第29話 弥生と筋斗雲
3組織会合に乱入して来たブルーハワイとの戦いが始まった。
一ノ条対ポンチャックの戦いも先が見えてきて、外の場所でもまた別の戦いが繰り広げられようとしていた……
一方その頃、別の場所では天影 弥生が青の四獣である女と対峙していた。
ロッジの裏まで周り、モブ青スーツ数人と一緒に囲まれていた弥生は、見るからに多勢に無勢だったが、全く動じていなかった。
「礼儀知らずと言われたままじゃ癪だから、一応名前くらいは名乗っておこうかね。ウチの名前は小岩井 瞳。牛乳みたいな色白のアンタに興味があったんや。これでも青の四獣を名乗らせもらってるけど、4人の中では最弱なんや………って、やかましいわ!!」
「私は何も言ってないわ。ただあなたに、1つだけ言いたいと思ってた事があるの」
「なんや?」
「ハニテセツニギク、神克女無客」
「何語や〜〜!!?」
「逆から読むと分かるわ」
「客無女克………って、分からんわ!! こいつ……ウチの事をバカにしとるな!! 絶対許さへんよ!!」
瞳は胸からクナイのような武器を取り出し、弥生に向かって攻撃を仕掛けた!
「あなたに許される必要はないわ」
弥生は異能オーラを身に惑い、瞳の攻撃をかわしながら、ついでにモブ青スーツ達を蹴散らしていった。
その肉弾戦での戦いぶりは、圧倒的に弥生が勝っていた。例えるなら「クラス1の人気者程度で芸能界でやって行こうと思う考え方」と「カラムーチョ」の2択で、どっちが甘いかというくらいの差があった。
弥生の体術は圧倒的に優れていて、その戦い方は合気道のそれに似ていた。華奢な体つきだが、相手の力を利用して次々とモブ青スーツ達を倒していく。
「全然歯ごたえ……いや手ごたえがないわ。よくそんなんで、青汁とか言えたもんだわ」
「青汁やない! 青の四獣や! バカにするのもええ加減にしいや! こうなったら本気を出させてもらうで!」
「勘違いしないで欲しいわ。私がバカにしているんじゃない。あなたがバカにされているだけよ」
「訳の分からない事言ってんじゃないわよ! 異能!『非力な神の制球力』!!」
異能力を発動させた瞳は、大きく開いている両腕の袖口から武器を取り出した。右手には五寸釘、左手にはバターナイフをそれぞれ4本ずつ持ち、弥生に向かって投げつけた。しかしその威力は全く無く、投げた方向も全くトンチンカンな場所だった。
「………」
何が異能なのか分からず、呆然と立ち尽くしていた弥生は、呆れ顔で勝負を決めに行こうとしていた。新たに異能オーラを身に惑い、接近戦でケリを着けようと瞳に向かって走り出す。
「とっととケリを着けて、ばば様のサポートに行かせてもらいます」
その瞬間、明後日の方向に飛んでいた武器が、弥生に向かって襲って来た!
弥生はバク転をして、ある程度の武器をかわしたが、右足には2本の五寸釘が刺さっていた。
「ウチの異能『非力な神の制球力』は、狙った所に百発百中で当てられる能力! ウチの攻撃からは絶対逃れられへんで!!」
威力こそあまりないが、鋭利な物が追尾してくる攻撃は思っている以上にやっかいで、避ける事の出来ない攻撃に弥生は少しずつ追い詰められていった。
何とか寸前の所で、スケッチブックを利用しながら攻撃を防いでいたが、とにかく防戦一方のままだった。
瞳はいつの間にか弥生から距離をおき、遠距離から攻撃を続けている。
「ウチが弱いのは重々承知の上や。でも残念ながらウチの攻撃からは逃れられへん。謝るなら今の内やで!」
「ごめんなさい」
「謝るんかい!!」
「私は手加減が出来ないから、間違って殺してしまったらごめんなさい」
そう言うと弥生はスケッチブックに絵を描き、異能力を発動させた!
「異能!『子供の落書き』!!」
異能オーラを手に凝縮し、攻撃をかわしながら描き上げたその絵は、突如スケッチブックから飛び出していきなり具現化した!!
「ガアァァァ!! グガァァァァ!!」
あまりにも下手過ぎるその絵は、虎なのか熊なのか狸なのか分からないほどのクオリティーで、ただ分かるのは何かの生き物だという事くらいだった。尋常じゃない威嚇をしながら、瞳に向かって行くその化け物は、3次元では表現しきれていない薄っぺらさだったが、3mを超えるほどの巨体を持ってるだけに、馬力が怪物じみていた!!
