三の段 頼義、子四天王と遭遇す(一)
明転するとまた頼義が一人。
頼義 ごめんください、お頼み申す
季春 (袖から登場)は~い、いらっしゃいませ~、陰陽寮へようこそ~、呪いのご依頼ですか~?
頼義 い、いえ、違います
季春 では呪い返しの方ですか?今ならキャンペーン期間中でもう一人呪い返せますが
頼義 あの、そのようなご要件では・・・
季春 は?なんだよ客じゃねえのかよ、まぎらわしいな~(スマホをいじりだす)
頼義 なんという態度の変わりよう
季春 でなに?なんか用?師匠の安倍晴明なら今日はいないでござるよ~
頼義 実は太政大臣藤原道長様のご紹介で、こちらにいらっしゃる「子四天王」のみなさまを訪ねて参ったのですが
季春 はあ、道長卿の?
頼義 はいっ
季春 なんでまた俺たちなんかに・・・
頼義 は?
と言った瞬間、坂田金平、碓井貞景、渡辺竹綱が乱入してくる。
金平 チェストぉおおおおおお!
頼義 ふわ、えええ!?(巻き込まれてぺしゃんこ)
貞景 踏み込みが甘い!
金平 なにくそ!
貞景 脇が、スキだらけ、だぞ!(打ち込む)
金平 いってー!
竹綱 はいはい一本一本、これで貞景の九十九連勝な
金平 だあ~、ちっくしょう!また負けたあ!
貞景 貴様は力に頼りすぎだ。持てる力を最大限に効率化して運用するのが武道の真髄であろうが。だからいつまでたっても俺に勝てぬのだ
金平 ぐぬぬ
貞景 というわけで今日も金平のおごりな。俺ウーロン茶
竹綱 僕は午後ティー、ミルクのやつ
季春 拙者はファンタのゴールデンアップルで
金平 なんでお前らの分まで俺のおごりなんだよ!(頼義を踏む)
頼義 むぎゅ
金平 を、なんだあ?
頼義 い、痛いですう~
金平 な、なんでこんなとこで寝てやがるんだコイツは!どこのドイツだ!?
季春 ドイツ人だ
金平 マジ?
季春 んなわけねーだろバカ
金平 あ?なんだとこの野郎やんのかコラ
季春 や~いお前の父ちゃん濱田岳~
金平 関係ねえだろうがふざけんなコラ!
竹綱 とりあえずさあ、どいてあげたら?
金平 え?あ、悪い(離れる)
頼義 ぶは、し、死ぬかと思った
金平 で、なんだコイツは
季春 ウチラに用があるようでござるよ、道長卿のお使いだそうで
金平 はあ、道長のオッサンだあ?まためんどくせー事押し付けてきやがったのか?
頼義 は、はい、あの、皆様方が子四天王どのでいらっしゃいますか?
季春 さようでございますよ
頼義 こ、これは失礼いたしました!私、いえ、それがしは鎮守府将軍、石見守源頼信が一子、左衛門頼義と申します
金平 左衛門って、お前女じゃん
頼義 はい、女ですが、この度道長様より左衛門少尉を賜り、酒呑童子討伐軍の総大将に任ぜられました
四人 なんだってー!?
頼義 はい、それで、道長様より、こちらにおわす子四天王の皆様を副官としてお迎えするようにと仰せつかって、こちらに参りました次第にございまする
金平 アンタが、あの酒呑童子の討伐軍の総大将で・・・?
頼義 はい
竹綱 僕たちがその副官だって?
頼義 はい!
四人 ・・・・・・
頼義 ・・・・・・
四人 ぶぅわ~はっはっはっはっはは!
頼義 えええ!?
金平 ひーっ、ひーっ、腹いてえ!
季春 こ、これは草不可避でござる
貞景 こら貴様ら、無礼であろう、ぷぷぷ
頼義 し、失礼な!なぜそのように笑いものにされるのですか!
金平 だってよお、お前みたいなガキんちょが、しかもよりによって酒呑童子の討伐に、そんでもって、この俺たちを手下に使うだなんてなあ
季春 (スマホをいじりながら)「俺氏、これから酒呑童子討伐に行くんだが何か質問ある?」よし、このスレは伸びる!
竹綱 えっとさあ、君、僕たちが何者か知ってるの?
頼義 い、いえ、道長様は「行けばわかる」とだけ
竹綱 なるほど、体よく押し付けられたってわけだ。じゃあ改めて自己紹介しよう。僕は渡辺竹綱、この子四天王のリーダー、ってことになってる
頼義 えっ!
貞景 碓井貞景、ただの剣術屋だ
頼義 ええっ!
季春 拙者は卜部季春、ここ陰陽寮で安倍晴明博士のアシスタントをしてるでござるよ
頼義 えええっ!
金平 俺は坂田公平。みんなは「金平」って呼ぶけどな
頼義 渡辺、碓井、卜部、それに坂田・・・では、あなた方はあの誉れ高き「頼光四天王」の御子息様たちでいらっしゃるのですか!?
