第46話 ずんだVSドミニク
やっとの事でブルーハワイのアジトに侵入した京子と柳町は、敵を薙ぎ倒しながら中心部を目指して進んでいた。
そして2人より先にアジトに着いていた弥生、鶴瀬、尊の3人は、京子達とは別の入口からの侵入を試みていた……
◇ ◇ ◇
「何か人の気配が慌ただしくなってきましたね」
鶴瀬はモブ青スーツを倒しながら弥生と尊に話しかけた。
3人の足下には既に数人の青スーツ達が倒れている。一番多く敵を倒していた弥生は息一つ乱れておらず、尊はその様子を少し驚きながら見ていた。そして、近くにいたモブ青スーツ達を全員倒しても3人は無傷のままだった。
この岩山全体がアジトだと考えると、弥生達は1/3程度は進んだだろう。中心部に本拠地があると仮定すれば、入口と本拠地の真ん中辺りまでは来ているかも知れない。モブ青スーツ達も味方に応援を頼む前にやられてしまっているので、本拠地の方までは侵入者の情報が漏れてなさそうだった。この3人は、それほど手早く青スーツ達を片付けてしまったのだ。
イボルブモンキー内でも父の猿正寺 光秀の次に嗅覚の優れていると言われている尊を先頭に、3人はどんどん奥へと突き進んで行った。
ここまでは多少曲がりくねってはいたもののほぼ一本道だったが、目の前は急に行き止まりになり、そこには扉が備え付けられていた。
3人は扉側の壁に張り付き、部屋の中を警戒した。尊は扉に耳を付けて中の音を聞こうとしたが、何も聞こえなかったようで、首を横に振って他の2人に伝える。
弥生がそっと扉に手をかけ、中が覗ける程度の隙間を開けた。そして慎重に中を見回しながら誰も居ない事を確認した。
「中には誰も居ないわ。入りましょう」
「弥生さん。くれぐれも油断しないでくださいね」
「分かってます」
鶴瀬はとにかく弥生の事が心配のようだ。
今はまだ冷静に見えるが、鳥谷 紫苑を殺したせせらぎ 面太郎とMr.Gを目の前にした時に冷静でいられるとは到底思えないのだろう。
その不安そうな顔を見ていた尊は、鶴瀬の肩を叩き「俺もしっかり見ているから大丈夫だ」とアイコンタクトをしながら微笑みかけた。
3人は部屋の中へ入り、周りを警戒しながら部屋中にある物を調べ出した。
部屋の大きさは学校の教室2クラス分はある。PC、デスク、冷蔵庫なども置いてあり仮眠用のベッドまでいくつか用意されていた。鍵のかかっていない金庫には武器も置かれている。
3人が入って来た扉の反対側の壁には同じような扉があった。おそらくこの先に本拠地に続く道があるのだろう。造り的にこの部屋を通らなくては中心部に辿り着けなくなっているようだった。
「どうやらここは、本拠地の手前にある休憩所のような所かも知れませんね」
鶴瀬の推測に他の2人も納得した。
「そういえば以前3組織の会合時に襲われた時、私と戦った小岩井という女が、自分は青の四獣最弱だとか言ってたのを思い出したわ」
「そうだ! 確かあの時に居たのは青の四獣の内の3人だけだった。その内の2人は弥生さんと一ノ条さんが倒したけど、牛尾さんと戦っていた丸尾 マサカズとかいう奴ともう1人の奴はまだこの中に居るかも知れない」
一通り部屋の中を調べた3人は反対側の扉の方に向かった。そして鶴瀬が最初に扉を開け、覗き込むようにしながら外に出た。周りには特に異常はなかったが、2人を部屋に残したまま突然扉が閉まってしまった。
「鶴瀬君! 大丈夫か!?」
「僕は大丈夫ですけど、扉が開かなくなりました!」
扉の外は入って来た道と同じように足下だけ灯りが点いていたが、扉が開かなくなった瞬間に突然真っ暗になった。
「まずはお前から殺ってやる、細目!」
「誰だ!」
暗がりの中、細い目をこらしながら周りを警戒し、鶴瀬はマギア状態になって臨戦態勢に入った。
「これから死んで行くお前に名乗ってもしょうがないが、冥土の土産を教えてやろう………………『かもめの玉子だ』」
教えて欲しいのは冥土への土産ではなく、お前の名前だと心の中でつっこんだ鶴瀬は相手がヤバい奴だと確信し、より一層神経を研ぎ澄ました。(ちなみに『かもめの玉子』は岩手の銘菓として有名な土産物だ)
「お前は青の四獣の奴か?」
「ほ〜う……お前は青の四獣を知っているのか……。俺達をブルーハワイだと知っててここにやって来たって事か?」
鶴瀬は自分達の事を特定されていないと気付き、敢えて自分達の詳しい事は明かさなかった。
「俺達はラッキーカラーノイローゼ! 裏社会のルールを破り、裏社会の秩序を乱す者達を排除する組織だ!」
「ラッキーカラーノイローゼ? 聞いた事が無いな……」
この時鶴瀬は、会話をしながら相手を探っていた。音が反響して分かりにくかったが、声のする方向を特定する為にわざと意味のない会話をしていたのだ。
