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第33話 馬乗りジョニーとヘラクレス豆谷

弥生に会いに行く前に、何処かに寄ってから行くという京子。

黙って京子についていく柳町は、車中でいろいろありながらも電車を乗り継いで西荻窪まで来たのだった……

「着いたようですね」

「そうね。私も久しぶりにこの地に降り立ったわ。前回の県大会以来かしらね」

「何のですか!!?」


 なんか謎の大会にいろいろと出場していそうな京子先生だが、とりあえず全勝している事は間違いないだろう……


「じゃ、ここからは黙って私について来なさい」

「は……はい」


 昭和の人のプロポーズのような告白をされた僕は、京子先生の後を黙ってついて行った。

 駅を出てから迷いなく進んで行く京子先生は、落ちているゴミを拾ってはポストに投函し、野良猫を見かければ本気で威嚇してビビらせていた。


 歩く事数分、3匹の野良猫を手なづけた京子先生と僕は、とある探偵事務所の前に到着した。

 2階建てビルの看板には『馬乗りジョニー探偵事務所』と書かれていて、等身大のディープインパクトのパネル写真が飾られている。


「ここってもしかして……」

「そう。ここは前回大会の敗者復活戦で昇格して、私の下僕(しもべ)の1人になる事ができたジョニーの探偵事務所よ」

「だから何の大会なんですか!?」


 その大会の主催者が京子先生であろうと思われる事はおそらく間違いないだろうが、その言い方から察するに、僕の知らない所でも複数の下僕(しもべ)を抱えいるであろう事も大方予想できた。


 アダムとイヴと八丁味噌と名付けた3匹の野良猫を事務所の前に置き去りにして、僕達はジョニーさんの事務所に入って行った。


「お世話になりま〜す」


 事務所に入る時にかける言葉としては適していない単語を発し、入り口に設置されている防犯カメラに、入って来たのか出て行ったのか分からないようにする為という意味不明な理由で、後ろ向きのまま事務所の奥に進んだ。


「京子さんじゃないですか!? お久しぶりです!!」


 京子先生の事を京子さんと呼んだその女性は、秘書感丸出しの雰囲気を醸し出し、細身ながら僕よりも背が高く、東京ガールズコレクションにでも出ていそうな美人さんだった。


「あら、風ちゃん! 今日は1人なの?」

「いえ、ジョニーさんは何か買い忘れたって言って、さっきコンビニの方に走って行きました。もう少ししたら帰って来ると思いますけど」


 事務所の中はごく普通な感じになっていて、どちらかというと不動産屋の内装に似ていた。

 接客用のカウンターテーブルが2席と、個人用デスクが4つほど置いてあり、各デスクにはノートパソコンが置かれている。

 仕事をする為の事務所という事もあり、比較的整理整頓はされていた。奥の方にはパーテーションで仕切られている場所が2つほどあり、探偵事務所というだけあって、口外出来ないような内容の依頼は、あそこでやるんではないかと勝手に想像してしまった。


「前回、私が来たのは4年くらい前だったかしら? 今は風ちゃんしか働いていないの?」

「いえ、私とジョニーさん以外にも2人働いている人がいます」

「そう……じゃ、全部で5人なのね」

「いや! 足し算おかしいです、京子先生!」

「あの〜そちらの方は……?」


 ついつい張り切ってつっこんでしまったが、変な第一印象を持たれてしまっただろうか……


「あっ! 紹介が遅れたわね。こっちのマッチョマンは私の助手で、ヘラクレス豆谷(まめたに)君よ」

「全然違います! 柳町 新右衛門です! それに全然マッチョじゃないし!! どっちかというともやしっ子豆谷です!」

「豆もやしって事? あんまり面白くないわね」


 笑いのダメ出しは、この場でははっきり言って欲しくなかった……


「うふふっ! そうなんですね。自己紹介が遅れましたが、私は金崎(かねさき) 風子(ふうこ)と申します。この探偵事務所で働き出して4年くらいになりますかね。以前、京子先生に来ていただいた時は、私がまだ入ったばかりの頃だったと思います」

「そうね。あの頃はまだ、風ちゃんがランドセル背負ってたものね」

「そんな訳ないでしょ! 4年前でランドセル背負ってたら、今高1ですよ!」

「京子さん。あれは仕事でやっていただけです。そういう趣味の人を探らなきゃいけない仕事だったので、何も分からずジョニーさんにあんな格好させらてしまっただけですよ」


 本当にランドセル背負ってたんだ……


「でも、あの時は結構楽しそうだったわよ」

「まぁ、20歳を過ぎてランドセルを背負う機会なんてそうそうないですから、恥ずかしい反面ちょっと面白かった事は確かですけど、あんなに危ない目に会うとは思っていませんでしたよ」


