第54話 残念……柳町、元の姿に戻る。「良いじゃん戻っても!!」
「なななな……!?」
マモル君の口の中は真っ暗だった。まだ飲み込まれている訳ではなく、僕と播磨は口の中で転がっていた。
揺れている感じからするとマモル君は歩いているようだったが、思っている以上に播磨の方があたふたしていた。
「な……何なんだコイツは!? オイ、ガキ! 説明しろ!!」
「んぐっ……んぐっ……」
猿轡をされていて喋れない事をアピールしたら、播磨が口の輪ゴムだけ外してくれた。その瞬間周りが急に明るくなり、目の前に京子先生の大きな顔が現れた。マモル君が移動して来て、京子先生の前で口を開けたようだ。結構殴られていた京子先生の姿を見て、僕は泣きそうになり大声で叫んだ。
「京子先生!! 柳町です!! 僕は大丈夫ですから、思いっきりやっちゃってください!!」
「!?……や……柳町君!?」
「訳あってミニマムにされてしまいましたが、僕は無事です! もう遠慮しなくて良いんで、コイツらやっつけちゃってください!!」
チラッと横目でMr.Gの姿を見たが、やっぱり僕達の姿は見えていないようだった。
「何してるお前! 引っ込んんでろ!!」
播磨に首根っこを掴まれた僕は、後ろに投げ飛ばされた。すると、マモル君の喉の奥の方から小さいマモル君が現れた。
トコトコとゆっくり歩いて来たリトルマモル君は、播磨の目の前まで来ると播磨の頭を思いっきりチョップした。
それはもう、上から鉄柱でも落ちて来たかのような衝撃に見えた。うつ伏せに倒れたままかろうじて意識を保っていた播磨は、何とか起き上がるとマモル君の口から飛び出して、自分だけ普通のサイズに戻った。
「「播磨!?」」
突然現れた播磨に、丸尾とMr.Gは驚いていた。
リトルマモル君は僕の手足を縛っている輪ゴムを外してくれた。そして京子先生に向かって親指を立ててグーのポーズをすると、それを見た瞬間、京子先生の目の色が変わったのが分かった。
「播磨。あのガキはどうした?」
丸尾の問いに答えようとした瞬間、京子先生は播磨の喉元を掴み、播磨ごとそのまま壁ドンした!
「す……すいやせんダンナ。変なモフモフした生き物が現れて、急に食われてしまいやして……」
「何を訳の分からん事言ってるんだ?」
播磨は、ひょっこりはんのように顔を出し、京子先生の肩越しに丸尾と会話していた。
「コイツの事ですかな?」
Mr.Gは突然マモル君を蹴り上げた!
「フギャ!」
マモル君と口の中に居た僕は、後ろに転がって行った。
「何か違和感があっておかしいと思っていたのですが、私達には見えない何かがそこに居るみたいですね。蹴りの感触だけはありましたから……」
「ほ……本当だ! さっきまで見えていたのに、俺にも見えなくなりやした!」
僕の予想だと、マモル君は自分の姿を消せて、尚且つ自分が見せたいと思った相手にだけ姿を見せる事が出来るんじゃないだろうか!?
「そういう事なのね。マモル君、凄いじゃない。姿を消せるなんて、ペットショップ覗き放題ね」
「いや! どうせなら女風呂とかの方が良いでしょ!! それ僕だけか!!」
気付くと京子先生の後ろには丸尾が立っていた。京子先生の首筋にドスを構え、今にも刺してしまいそうだった。
「動くな!」
それを聞いた京子先生は、縦横無尽にダンスを踊っていた。ドスを振り回す丸尾を馬鹿にするように、首根っこを掴んだ播磨をダンスパートナーに見立てて華麗に踊る。
どんなに贔屓目に見ても、2人はスピードが違い過ぎた。
「『レジ前行列』!」
丸尾は時折、京子先生の後ろを取るように瞬間移動する異能力を発動していた。おそらく以前に治五郎お父様が言っていた能力だろう。
しかし、そんな瞬間移動術も京子先生にとっては遅いという次元すら超えている。最早、ダンスにしか集中していないほど、丸尾の攻撃は眼中になかった。
それにしてもあれだけ殴られていたのに、京子先生は大丈夫なんだろうか?
突然Mr.Gが、丸尾の影から京子先生を攻撃した! しかしこの攻撃すら、京子先生は余裕で避ける。
「さっき殴っていた時に何か手応えがないと思っていましたが、あなた殴られるポイントをずらしていましたね?」
「当たり前でしょ。何で私が黙って殴られなきゃいけないのよ。そんな鈍いパンチなんて、私の技術だったら効かない所に殴らせる事ぐらい造作もないわ」
そうか! 避けようと思えば避けられるくらいのスピードがあるんだから、ダメージのない所にわざと当てさせて、やられた演技をしていただけなんですね!!
