第27話 犬、猿、キジの会合
ブルーハワイからの宣戦布告を受け、ブレイブハウンド、イボルブモンキー、テラフェズントの3組織で会合を行う事になった。
柳町と京子は牛尾(治五郎)と一ノ条と一緒に会合に出席する事になったのだが……
僕達4人は牛尾さんの掛け声で車から降り、イボルブモンキーとテラフェズントが待つロッジに向かって歩き出した。
近くまで来てみると、ロッジは思っていた以上に大きく、通常のイメージよりは4倍くらいの大きさに思えた。防弾ガラス用の窓はついているものの、中が全く見えない状態になっている。入り口には誰もいないが、扉の横にセキュリティー用の指紋認証のような物が設置されていた。
一ノ条さんはその機械に手をかざすと、異能力オーラを手に纏い、セキュリティーを解除させた。指紋ではなく、オーラで認証するタイプのセキュリティー機器のようだ。
一ノ条さんを先頭にして中に入って行くと、大きな扉の前で黒服の男が2人、扉を挟むようにしながら手を後ろに組んで立っている。ジャケットの襟元には、外にあった車の紋章と同じ紋章のピンバッジがしてあり、見るからに2組織の見張り役だった。
その2人の男は、一ノ条さんに軽く頭を下げた後、扉を開けて僕達を招き入れてくれた。
中に入ると比較的洋風な造りになっていて、和やかに過ごす場所というよりは、話し合いをする為に造られた場所といった感じがあった。改めて作ったであろうと思われるテーブルは、独特な形の三角形になっていて、この3組織の為だけに用意された物だと想像できた。
テーブルには、イボルブモンキーとテラフェズントに別れた場所に、代表だと思われる人が各2名ずつ座っていて、その後ろにもボディーガードのように2人の人が挟んで立っていた。ブレイブハウンドの空いている席に、一ノ条さんと浪花さんが座り、牛尾さんと僕は両サイドに立った。
「お久しぶりですね、猿正寺さんと鳥谷さん。相変わらずお元気そうで」
最初に話し掛けたのは、一ノ条さんだった。
「元気でいちゃいかんかの?」
「オレ達にも早く死んで欲しいと思ってんじゃねーか? なぁ、ばあさん」
「相変わらず言う事がきついですね、お2人は……」
この部屋に入った時から異様なオーラを放っていた2人が、イボルブモンキーの猿正寺 光秀さんと、テラフェズントの鳥谷 紫園さんだという事は、今の会話ですぐに分かった。
「犬飼のじいさんは、残念やったな。もう葬儀は終わったんか?」
「いや、日程を変更して明日行う事にしました。良かったらお2人にもご出席して……」
「勘弁してくれ。一応戦友ではあるが、オレも鳥谷のばあさんもそんなタマじゃねぇんだ。そういう事は身内だけにしといてくれねぇか」
「分かりました」
もう少し敵意を剥き出しにしてくるのかと思っていたが、意外と友好的な感じだった。
啀み合っていたとはいえ、犬飼さんが亡くなったのは2人にとってものショックだったんだろう……
何気に一ノ条さんも、この微妙な人間関係を保ちながら会話するのが上手いと思った。
「今回はブルーハワイの件でお話しようと思ったんですが、出来ればその前に皆の自己紹介をしませんか? お互いの情報共有の為に有効かと思いますが」
「オレの所は構わんが、鳥谷のばあさんが良ければそっちから紹介してくれ」
「アタシらの所は、新顔は2人だね。ウチのNo.2の猪熊はアンタ達も良く知ってんだろ? こっちに立ってんのが鶴瀬 要。アタシの横に座ってるコイツが、2代目候補の天影 弥生だ」
に……2代目候補……!?
まだ20歳前後に見えるけど、2代目だなんて……
っていうか、色白でメチャクチャ可愛いな! どっちかというと浪花さんタイプなのか?
「オレの所は新顔は3人だな。LJの事はいちいち紹介しねーぞ。コイツが朝比奈 薫でコイツが神谷 一樹。外で見張りをしてたのが、実は息子の尊だ」
さっきのが息子さん!? そういえばどことなく似ている気がする!