 僕がまだB級能力者相談所(サテライトキングダム)に入る前の昔話を、2人は懐かしそうに話していた。

 立ち話に気を遣った風子さんは、僕達を奥のパーテーションで仕切られている場所に案内してくれて、お茶を出してくれた。一息ついてお茶を飲んでいると、誰かが事務所に入ってくる音がした。


「あっ! ジョニーさん、お帰りなさい! 奥で京子さんがお待ちですよ」


 風子さんとの話声を聞いていると、どうやらジョニーさんが帰って来た様子だった。

 こっちに向かってくる足音が聞こえ、僕達の前に現れたその人は、以前に一度だけ遠目で見た事があるジョニーさんその人だった。


「思ったより早かったな、京子」


 ジョニーさんの言葉を聞いた瞬間、京子先生の後ろ回し蹴りがジョニーさんの顔面に炸裂した!


「私を京子と呼び捨てにして良いのは、両親だけよ! 未来の旦那にすら京子と呼ばせる気はないわ!」


 何故か物凄い形相で睨まれた僕は「僕は呼び捨てにしません!」という気持ちを顔で訴えていた。


「例の件はどうなってるの?」


 京子先生は、倒れているジョニーさんの顔面を踏みつけながら、女王様のように質問した。

 何とか足を退けたジョニーさんは、顔にクッキリ足跡をつけられたまま、申し訳なさそうに質問に答えた。


「わ……悪かったよブラック。風ちゃんの前だったから、少し格好つけてしまっただけだ。す……すみませんでした」


 分かれば良いのよと言わんばかりの態度で再び椅子に座り、京子先生はお茶菓子で出されていたお煎餅を、一瞬で全てたいらげた。

 ジョニーさんは「早くおかわりを持って来て」という合図を目線だけで風子さんに出し、風子さんは急いでお煎餅のおかわりを持って来た。


「ブラックに頼まれていた情報は、この中に入っている」


 ジョニーさんはUSBを京子先生に渡して、そう言った。

「USBだけじゃなくて、パソコンも持って来なさいよ」という、恐ろしい視線をジョニーさんに浴びせた京子先生は、僕に対しても「早く煎餅の袋を開けなさいよ」という、ヤンキーのような威圧感で睨みつけてきた。

 京子先生は、急いでノートパソコンを持って来たジョニーさんの足を踏んづけたまま、立ち上げたパソコンにUSBを差し込んだ。


「き……京子先生、依頼していた件って何なんですか?」

「柳町君の浮気調査よ」

「え〜っ!?」

「冗談よ。私が動けなかったから、ブルーハワイのアジトや奴らの事を探ってもらっていたのよ」


 別にやましい事はしていないが、何故か京子先生の冗談に過剰に反応してしまった(さが)が悲しい……

 そして京子先生は、USBの中の情報を画面に映し出すと、そこにはコンビニでエロ本を立ち読みしている僕の姿が映し出されていた!


「な……何で僕の映像が!? や……やっぱり僕の事、つけてたんじゃないですか!!」

「何を動揺しているのよ」

「そうだよ柳町君。これは以前に僕が遊びで作った、加工処理された映像だよ。何を動揺しているんだい? 身に覚えでもあるのか?」

「え……いや……その……」


「まぁ実際に加工処理したのは、ロリータ物を熟女物に変えただけだが」

「そこだけ!!? やっぱり僕を尾行してたんじゃないですか!! ヒドイです!!」

「別に新右衛門君が、エロ本を読もうがAVを見ようがどうでも良いんだけど、尾行に気付かないあなたは大問題よ」


 た……確かに……


「こういう状況だから柳町君を心配して、ジョニーにあなたの身辺が危なくないか見張っててもらっただけよ」

「そ……そうだったんですね」


 あんな状況で入院していたのに、守ってもらっていたのは僕の方だったなんて……


「あなたを連けていたら、まさかこんな撮れ高があるとはね。何となく感じていたけど、新右衛門君はロリコンだったのね」

「い……いや! 僕はどっちもイケます!!」


 堂々と訳の分からない告白をしてしまった僕を、白い目で見ている皆さんの視線が、突き刺さるように痛かった。


 別のファイルデータを開いた京子先生は、やっとブルーハワイの情報らしき映像を映し出した。

 隠し撮りしている映像には、Mr.Gさんやせせらぎさんが映し出されていて、何やら薄暗い地下のような所で雑談をしている様子だった。

 映像の内容は短く、1分程度のものだったが、本物のブルーハワイの映像だった。


「この場所を突き止めた結果、うちの綾乃坊(あやのぼう)が入院する羽目になってしまったよ」


 綾乃坊さんというのは、おそらくここで働いているジョニーさんの助手だろう。


「ヤバい奴らだという事は聞いていたから腹辺(はらべ)君と一緒に行動させておいたお陰で、何とか大事にならなくて済んだけど、この件はこれっきりにしてくれ。ブルーハワイと関わったら、うちの従業員がもたなくなってしまう」

