第6話 ラブラブ掃除と一ノ条の訪問
B級の異能力を持った人達が相談に来る、B級者相談所サテライトキングダム。
そこで働く助手の柳町 新右衛門(M)と敏腕先生の柊 京子(S)が繰り出すスタンドアップコメディ?(夫婦漫才?)。
二人の恋仲の進展も気になる中、今日もまた慌ただしい一日が始まる……
あの事件があってから、1週間が経った。
毎度の事、変な相談者は多かったが、これといって特に変わった出来事も無く月日が過ぎ去っていた。変わった事があるとすれば、黒川さんが新しくこの相談所の一員に加わった事だ。
あの事件の後、黒川さんにはアフターケアとして、改めて相談所に出向いてもらい、面談をした。あの日あった一連の出来事の話をし、彼女の心のケアをしながら、今後についての身の振り方を一緒に考えていた。その中で京子先生の提案として、この相談所で働く事が薦められたのだ。
京子先生の身近に居る事で、身の安全を確保する事が出来るし、払いきれなかった今回の代金も、給料から天引きする事で解決するからだ。
6ヶ月という期間限定で黒川さんも納得し、3日前から一緒に働いている。
「柳町さん。おはようございます!」
「おはよう」
黒川さんは長かった髪をショートカットにして、凄く明るい雰囲気になった。
元々顔の作りは良かったが、お化粧のせいもあり、正直可愛くなった。
「京子先生は、まだ来てないんですか?」
「うん。今日も何か用事を済ませてから来るって言ってたから、遅れるかも知れないって。もし9時に間に合わなかったら、午前中はお休みにしてって言われてる」
「そうなんですか……」
先生が来るまで、黒川さんと2人きり……
あまり女の子に免疫の無い僕は、可愛くなった黒川さんにドキドキしながら、相談所を開ける準備をしていた。
「柳町さん」
「はい」
「あの事件の時の話なんですが、私があの赤スーツ達に捕まった時、柳町さんは1人で私を助けに来てくれたんですよね」
「確かに最初に行ったのは僕だけど、結果的に助けたのは、京子先生と先生の知り合いのおじいちゃん達かな。僕は正直、足手纏いになっていただけで、特に何もしてないよ」
「でも、ありがとうございます。助けてもらったのに、ちゃんとお礼言えてなかったんで……」
可愛くなった黒川さんのはにかむ姿を見て、僕の鼻の下は大谷翔◯選手のストレートのように伸びていた。
時計を見ると8時55分。
僕は京子先生にLIN◯をし、午前中は相談所をお休みにする連絡を入れた。
京子先生から、午後には顔を出すと連絡が入り、午前中は事務所の掃除や片付けをする事になった。何をしているのか分からないが、最近午前中は京子先生が仕事に来ない事が多い。
プライベートな事を聞くと、また彼氏ぶるなとキレられそうで流していたが、毎日のように何処かに通っているようだった。
「柳町さん。私も連絡先を教えてもらって良いですか? 一応、何かあった時の為に……」
「う……うん」
僕の電話帳の中に女の子の連絡先が入るのは、京子先生に続いて2人目だ。
黒川さんも友達が少ないせいか、僕の連絡先が増えて嬉しそうだった。
「ここでのお仕事って、ああいう危ない事も多いんですか?」
「そんな事ないよ。黒川さんのケースは稀だよ。それより、相談者が個性的で大変な事が多いかな」
「個性的?」
「京子先生の話だと異能力者っていうのは、どちらかというと、社会不適合者が多いらしい。
その中でもB級になるとクセが凄いんだって」
「ひどい……」
「あっ! 黒川さんは別だよ! 社会不適合者でもないし、クセも凄くないし、普通に可愛い女の子だと思うよ!」
黒川さんは顔を真っ赤にし、僕と距離をおいて片付けを続けた。
少しの間沈黙が流れ、僕達は黙々と掃除をしていた。
正直、ここ数日はこのような流れで京子先生が休む事が多く、掃除する所もあまり無くなってきていた。
出入口にある等身大のタイガーマスクの銅像に関しては、ピカピカになり過ぎて気持ち悪いくらいだった。
京子先生お気に入りの猿のぬいぐるみ「ピンキーちゃん」も昨日洗濯したばかりだし、エアジョーダンのバッシュも歴代順に並べ替えてある。
なぜか置いてあった作業用ヘルメットもとりあえず綺麗にし、やりかけたまま放置されていたジグソーパズルも完成させてしまった。
「片付ける所、無くなってきましたね」
「最近、毎日こんな感じだもんね」
「もしあまりやる事が無いなら、この業界の事をいろいろと教えて欲しいんですけど」
「そうだね。僕もまだまだ勉強不足で分からない事が多いから、この機会に一緒に勉強しようか」
「はい!」
そういうと2人で奥の部屋に入り、パソコンや資料を準備して、異能力業界について調べ始めた。
「実際、私達みたいな特別な能力者ってどれくらい居るんですかね?」
