八の段 黄泉比良坂(一)
五人、走って登場。ここは都の南端、羅城門前である。
頼義 くっ、この惨状・・・
金平 羅城門か・・・元からここらは荒れ放題で、野盗が巣食ってたり死体が転がってたりなんざザラだったが、ここまでじゃあなかったぜ
竹綱 では、すでに奴らは都の中に・・・
茨木 そういうことさ
茨木童子、黒子を引きずりながら登場。
茨木 (黒子を投げ捨て)都ご自慢の御陵衛士たちもこうなっちゃあ形無しだねえ、ありがたく頂戴してるよ、「エサ」としてねえ
頼義 茨木童子!
茨木 酒呑童子様はもう内裏に向かってお進みだよ、残念だったねえ。そしてアンタたちは、ここでこの茨木様のエサにおなり!
茨木、五人に襲いかかる。竹綱、真っ先に刃を合わせ茨木をおさえる。
竹綱 頼義どの、先へ!
頼義 えっ!?
竹綱 こやつは竹綱が止めまする、どうか先へ進み、酒呑童子を討ち果たしてくだされ!
頼義 し、しかし・・・!
竹綱 心配ご無用、さあ、早く!
茨木 こしゃくな、させん!
竹綱、じたばたあまり格好良くなくもなんとか茨木を押さえ込む。
竹綱 さあ早く!
頼義 すまぬ・・・!どうかご無事で!(四人去る)
茨木 くっ・・・まあ良い、行く先々にもまだ邪魔は入ろうぞ。童子様までにはたどり着けぬわ。しかしまあ、なんとも因果なものよのう、運命とすら感じるわ。ここは羅城門、かつて人間ごときに片腕を斬り落とされた因縁の場所じゃ。そこで再び、アタシの腕を斬り落とした男の息子と相まみえるとはねえ
竹綱 ・・・・・・
茨木 この腕、いまだによう疼きよるわ、その度に思い返すのじゃ、人間への恨みを、憎しみを。この腕の疼き、貴様の肉を食ろうて癒そうぞ!
茨木、竹綱に打ち込む。竹綱はなんとか躱すがまるで相手にならない。
茨木 なんだいなんだい、まるでなっちゃいないねえ、お前の親父様はもっともっと強かったよ!
竹綱 くっ・・・!(転ぶ)
茨木 はっ!なんてザマだい情けないねえ、こんなんじゃ少しもアタシを熱くなんかさせらんないよ!さあ、もっと、もっと、もっと!
竹綱、追い詰められる。
茨木 ああ、ダメだダメだ、てんでダメだねえ。お前じゃあ親父様のようにはアタシを滾らせてはくれないねえ
竹綱 ・・・いたくご執心だな、我が父に
茨木 そりゃあそうさあ、アタシをあんなに熱くさせてくれたヒトはいなかったからねえ。正直に言おうか、アタシはねえ、アンタの親父様に腕を斬り落とされた時、不覚にも歓喜に震えたよ。人の身でこの鬼と渡り合う剛の者に出会えた事になあ。それ以来、アタシの望みはただ一つ、あの歓喜をもう一度味わいたい、あの一瞬を思い出すためにアタシは殺して殺して殺しまくる!
茨木、なおも攻め立てる。
茨木 ああ、アンタじゃ足りない、まるで足りないねえ、もういいよ、死にな
一方的に攻められる竹綱、ついに鬼切丸を落とし、無防備になる。茨木、鉤爪を竹綱の腹に突き立てる。
竹綱 ぐはっ!
茨木 おやおや、とうとう諦めたかい?情けないねえ。あの世で己の無様を親父様に詫びな!
鉤爪を引き抜こうとするが、抜けない。
茨木 ぬ・・・貴様、まさか・・・!?
竹綱、自分ごと茨木を鬼切で貫き通す。
茨木 ・・・っ!
竹綱 悪いね、こうでもしなきゃ、お前を捉えられなかったんでね・・・
鬼切を引き抜く。
茨木 ・・・ああ、やっぱりそいつには勝てなかったかあ、はは、アタシとしたことが、楽しむあまり油断しちまったねえ。いや、違うねえ、アンタの、覚悟か・・・ちっ、しょうがないなあ、負けにしといてやるよ、はは・・・
茨木、崩れ落ちる。竹綱も膝をつく。
竹綱 父上、この竹綱、ようやくわかりました。「頭領になる覚悟」とは、大切なものを守るためなら、頭領の座すら捨てるという「覚悟」なのですね・・・父上、竹綱は立派な頭領に・・・なれます・・・か・・・
竹綱、事切れる。
暗転




