第37話 翡翠邸での密会
テラフェズントの専属ドライバーである新谷と一緒に、車である所に向かった京子と柳町。
そこは弥生と落ち合う為の場所である、テラフェズントの別荘「翡翠邸」だった。
翡翠邸に着いた京子と柳町は、ここで弥生に会う事が出来るはずだが……
新谷さんに先導されて、翡翠邸と呼ばれる別荘の中に案内された。
外装、内装がほとんど白で造られていて、2階建てになっている所から見ると、どちらかといったら小さなビジネスホテルという感じに見えた。
「密会をするのには、持って来いね」
僕がエロい発想をするのは、絶対に京子先生の影響だと思う……
「弥生様と鶴瀬様ももうすぐ到着致しますので、中で寛いでお待ちください」
「この別荘の中をいろいろ見てても良いですか?」
「構いません。あと、すみませんが、私はこの後テラフェズントに戻らなくてはいけないので、先にお暇させていただきます。弥生様達が来る前に何か困った事がありましたら、遠慮なく私の携帯に連絡して下さい」
そう言うと新谷さんは携帯番号を書いたメモを京子先生に渡し、翡翠邸を後にした。
僕は外に出て新谷さんを見送った後、翡翠邸の中に戻ったが、さっきまでいたはずの京子先生の姿がそこにはなかった。
「きょ……京子先生!?」
「……」
僕の呼び掛けには何の反応もなかった。
よく耳をすませてみると、奥の方で何かの音が聞こえた。
恐る恐る音が聞こえる方へ進んでみると、どういう訳か、誰かがシャワーを浴びているようだった。
誰かといっても、この別荘には僕と京子先生しかいないのだから、おのずと京子先生だという事が分かった。
脱ぎ捨てられた黒い全身タイツを見ながら、ガラス越しの裸体を想像していたら、外から誰かが入って来る音がした。
かすかに聞こえる男女の話し声から察すると、どうやら天影さんと鶴瀬さんが着いたようだった。
「京子先生!天影さんが来たようですけど!」
僕の声を聞いた京子先生が、びしょびしょのままシャワールームから顔だけ出した。
「えっ? 柳町君も入りたいって?」
「い……いや、入りたいですけどそういう事じゃなくて、多分天影さんと鶴瀬さんが来たんだと思います」
ぬ……濡れている京子先生は、いつにも増して色っぽい……
ここまで全裸状態の京子先生に近づけたのは、初めてではないだろうか……
「30分くらいしたら出るから、それまで面白トークで繋いでてよ」
「さ……30分は長いです」
「鼻の下が長い?」
「鼻の下も長いですけど、30分は繋げません!もう少し早めにお願いします!」
「分かったから早く行ってちょうだい。こんな状態じゃ大事な所も洗えないわ」
「すみませんでした! じゃ出来るだけ早めにお願いします!」
僕は急いで浴室から出て、声が聞こえていた大広間のような所へ向かった。
そこには案の定、天影さんが居て、隣りにはトンガリ頭で糸目の男性がスーツ姿で立っていた。会合の時にも居たが、確かこの人が鶴瀬さんだ。
20代後半くらいに見える鶴瀬さんは、大人しそうな雰囲気を持っているが、いろんな場数を踏んできているという貫禄も兼ね備えていた。
「柳町さん。わざわざ遠い所まで来ていただいてありがとうございます」
「いえ、そんな……。僕も京子先生も天影さんが心配だったんで、どうしてもお会いしたかったんです」
相変わらず天影さんは尋常じゃないほど可愛い……
透き通るような白い肌に、サラサラの髪の毛。小柄ながら女性としては理想的なボディラインを保ち、そして何よりも立ち振舞いの姿勢が美しい……
もし天使がいるとしたら、きっとこんな感じなんだろう……
「ナニナニは一緒じゃないんですか?」
そうだ。天影さんは京子先生(浪花さん)の事をナニナニって呼んでいた……
「京子先生は待ちくたびれたのか、何故か……シャワーを浴びてます……」
「フフッ……相変わらずですね」
笑顔も半端じゃなく可愛い……
でも思ったより元気そうで良かった。
鳥谷さんが亡くなられて、もっと落ち込んでいるのか心配していたけど、会合の時に最後に会った天影さんのままのようだ。
「お待たせ」
「京子先生!」
良かった~……思ったより早く出て来てくれて助かった~……
緊張し過ぎて間が持ちそうになかったですよ……
バスローブ姿で出て来た京子先生の姿は、髪の毛はまだ濡れていて、体から湯気が出ていた。
……!!??
あ……あのボディラインからすると、も……もしかして京子先生は……ノーブラノーパンなんではないか!?
