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第5話 ブルーハワイVS京子!!

ブルーハワイのボスが居るアジトに向かう為、彼らの車に乗り込んだ京子と柳町。

果たして相談者の黒川 桃子を助ける事が出来るのか!?

 どれくらいの時間、車に乗っていたか分からないが、辺りはすっかり暗くなり、何やら怪しげな所に連れて来られていた。


「お腹が空いてきたわね」


 この非常時だというのに、本当に京子先生は肝が据わっている。


「新右衛門君。お好み焼きとか持ってないの?」

「持ってません」

「即答したけど、ポケットの中とか良く探したの?」


 探さなくても分かるが、僕は生まれてから一度もポケットの中にお好み焼きを入れた事は無い。

 多分、全人類の99%の人達が、一度もポケットにお好み焼きを入れずに死ぬだろう。


「パンツの中まで良く探しましたが、お好み焼きらしき物は見当たりませんでした!」

「あらそう。柳町君のパンツの中には、青海苔くらい入ってそうだけど、残念ね」


 どういう意味だろう?


「着いたぞ」


 運転していた太っちょ赤スーツは、赤いのれんのたこ焼き屋の前で車を止めた。


「食べたかったのは、お好み焼きなんだけど」

「降りろ」


 太っちょ赤スーツは可愛い声で、僕達を威圧した。


 僕達は車を降り、たこ焼き屋の裏に回った。

 そこは何処にでもあるような裏庭で特に変わった物は何も無く、何故ここに連れて来られたのか分からないでいた。


「ボスはこの中だ」


 僕は目を疑った。

 太っちょ赤スーツが指差したのは、裏庭の片隅にあった犬小屋だった。


「なるほどね。どうりで目立たない訳ね」

「どういう事ですか?」

「この犬小屋の中が我々のアジトだ」

「これも誰かの能力って訳ね。確かにあなた達は、身を隠す能力に関しては長けているようね」

「いいから黙って中に入れ。ボスがお待ちだ」

「あなたが先に入りなさいよ。いくら能力とはいえ、あなたみたいな図体でも入れるのか疑問だわ」

「いいだろう」


 そう言うと、太っちょ赤スーツは四つん這いになり、ハイハイをするような格好で赤い犬小屋に入って行った。

 それを見ていた京子先生は、太っちょ赤スーツの体が犬小屋に全部入りきる前にお尻を思いっきり蹴り上げて押し込んだ。


「ぐぁ!!」


 何となくさっきから、京子先生が太っちょ赤スーツの態度にイライラしているのは分かったが、やっぱり怒らせると怖い……


「あの関取はさっきから態度がデカイのよね。自分が置かれている立場が分かっていないのかしら。デカイのは図体だけにして欲しいわ」


 そう言って周りの赤スーツ達に睨みをきかせると、人質にとったリーダー赤スーツを先頭に、京子先生、僕、の順で犬小屋に入って行った。


「恥ずかしいからあまり私のお尻を見ないでね、新右衛門君」

「はい。京子先生のお尻……いや、後ろは僕が守ります!」

「ありがとう」


 この状況。ありがとうと言いたいのは僕の方だった。

 正直、僕は京子先生の()()()()見る気がなかった。


 幸せな時間はすぐに過ぎ去り、犬小屋の中を抜けると、そこは外界とは全く違う空間があり6階くらいの真っ赤な建物が目の前にあった。


