六の段 再起
金平たち、互いに怪我の手当てをしている。頼義、離れたところで一人うなだれている。
季春 よし、とりあえず応急処置でござる
竹綱 いてて
季春 そちらは大丈夫でござるか
金平 ああ、アバラを何本かやられたが、サラシを巻いていたおかげでなんとかいけるわ。にしても、くそっ
竹綱 まるで・・・相手にならなかったなあ
金平 なに言ってやがるんだてめえ!一度負けたぐらいで弱音こいてんじゃねえよ!
貞景 しかし、金平の怪力でも俺の剣技でも、やつを追い込むには至らなかった
金平 ぐ・・・
竹綱 どうすればあいつらを倒せる・・・いや、そもそも僕たちに倒せるのか?あんな化け物たちを
金平 んなものはやってみなけりゃわかんねえだろうが根性だ根性!おらガキんちょ、お前もいつまでもウジウジしてんじゃねえ!
頼義 ・・・・・・
金平 おい!
頼義 私は・・・
金平 あ?
頼義 私は、鬼・・・なのですか?
金平 なに言ってやがんだ、そんわけねえだろうが!
頼義 でもヤツは、酒呑童子は言いました、私たちは同じだと、同じ「魔の瞳」を持つ「鬼」なんだと
金平 ・・・・・・
頼義 私、ヤツに言われた時、なにも言い返せなかった、確かに私は、幼い頃から父にも兄にも、どんな頼みも断られたことがなかった・・・私は、知らず知らずのうちにこの「瞳」の力を使って、殿方たちを操っていた・・・のかもしれない
金平 やめろ!そんなことはねえ!
頼義 だって!昔兄上に「桜の枝をとって」とお願いした時、兄上は何度も木から落ちて、体中傷だらけになりながら取ってきてくれた、その時も私は兄の身を心配するより、桜の枝をもらえたことのほうが嬉しかった、私は、きっとあいつと同じように殿方を操っては悦に入っていたんだ、ずっと、ずっと・・・!
金平 おい!
金平、頼義の前にずいっと膝を詰める。
金平 俺たちは、お前に操られてなんかいねえ!俺も、竹綱も、貞景も季春も、みんな自分の意思でお前に付き従ってここに来た、そうだろう?
三人 ・・・・・・
金平 俺たちはお前の操り人形なんかじゃねえ、俺たちを、自分を信じろ!
頼義 金平どの・・・
金平 ・・・・・・
頼義 お手
金平 わん
三人 操られてんじゃねえかよ!
頼義 ああああああ(泣き崩れる)
金平 だあああちがう!今のは条件反射だ!ノーカン!ノーカン!
季春 犬でござるか
貞景 それは俺の役目だ
竹綱 そっちかい!ま、まあ冗談は置いといて、コイツの言ってることは本当だよ、殿。確かに一番最初に頼まれた時にはそうだったかもしれない。でも今ここにこうしているのは、紛れもない、自分の意志だ、それは間違いない
貞景 うむ
季春 そうでござるよ、拙者の見立てでは、殿の持つ「魔魅の瞳」の力は酒呑童子ほど強力ではござらん、殿がよほど悪意を持って使おうとしない限り、まったく危害はござらん、それはこの陰陽師(見習い)である拙者が保証いたしますぞ。要はアレですな、みんな頼義どのに一目ぼれしとるだけですぞ
三人 ちょっ!
頼義 竹綱どの、貞景どの、それに季春どの・・・
金平 コホン、な、だから言っただろ?
頼義 ・・・はい
竹綱 よし、じゃあ気を取り直して、奴らを追おう。残った兵はどのくらいいる?
貞景 半分かそこらか・・・しかしあれだけ戦意を失ってはもはや戦の役には立つまい
竹綱 いや、彼らを二手に分けて、都の橋を全て壊させる
金平 は?
