第31話 復活の京子とマギア状態
裏社会を牛耳るブレイブハウンド、イボルブモンキー、テラフェズントの3組織の間で急遽行われた会合に、突如として乱入してきたブルーハワイ!
彼らの強襲により、各組織の幹部達は大きな痛手を負ってしまった。
裏社会を乗っ取ろうとしているブルーハワイに対し、彼らはどう立ち向かって行くのか!?
京子や治五郎達は果たして無事なのか!?
3組織の会合にブルーハワイが乱入してから、3日の月日が流れていた。
僕の目の前には、寝たきりの猿正寺さんがベッドに横たわっている。
「弥生ちゃんは来てねーのか?」
「もうすっかり元気そうですね」
「柳町! お前は勝手に喋ってんじゃねー!」
「は……はぁ……すみません」
猿正寺さんは意外と元気そうだった。
ここは、ブレイブハウンドが所有している裏業界の病院だ。
あの後僕は、牛尾さん(犬飼 治五郎)と浪花さん(京子先生)を車に乗せて、丘の麓にある木から異空間を通って元のルートに戻って来た。
ブレイブハウンド専属の移動屋の人に事情を話し、すぐにこの病院の場所まで2人を運ぶ事が出来た。
牛尾さんは緊急手術をし、浪花さんは薬を処方された後、2人とも入院する事になった。
少しすると一ノ条さんが、猿正寺さんと尊さんを連れて病院に入って来て、2人もすぐに処置された後、そのまま入院する事になった。
そして僕は、毎日のように浪花さんと牛尾さんのお見舞いに来ている内に、いつの間にか隣の病室にいる猿正寺さんに、弄られるようになってしまったのだ。
病室のベッドで横たわっている猿正寺さんは、とても大怪我をしているようには見えず、何で退院しないのか不思議なくらい元気だった。
昨日まで同じ病室に居た尊さんの姿が見えない所を見ると、尊さんは昨日の内に退院したんだろうか……
「あのブラックな姉ちゃんは元気なんか?」
「今日、退院予定ですけど」
「まだ、あの牛尾とかいうガキと一緒に、隣の病室に居るんか?」
「そうです」
浪花さんも牛尾さんも、猿正寺さんと同じ病室にしたら何が起こるか分からないから、病院の判断は賢明だったと思う……
「猿正寺さん。ちょっと隣の病室に顔を出してきますね」
「おう。顔以外に別のモノ出すんじゃねーぞ」
猿正寺さんは本当に下ネタが好きだ。というか、あの歳でまだまだバリバリの現役だとか自分で言っているくらいだから、ただの女好きなのかも知れないけど、正直言って僕の身近な人には手を出して欲しくない……
隣の病室に行くと、退院の準備をしていた京子先生が全身黒タイツに着替え終わり、これからマスクを被って浪速さんになろうとしている所だった。
「もう一度着替え直す?」
着替えに間に合わなかった僕の表情がよっぽど残念そうだったのか、京子先生は何故か僕に、もう一度着替える姿を見せてくれようとしてくれた。
「いえ、大丈夫です……。一応お父様の前ですし……」
お父様は、まだベッドにうつ伏せになったまま安静にしていた。猿正寺さんとお父様は、明日か明後日には退院する予定らしい。
「京子。今回の奴等は思っている以上にかなりの強者だった。3組織が本気で協力し合わないと、ブルーハワイを叩く事は難しいかも知れんぞ」
「今回は、たまたま私の調子が悪かっただけよ。私が本調子だったら、あいつらなんか真夏にカーディガンを着させてやるわ」
ボケのキレが悪い京子先生は、まだ本調子ではなさそうだった。
「ワシも油断し過ぎた所があるが、相性が悪かったのが一番の敗因かも知れん」
「そう言えば、あなたの相手はそんなに強かったの? あなたも一応は裏社会でトップの存在だったんでしょ?」
確かにそうだ。不治の病を患っているとはいえ、お父様がやられてしまうほどの相手って一体どんな奴なんだ? しかもそれがMr.Gさんやせせらぎさんじゃないって所が、未知過ぎて怖い……
「ワシと戦った丸尾 マサカズという奴はドスの使い手だった」
「ヤクザ屋さんが良く持っているという、あのドスですか!?」
「そうだ。身体能力やマギア状態での戦いもレベルが高く、あそこまでワシと互角に戦えた奴は、光秀と鳥谷と司以外では初めてだった。最も、ワシも全盛期よりは遥かに衰えているがな」
「じゃあ、そのドスを使う事がそいつの異能力だったって事なの?」
「いや、あいつの異能力は瞬間移動のような技だった」
「瞬間移動!?」
「異能力を発動した瞬間ワシは後ろをとられ、ドスで背中を3擊ほど刺された。信じ難いが、このワシが目で終えないほどのスピードだった。振り返って反撃をしようとした瞬間、既に奴の姿は無く、そのまま後ろをとられてさらに何度か刺された。やりきれなかったが、そこで勝負がついてしまったよ」
一ノ条さん以上に百戦錬磨のお父様が、ここまでやられてしまうなんて本当に信じ難い……
