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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

笑って

作者: 菜之

「泣くなよ、(みこと)


それでも目の前の少女は泣くのをやめない。両の目から流れ出るそれは止まることを知らずに落ち続ける。少女の顔はすでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。少女の口からは泣き声さえとうに枯れていた。それでもなお、少女は泣き続ける。


今すぐに少女の体をこの手で優しく抱きしめてあげたい。今すぐに少女の頭をこの手で優しく撫でてあげたい。今すぐにでも目の前で泣きじゃくるこの少女に笑顔を取り戻してあげたい。


しかし、今の俺の身体ではそれができない。この手を、目の前の少女に伸ばすことさえできない。

この身体では…人を辞め、人ならざるものへと変貌したこの身体では。


「泣くなよ、命」


もう一度、もう一度静かに少女に言う。待ち続けて数分、振り続けた雨は小雨となりそして止んだ。


「本当に行っちゃうの?」


少女は問う。

先ほどまで泣いていた少女の目は赤く腫れあがっていた。そこまでしてこの身を案じてくれていることにふっ、と頰が緩みそうになる。


「ああ」


身体を起こす。ミシミシと骨が軋む。気を抜くと地に立つのもできなくなりそうだ。

神社の方を向く。そこには片方の目を髪で隠した女性が立っている。


万鈴(まりん)、後のことは任せたぞ」


佇む女性は頷く。だがその顔は不満そうだ、暗くてよく見えていないが。

少女の方に向き直り、顔を近づける。


「ちゃんと帰ってくる。約束だ」


そう言って少女の額に自分の額を擦り付け、少女の横を走り抜ける。

約束だよー、といまにもまた泣きそうになるのを押し殺した声が微かに聞こえた。


===============


駆けるー。ただ、ひたすらに駆ける。木々は全力で駆ける俺に対し、行くべき道を指し示す。どうやらここは俺に味方してくれているようだ。

見晴らしの良い場所に出た。辺りを見渡す。山の麓には大量の篝火が灯っていた。


ふと何かが頭をよぎった。鮮明に思い出そうにも霞がかりよくわからない。

遠い昔に見たのか…これを見て懐かしいと思うとは。

感傷を捨て、再び目を凝らす。一箇所だけ、他よりも多く篝火が焚かれている場所がある。


ー あそこか?


視線の先には籠目の紋が刺繍された旗があった。


ー 都の帝が直々にということはさすがにないか…。だがあそこはどちらにせよ叩かにゃいかんか。


さてー、と脚に力を入れ、跳んだ。数十メートルからの落下。

着地。辺りにいた兵士たちは空から急に現れたものにあっけにとられていた。


ー そりゃそうだ。斜面沿いに来るならまだしも上から降ってくりゃこうなるわ


「て、敵襲っー!」


一人の兵士が我に返り叫ぶがすでに俺は本陣めがけて駆け抜けていた。


「撃てぃ!」


横っ腹に鈍い衝撃を受け、倒れる。焼けるような痛みが身体の中に広がる。みると身体にいくつか穴が開いており、そこから赤い液体がドロドロと滲み出ていた。


ー 火筒か。帝の野郎、いつの間にこんなものを。


「火の国の山狗もこれで終わりよなぁ!」


火筒を構えている兵士たちの後ろから小太りの男が兵士たちを押し退け現れた。その男は醜く笑い俺を見下した。


「やっぱてめぇの仕業かこの狸が」


目の前の男はますます醜い笑みを歪めて笑う。


「吠えるなよ山狗風情が」


「ふんっ、力がある奴の後ろで踏ん反り返っているだけのくせによく言う」


うるさいっー、と男が傷口につま先で蹴り込む。傷口を抉られて痛みに唸る。


「いいかっ、俺はここであの娘を捕まえる。そして一国の主となるのだ!」

「だからっ、お前にっ、構っている暇などっ、ないんだっ」


と再び傷口に蹴りを入れる。あまりの痛さに悶えることしかできない。

蹴り終わると男ははぁはぁと肩で息をし始めた。落ち着くように二、三度深呼吸をすると先ほどの歪んだ笑みをこちらに向け男は言う。


「じゃあな。俺は娘を探しに行く。お前はここでのたれ死んでろ」


そう言うと男は俺のそばを横切り山へ向かおうとした。周りにいる兵士たちに山頂に向かう様に指示を出す。目の前の手負いの獣にとどめも刺さずに。


「だから愚かなんだお前は」


そう言い終わるのと同時に俺は力を振り絞って男に飛びかかった。

男は振り向くとすぐ目前に迫っていた俺に恐怖し立ちすくんだままだった。


「あー」


ぐちゃり、と嫌な音がして歯に筋が絡みつく。男の体を押さえつけ肉を引きちぎる。ぶちぶちっとちぎれて辺り一帯が赤く染まった。口の中にある異物を吐き出してみるとそれは先ほどの男の頭だった。

火筒を構えていた兵士たちはその現場をみて青ざめていた。そいつらに向かって歯をむき出しにして叫ぶ。


「貴様らの大将は死んだ!戦う意思のないものは去れ!そうでないものはこいつの様に殺してやろう」


その後は案外あっけないものだった。大将を失った有象無象は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出していった。中にはこちらに牙をむく兵士たちもいたが統率の取れていない兵は簡単に制圧することができた。ある者は噛み砕き、ある者は引き裂き、そして最後には一匹の獣だけが残った。


=================================


ー 血を流しすぎた…。


体が重い。身体に撃ち込まれた鉛玉がいまだに焼けるような痛みを刻み込む。もう歩くことすらままならない。ここで落ち葉を寝床に倒れこむことができたならどれだけ楽になることか。それでも獣は頂上を目指した。少女の待つあの神社へと。


ー 約束したんだ、命と。帰ってくるって。


獣は石段を登る。その後ろには赤い線が途切れることなく続いていた。

鳥居をくぐり敷地に入ったところで倒れこむ。もう起き上がる力も残っていない。本殿の扉が開き、一人の少女が飛び出してきた。その後ろには一人の女性。少女は倒れた獣へと駆け寄り抱きしめる。


ー ちゃんと帰ってきたぞ。もう大丈夫だ、だから泣くな。可愛い顔が台無しだ。

ー そうだ、また命を背中に乗せて里の中を走ろう…。万鈴には内緒な…。あいつは口煩いからな……。

ー だから命…笑ってくれ………。



はじめまして、菜之と申します。

初の投稿ということもあって物語を全く掘り下げれておりません。

あらすじを読んでもなんじゃこりゃ、という感じだったと思います。

今後はこの作品以前や以後の時系列の話を書いていきたいと思っております。

では、読んでいただきありがとうございました。

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