「ボスは最上階に居る」


 建物の中に入り、お尻を抑えた太っちょ赤スーツは、僕達をエレベーターまで誘導した。

 太っちょ赤スーツが、先にエレベーターに乗り、後から僕達を乗せようとしていたが、京子先生は一緒に乗らずに地下へのボタンを押した。

 太っちょ赤スーツは1人で地下に行ってしまい、僕達3人は別のエレベーターで最上階に向かった。


「坊やのボスは、やっぱり怒らせると怖いな」

「まだ可愛いもんです。本気だったらどうなる事やら」


 僕とリーダー赤スーツは小声で会話していたが、そうこうしている内に最上階に着いた。

 エレベーターの扉が開くと、そこには長い廊下がレッドカーペットのように広がっていた。

 廊下には、監視カメラやセキュリティー用の赤外線センサーなどがたくさんあり、いかにもVIP用というような造りのフロアーになっている。


「この状況だから、この辺りのセキュリティー関係は全て解除してあるだろう」


 僕達3人は、4~50mあろうかという長い廊下を警戒しながら歩いて行った。


「1番奥がボスの部屋だ」


 ボスの部屋の前には、ガタイの良い黒人のボディーガードが2人、扉を挟んで立っていた。


「ナンメイサマデスカ?」


 僕は「たこ焼き屋の外国人店員か!」と心の中でつっこんだ。


「禁煙席の『美人3姉妹』で予約を入れているはずだけど」


 ものおおじしない京子先生は、当たり前のように答えた。


「京子先生! 美人ではあるけれど、僕達は3姉妹ではありません!」

「あら、予約を取る時にジョークで使っただけよ。そんなに本気でつっこまないで」

「ソンナヨヤクハ、ウケテイマセン」

「あら、本当に冗談が通じないのね。この状況を見て話に乗っかって来ないなんて、良い根性してるわね」


 京子先生は人質がいる事をアピールした。


「スミマセン。タシカニ、ヨヤクヲイタダイテオリマシタ。コチラヘドウゾ」


 京子先生の眼力は、時に本当に恐ろしいと感じる。何故か屈強なボディーガードすら寄せ付けない、不思議なオーラがあるのだ。


 扉を開けるとそこには、50代くらいの白髪混じりのお洒落な男性が、向かいにある社長席のような所に座っていた。

 横には参謀らしき付き人が1人立っている。歳は30代前半といった所だろうか。


挿絵(By みてみん)


 社長席と僕達の間に、接客用に3人掛けのソファーが2つほど長テーブルを挟んで置いてあった。

 テーブルにはトマトジュースが3つ置いてあり、話をする準備は整っていた。

 ボスであろうと思われるお洒落なじいさんは、リンゴをかじりながら接客用のソファーに移動してきた。


「あなた達の事は赤スーツから聞いています」


「あんたも赤スーツって呼んでんのかい!!」と僕は心の中でつっこんだ。


「私はブルーハワイのボス、グリーングアムと申します」


 またもや「どないやね!!」と心の中でつっこんだ。


「本気なのか冗談なのか分からないけど、楽しいじいさんね」

「ハッハッハッ。冗談です。本当の名前はG・マルコーニ。通称Mr.Gと呼ばれています」

「聞いた事あるような無いような名前ね」

「まぁ、私の名前の事はどうでも良いんです」

「確かにどうでも良いわ」


 その瞬間、お付きの男が京子先生を威嚇した!