「烏のオッサンの姿が見えねーが、一ノ条ん所はみんな新顔か? 1人覆面被ったおかしいのが居るみてぇーだし、お前ん所は大丈夫なんか?」
「そうですね。烏丸さんは連れて来てません。こっちに居るのがフィレオフイッシュ 牛尾さんで、この子が柳町 新右衛門君。そして隣に座ってるのが、浪花のブラックダイヤモンドさんです」
「何かみんなナメた名前してんなぁ! バカにしてんのか!?」
ヤバい……名前だけで猿正寺さんを怒らせてる!?
「浪花のブラックダイヤモンド? 何かどっかで聞いた事がある名前やなぁ? いつだったか、闇アイドルで腕の立つ奴がそんな名前だった気がしたがアンタの事か?」
【おそらくそうね】
「お前はしゃべらんのか!? 変なやっちゃのー……。まぁ、お互い様だから気にはしねーけど、一ノ条! お前しっかり躾とけよ!」
「わ……分かりました。紹介はこのくらいにして、本題に入りましょうか。電話でも話しましたが、皆さんの所にもブルーハワイからの動画が届いたと思います」
【子猫が大型犬になついている動画ね】
「違いますよ浪花さん! 今ここは大喜利の場じゃないんで、そういうのはいらないと思います」
「おい! そこのクソ坊主!」
「はいっ!」
「つっこむなら、しっかりつっこめ!! 中途半端につっこむくらいなら、芸人なんて辞めてしまえ!!」
ど……どういう事!? 僕ってここでもつっこみを求められてるの!?
【ごめんなさいね。この子はまだ柔道を始めたばっかりで、まだ黒帯なのよ】
「いや! 僕、柔道やった事ないです! っていうか、始めたばっかりで黒帯って凄いんじゃないですか!?」
【じゃ、あれは嘘だったの!? あの夜、私の枕元で呟いた戦歴は虚言だったって事!?】
「戦歴ってなんですか!?そんな事言った覚えないですけど!?」
【あなた、あの夜言ったじゃない! 僕の人生は100戦して182敗だって!!】
「戦わずして、負け過ぎでしょ!! っていうかみんなの事ほったらかしにして訳の分からない事言い過ぎです!!」
「オレらはそういうの嫌いじゃねーから、別に気にしなくて良いぞ」
「アタシらも話が進めばそれで良い。面白くないよりは面白い方が良いから、その辺は好きにやりんさいな」
おおらかなのかなんだか分からないが、どうやら浪花さんと僕は受け入れられたようだった。
「猿正寺さん、鳥谷さん、改めて本題に入ろうと思いますが、異能力ドラフトを前にブルーハワイの奴らが私達に宣戦布告してきました。3組織を潰して裏社会を牛耳り、私達3人の命を狙うとも言ってきています。そこで私達の提案としては、3組織内での争いは一時休戦し、異能力ドラフトも一時延期して、とりあえず3組織で連合を組んで、皆で協力してブルーハワイを叩こうと思っているんですが、いかがでしょうか?」
「オレもその考えに賛成だな。とりあえずオレ達に楯突く奴らは早めに叩き潰しておかねーと、後々面倒くせーからな」
「アタシらはどっちでも構わないが、売られた喧嘩は買うだけだね。どの程度の協力をし合うかだけ決めてくれれば、3組織内での休戦って条件は飲むよ」
「ありがとうございます。では、3組織の休戦及びブルーハワイを倒すまでの同盟と、異能力ドラフトの延期については、合意のものとします。異能力ドラフトの延期に関しては、私の方から協会に連絡しておきます。後は、情報共有と協力支援をどの程度行うかの話を詰めようと思うのですが」
「オレらの所では、ブルーハワイ殲滅の為に特別部隊を選抜するつもりだ。今後は、そいつ達と連絡を取り合うようにしてくれれば良い。あまり人員は割けないが、腕の立つ奴等を選別するつもりだから協力してやってくれ」
「アタシらも同様の形になるだろうね。腕の立つ奴らを何人か選抜するから、その子らと新たな組織を立ち上げたら良いんじゃないかね」
「分かりました。私達もそうしましょう。後は早急に選抜メンバーを決めて、メンバーが決まり次第組織のリーダーを決め、その後はその組織中心で動いて行くという事でよろしいでしょうか」
