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第57話(第1章 最終話) 8回は多いでしょ!8回は!!

 この世界の理について瀕死のお父様が話をしてくれているが、2人にシカトされている僕はつっこみに迷いつつも、話に付いて行く事で必死だった。


「この世界『ダイス』では、ある時期を境に突然異能力者が増えてきたんだ」

「確かにお父様の言う通り、昔から異能力者の存在は知っていましたが、ここ数年で凄く増えているのは僕も感じていました。ねぇ、京子先生?」

「…………zzz」

「ねぇ、京子先生?」

「……zzz……そうね。確かにコウノトリは勘違いだったわね」

「その話だいぶ前ですよ!? どっから寝てたんですか!? 凄い話が飛んでますけど!?」


 飛んでいるのは京子先生の記憶だけじゃない事は分かっていたが、今はこれ以上つっこまなかった。


「実の事を言うと、ワシはその扉の管理者であるイリーガルの出身なんだ」

「あなた、あのイリーガルの出身なの!? てっきりノースカロライナ大学出身だと思ってたわ!!」

「京子先生、何言ってんの!? イリーガルって、今聞いたばっかりでしょ!? どっからノースカロライナ大学出て来た!? ねぇ、どっから出て来た!?」


挿絵(By みてみん)


「何その顔!? どういうリアクションの顔なの!? 僕が驚いてんですけど!!」

「突然異能力者が増えた原因も、実は何となく分かっている」

「話、続けるんですかお父様!? 今の変なリアクション、処理しなくて良いんですか!?」

「その話をする前に、まずは私の立ち位置を説明しよう」

「冷静~!! お父様、冷静~!! 本当に瀕死なんですか!?」

「イリーガルは通常『異次元への扉』を管理する為にその扉のあるエリアから離れないで生活しているんだが、私は若い頃に腕っぷしの強さだけを買われて、この世界『ダイス』のバランスを保つ為に現場に派遣された管理者のような存在だったんだ」

「こ……この世界のバランスを保つ為に……?」


 ボケが無かったので、つっこみはナシ!


「裏社会で増え続ける異能力者達は放っておくと手がつけられなくなってくる。現にここ最近は、イリーガルでも1、2を争う強さだった私が現場に派遣されるくらい、この世界でも強い奴らが現れて来た。そして私はこの世界を管理し、定期的にイリーガルに現状報告をしていたんだが、実はここ数年イリーガルに連絡がつかなくなってしまっていたんだ」

「連絡がつかない!?」


 ここも、つっこみはナシ!


「おかしいと思って『異次元への扉』のあるエリアに帰ってみたんだが、驚く事に扉を含めたそのエリア全体が丸ごと無くなっていた」

「そんな!! 丸ごと無くなっているなんて!! 」

「柳町君のお給料と一緒じゃない!」

「それは京子先生の仕業でしょ!! 無くなってるというよりも、そもそももらってないですから!! いや、そういう事じゃなくて、ファルセットに行った時もそれに近い現象があったじゃないですか、京子先生!」