「な……何やコイツは!!?」
「ガチャピンよ」
「ガチャピン〜!!?」
明らかに魔界の生き物だと思わせるその風貌は、一筆書きで描いたような、子供の落書きにしか見えなかった。
続けざまに弥生が描いた絵は、大きいシュークリームというかジャンケンのグーというか、モコモコしたような何かだった。
「行け! 筋斗雲!」
筋斗雲と呼ばれたその落書きは、弥生が乗る訳でもなく縦横無尽にそこらじゅうを飛び回っていた。良く見るとその筋斗雲は、弥生に向かって飛んできていた武器を、全て摘み取っていた。
続けて絵を描いていた弥生は、最後の1枚を描き終えると、結果を待たずにその場を立ち去ってしまった。
「白髪ジジイ、以外とやるじゃねーか!」
「誉めていただいて光栄ですね」
「俺と体術でタメ張れる奴なんて久しぶりだぜ!」
ロッジの奥にある大部屋の別室では、猿正寺とMr.Gが激しい肉弾戦を繰り広げていた。
猿正寺の息子である尊は、モブ青スーツ達数人と同じ部屋の角の方でバトルを行いながら2人の戦いを横目で意識していた。
「俺はまだまだ余力があるが、ジジイはとっとと異能を出した方が良いんじゃねーか!?」
互角に見えていた2人の肉弾戦も、良く見るとMr.Gは体中にオーラを纏っているが、猿正寺は全く素の状態で戦っていた。
「異能オーラを身に纏う『マギア状態』でその程度じゃ、俺がちょっと本気を出したらすぐに終わっちまうぞ」
「その方が良さそうですね。じゃ、少しだけ私も異能を見せましょうか」
「早い所そうしてくれ。あっさり殺しちまったんじゃ申し訳ねーからな」
「異能!『イタイ芸人大集合』!!」
Mr.Gが異能力を発動した瞬間、場の空気が変わった。
「ぐぁ!!」
何故か部屋の奥で戦っていた尊が、突然悲鳴を上げた。
「尊!!?」
猿正寺が振り返るとそこには、床に数人のモブ青スーツ達が倒れていて、その中で1人体を痙攣させながら立ちすくんでいる尊の姿があった。
「あががが……」
金縛りのような状態で身動きがとれなさそうな尊を見た猿正寺は、マギア状態でMr.Gに殴りかかり、数発殴った後その大きな手で顔面を鷲掴みしていた。
「尊に何しやがった!?」
「ぐぁ〜!………オ……オヤジ………そいつから離れ………」
「たけ……る……ぐぁ!」
尊と同じように身動きのとれなくなった猿正寺は、腕に力を入れる事が出来なくなり、Mr.Gはゆっくりと猿正寺の手から離れた。
殴られた時に出た血を拭い、乱れたスーツを整えたMr.Gは、スーツから取り出した煙草に火をつけて猿正寺の回りを一周した後、ゆっくりと頭を小突いた。
「ぐぁ〜!!」
「さっきまでの威勢はどうしたんでしょう?」
「うぐぐっ………」
Mr.Gは尊と猿正寺が両方とも見える位置にあるテーブルに座って足を組み、面倒くさそうに話し始めた。
「どんな気分ですか、お猿さん?」
「き……貴様の能力は何なんだ……」
「体中が痛くて動けませんか?」
「う……うぐっ……」
猿正寺は尊を心配して振り返えろうとしたが、むち打ちになっている時のように首が動かせないような状態で、目線だけで尊を確認した。
「私の異能力『イタイ芸人大集合』は、相手に触れずに痛点だけを攻撃する能力。体を動かすだけで全身に激痛が走るでしょう?」
「くっ……」
Mr.Gは、何故か部屋の隅にある、上着掛けにかかっていたバナナを一本もぎ取り、おもむろに食べ出した。
尊にやられていたモブ青スーツ達が、少し回復したようでゆっくりと立ち上がる。
Mr.Gは食べ終えたバナナの皮をモブ青スーツ達の足下に投げつけると、それを踏んづけたモブ青スーツはすっころんで尊にしがみついてしまった。
「ぐぁ~!!」
「尊……っ!?」
そのまま床に倒れ込んだ尊は、痙攣しながら気絶してしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
会合での話も終盤に向かっていますが、物語はまだまだ続きます。
また、次回もお楽しみに!




