五の段 両陣、相まみえる(一)
頼義、竹綱、貞景、季春の四人、軽装備ながらも戦支度。頼義と竹綱は太刀、貞景は手薙刀、季春は小太刀のみという武装。頼義は初陣という事で緊張しながらも意気揚々。
貞景 緊張しておられるか、頼義殿
頼義 いえ!・・・いや、はい・・・
貞景 そんなに気張ることはござらぬ。俺らとて初陣の時は似たようなものでござった。金平などは・・・はは、いや、これはヤツの名誉のために言うまい。ですから、そんなに気負わずどーんと構えていれば・・・
貞景、振り向くと至近距離に頼義がいる。
貞景 うおりゃっはー!
竹綱 お前が落ち着け
貞景 よよよよ、頼義殿、そのあれだ、なんだ、後生でございますから僕、いやミー、もとい拙者に近づくのはご遠慮頂きたい、いや!その、決して頼義どのが汚らわしいとかそういったワケではござらぬ
頼義 はあ
貞景 せせ、拙者、その、恥ずかしながら、女性に
頼義 女性に?
貞景 女性に近づかれるとジンマシンが出るのでございます
頼義 ジンマシン!?
季春 女性アレルギーっていうのは例えじゃなくて本当に出るんですな、アレルゲン反応が
頼義 はあ(半信半疑)
貞景 すー、はー、すー、はー(深呼吸)
頼義、深呼吸している貞景の隙をついてピタリと寄り添う。
貞景 !☆きょげ、h゜+o。。o+゜♡゜+o派9!!!!!
貞景、飛び退くが、すぐさまジンマシンが発症して体中を掻き出す
貞景 かゆいかゆいかゆいかゆいかゆい!
頼義 えーっ!ほ、本当に!?
貞景 かゆかゆかゆかゆかゆうううう~
頼義 うーん、なんか傷つくなあ
竹綱 頼義様、どうか貞景のアレについてはどうかご容赦を
頼義 い、いえ、こちらこそ失礼を。ところで・・・
竹綱 大丈夫、きっと来ますよ
頼義 え?
竹綱 あいつの事でしょ?ちゃんと来ますから。
頼義 そうでしょうか・・・やはり、私のような若輩者には荷が重かったのでは
竹綱 だから大丈夫ですって、あいつだってあんな事言ってたけど、本当は嬉しかったんだから
頼義 嬉しかった?
季春 そう、なんせあの陰陽寮から出るチャンスを与えてくれたんですからなあ
頼義 ?どういうことですか?
竹綱 あいつね、あんな性格だろ?だから元服してすぐに宮中に出仕した時も、仕事はサボるわ女官をナンパするわ上司を殴り飛ばすわ、もう暴れたい放題でね。そのせいでお父上の坂田金時様のお叱りを受けて、陰陽寮の安倍晴明様の所に無期限蟄居を命じられてね、以来ずーっとロクに働きもせずにあそこでくすぶってたってわけさ
貞景 我々はガキの頃からの腐れ縁であったのだが、あいつが陰陽寮から出られないから、自然と俺らも陰陽寮に居着くようになってしまってなあ
季春 拙者は元々陰陽寮に出仕しておりましたゆえ。にしししし
竹綱 あそこ、静かだし勉強する個室もあるし、快適なんだよねえ。ま、そんなこんなでダラダラとニート生活を満喫していたところに君が現れたってわけ
貞景 俺らも単調な毎日に飽きが来ていたところでござった。頼義殿がいなければ、今もまだあそこで無聊を囲っていたでしょう。まこと、感謝しております
頼義 そんな、私こそ・・・
金平 待てー!待て待て待て待て待て待て!
金平、大荷物を抱えて登場。
全員 ・・・・・・
金平 ・・・・・・
竹綱 さ、行こうか
金平 ちょーっ!
竹綱 早速布陣の打ち合わせを
金平 無視かーっ!
季春 はて、どこかでなにか吠えてますなあ
三人 きっと野良犬だな
金平 待てーっ!
三人 おや、何しに来たんですか、坂田金平くん
金平 だ・か・ら!・・・その、ほらよお、ガキんちょ一人とお前らだけじゃあ心許ないっていうかよお、俺がついててやんねえと、アレだろ?
季春 いや、いらんでござるよ
金平 なっ!
竹綱 いらないよなあ、別に、馬鹿力しか取り柄がないような奴なんて
頼義 いや、あの・・・
三人 いらないよねー
金平 でええええい!(鍋と大きな包みを出す)ほらよっ!
頼義 なんですか、これは?
金平 「腹が減っては戦はできぬ」っていうだろ、だから、ほら、作ってきてやったからよう
貞景 また「きんぴらごぼう」かよ
竹綱 それもこんなに大量に
金平 それだけじゃねえ、疲労回復に甘いものも用意してあるぞ
季春 どうせ「金時豆」でござろう?金平氏それしか作れないでござるか
金平 ぐ・・・じゃ、じゃあな、そういう事だから、俺は・・・
頼義 金平どの、ありがとうございます!必ずやご助勢いただけると、この頼義信じておりました
金平 いや俺は行くとは・・・
頼義 ありがとうございます!ありがとうございます!