「そして俺の名前は鶴瀬 要。いや……鶴瀬 ずんだ 要だ! お前も正々堂々と名を名乗ったらどうだ!」
「そこまで言うのなら名乗ってやろう。俺の名前は黒羽 ドミニク。ご存知の通り、青の四獣になれなかった男だ!」
その瞬間、後ろから攻撃されないように壁に背を向けていた鶴瀬は、顔面を殴られたような衝撃を受けた。暗闇の中、音だけを頼りに相手の居場所を探っていたが、鶴瀬には全く気付く事が出来なかったようだ。
「大丈夫か要君!」
壁の向こう側から衝撃と鶴瀬の呻き声を聞いた尊は、通信機越しに鶴瀬を気遣う。
「大丈夫ですが、暗闇という事もあって相手の姿が全く見えません!」
「ちゃんと目を開けているんですか要さん!?」
弥生の言葉に深く傷ついた鶴瀬だったが、傷心に浸る暇も無くドミニクの攻撃に翻弄されていた。予想も出来ない位置からの2次攻撃、3次攻撃を受けた鶴瀬は、防戦一方だった。幸い攻撃力が弱いせいか大きなダメージにはなっていないようだったが、攻撃の糸口が見つからず苦戦している。
「どうした? 私の姿が見えなくて混乱しているのか?」
「…………」
鶴瀬は考えていた。
気配はあるが捉えられない理由を……
そして気付く。
もしかしたら人型サイズではないのかも知れないと。攻撃力の弱さ、そして変則的な動き、どちらかというと動物的な動きに近いと予測した結果、暗闇に紛れる事が出来る黒っぽい小動物のようなものなんではないかと想像していた。
「逆に聞こうドミニクとやら」
「何だ?」
「お前の攻撃はこんなもんなのか?」
「何だと?」
「確かにこの暗闇の中ではお前の姿は捉える事は出来ないが、お前の攻撃は全くと言っていいほど俺には効いてないぞ」
「……」
「ここまでの数回の攻撃でも100あった体力が99になった程度だ。驚きはしたが、お前の今の攻撃では俺を倒す事は出来ないぞ?」
「フン……ま……まだ本気を出していないだけだ。すぐに倒しちゃ面白くないからな」
「そもそもだが、俺達を分散させた事自体が自分の強さに自信が無い証拠だろ」
「う……うるさい!」
「自分でも青の四獣になれなかったと言ってたじゃないか」
この時ドミニクの動きが止まった。痛い所を突かれたのか、ドミニクの荒くなった息だけが聞こえていた。
「しょうがない……ここまではやりたくなかったが、次の攻撃でトドメを刺してやる!」
鶴瀬は不敵にニヤリと笑った。マギア状態を一度解除し、全身に神経を研ぎ澄ませている。通信機も切り、次の攻撃に備える為に聴覚に意識を集中した。
一瞬の静寂の後、風を切り裂くような音がした瞬間に黒い物体が鶴瀬の首を目掛けて飛んで来た!
鶴瀬もこの動きを大方予想していたらしく、自分に触れる寸前にマギア状態を全開にした!
鶴瀬の首に噛み付こうとしたその生き物は、サイズ的には小型犬程度の大きさだった。片手でその生き物を掴んだ鶴瀬と同時に、弥生達が閉まった扉を何かの力でこじ開けた。
「大丈夫ですか、要さん!」
弥生は自分の能力でバールのような物を作り出していた。扉を開けた事により通路には光が差し込み、敵の姿があらわになる。鶴瀬が手にしていたのは、巨大なコウモリだった!
コウモリと言うにはあまりにも巨大過ぎるが、そこに居たの顔だけが人になっているコウモリ人間だった!
「な……何故分かった!?」
「最初は人型を想像していたから全く姿を捉える事が出来なかったが、お前が飛んでいたのは風が空を切る音で何となく分かっていた。攻撃の威力がない事で小型な何かだという事も想像出来たしな」
「ぐ……」
「暗闇でもこっちの位置を正確に把握している事から、異能力でコウモリ的な生き物に変身でしているんではないかと思っていたよ。そしてこの推測が正しければ、最後には首に噛み付いてくるはず。半分は賭けだったが、予想通りだったみたいだな」
風の噂じゃ、鶴瀬は詰め将棋が得意らしい。
彼の真面目さは、物事を理詰めで考えようとし過ぎるが故のもの。力で圧倒されなければ、冷静な鶴瀬はそうそう負けない。
「……で、お前はトドメを刺して欲しいのか?」
「お……お前達こそ何が望みだ!? 何でこんな所までやって来た!?」
「周りから恨みを買っているお前達が言うセリフじゃないんじゃないか? ご想像通りブルーハワイを潰しに来たんだ」
「お前達程度じゃ、せせらぎさんに殺られておしまいだ。まぁそこまで辿り着ければの話だが…………ぐぁ!!」
生意気な口をきいていたドミニクは、尊に殴られて気絶した。意味深な言葉に不安を抱きつつも3人はそのまま先を急いだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
あきらさんです!
今回は笑い少なめの回でしたが、書いていて少しだけ小説っぽくなってきた感じがしました!
今月中に、もう1話投稿するので次回もお楽しみに!!