竹綱 まあ、そうなるねえ
頼義 光栄です!我が叔父源頼光公と共に酒呑童子や土蜘蛛と戦い抜いた歴戦の勇者、その御子息たちと轡を並べて再び酒呑童子討伐に向かう!なんとすばらしいことでしょう!この頼義、心より感動いたしました!
竹綱 いや、あのね・・・
頼義 こんなに頼もしい方々がいるなら勇気千倍百人力、十万の軍勢を得たも同然です!みなさん、よろしくお願いします!さあ、いざ往かん、酒呑童子討伐の伝説の旅へ!
竹綱 いや、一人で盛り上がってるとこ悪いんだけどさ
頼義 なんでしょう?
竹綱 行かないよ、僕たち
頼義 ・・・・・・えええええ~っ!
竹綱 だってほら、受験勉強とかあるし
頼義 受験勉強!?
竹綱 うんこれ(教則本を見せる)
頼義 「二級小型船舶免許」?
竹綱 他にも簿記とか公海法とかいろいろ勉強しなきゃいけないから、正直そんな暇ないんだよねえ
貞景 跡取り息子どのは大変だのう
頼義 跡取り?
竹綱 「渡辺党」って知ってる?浪速や周辺の海の通商と安全を守る組織なんだけど、うちは代々その頭領を務める家系でね、で、僕はその次の頭領候補生って事
頼義 はあ
竹綱 だからね、僕は鬼退治なんてものにかまけている暇なんてないんだ。僕には将来この日ノ本の海の平和と安全を守る使命が待ち受けているんだからね
金平 なーにが「平和と安全」だよ、ただの海賊の親分じゃねえか
竹綱 それは偏見だ!我々「渡辺党」が海の安全を守っているからこそ、皆が安心して船を出せるんじゃないか。そりゃあちょびっとは通行料とか貰うけどさ
金平 へいへい、せいぜい頑張ってくださいや、カナヅチ
竹綱 なんだと!?
金平 へーんだ、カナヅチー
竹綱 くそう、父ちゃんが濱田岳のくせに
金平 だから関係ねえだろそれ!
頼義 し、しかし、このままでは都が攻め滅ぼされてしまいます、どうかお力添えを!
竹綱 ごめんねえ(そっぽを向く)
頼義 お願いします!
竹綱 だから無理だって
頼義 お願いします!
竹綱 いいかげんに・・・!
竹綱、振り向いた瞬間に頼義と目が合う。なぜか好感度の上がったようなBGM
竹綱 いいよー
三人 えっ?
頼義 ほ、本当ですか!?(竹綱をジッと見つめる)
竹綱 ・・・はい、あなた様のおっしゃる通りにします・・・
頼義 え?
竹綱 (我に返り)はっ、今僕は何を口走ったんだあ!?
金平 そりゃあこっちのセリフだ!何言ってんだお前は
竹綱 いや、なんだろう、突然そんな気になったというか、そうしなくてはいけないという気分になったというか・・・
金平 はあ?
頼義 ありがとうございます!ありがとうございます!
貞景 おい待て、よもやそれは「子四天王」全員の総意というわけではあるまいな?貴様がどこへ行こうと勝手だが、俺はそんなものには行かんぞ
頼義 お願いします、酒呑童子を倒すためにはどうあってもみなさんの力が必要なのです、お願いします!(近づく)
貞景 うひゃあ!
頼義 うひゃあ?
金平 ああ、そいつ女性アレルギーなんだ、近づくと逃げるぞ
貞景 それを言うな、いくら鍛錬してもこればかりはどうしようもならん
頼義 こ、これは失礼しました。(遠く離れてから)どうか~、お願いします~
貞景 俺の剣は己の鍛錬のためのものだ。鬼ごときを斬るような下賎な剣は持ち合わせておらぬ
頼義 そこをなんとか、お願いします!
貞景 くどいぞ
頼義 お願いします!
貞景、頼義と目が合う。またまた好感度の上がったようなBGM
貞景 いいよー
金平 うおい!
頼義 あ、ありがとうございます、貞景どの!
金平 ちょっと待てよおかしいだろ今の流れ!
貞景 貴様、ご婦人がこんなに困っているというのに手も差し伸べんとはそれでも英国紳士か!
金平 英国紳士じゃねえしそもそもコイツがご婦人ってタマかよ!
貞景 頼義どの、今こそ分かり申した、この碓井貞景、そなたの剣となりてどこまでもお供しましょうぞ!
頼義 貞景どの、かたじけのうござる!
貞景 わんわん
金平 どーなってるんだよ、これ!
季春 いやいやいや金平氏、これはなかなかアレですぞ。ほほー
金平 なんだよ
季春 我が師安倍晴明より聞いたことはありましたが、ほうほう
頼義 ・・・?なんのことでしょう?
季春 動くな!そこをお動きなさるなよ・・・