「あら弥生。意外と元気そうじゃない」
「ナニナニも相変わらずですね」
「こんな所に男連れ込むなんて、中々やるじゃない」
京子先生は、天影さんの肩を肘でつつきながらからかっていた。
「この人とは、そういう関係ではありません」
それを聞いた鶴瀬さんは、少しだけがっかりした様子だった。
「改めて紹介しますけど、この方は鶴瀬 要さん。今日は私のボディーガードとして付き添ってくれてます」
「鶴瀬 要です。本日は弥生さんのお目付け役として、ご同行させてもらっています。何か雑用的な事がございましたら、何なりとお申し付けください」
「真面目か!!」
「きょ……京子先生! いきなりそのつっこみは失礼です! 良いじゃないですか、真面目で!」
「フフッ」
天影さんは笑っていたが、鶴瀬さんの目は死んでいた。
「お腹が空いたから何か作ってよ」
「か……かしこまりました」
鶴瀬さんは黙ってキッチンの方に向かった。
「ナニナニ。あまり要さんをいじめないであげてください。彼はバカが付くほど真面目な人間なんで、冗談があまり通じない人なの」
「冗談でしょ!?」
「居るんですよ、京子先生!中には真面目一本っていう感じで生きている人も! 僕や京子先生みたいに、比較的自由に生きている人の方が少ないかも知れませんよ?」
「何よそれ? 私の事も軽くディスってんの?」
「そ……そういう訳じゃないです!」
「そんな事言ってると、パンツ履かないわよ!」
「やっぱ履いてないんですか!?」
「当たり前でしょ!? だから何回も言ってるじゃない! 私はパンツを履いても、パンツに履かれる気はないって!!」
何回も聞いてるけど、意味が全く分かりません……
「ナニナニ……落ち着いてください。とりあえず座りましょう」
天影さんになだめられながら、僕達はソファーに座った。
鶴瀬さんがキッチンの方から、温かいお茶を持って来てくれて、皆に配ってくれた。
キッチンに戻る鶴瀬さんの後ろ姿を見て、京子先生が小声で「だから真面目か!」と言うのが聞こえた。
「ナニナニ、柳町さん。私を心配して会いに来てくれて、本当にありがとう。見ての通り、私はもう大丈夫です。あの後はさすがに落ち込みましたが、テラフェズントを守っていかなくてはいけない立場上、いつまでもクヨクヨしてられませんからね」
確かに天影さんの言う通りだ。
上の立場の人達がいつまでも落ち込んでいたら、下の人達に示しがつかない。
天影さんは本当に強い人だ……
「猪熊さんや要さんも居ますし、他にも私の周りにはサポートしてくれるテラフェズントの方達がたくさん居ますから……」
「……」
京子先生は、無言のまま天影さんを見つめていた。
「気丈に振る舞っても駄目よ弥生。あんた、腹の中では怒り狂ってるでしょう」
「何を言ってるんですかナニナニは」
「あんた、何でこんな時に新潟まで来てスキーなんかやってんのよ」
確かにちょっと疑問だった。
「スノボーです」
天影さんは目を合わせずに答えた。
「そんなのどっちでも良いわよ。本当は死に物狂いでブルーハワイの奴らを探してんでしょ?」
「いずれ叩き潰すつもりではいますけど、今回はバカンスで来ただけです」
もし京子先生が言っている事が本当だとしたら、いくら天影さんでも単独で乗り込むのは余りにも危険だ。
すると京子先生は、テーブルの上にUSBを投げ捨てた。
「私の方で調べた情報でも、ブルーハワイの奴らが新潟に居るが分かったわ」
急に天影さんの顔色が変わった!
「どこまで正確な位置を把握しているんですか?」
「もう、ピンポイントよ。その場所を教えてあげても良いけど、あんたが単独で行く気なら教えないわ」
「ナニナニは優しいですね」
どういう事だろう……?
「分かりました。正直に話します。ナニナニの言う通り、単独で乗り込もうと考えていましたが、正確な位置が把握出来なくて難航していた所です」
「やっぱりね。何年あんたとコンビ組んでると思ってるのよ。弥生の腹の中なんてお見通しよ」
「それに私はスノボーは出来ません」
「でしょ? 私じゃないんだからダブルコーク1440なんて出来る訳ないのよ!」
「ハーフパイプの方ですか!?」
「お待たせしました」
「早っ!」
話に夢中になっている内に、鶴瀬さんが出来上がった料理を持って来た。
この短時間でこれだけの料理を作れるなんて、料理人でもそうそういない気がする……
「お口に合うか分かりませんが、お召し上がりください」
とりあえず皆で食事をしながら、話を続けた。
普通に美味しい料理を作ってくれたが、京子先生だけは「真面目か!」という表情で食べていた。
「弥生。あの鳥谷って人との事、少し話なさいよ」
「そうですね。僕もいろいろ聞きたいです」
天影さんはおもむろに箸を置き、感慨深げに思い出話を語り出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
この辺りから、京子と弥生の関係の謎が少しずつ分かってきます。
また、次回も乞うご期待!!