金平 ・・・ちっ、まあ、そこまで言われちゃあ、しょうがねえなあ
竹綱 素直じゃないなあ
金平 うるせえっ
季春 頼義どの、こういうのを「ツンデレ」というのでござるよ
頼義 つ、つん・・・?
金平 だあああ!もういいから!で、どうすんだい、これから?
頼義 はい、道長様が滝口の武士団から五百人の手勢をお貸し下さいました。それを三つに分け、一列横隊に兵を進めます。本陣二百名を私と竹綱殿が、左右両翼に百五十名ずつ、それを貞景殿と季春殿に指揮していただきます。敵勢が多数なら「魚鱗の陣」にて突撃し、少数ならば「鶴翼の陣」に開いて包囲殲滅する布陣です。これは竹綱殿の発案ですが
金平 なるほど、優等生の竹綱らしい、教科書通りの布陣だな。じゃあ俺っちは単騎で好き勝手に暴れさせてもらうぜ
頼義 いえ、せっかくご助勢いただいたのですから、本陣で・・・
竹綱 いーのいーの、こいつバカだから指示通りになんて動けないし、勝手に遊ばせておけばバーサーカーのように暴れまくってくれるんで
頼義 なるほど!
金平 納得すんのかよ!
頼義 ではこれで布陣が決まりました、酒呑童子討伐に向けて。いざ出陣です!
鬨の声をあげようとした瞬間、周囲が騒がしくなる。
金平 あ、なんだあ?
竹綱 なにやら、本陣の兵達が騒いでいるようだが
黒子が登場。この黒子は本陣の伝令役である。
黒子 も、申し上げます、只今、本陣正面より敵襲を受けている模様です!
竹綱 なんだとぉ!?
黒子 すでに本陣は第二列まで壊滅、第三列、第四列も時間の問題かと
貞景 馬鹿な!この短時間で二百もの手勢を打ち破るなど、それほどの大軍に何故近づかれるまで気付かなかった!?
黒子 そ、それが、敵勢は・・・わずかに数十名!
全員 なに!?
黒子 しかも、その全てが・・・・女にございます!
金平 おいおいおい、馬鹿言うんじゃねえよ!曲がりなりにも本陣にいるのは滝口の武士だろ?源氏の武士団の中でも精鋭揃いと聞いてるぜ、それが数十人の女なんぞにやられてるっていうのかよ!?
黒子 はっ、その、なんと言いますか、常軌を逸しております
金平 そりゃそうだろう、狂ってやがるぜ!
黒子 そうです、文字通り、狂っているとしか言いようがありませぬ
頼義 どういうことですか、狂っているとは?
黒子 やつら、全く引くことを知りません、腕を斬られ、腹を突かれても突撃を止めません、まるで傷つくことも死ぬことも恐れていないかのように・・・甚だしいのにいたっては首を切り落とされても、その首を自分で抱えて走ってくるなどと言う者まで出る始末で
頼義 馬鹿な!それではまるっきり化物ではないか!
黒子 然り!両翼もすでに恐慌状態に陥ってございます、布陣の再構築は、もはや不可能にございます!ここは一刻も早く撤退を
竹綱 殿、迷っている時間はなさそうだ、ここは一旦引こう
頼義 は、はい(黒子へ)では両翼へ、すみやかに淀川まで引くように
黒子 はっ
黒子、袖に引き下がろうとした瞬間硬直。袖から黒子の腹に鉤爪を食い込ませた茨木童子が登場。
金平 なっ!
茨木 はあ~い、みなさんこんにちは、いいお天気ねえ
竹綱 貴様!?
茨木 ただしぃ、所により一時雨かしら、この茨木童子がふらす血の雨がねえ
頼義 茨木童子だと!?
茨木 なにやら意気込んで陣を張っているおバカさんたちがいるから見に来てあげたら、あらまかわいらしい大将様だこと
竹綱 馬鹿な・・・茨木童子だと?ではすでに酒呑童子の本隊が都まで到達しているということか!?
茨木 あら?あらあらあら、どこかで見たような顔かと思ったらおやまあそうかい、その刀、「鬼切丸」だね。かつてこのアタシの腕を切り飛ばしてくれた・・・あんた、渡辺綱に縁のあるモンかい?
竹綱 ・・・!いかにも、内舎人渡辺綱が嫡子、竹綱だ
茨木 これはこれは、それじゃあちゃんとご挨拶しないとねえ、初めましておぼっちゃん、茨木童子と申します、以後お見知りおきを。まあ、すぐに殺しちゃうんだけどねえ
竹綱 くっ(茨木の気迫に気圧される)
茨木 そちらのお人形さんみたいな大将様はどなた様かしらあ?
頼義 左衛門少尉、源頼義!
茨木 あら、アンタ女の子じゃないの、女風情が勇ましいわねえ
頼義 侮るな!女の身といえど、貴様らごときに遅れは取らぬ!
茨木 おお怖い怖い、ですってよ童子様
全員 !
酒呑童子始め鬼たち登場。