 Gさんはその男を制し、落ち着けと言わんばかりに軽くなだめる。


「失礼した。改めて話を進めるが、あの黒川というお嬢ちゃんを取り戻す為に、ここに来たという事でよろしいかな?」

「そうよ。あなた達の抗争に、一般人を巻き込まないで欲しいの」

「確かに。ルールに反しているのは分かっているんだが、こっちも組の存続に関わる問題なんでね。

 はい、そうですと言って、簡単に引き下がる訳にもいかないんですよ」

「あなた、ここまでの言動を聞いていると、無駄に人を殺す事はしなさそうね」

「それは褒められているのかな?」

「いくら人質がこちらに居るとはいえ、非道な奴だったらここまでたどり着けないし、あなたに会う前に始末されてもおかしくないと思うの」


 京子先生が珍しくまともな事を言っている……


「あなたに免じて、この際だから本当の事を言うけど、黒川さんの本当の能力は、周りに居る人達に災いをもたらす事じゃないの」

「!? では一体どんな……?」

「黒川さんはまだ誰にも喋った事がないって言っていたけど、本当は()()()()()()()()()()()()だって言ってたわ」

「それは本当なのかい?」

「実際、この目で見た訳じゃないけれど、私の事務所に相談に来た時はそう言っていたわ。そして、あなた達には付きまとわれない為に嘘をついたとも言っていたわ」

「黒川さんが今、何処に居るか分からないけど、本人に確めてみて下さい」

「分かった。すぐに確認させよう」


 Gさんは、すぐに付き人に連絡させた。


「黒川さんの能力が、必要の無いものだって分かったら、すぐに解放してくれるんですか?」

「勿論だとも」


 良かった。

 僕は京子先生と顔を見合わせ、安堵した。

 付き人にすぐ連絡が入り、モニター越しに黒川さんの姿が、映し出された。


「Mr.G様。彼女達の言っていた事は本当でした。このお嬢さんは解放しても良いと思われます」

「そうか、分かった。もう自由にしてやりなさい」


 本当に良かった。

 胸を撫で下ろした僕は、モニター越しの黒川さんが解放されるのを確認し、席を立とうとした。


「じゃ、これで解決しましたね。京子先生、ここに長居しても悪いので、そろそろ帰りましょう」

「ちょっとお待ち下さい!」


 Gさんの声で呼び止められた。

 何か嫌な予感がする……

 京子先生は、呼び止められる事が分かっていたような素振りだった。


「こちらの調べでは、あなた方お2人も、異能力者だと判明していますが、どんな能力か教えていただけますか?」


 嫌な予感は的中した。


「答える気は無いわ!」

「僕もです!」


 Gさんの顔が急激に曇り、うなだれたようなポーズをとって一言発した。


「間宮~っ!!」


 その瞬間、付き人が体操の床競技でやるリ・ジョンソンのような難易度の動きで飛んできて、僕と京子先生の間に座っていた、人質であるリーダー赤スーツの首を後ろから刃物のような物で突き刺し、一瞬で殺した!!

 正直、あまりにも一瞬の出来事で何が起こったのか理解するのに、時間がかかった。

 目の前に居たGさんの顔は明らかに豹変し苛立ちを隠せずにいたが、僕はその殺意の前に体が震えて全く動く事が出来なかった……


「さぁ帰りましょ、柳町君! あぁそう! 血でコスチュームが汚れちゃったから、後でクリーニング代を請求させてもらうわね」


 豹変した後のGさんは殺意のオーラが凄まじく、いつでも殺せるといったような悪意のある威嚇が尋常じゃなかった。

 誰が見ても間違いなくこの人がボスだと認識させられるほど、圧倒的な存在感だった。


「どこまでも強気な姉ちゃんやなぁ。このまま黙って帰すと思っとんのかい?」

「私は喋りながら帰るわよ」


 このGさんも凄いが、Gさん相手に全く臆さない京子先生の方が、もっと凄いと思った。


「悪いが、あんた達2人をこのまま帰す気は無い。能力云々の前に、この状況を見られて、生きたままここから出られると思いなさんなよ」

「笑わせないでよ! この状況を見せたのはあんた達でょ!? バカな事言う暇があったら、もっと笑わせなさいよ!」


 もう正直、何がなんだか分からなくなってきた。


「間宮~っ!!」


 大声を出して間宮と叫んだのは京子先生だった!!


 Gさんそっくりの声で呼ばれた間宮という付き人が、戸惑い怯んでいたその一瞬を、京子先生は見逃さなかった!!


 京子先生は信じられないスピードで、間宮の顔面にパンチとパンツを叩き込んだ!!

 誰のパンツか分からなかったが、あっけにとられている間に、その一撃で間宮は気絶して伸びていた!!

