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解放

作者: 悪食男爵

最初はただの相談のつもりだった


ただ相談に乗って、少しのアドバイスをするだけ


そんなつもりだった


僕にとってそれは特別なことではなく


期待も何もない


ただの都合のいい男として終わるはずだった


だけどそこで終わることなく


いつのまにか君が隣にいて


いつのまにかそこに君の居場所が出来上がっていて


いつのまにか君と時間を過ごすことが当たり前になって


いつのまにか、そこに安らぎを感じていた


そして時間を過ごすたびに


色の失われて白黒だった世界がだんだんと色付いて


穴が空いて、虚無に満たされていた心が癒されるような感じがして


心地よかった


だけど心の中の虚無はずっと叫んでいた


あの過ちを忘れたのか


好かれているという勘違いから生まれた傷を


己の傲慢と怠慢から生まれた毒を


居場所を失って、生まれた『俺』を


世界に色がつくたびに


心が癒されるたびに


心地よさを感じるたびに


心の中の虚無は叫んだ


それを聞いて怖くなった


今の居場所がなくなることが


安らぎを与えてくれるその場所が


手を伸ばせば消えてしまいそうで


幻だと知ってしまいそうで


怖くて怖くて


でも、君と時間を過ごすたびに


君の笑い声を聞くたびに


君の笑顔を見るたびに


君の温もりを感じるたびに


空いていた心の穴が、徐々に小さくなって


心の中の虚無が少しだけ鳴りを潜めて


少しだけ勇気が出た


過去を切り離す勇気が


幻に手を伸ばす勇気が


僕は、勇気に背中を押されて手を伸ばした


そして、掴んだ


掴めたのだ


幻だと思っていたものは現実で


君の中の僕の居場所は本物で


君の笑顔は、笑い声は、僕に向けられていた


それが、嬉しかった


それでもまだ、虚無は叫んでいた


より一層声を荒げて、僕に投げかけていた


同じ過ちを繰り返すのか、と


また失って、『俺』を生み出すのか、と


その叫びを聞いていくうちに、掴んだはずのものが嘘らしくなって


君の中の僕の居場所が疑わしくなって


現実が幻だと思うようになって


それが怖くて


不安で


何もかもが信じられなかった


君の言葉も


君の温もりも


君の笑顔も


君の笑い声も


全部は、僕を嘲笑うための演技だと


怯えていた


ここで騙され、失えば、もう壊れてしまうことを知っていたから


だけど、そんなことはなかった


君の言葉も


君の温もりも


君の笑顔も


君の笑い声も


全部本物だった


少なくとも、僕はそう信じる


心の穴はほとんど塞がり


傷もほとんど癒え


溜まっていた毒は排出され


虚無は、小言を言う程度になった


本物じゃなかったら、これはなし得ない


僕はそう考える



君には感謝してもしきれない







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