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第51話 尊、リーダーぶる!!

 ◇ ◇ ◇


 天影 弥生と猿正寺 尊が階段を上りきると、2人は広いフロアーに出た。

 今までの階のようなオフィス系のフロアーではなく、どちらかというと倉庫に近い。物が少ない事もあって比較的見晴らしは良いが、あまり手入れはされていないようだった。一部には切れかけの蛍光灯があり、床には何かを引き()ったような痕も残っている。2人は不気味なこのフロアーを、非常に雰囲気の悪い場所だと感じていた。


 弥生と尊が辺りを警戒しながら歩いて行くと、奥に人影が見えた。明らかに異様なオーラを放っているそいつは、弥生にとって忘れる事のできない顔だった。


挿絵(By みてみん)

「せせらぎ 面太郎……」


 怒りに震えている弥生の肩に手を置き、落ち着かせるように尊が(なだ)める。


「名前を覚えてもらっていて光栄だな。まぁ、お前達はすぐ死ぬんだが」


 どこか虚ろな目にも見えるせせらぎの表情は、やはり正常な状態には見えなかった。以前の治五郎や一ノ条の話からすると、せせらぎは洗脳されているのではないかと疑っていたが、せせらぎと改めて対面した事で2人の疑心が確信に変わった。


「天影。あれはどう見てもまともな状態じゃないな」

「あいつがどんな状態であれ、(ばば)様の(かたき)である事は変わりません。手を抜く気は一切ありませんよ」

「しかし、もし洗脳されている状態だとしたら、せせらぎ自身も被害者って事になるんじゃないか?」

「それでも私は、せせらぎ 面太郎を許す事は出来ない」


「何をごちゃごちゃ言ってるんだ? さっさと()ろうぜ」


 非道なMr.Gとは違い、洗脳されているであろうせせらぎを目の前にして少しだけ同情の気持ちを感じている尊は複雑な気持ちでいた。

 本来ならどの組織も欲しがるほど、強さも性格も優等生な逸材だったはずだが、Mr.Gの手に掛かってしまった事がせせらぎにとって最大の災難だったのかも知れない。


 弥生は作り笑いでニヤリと笑い、尊に微笑みかけて油断させた後、せせらぎに向かって突進して行った。


「天影!!」


 尊の声には全く耳を貸さず、弥生は一心不乱に走り出す。

 マギアオーラを開放し、怒りの形相で殴りかかろうとする弥生は、走り幅跳びのようにせせらぎの数メートル手前からジャンプした。自分の爪で血が(したた)りそうなほど強く握った(こぶし)を振り上げると、弥生は空中で投げ飛ばされた!

 せせらぎは弥生に手を触れていないので『投げ飛ばされた』というよりは『吹き飛ばされた』という方が近いのかも知れない。

 せせらぎは、手を触れずに弥生をどけるようなジェスチャーをしただけなのに、弥生はもの凄い突風に(あお)られたように壁に叩きつけられる。

 床に着地した瞬間、弥生の表情は苦悶に歪んだが、心は全く折れていなかった。そのまま間を空けずに攻撃に向かった弥生だったが、またもや壁に叩きつけられる。

 しかも今度は1回転させられて、上下逆さになっていた。


「何だアイツの能力は!?」


 後ろで見ていた尊は、せせらぎの能力に動揺していた。


「どうせ死ぬが大サービスだ。俺の能力を教えてやろう」


 せせらぎが自分の異能力を説明しようとしている間も、弥生は何度もせせらぎに向かって行った。


「俺の能力は『最高キネシス(マニュプレイトオール)』。まぁ簡単に言うと、手を触れずに物を操る事が出来るサイコキネシスのようなもんだ」

「サイコキネシス……だと!?」


 困惑する尊だったが、弥生は全く聞いていなかった。とにかくせせらぎに1発入れないと気が済まないといった想いが強く、何度壁に叩きつけられても向かって行く事しかしなかった。