「マーネルさん! 出番ですよ!!」
Mr.Gが声を発すると、階段の方から寝起きの外人が頭を掻きながらやって来た。
京子先生は丸尾とMr.Gから距離をとり、播磨とのダンスが終わると最後のキメポーズで背骨を折り、播磨を再起不能にさせた。そしてその瞬間、播磨の異能力が解けたせいか、マモル君の口の中で僕の体が元のサイズに戻っていくのが分かった。
「マモル君! 僕を外に出して!」
僕の言葉に反応したマモル君は、すぐに僕を吐き出した。
「ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ!」
「そんなに吐かなくでも良いでしょ!! もう外に出てるんだから!! そんなに不味かったですか、僕!? 」
「ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッペッペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ! ペッ!」
「マーネルさんも忠実に真似しないで!!」
とっさにつっこんでしまったが、マーネルさんと呼ばれていた男も、何故かマモル君の真似をしていた。
「私の名前はマーネル・サンダース。私に真似出来ないものはない。どんな些細な事でも真似してみせよう」
何処かで聞いたような名前だが、そんな事はどうでも良い。
っていうか、ど……どんな事でも真似してしまうだと!?
「柳町君。元に戻ってしまったのね……」
「何で残念そうなんですか!! 元に戻って良いじゃないですか!!」
「良い事と悪い事は表裏一体。元に戻った事が決して良い事だとは限らないわ。今の柳町君のサイズでは、私のバッグに飾れない!!」
「飾らなくて良い!! そしてここぞとばかりにボケなくて良い!!」
「私がボケずに誰がボケるのよ!! 私は柳町君が誘拐されて悟ったのよ」
「何をですか!?」
「私は、つっこみ無しでは生きていけない体なの。柳町君より良いつっこみが現れるまでは、あなたを手放す訳にはいかないのよ!!」
「素直に喜びにくい!! 乗り替える前提で僕をキープしないで!! 一応、ついて行きますけど!! って言うか、マーネルさんほったらかし過ぎ!!」
僕と京子先生が振り向くと、マーネルさんは困惑していた。
「この世に私の真似出来ないものなどないと思っていたのに、この2人のやりとり…………これは真似出来ないかも知れない……」
「マーネルさん。あなたはそんな事を真似しなくて良いんですよ。あなたが真似するのは『あの女の戦闘力』ですよ!」
「分かりました、Mr.G!」
するとマーネルさんは、持っていたスマホで京子先生の写メを撮った。そしてスマホを弄りながら自分の異能力を解説していた。
「私の異能力『似てないモノマネ』は、他人の戦闘力をコピーする事が出来る!」
「戦闘力をコピー!?」
ど……どういう事だ!?
「私はこのスマホに能力を発現する事が出来た事で、写メした人間の能力をダウンロードして、それをコピペして自分のプロフィールに上書きして使う事が出来るんだ!」
「戦闘力をダウンロードして上書きする!?」
「そうだ。昔はスマホが無かったからコピー機でしかコピー出来ずに全然使い物にならない異能力だったが、今はこんな便利な物があるからな。ケータイが進化してくれたおかげで、俺の異能力は爆発的に強くなったんだ!」
ヤバい……京子先生と同じ強さになれるなんて……
もし互角だとしたら、京子先生が勝てるという保証が無い……
「ふっ……相手が強ければ強いほど、この俺も強くなる。もうすぐダウンロードが終わるから…………!?…………な…………何だと!?」
「どうしたんですかマーネルさん?」
自分のスマホを見ながら驚くマーネルさんを、心配そうにMr.Gが見ていた。
「な……何だこの女の戦闘力は……!? ダウンロード終了まで、あと8時間だと!?」
「「8時間!?」」
周りにいた全員が驚いていた。
「Gさんやせせらぎ 面太郎をダウンロードする時ですら2〜3分だったのに、8時間だなんて馬鹿げてる!! 故障でもしたか!?」
「多分故障じゃないと思うわ」
「故障じゃないだと?」
「故障してるのは私だのも」
「確かに!!」
僕の言葉に反応した京子先生の目は、それはもう凄まじいものだった。瞬間的に同意してしまったが、良く考えれば否定つっこみをする場面だった。しかし、そう思った時には時既に遅く、僕は京子先生に2本指で鼻フックされたまま引き摺回されていた。
そのまま投げ捨てられた僕は、かろうじてマモル君がキャッチしてくれた。
「しょうがない。とりあえずは、せせらぎの能力を使って戦ってやろう」
「私も参戦しましょう」
「俺もだ」
「私は1人で充分だわ」
マーネルさん、Mr.G、丸尾の3人対京子先生1人。僕とマモル君は絶対足手まといになると思い、マモル君の能力で再び姿を消した。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
あきらさんです!
第1章もそろそろ大詰めになってきました!
ここまで読んでいただき本当に感謝しています!
既に少しずつ2章のプロット作りに入っていますので、この先の展開もお楽しみに!
今後とも宜しくお願いします!!