「良く覚えてるわね。若い頃に浮気された嫁の記憶か!」

「何で急につっこんだ!? 京子先生、無理に例えつっこみしなくて良いですから!!」

「あぁ、その話は聞いたよ。最初はブルーハワイの仕業かと思ったが、おそらくイリーガルを襲った奴らの仕業だろうな」

「じゃあ、柳町君のお給料を奪ったのもやっぱり……」

「だからそれは違いますから!!」

「…………京子…………楽しくボケている所悪いんだが、ワシはもう駄目そうだ……。血を多く流し過ぎてしまった……」

「お父様!!」


 さっきまでしっかり話していたお父様も目の焦点が合わなくなり、空中を見ながら意識が朦朧(もうろう)としているようだった。

 辛いが、いよいよ本当に駄目そうだ……


「こ……こうなる事は予想出来ていたから、万が一を考えてお前達に伝えたい情報を、あるUSBに保存してある……。ここに行ってそのUSBを手に入れてくれ……」


 力なく握られた手には一枚のメモ用紙があった。

 京子先生はそのメモ用紙を受け取ると、悲しそうな目でお父様を見つめていた。

 2人共、さっきまで冗談を言っていたのが嘘のようだ……


「京子……最後に1つだけお願いがあるんだが……聞いてくれるか……」

「何?」

「………………おっぱい触らせてくれ……」


 声を大にして「まだボケんのかい!!」と言いたかったが、泣きながらおっぱいを触らせる京子先生は、何とも言えない表情をしていた。

 自分の死に際に、娘におっぱいを触らせてくれと言う父親とそれを許す娘……

 僕は最後の最後まで、何を見せられているのか分からなかったが、そこには『愛しさと切なさとバカらしさ』しかなかった事は確かだった……




挿絵(By みてみん)



 そしてお父様は、幸せそうな笑顔のまま、京子先生の膝の上で息を引き取った……





 貧血が回復してきた僕は、お父様の身柄を引き渡す為に一ノ条さんに連絡をした。


「柳町君。父さんをおんぶしてあげて」

「は……はい」


 京子先生が初めて「父さん」と呼んでいるのを聞いた気がする……


「今、一ノ条さんには連絡したので、しばらくしたらここに迎えに来てくれるそうです」

「そう……。柳町君、弥生達とも連絡をとって外で待っててくれるかしら」

「京子先生はどうするんですか?」

「ちょっとストレスが溜まったままだから、このアジトを破壊してから出るわ……」

「……わ……分かりました」


 ここまで元気の無い京子先生は初めて見た……

 側に居てあげたいけど、今だけは1人にしてあげた方が良いかも知れない……


 外に出たら通信機で連絡をしてくれと言われたので、弥生さんと鶴瀬さんに合流した後、通信機で京子先生に連絡をした。

 しばらくすると一ノ条さんを乗せた車が到着した。ブレイブハウンドの部下達と一緒に車から現れた一ノ条さんは、僕がおんぶしていたお父様を引き取ってくれた。


「大変だったな柳町君」

「はい……余命が長くない事が分かっていたとはいえ、こんな形になるとは……」


 一ノ条さんも辛いはずなのに、一ノ条さんは僕を気遣ってくれた。


「お嬢様は?」

「ブルーハワイのアジトを壊してから外に出ると言って、中で暴れてます。一応、お父様を看取る事は出来たのでまだ良かったと思いますけど、当たり所がなくて複雑な心境なんでしょうね……」