「芸が無いな、天影 弥生」


 せせらぎの声に反応し、弥生の目は更に怒りを増していた。


「そんなに殴りたいなら1発殴らせてやろうか?」


 話の途中だったが、弥生は構わず殴りかかる。

 両腕を大の字に広げたせせらぎに弥生のパンチが届こうとした瞬間、今度は弥生に手をかざしただけで磁石が反発するように弥生の体が投げ飛ばされた。

 後ろに転がって行った弥生が起き上がろうとした瞬間、後ろから尊が止める。


「やっぱり止~めた。お前達に殴らせても意味ないしな」


 歯ぎしりをした弥生の両肩を掴み、尊は弥生を再び(なだ)める。


「天影。少し冷静になれ。このまま向かって行ってもあいつにパンチは当たらない。もっと別の方法を考えろ」


 尊の声を耳にして、弥生は少しだけ冷静になった。


「俺が少しだけ時間を稼いでやる。鶴瀬の想いを無駄にすんな。俺もお前も無駄死にしてたら笑えないぞ」


 耳元で囁く尊の声で自分を取り戻したように見えた弥生だったが、実は尊の()()が気になり怒りから覚めたようだった。

 心の中では「口の臭さで死ぬわ!」とつっこみたかった弥生だったが、ここはさすがに空気を読んで黙って(うなず)いた。

 この時初めて「自分は大人になったな」と感じたそうだ。(後日談)


 尊は弥生が苦笑いで頷いた事を確認し、せせらぎに向かって行く。

 せせらぎまでの距離は10m弱。

 尊はマギアオーラを(まと)ったまま床に手をつき、異能力を発動させた。


見猿、聞か猿、(サイレント)死人に口無し(シアター)!!」


 その瞬間、せせらぎと尊と弥生の周辺がガラス張りのような異空間に隔離され、突然無音の空間になった。

 せせらぎと弥生が尊の異能力に驚いている間に、尊は正面からせせらぎに向かって行き、顔面にパンチをお見舞いした。殴り飛ばされたせせらぎは辺りをキョロキョロと見回していたが、その死角から尊が続けて攻撃を仕掛ける。

 後ろから左のボディーブロー。

 振り返ったせせらぎの顔面に右のフック。

 片膝をついた所にトドメのアッパー。

 背中を床に付けて後方に倒れ込んだせせらぎは、口から血を流していた。

 あれだけ攻撃しても手が届かなかったせせらぎに、連続でダメージを与えている尊を見て弥生は驚いていた。

 そしてそれ以上に驚いていたのは、この不思議な空間に対してだった。

 せせらぎが振りかざした手に警戒した尊は一度距離を取り、弥生の前に戻って来た。


「これは一体……!?」


 弥生は尊の後ろでバレないように鼻をつまみながら、背中越しに質問をする。


「俺の異能力『見猿、聞か猿、(サイレント)死人に口無し(シアター)』は、一定の空間内のターゲットから視覚と聴覚、そして言葉を発する事を奪う。今のせせらぎは何も見えていないし、何も聞こえない。そして声を出す事すら出来ない無音の中に孤立している状態だ」

「無音状態で孤立……!?」

「しかし俺の異能力は長くは()たない。大体5分が限界だ。まぁ無理をすれば10分くらいは()つかも知れないが、その後の副作用が命取りになるから無理はさせないでくれ」

「副作用?」

「今は説明している時間がもったいないから俺は行く! 何とか5分の内にせせらぎを倒す方法を考えてくれ!」


 弥生にそう言い残すと、尊はカッコつけて再びせせらぎに向かって行った。

いつも読んでいただきありがとうございます!

あきらさんです!

第1章もそろそろ佳境に入って来ました!

出来るだけ早めに投稿するように頑張りますので、楽しみに待っていてください!!

今後とも宜しくお願いします!!

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