竹綱 都を川で分断し、封鎖する
金平 なんでそんなことするんだ?奴らはもう都の中にに入っちまってるんだぞ、今さら入れないようにしたって・・・
竹綱 逆さ、都から奴らを出さない・・・おそらく酒呑童子は行く先々にいる女性もみんな支配下に置いて破壊活動を行わせるだろう。そいつらを外に出させないための封鎖作戦だ
頼義 なるほど
竹綱 あと、一名を早馬で難波にある「渡辺党」に伝令を送って、援軍を要請する。小早船で急げば夜明け過ぎには淀川をのぼって到着できるはずだ。彼らに都の治安維持回復を任せて、僕らはそれまでに酒呑童子を討つ!
季春 討つ、と簡単に言われましてもなあ、あのような規格外の化け物ども、いかにして対処すれば良いのでござろう
竹綱 いや、僕らならできる、というか、僕らにしかできない、と思う
頼義 どういうことですか?
竹綱 さっきの戦いは、見た目ほどあちら側の圧倒的有利ではなかったということさ。金平、君のそのマサカリはお父上から譲り受けたものだね?
金平 ?ああ、そうだが・・・
竹綱 僕の刀はこれ、言わずと知れた「鬼切丸」、羅城門であの茨木童子の腕を切り飛ばした刀さ。貞景、君の薙刀は・・・
貞景 そうだ、我が師藤原保昌公より授かった「岩切の手薙刀」だ
頼義 藤原保昌公・・・我が叔父頼光や四天王とともに二十年前の酒呑童子討伐に手助けいただいたあの武将ですか?
貞景 さよう。読めたぞ竹綱、これらの武器にはみな共通点がある
竹綱 そう、どの武器もみなかつて鬼を斬った事がある。他の武器ならいざ知らず、少なくともこいつらなら奴らを斬れる、という事さ。殿、失礼ながら佩刀を拝見頂きたく
頼義 ?これですか(刀を渡す)
竹綱 失礼(刀を抜く)やはり、「童子斬り安綱」、他ならぬ、酒呑童子の首を切り落とした業物でござる
頼義 !
竹綱 やつめ、余裕こいていたふりして、内心ひやひやだったに違いない。ふふ(刀を返す)
頼義 確かにこの刀は、頼光公から授かりしもの・・・叔父上はいずれ私が酒呑童子と対決すると見越して・・・?
竹綱 あのお方も超常の御仁ですからなあ、あるいは・・・。というわけで、殿、我々の方針は決まりました。ご下知を
頼義 はい、我らは朱雀大路を直進し、酒呑童子を追う、良いですね?
四人 応っ!
頼義 竹綱どの、見事な采配です。頼義、感服致しました
竹綱 いやあ、僕なんてまだまだ。親父からも「お前には頭領になるための覚悟が足りない」なんていつもどやされてましてねえ。僕は僕なりに頑張っているつもりなんですが、その「覚悟」とやらがどうにも定まっていないようで
頼義 いえ、きっと竹綱どのならば立派な頭領になれます、私は信じています!
竹綱 ・・・ありがとう
金平 よっしゃ行くかあ!今度は絶対に負けねえ!
貞景 うむ、俺も一つ気づいたことがある
金平 なんだよ
貞景 取り巻きの鬼どもは女であったが・・・ジンマシンが出なかった!
金平 そこかよ!
貞景 ふっふっふ、先程はそれが心配で本気を出せなんだが、次は容赦せん
金平 めんどくせえヤツだなあ
季春 拙者には鬼殺しの武器はありませぬが、この「スマホ」と仙術で対抗できましょう。おっとその前にこれを(球状のものを取り出す)
頼義 何ですかそれは?
季春 我が卜部氏に伝わる秘伝「黄色火薬」でござる。火を近づけても引火はしませんが、衝撃を与えると中の雷管が作動して強力な炎を発生させるでござる。最後の手段ですが、いざという時は身を呈してこの都を焼き払いましょう。そうならないことを祈りますが
季春、各人に火薬を渡す。
頼義 では皆の者、これより再び酒呑童子討伐へ向かう、都のみならず、この国の未来は我らの手かかっている、行くぞ!
四人 応っ!
暗転