 ブルーハワイのアジトであるウィーウィルロック(京子先生が名付けた)の岩山の前で待っていると、恐ろしい地響きと共に徐々に岩山が崩れてきた。


「柳町さん。要さん。通信機を切りましょう」


 京子先生の通信機から泣き叫ぶ声が聞こえると、弥生さんは気を使って通信を切るように(うなが)した。

 僕も鶴瀬さんも通信機を弥生さんに返し、皆で地響きが鳴り止むのを待っていた。

 地響きは徐々に大きくなっていき、みるみる内にウィーウィルロックは崩れていく。

 ものの5分くらいだろうか。

 気付くと、本当にそこがアジトだったのかと思うくらい跡形も無くなり、更地のようになっていた。


 砂埃の中から現れた京子先生は、泣き跡で目を腫らせていた。そして止まらない鼻水を(すす)りながら、まだ目に一杯涙を溜めている。

 僕は肩を落とした京子先生を見ていられなくなり、小走りで京子先生に駆け寄った。

 僕が京子先生の前まで来ると、京子先生は体の力が抜けて僕の肩に顎を乗せるように倒れ込んだ。


「何でおっぱい揉むのよ……」


「えっ!?」


「何でおっぱい揉むのよ!!」


「京子先生……今、この体勢でその発言は誤解を招きます……。ぼ……僕じゃなくて、お父様の事ですよね……」


「何で8回揉むのよ!!」


 振り返らなくても視線が痛いのが伝わってくる……

 弥生さん達は絶対に誤解しているだろう……

 さすがの僕も、この状況に適したつっこみが思い浮かばなかった。

 本当の事を言ってお父様に恥をかかせる訳にもいかないし、僕は一体どうしたら……


 この時一瞬「どうせなら8回揉むのもアリなのか」と、馬鹿な事を考えてしまった……


「柳町さん。ナニナニから離れてください」

「いいのよ弥生。今の私は柳町君しか受け止められないわ」

「京子先生……」

「私……まだ殴り足りないの」

「えっ!?」

「柳町君。歯を食い縛りなさい」

「ちょ……ちょっと!!」


 気付いた時には、僕は既に殴られていた。

 宙を舞う無抵抗な僕の体を、サンドバッグのように凄まじい勢いで殴りまくる。

 そのスピードたるや、先の戦いで見せたお父様やMr.G、そして猿正寺さんのスピードを遥かに凌駕し、京子先生以外の相手が子供に思えるほどだった。


 何で僕が一番酷い目に合うんだ……

 っていうか、最初からそれやって下さい……


 何とか『欲望の氾濫(リーリングアイズ)』を発動させて身を守る事は出来たが、僕は身も心もボロボロだった。


 京子先生は気が済むまで僕を殴ると、何故か爆笑していた。


 どうしたんだ柊 京子……

 頭のネジでも飛んでしまったのか……?


「アッハハハッ!!……ハァハァハァ……あぁ~…………お腹空いたわね」


 この瞬間、何となくいつもの京子先生に戻った気がした。

 どうにもできないやるせない気持ちを、僕を殴る事で少しは発散出来たのだろうか。

 いや……そんな簡単に折り合いがつけられるほど軽い問題ではない事くらい分かっている。

 それでも……少しでも京子先生の力になれれば僕は本望だ。


「京子先生、帰りましょう」

「そうね。柳町君、何茶漬けが食べたい?」

「お茶漬け限定かい!!」

「当たり前でしよ。柳町君のおごりなんだから」

「……じゃあ、鮭茶……」

「却下」

「まだ最後まで言ってませんから!! 食い気味です!!」


 ボケもつっこみもキレが悪かったが、そんな事は気にせずに僕達は一ノ条さんの車に乗せてもらった。

 弥生さんと鶴瀬さんも、迎えに来たテラフェズントの人達の車に乗って帰って行き、後日会う約束を交わした。

 助手席に乗った一ノ条さんは、専属の運転手の横で後部座席に座った僕と京子先生を気に掛けていた。

 しかし車内では無言の時間が流れ、京子先生はずっと窓の外を見ていた。


 今回の事で大きな問題は解決したように思っていたが、お父様の話だとまだまだ大きな事になりそうだ。

 イリーガルの存在や、イリーガルを襲った奴等も存在するという事から、僕達の戦いはまだ終わらないだろう。

 この3組織とも今後も関わっていくと思うが、とりあえずはB級能力者相談所(サテライトキングダム)で、普通の生活を取り戻したい。


 そして僕は、何よりも今は京子先生の側に居てあげたいと思い、帰ったら電気代より先に家賃を払おうと強く思った……

最後まで読んでいただきありがとうございます!

あきらさんです!

遂に処女作の本作品が、約1年3ヶ月をかけて第1章を完結しました!!

今後まだ手直しをするかも知れませんが、とりあえずは第2章に向けて準備を進めて行きます!!


『B級能力者相談所~』以外の作品ももっと書きたいと思っているのですが、出て来るアイデアの量に比べて書くスピードが追いついていないので、何とか頑張って執筆時間を捻出していきたいと思っています!

今後とも『笑える作品作り』を目指して頑張りますので、応援宜しくお願い致します!!

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