「京子先生から聞いた話だと、全人口の約1割くらいらしいよ。その中でも僕達みたいなB級能力者は半分だって言われてる」
「そうなんですね」
「一般的には、Aランク以上の能力者は大手の事務所に所属して、メジャーな漫画やアニメに出演する事が出来るらしい。勿論、その流れを管理しているのも能力者達みたいだけどね。
あまり詳しい事は分からないけど、そういう事務所に所属出来なかった人達が、裏社会で仕事をしているんだって」
「なるほど」
「そして更に必要とされなかった、僕達みたいなB級能力者は行き場を無くし、異能力者である事を隠しながら生きていくか、どうにか能力を活かして生きていくか、決断を迫られるようになってしまった訳」
「そして、そういう人達の相談の場になっているのが、この『B級能力者相談所』なんですね」
「そういう事。正直、B級能力って役に立たなかったり、公表すると恥ずかしいものがほとんどだから、一般人として紛れて生きている人の方が多いんじゃないかな」
「あの赤スーツ達は、そういう埋もれている人達に目をつけたって事なんですね」
「そういう事だね」
「この相談所みたいな所は、他にも沢山あるんですか?」
「ほとんど無いよ。相談に来る人自体が少ないし、京子先生くらいじゃないと相談者の問題を解決してあげられないから、相談所として成り立たないんだ」
「じゃ、京子先生って凄い人なんですね」
「僕が言うのもなんだけど、かなり凄い人だと思うよ。この業界で、あまり名前が知れ渡っていないのが不思議なくらいだよ」
後に知る事にはなるが、京子先生の名が業界に知れ渡っていない理由を、この時の僕はまだ知るよしもなかった。
すると突然、相談所の扉をノックする音が聞こえた。
「すみませんが、柊 京子さんはいらっしゃいますか?」
男性の声だ。
午前中はお休みで、相談の受付は午後からと書いた看板は出してある。
何となくだが、喋り方の感じが相談者ではないようだったので、僕は外に出て確認してみた。
そこには、上品なヤクザっぽい格好をした40代後半くらいの男性と、その付き人らしき20代後半と思われる男性が2人立っていた。
雰囲気は以前の赤スーツ達に似ていたが、敵意などは無さそうで、凄く落ち着いた感じだった。
「私は一ノ条 司と申します。中に柊 京子さんはいらっしゃいますか?」
「京子先生は、まだこちらには来ていません。相談所が開くのが午後なので、それまでには先生も来る予定になっていますが……。すみませんが、京子先生とはどういうご関係ですか?」
「申し訳ありません。柊 京子さんとは知り合いですが、私の口から詳しい関係性を言う事は出来ません」
何か怪しい雰囲気がした。
「彼女が来るまで、中で待たせてもらう事は可能ですか?」
先生の留守中に知らない人間を中に入れるのは抵抗がある。
申し訳ないがここは一度お引き取り願おうと思った。
「一ノ条!!」
「お嬢様!」
廊下の奥の方から京子先生の声がした。
「何であなたがこんな所に居るのよ!」
「お久しぶりです、お嬢様!」
京子先生は廊下を小走りで走ってきて、一ノ条と呼ばれた男の腕を引っ張り、外に連れ出そうとしていた。
「お嬢様とお会いするのは何年振りですかね!」
「その呼び方はやめて! 私はもうあなた達とは関係ないの! あの人にも、その事は言ってあるでしょ!」
「勿論分かっていますが、状況が状況なので、直接来させてもらいました」
僕は状況が飲み込めなかったが、京子先生の表情がいつもと違う事だけは感じ取れた。
「お嬢様。私もこのまま帰る訳には行きませんので、ここが駄目ならば場所を変えてお話させて下さい」
短い沈黙の後、僕の顔を見てから京子先生が口を開いた。
「わかったわ。場所を変えましょう」
京子先生を、このまま彼らと一緒に連れて行ってはいけない感じがしたので、僕はとっさに身を呈した。
「京子先生を連れて行くなら、僕も一緒に連れて行って下さい!」
僕は、一ノ条さんと京子先生の間に割って入った。
その瞬間、僕は後ろから京子先生に鈍器のような物で殴られた!
「き……京子先生……。なんで…………」
気絶する瞬間、京子先生が僕の耳元で囁いた。
「木彫りの熊の置物よ」
なんでって聞いたのは、凶器の事じゃなかったのに……
ちゃんとつっこめないまま、僕は気絶してしまった……
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
自分が楽しむ為に書き始めたこの作品も、投稿するようになる事によって「人が楽しめる」という事をかなり意識するようになりました。
まだ、始まったばかりのこの作品。
自分も楽しみつつ、人を楽しませる事が出来る作品にしていきたです。
次回もお楽しみに!