「端からそのつもりよ。元々、あなた達の手に負える相手じゃないから、それなりの報酬を用意したのよ。でも、突き止めてくれてありがとうね。何とか弥生に良い手土産が出来たわ」

「そいつらは、定期的にアジトの移動を繰り返しているから、既にその場所に居るかも分からない。何かしら手を打つんであれば、早い方が良いぞ」

「そんな事、アンタに言われなくても分かってるわよ! なに、賢いふりしてるのよ! それより、しっかり家賃払ってるの? 何度も言ってるけど、いい加減電気代を払う前に家賃を払うのよ! 分かった?」

「あ……あぁ、分かってる」


 ジョニーさんは、一度ミスった事をチクチクと何度もいじってこられているような、嫌そうな顔をしていた。


「これから弥生の所に行きたいんだけど、場所くらい調べてあるんでしょうね」


 ジョニーさんはその話は聞いていなかったのか、焦って調べていた。

 お煎餅が既に無くなっていた事に気付いた風子さんも、急いでお煎餅を補充していた。

 ジョニーさんから弥生さんの居所を教えてもらった京子先生は「こんな腐れ事務所に、もう用は無いのよ!」と捨て台詞を吐いて、逃げるように探偵事務所を後にした。

 京子先生は、今度はバスに乗ってみたいと言い、バスを乗り継いで都会から離れたある場所に向かう事になった。


 いくつかバスを乗り換えた後、途中でバスを降りたその場所は、田んぼや小さな公園などが見えて、どこか田舎のような雰囲気を思わせる、のどかな場所だった。

 そのままバス通りを歩いて行くと、ギリギリ向こう側が見えるくらいのトンネルに辿り着いた。

 おそらく500m以上はあろうかと思われるそのトンネルを、僕と京子先生はひたすら歩き、ちょうど真ん中くらいの所まで来た所で京子先生が急に立ち止まった。


「ど……どうしたんですか、こんな所で立ち止まって?」

「柳町君。この薄気味悪いトンネルのど真ん中で、私と柳町君は2人きりよ」

「わ……分かってますけど、何でこんな所で立ち止まってるんですか? 早く先に進みましょうよ」

「柳町君。私、こんな時に何なんだけど、怖い話を思いついちゃったの」

「ちょ……ちょっと、やめてくださいよ! 僕、そういうオカルト系は苦手なんです!」

「じゃ、新右衛門君の期待通り、怖い話を始めるわね」


 怖い怖いとは言いつつも、どこかで話を聞きたくなってしまう人間の性が悔しい……


「柳町君。怖い話をするわよ」

「は……はい」


 ホラー系が女子並みに苦手な僕は、とりあえず腹を括った。


「お化けが出たの」

「もう出た!! クライマックスが冒頭に出た!! 会話の中でのまさかの()()()!! そんなバカな会話の流れあります!?」

「どう? 怖かった?」

「いきなりお化け出て来られても、怖がりようがないんですけど……」

「実はこの話の怖い所は、私の頭がおかしいって所なの」

「そういう意味では実に怖いです!! 」

「異常でしょ?」

「異常です」

「殺すわよ」

「すみません。調子にのりました……」

「最近、生意気になってきたわね」

「そ……そんな事ないですよ! 昔以上につっこみとリアクションを頑張っているだけです!!」

「まぁいいわ。調子にのって弥生の前でもデレデレしてたら、右手と左胸を瞬間接着剤でくっつけて、一生国家斉唱してるみたいにしてやるから」


 いつでも僕の想像を超えるお仕置きを思いつく京子先生は、実はかなりのアイデアマンなのではないかと思ってしまう時がある……


 薄暗いトンネルの中で黒の全身タイツをはいている京子先生は、動きがあまり良く見えなかったが、何やらモゾモゾしながら変なポーズで叫んだ。


()~いて良いですか~!?」


 何の事!? と思った瞬間、トンネルの壁面から大きなゴマが現れた!


「さぁ行くわよ」


 さっきの掛け声に意味があったのか分からないが、突然現れた大きなゴマのような扉を迷いなく開けた京子先生は、僕にリキラリアットをかまして一緒にゴマ扉の中に放り込んだ。

 軽いむち打ちを気にしていた僕は、さっきの場面では「ひらけゴマ!」って言うのが正しいんじゃないかなぁと、内心思っていた。

 ゴマ扉の中に入るとそこは、見た事もないようなそれはもう凄い事になっていた!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!

ちなみに家には、ひなたというメス猫が1匹います。(八丁味噌じゃありません)

小太郎もその内に活躍させたいと思いますので、また次回もよろしくお願いします!!

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