第53話 来た来た来た来た、京子来た~!!
先ほどせせらぎに見せた弥生と尊の2人攻撃も凄かったが、京子の攻撃はそれ以上に凄まじかった。
スマブラでしか見ないようなコンボを連発させている京子は、もはや人の動きとは思えないほどだった。
京子に殴られて空中で人形のように舞っているせせらぎには既に意識がなく、腐ったボロ雑巾のようになっていた。
「ナニナニ! そいつは治癒出来る異能力を持っているの! 油断しないでください!!」
「チユって何?」
「ち……治癒って言うのは、傷を回復させたりする事です!」
ここに来て学の無さをさらけ出した京子に呆れる反面、弥生は京子のおかげでいつの間にか冷静さを取り戻し、普段の弥生に戻っていた。
京子は、気を失っているせせらぎの首根っこを掴みながら弥生の近くに寄って来た。
せせらぎの傷が回復しそうになると、顔がへこむほどのワンパンを入れてすぐに気絶させた。
そしてまた復活しそうになるとワンパンを叩き込む。
今始めたばかりの動きなのに、既に職人のような手際の良さを見せる京子は、これをやる為に生まれてきたのではないかと思わせるほどだった。
「そこで倒れているお猿は、コイツにやられたの?」
「そうよ」
「弥生も結構ダメージありそうじゃない。その様子じゃ、よっぽどこいつに苦戦したようね」
会話の途中でも、京子は定期的にせせらぎを殴り続けていた。
「せせらぎの異能力は、手を触れずに物を操るサイコキネシスのような技で、私達はほとんど触れる事が出来なかった。そして驚く事にそいつは異能力を2つ持っていて、さっき言った治癒出来る能力も兼ね備えているのよ」
「治癒能力!?」
「さっき説明したんだから、驚く所はそこじゃないでしょ!! 驚くなら2つっていう所に驚きなさいよ!!」
「やっぱり弱いわね、弥生」
「私が弱い訳じゃない!ナニナニの強さが異常なのよ!!」
「喧嘩の話じゃないわよ。『つっこみ』の事よ」
「…………」
「やっぱり何だかんだ言って、私には柳町君じゃないと駄目なのかしら……」
何が駄目なんだか全く分からないといった表情の弥生は、尊に駆け寄って介抱していたが、尊が目を覚ます様子はなかった。
「弥生。あんたコイツを殴り続けてなさいよ」
京子はそう言うと、せせらぎを弥生に渡した。
せせらぎを受け取った弥生は、いきなりせせらぎの両腕を折り、髪の毛を鷲掴みにしながら顔面を殴り続けていた。
「意外と弥生もやるわね」
「コイツは最高キネシスという異能力を使う時、必ずターゲットに向かって手をかざしていたの。だから腕が折れている内は、まともに異能力が使えないはずよ。治癒能力は気絶していてもオートで回復しているみたいだけど、それもマギアオーラが無くなるまでだし、とりあえず殴り続けていれば、今の所はコイツを拘束したも同然です」
「あのジジイと変態助手は何処にいるの?」
「柳町さんは分かりませんが、Mr.Gは上に居ると思います」
弥生は後方にある、せせらぎが現れた方の階段を指差した。
「弥生。あんたの目的は達成されたでしょ。そいつを煮るなり茹でるなり好きにしなさいよ」
煮るのも茹でるのも似たような調理方法だと思い、せめて焼くという選択肢を提供して欲しかったと思う弥生であったが、ここはいちいちつっこまなかった。
「上のジジイは私が片付けておくから、お猿を連れて目無しずんだでも探して来なさい」
「わ……分かったわ」
そう言うと弥生は、監視カメラを意識しながらカメラに絵が映らないように描き出した。
描き終わった絵がスケッチブックから飛び出して来ると、そのモフモフとした物体は手足が生えて目を開けた。大きさはバスケットボールくらいで、全身が長めの黒い毛で覆われている。ペンギンのような歩き方でヒョコヒョコと徘徊していたが、何処か京子に懐いているようだった。
「ナニナニ。その子はマモル君。頼りなさそうに見えるけど、戦いには凄く役立つ私のお気に入りのパートナーよ。ナニナニが困る事があったら、マモル君にサポートしてもらうと良いわ。一緒に連れて行ってあげてちょうだい」
弥生は何故か小声で京子に話していた。
「……………………分かったわ。ありがとう」
絶対に足手纏いになりそうな気がしていた京子だったが、今日ばっかりは弥生の気持ちを考慮して大人な対応をした。
弥生はスケッチブックから狼のような生き物を出し、その背中に尊を乗せた。そしてせせらぎの顔面を殴り続けながら、鶴瀬を探す為に下への階段へ向かって行った。
京子はマモル君と手を繋ぎながら、一緒に上への階段を上って行った。
◇ ◇ ◇
す……凄い……さすが京子先生だ!
弥生さんと尊さん2人がかりでも苦戦していた、あのせせらぎ 面太郎をあっさり倒してしまうとは!
