プロローグ
――もう一度、彼女に会えるのなら、俺はその時、どんな言葉を届けるのだろう。
そんなことを思いながら、俺は自室の机の上に置かれたヘルメット型のVR機器《ダブル・ヘッド》に手を伸ばした。
この機器が、現実世界と仮想世界の架け橋となる。
俺はこれから、もう一つの世界へと向かう。
「シャッフル・ディール・オンライン」というゲームの中に存在する、もう一つの世界へと。
西暦二〇五〇年、ゲーム制作会社「キティ・ドロー」の開発した、VRMMOACT――仮想現実大規模多人数オンラインアクションゲーム、シャッフル・ディール・オンライン――sdo。
様々な《武器》と《スキル》を駆使して、プレイヤー同士がぶつかり合うこのゲームは、サービス開始から瞬く間に人気を拡大させていった。
それから程なく、キティ・ドローはさらなる人気拡大のために、全プレイヤーにある条件を提示した。
それは、『sdoの頂点に立ったプレイヤーの願いを叶える』という、驚愕の内容だった。
そのことを知った俺は、自らの『願いを叶える』ために、sdoの世界で戦うことを決めた。
ダブル・ヘッドを被り、現実世界から仮想世界へと完全ダイブ――五感全てを没入――する。
俺の意識が、少しずつ遠のいていく……。
俺の五感全てが、もう一つの世界へと飲み込まれていく……。
あと数秒で、俺の意識は完全にsdoの世界へと移動する。
俺は必ず、sdoの頂点に立つ。
俺の願いを、叶えるために。
もう一度、彼女に会うために。
『もう一度、死んだ妹に会う』ために――。