていく。
そんな彼女の両肩を強く掴んで、訴えかけた。
「これからは本当に最強の魔法少女として評価されます。それは避けられません」
「……はい」
「苦しむことも、悩むことも、他の魔法少女よりずっと多くなるはずです。ですが、こうなった以上逃げることはできません」
遠い憧れでもあった剣の魔法少女は、既にその重圧を知っている。
街の住人を魔物から救った英雄として扱われてきた。だから更に強くのし掛かってきた責任と重圧にも負けずに、前に進むことができる。
しかし突然、世間から認められるようになった純連は違う。
「駄目ならここで下がるべきです。拒否するのも、あなたの権利です」
「…………」
「あなたは、それでも魔法少女を続けますか?」
「辞めません」
あれだけ怯えていたのに、その質問には即答だった。
怖がってはいることは間違い無いが、その芯は全く揺らいでいなかった。
「ではあなたは、その身に宿った魔法の力を何に使いますか」
「色々な人を守るために、使いたいです」
「……皆が求めているのは、私たちがずっと、そうあり続けることです」
琴海は、ほほえんだ。
自分を取り戻した親友と肩を並べられることを、琴海は誇らしく思った。
「難しい質問は慣れているわたしと、政府の人に任せて。あなたは、その気持ちだけを伝えればいいです」
二人しかいない部屋で、魔法少女としての力を解放する。
ただの学生であった七夕琴海は、英雄・魔法少女シリウスへと変身した。
「行きましょう、純連」
「はいっ、ことちゃん!」
純連の全身が、煌びやかな青色の光に包まれる。
軽快な変身音が響き、そして光が解放された。
最終進化を遂げた後の華々しい衣装は、どの魔法少女にも引けをとらない美しさだ。
神々しい魔法少女は更なる舞台に駆け上る。
選んだ道の先には、大勢の人が助けを求めて待っているのだから。
純連は"あの人"と繋がっている、古いスマホを胸に抱きしめた。
(純連は……やっぱり、『最強』の魔法少女になりたいです)
昔は『最強』の言葉の重みなんて、何も知らなかった。
魔法少女シリウスや、トップクラン『天橋立』のメンバーが立っていた世界に足を踏み入れる。考えもしないような責任と苦労がのしかかるはずだ。
(それでも、純連は絶対に負けません)
ひしひしと感じている重いプレッシャーにも、勝てると思った。
雲の上から、両親が自分の成功を願ってくれている。
これからもずっと、一番の親友が側で支ええくれる。
どれだけ失敗して傷ついても、世界で一番優しい人が慰めてくれる。
「純連、行くわよ」
「はいっ、ことちゃん」
親友に手を引かれながら、最弱だった魔法少女は、憧れの華々しい舞台に登る。
これからも強くあり続ける。
八咫純連は、最強の魔法少女となる決意を固めた。
というわけで、後日譚でした。
気が向いたらこんな風に続きを書くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします!