監視モニターで観る限り、音声は聞こえなかったけど一応皆が無事のようで良かった。後は京子先生がコイツ達を倒してくれれば問題ないんだけど……
「オイ! 僕の体を元に戻して!」
「うるさいガキだなぁ。おい、播磨! そいつの口をふさいでおけ!」
「わかりやした」
「ちょ……ちょ……」
僕はその辺にあった輪ゴムで手足を縛られ、口も猿轡をされてしまった。
「ムグッ……ムグッ……」
「これで少しは大人しくなったですよ、ダンナ」
「播磨。お前も何かあった時の為に隠れておけ。あの京子とかいう女は尋常じゃない。せせらぎがあんな簡単にやられるなんて思っていなかったからな」
「わかりやした」
「Gさんの強さは信じているが、もしかしたら危ないかも知れない」
「そうですね。私も負ける気はありませんが、念のためにマーネルさんも起こしましょう」
マーネルさん!?
丸尾 マサカズやこの播磨とかいう奴の他にも、まだ幹部クラスの異能力者がいるって事か!?
「ジャンジャジャーーン!!」
来た~!! 待っていました京子先生!!
でも、そんな派手に登場しなくていいですよ~!!
こいつらヤバい奴らですから、そんな油断しないでほしいです!!
「やっと会えたわね、ジジイ」
「そうですね。あなた達のおかげでこっちの予定はかなり狂ってしまいましたが、ここであなたを始末してあげます。とりあえずあなたさえ殺れば、そちら側で怖い相手は居ないですからね」
「確かに、私がメインデッシュだとしたらそれ以外の奴らは調味料みたいなもんだから、言ってる事は正しいと思うわ。ただ1つだけ間違っている事がある」
「何ですかな?」
「私はメインデッシュじゃないし、皆は調味料でもない。それにマモル君は調味料だし、柳町君はメインデッシュよ」
何言ってるか全然分からない!!
全然1つじゃないし!! マモル君って誰!?
ほとんど自分で勝手に言ってる事だし!!
京子先生、違う意味で最初からエンジン全快なんですけど!!
「どうでも良いけど、私の登場シーンをちゃんとやりたいから、もう一度『何だ貴様は!?』って言いなさい」
京子先生……敵にいきなり何言ってるんですか……
「そこの半長髪! 早く言いなさいよ!」
何故か丸尾が指名されて、戸惑っていた。
「ほら! 早く!」
「な……何だ貴様は……」
「その言葉を待っていたわ! ある時は、浪花のブラックダイヤモンド。そしてある時は、白いゴリラの許嫁。そしてまたある時は、イタズラされた選挙ポスター。そしてその正体は『B級能力者相談所』の所長、柊 京子とは私の事よ!! さぁ!! 家賃を取り立てに来たわ!! だから電気代を払う前に家賃を払いなさいって言ったでしょ!!」
どんな決め台詞~!? 半分以上、何言ってるか分からないんですけど~!!
「さぁ! 柳町君を返却しなさい!! あの変態野郎はどこにいるのよ!?」
返却って、僕、レンタルじゃないんで!!
変態もここで公表しなくて良いです!!
っていうか変態じゃないし!!
多分!!
「柳町とかいうガキは何処にいるか分かりませんねぇ。既に生きているかどうか分かりませんが……」
京子先生! 騙されちゃ駄目です! 僕はまだここに居ますよ!!
「実は、柳町君のお尻にはGPSが仕込まれているのよ。それで生存確認も出来てるし、この近くに居る事も分かっているのよ! さっさとあのクソガキを出しなさい!!」
た……助けに来てるんですよね……!?
何でクソガキ呼ばわりされてるんでしょうか……!?
「あなたに本気を出されると厄介なので、柳町とかいうガキは人質にさせてもらいます。あなたは黙って私に殴られていてください」
「…………」
きょ……京子先生……
ヤバい……
僕が足枷になっちゃってる……
僕が変な所で捕まったせいで、京子先生が思いっきり戦えないなんて……
僕は京子先生がMr.Gに殴られるのを黙って見ているしかなかった。
辛い…………
いつも凛として気高かったあの京子先生が、僕のせいで手を出せないでいるなんて……
僕は自分の未熟さを呪った。
そして何とか打開策はないかと、無い知恵を絞って考えていた。するとそこに真っ黒なモフモフした毛を持つ妙な生き物が、僕と播磨に歩み寄ってきた。
な……何だコイツ?
毛で覆われていてよく分からなかったが、その生き物は鼻をクンクンさせているように見えた。
身を隠す為なのか、僕の身長はいつの間にか小さくされていて、既に5cmほどになっていた。
そして播磨自身も同じくらいになっている。
「何だこいつは!?」
播磨に対して「普通のつっこみだなぁ」と思いつつ、僕達はその生き物と対面していた。
京子先生をいたぶる事に夢中になっているMr.Gと丸尾を見てみると、何故かその生き物には気付いていないようだった。
どういう事だろう?
Mr.Gも丸尾も、やっぱりこの生き物が見えていない。
でも播磨と僕には見えている……?
その生き物が何だか良く分からなかったが、胸の所を良く見ると小さく名札で『マモル君』と書かれていた。
やっぱりコイツがマモル君だ!!
マモル君とにらめっこ状態でその場にいると、マモル君は突然口を開き、長い舌で僕達をペロリと食べてしまった!!
いつも読んでいただきありがとうございます!
あきらさんです!
47話の方に、播磨の挿し絵も追加しましたので良かったら見てください。
これからも宜しくお願いします!!