 リーダー赤スーツを殺した時の動きから想像するに、間宮と呼ばれていた男はかなりの手練れで、明らかにプロの殺し屋だった。

 ボスの側近を任されるくらいだから、その中でも有数の腕前だったと思う。


 その殺し屋を一撃で……

 京子先生のポテンシャルって一体……


「こりゃ驚いた! 間宮がこんなにも簡単にやられるなんて、想像もしとらんかった!」

「私も、あんた達がこんなにも弱いなんて想像もしてなかったわ」

「達者なのは口だけじゃなかったの〜。この強さ……あんた一体何者じゃ?」

「ただ者よ」

「どうみてもただ者じゃないだろ。一撃で倒したあの動き。あれは、あんたの能力と何か関係があるんじゃないのか?」

「ある訳ないでしょ! ただのパンツよ!」


 どちらかというとパンチだったと思うけど、今の僕につっこむ勇気はなかった。


「ただのパンツといっても、2800円したわ」


 つっこみまで頭が回らない……

 状況が緊迫し過ぎて、僕は京子先生について行く事が出来なかった。


「ここでワシがあんたらにトドメを刺しても良いんだが、今はまだよしておこう」

「このじじいは、何を寝惚けた事言ってんのかしら。見逃してあげているのは、こっちの方よ! 組織を潰されなかっただけ感謝しなさい!」

「分かった。分かった。ワシが悪かった。このままあんたに暴れられたら、組織にとっても大打撃だ。この件からは一旦手を引こう」

「一旦じゃないわ。今後一切、私達の前に現れないでちょうだい! ちょっとでも私達があなた達の事を見かけたら、今度はどんな手段を使ってでも、あんた達を潰しに来るから覚悟しなさい!」


 そう言い残すと僕と京子先生は、その部屋を後にし、誰にも邪魔されないまま何とか無事に七王子町まで帰って来た。


「新右衛門君、大丈夫だった? ビビって、おしっこでもチビっちゃったんじゃない?」

「だ……大丈夫です」

「替えのパンツは、さっき使っちゃったから勘弁してね」


 その後はたいした会話が続かず、無言のまま僕と京子先生は事務所に向かって歩いていた。

 さっきまで目の前で起こっていた一連の事を思い出していたが、僕は本当の京子先生を何も知らないのかも知れない……

 目の前で人が死に、命のやり取りをしていた現実に全く動じなかった京子先生。彼女には、ああいう修羅場を何度も潜ってきたであろうという貫禄があった。

 僕と出会う前の京子先生は、一体どんな事をしていたんだろう……


 興味と不安、そして今まで京子先生が背負ってきたものを想像していたら、僕は自分でも無意識のうちに京子先生を後ろから抱きしめていた。


「あら、こんな路上でセクハラなんて大胆ね」


 こんな華奢な体の、どこにあんな力が……


 僕はこの人を守ってあげたいと思い、彼女を強く抱きしめた。


「痛いわ、柳町君! ベアハッグは前からやるものよ」


 ベアハッグとはプロレスの技で、通称『背骨折り』。その名の通り、熊のハグのように抱きつき背骨を折る技だ。

 こんな時でも冗談を言う先生。

 本当に強い人だと思う……


「先生……僕、もっと強くなります。先生を守れるくらい、強くなります!」

「ありがとう。でもそれは、私より強くなるって事かしら? もしそうだとしたら、80年はかかるわね」


 確かに、現実的に京子先生より強くなる事は不可能だろう。でも僕が強くなれば、京子先生の足手まといになる事も無くなる。何より、この気持ちは本当だという事を京子先生に伝えたいと強く思った。


「でもありがとう。気持ちだけでも嬉しいわ。期待しないで待ってるわね」


 そういうと京子先生は僕の手をほどき、僕のほっぺにキスをした。


「これは男らしい所を見せてくれたお礼!でも残念ながら、新右衛門君には男らしさは期待していないの。もっと女々しくて、臆病で変態チックだけど、一生懸命な所が好きなの。ダジャレじゃないけど、()()に生()()()とする必要は無いわ。自分を信じて、もっと不器用に生きなさい!」

「……はい!」


 何か、今まで肩に力が入っていた状態だったが、一気に楽になった気がした。

 僕が京子先生にしてあげたかった事を、逆に京子先生にしてもらってしまった。

 強くなる事も大事だと思ったが、とりあえず今は京子先生の為に、何時(いつ)なんどきでもつっこみとリアクションが出来る男になろうと心に誓い、家路に着いた。


 《柳町の背中に、キス代2980円と書かれた張り紙がされている挿し絵》

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!

とりあえずはここで、ブルーハワイ編が一段落します。

次回から、また別の流れで話が進んで行きますので、改めてよろしくお願いします!!


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