「瞬間移動って言ったって、後ろをとられてから刺されるまでの間に0.01秒くらいはあるんでしょ? そんなの避けられない方がどんくさいのよ」
「いや、それ避けられるの、多分京子先生だけです……」
「ただあいつの異能力はもう分かったから、いくらでもやり方はあるがな。あいつのミスは、ワシを生かしていた事だ。おそらくだが、今までの相手はこのやり方で全てトドメを刺してきたんだろうが、ワシはその辺の奴らよりしぶといからな。奴らは同じ相手と2度闘う機会もあまりなかっただろう。
次に戦る時は、こうやって異能力を知られてから戦う事になる訳だから、戦歴を考えてもこっちに分があるのは間違いない。奇襲の異能力だからそこそこ通用したが、分かっていれば避けられるレベルの人間がいるって事を、今度こそ思い知らせてやる!」
何か次元の違う話過ぎて、ついて行けない……
「そう言えば1つ気になったんだけど、さっき言ってたマギア状態って何なの?」
「あっ! 僕も気になりました! 何か魔法少女っぽいそのフレーズって、一体何なんですか?」
「まさかとは思うが、お前達はファルセットで特訓してるのに、マギア状態の事も教えてもらってないのか!?」
「初耳です」
「瀧崎~!! あいつは何を教えてるんだ!? 異能バトルにおいてマギア状態の戦いなど、基本中の基本だ! 異能オーラをコントロールし、身体能力などを高めて戦う事なんて、技を習得する以前の問題だ! あいつは帰ったら、シバかなあかん!」
何か瀧崎さんは、僕達に教えなくてはいけない基本的な事を教えてなかったようだ。お父様が突然関西弁になってしまうほど、重要な事だったらしい……
「マギア状態というのは、異能力を使う上で最も重要な事の1つでもある。異能オーラの量や、そのコントロールを上手く出来るかで、かなり実力が変わってくる。簡単に言うと、iPhoneを持っているのに使う人間が、幼稚園児だって感じだな」
「全然、生かしきれてないじゃない! それじゃ、ボケしか出来ない柳町君と一緒じゃないの!」
えらい言われようだ……
「瀧崎には後で言っておく。ファルセットに戻ったら、しっかり習得しておいてくれ」
「わ……分かりました」
それにしても、マギア状態を知らないのに尋常じゃない強さの京子先生って、これを習得したらどんだけ強くなるんだ!?
次元の違う存在が次々と現れて来た事もあり、ちょっと前までの日常とは、あまりにも変わりすぎてしまった僕の生活は、一寸先は闇無双状態だった。
ただ1つ、ブレイブハウンドと関わって感じた事は、『異能を知る者は異能を制す』って事だ。
「京子、柳町君。実はワシが死ぬ前に、お前達に大事な話をしておかなければならない」
何やらお父様はいつも以上に真剣な表情で語り出した。
「何よそれ。今、話せないの? 生きてる内じゃなきゃ聞いてあげられないわよ」
確かに、誰がいつ死んでもおかしくないこの状況では、大事な事だったら聞ける時に聞いておいた方が良い気がする。
「確かに今の状況だったら、早く話すにこした事は無いんだが、司も交えて話をしたいんだ」
「どんな話よ。実は私は魔界の王で、柳町君が擬人化した変態蟻だとか言うんじゃないでしょうね」
「い……いや、そういう事では無い……。実はこの世界の理の話だ」
この世界の理……?
「何の話か良く分からないのは毎度の事だけど、分かったわ。その時間はまた改めて作る。私は弥生が心配だから、これから会いに行って来るわ」
「そうか、……そうだな。確かに、鳥谷の婆さんは残念だった」
「そ……そうですね」
そう……あの戦いで鳥谷 紫園さんは亡くなられてしまったのだ……
「あの……僕も一緒に行っても良いでしょうか?」
「何でアンタが来んのよ」
「い……いや、天影さんには、あの時にいろいろと気を遣ってもらったんで、一言お礼を言いたいんです」
「弥生に会いたいだけでしょ?」
「い……いや、鳥谷さんが亡くなられた事もあって、その後の天影さんが心配ですし、京子先生とのダブルブッキングの事もありますし、一緒に行った方が良いと思いまして……」
「弥生に会いたいだけでしょ?」
「あ……いや……」
「弥生に会いたいだけでしょ?」
「はい!会いたいです!」
僕は、自分の後ろにあるロッカーがへこむほどの勢いで顔面を殴られた後、腫れ上がった後頭部をおさえて鼻血を出しながら京子先生に帯同させてもらった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
いつの間にか、挿し絵を描く余裕が無くなってしまいました……
でも、たくさんの人に笑いを届けられるように頑張って行きたいです!
次回もよろしくおねがいします!!