「異議なしだ」
「アタシも異議なしだね」
「では、今話した内容で合意のものとし、今後は3組織の連合部隊を中心に、ブルーハワイの殲滅に取り組むものとします」
【選抜メンバーは、いつ決めるのよ。犬の散歩の時間があるから、チンタラしてられないわよ】
「それじゃ早くしねーとな」
小太郎の散歩が重要視されてる……
「奥に別室が用意されているので、各組織での話し合いをそちらで行いましょうか」
選抜メンバーは今日中に決める気のようだ。
「そうだな。30分後にまたここで話し合えば良いんじゃねーか? なぁ、ばあさん」
「問題なかろう。あんまりのんびりしすぎて、犬のご機嫌をそこねてもかなわんからな」
「では、30分後に再度集合という事で、一時解散とします」
一ノ条さんの掛け声で各組織の人達は別室に向かい、話し合いをしに行った。僕達も別室に移り選抜メンバーを決める事になった。
【で、誰が討伐隊に召集されるの?】
「組織の事を考えると、私は牛尾さんと浪花さんと柳町君の3人にお願いしたいと思っていますが」
「僕もですか!? しかも3人だけ!?」
「ワシもそれで良いと思う。ただワシも長くないから、ワシの後任の事も考えた方が良いかも知れん」
【そうね。フィレオフィッシュの後釜は、野上で良いんじゃないの? 私が居れば9割方何とかなるでしょ】
確かに…………
良い結果になるかは別としても、事は収まるかも知れない……
僕達の話し合いは思いの外早く終わり、1番早く席に戻った。
浪花さんはトイレに行くと言って、一旦会議部屋から出て行った。
会議部屋で2組織の戻りを待っていると、何やら外が慌ただしい雰囲気になってきた。
イボルブモンキーとテラフェズントの車が1台ずつ走り去ってしまい、組織の人達が走り回っていた。
浪花さんが帰って来た後、少ししてからイボルブモンキーの猿正寺さんと息子の尊さんが戻り、テラフェズントからは鳥谷さんと天影さんだけが戻ってきた。
外の慌ただしい状況を見て、一ノ条さんが心配そうに声を掛けた。
「何かあったんですか?」
「オレらのアジトにブルーハワイの奴らが乗り込んで来たらしい」
「アタシらの所もそうだ。今、猪熊と要を向かわせたから、とりあえずは問題ない」
「オレらの所もLJと神谷と朝比奈を向かわせたから、とりあえずは大丈夫だろう。つーか、奴らも派手にやってくれるな! 相当痛い目に会いたいらしい」
僕は一ノ条さんに小声で話し掛けた。
「(一ノ条さん。A級能力者達が誘拐された事もこれと関係あるんでしょうか?)」
一ノ条さんも小声で返してくれた。
「(私も、おそらく同じ手口だと踏んでいるが、現時点では何とも言えないな。A級能力者達が誘拐された事は、私達にとって不利になる情報だと思ったから敢えて彼らには言わなかったが、ここまで来たら情報を共有しておいた方が良いのかも知れん)」
「(ぼ……僕もそう思います)」
一ノ条さんは、イボルブモンキーとテラフェズントの状況を見て、自分達もおそらくブルーハワイからであろうと思われる強襲を受けていた事を、猿正寺さん達に公表しようとしていた。
「すみません。今回のブルーハワイの強襲に関して、こちらもお話しておきたい事が………」
一ノ条さんが話しを切り出した瞬間、突然天井と窓ガラスが割れた!! 出入り口の扉も破壊されて、青スーツの軍団が3方向から乱入してきた!!
「な……な………何ですか急に!!?」
気配が全く感じられなかった!!
突如現れたのは、せせらぎ 面太郎さんとMr.Gさんを含むブルーハワイの集団で、総勢20名近い人数で襲ってきた!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
今回から、いろいろな人物が登場して、少しづつ物語が展開して行きました。
また、次回もよろしくお願いします!




