第25話 捜査本部で夢の共演!
ブレイブハウンドで、A級能力者達が集団で誘拐される事件が起きた。
事件解決の為に集められたメンバーで、捜査を始める事になったのだが……
翌朝、エリアBの中にある会議室に6人が集まった。
内部の犯行では無いという事なので、ブレイブハウンドに敵対している奴らの仕業だという事は間違いないらしい。組織間の話となると、このメンバーでは茜さんや牛尾さんしか、詳しい事が分からない。
それともう1つ確認しておかなければいけないのは、以前浪花さんが言っていたように、牛尾さんが本当に犬飼 治五郎なのかハッキリさせた方が良い気がする。
死んだ人間がここに居たら驚くだろうが、ここに居るメンバーは信頼出来るし、お父様の事情も知っておいた方が、今後は動きやすくなるからだ。
「それでは早速ですが、ここにブレイブハウンドA級能力者集団誘拐事件の捜査本部を立ち上げます!」
仕切りは茜さんだった。
【その前にフィレオフィッシュの事について聞きたいんだけど、良いかしら】
「なんでしょう?」
【言える範囲で良いから、まずはあなたの素性を知りたいわ】
「そうですね。ドラフト選考会でのあの強さを見る限り、犬飼さんの推薦と言われていたあなたが、我々が信頼出来る味方である事は確かだと思いますが、私達はあまりにもあなたの事を知らな過ぎる。捜査を開始する前に、皆さんとの信頼関係を深める為にも簡単に自己紹介をしてもらいたいですね」
「それはかまわないが、私の事を知った以上は周りにこの事を口外して欲しくない。もし知られそうになった場合は、命をもらう事になるが皆にその覚悟はあるか?」
空気が一瞬ピリッとした。
「もし覚悟のない者が居るのであれば、今すぐこの場から出て行って欲しい」
誰も出て行く事はなかった。
皆もそれなりの覚悟でここに居るという事だろう……
「皆の覚悟は分かった。では本当の事を話そう。中には気付いている者も居るかも知れんが、私は犬飼 治五郎だ」
「い……犬飼さん!!?」
皆の頭に?マークが浮かんだ。
「そうだ。今日、葬儀が行われる犬飼 治五郎だ」
「な………何でここに……!? 生きていたんですか!!?」
一番驚いていたのは、クールな茜さんだった。
「いろいろ細かい事情はあるが、簡単に話すと、今後のブレイブハウンドを立て直す為に、一度ワシを死んだ事にして裏で動こうと思っているんだ」
「ブレイブハウンドを立て直す為ですか?」
「ピンピンしているように見えるが、ワシは不治の病で2ヶ月以内には確実に死んでしまう。それまでの間、ブレイブハウンド存続の為に自由に動きたいと思って考えたのが、先に死んでしまうという事だった。異能力ドラフトの事や京介の事もあるので、ワシはこの2ヶ月間はフィレオフィッシュ 牛尾として生きる事にした。この事は絶対に外部にバレたくない事だから、皆の覚悟を確認しておきたかったんだ。ちょっと脅かしてすまなかったな」
「そうだったんですね」
「この事を知っているのは、ここにいるメンバー以外では、一ノ条と烏丸、それと一ノ条の娘の静香ちゃんだけだ。瀧崎、井森、みのさんの3人にはあえて言っていないが、薄々感づいていると思う。あまり負担をかけたくないから、出来ればあの3人には黙っててくれ。ちなみにこの姿は静香ちゃんの異能力で、3時間だけ姿を変えてもらっている。ワシの葬儀が終わったら、静香ちゃんも合流してもらった方が良いかも知れんな」
皆は驚きを隠せないでいたが、僕と浪花さんはどこかスッキリした気分だった。それに、お父様が身近に居るとなると正直かなり心強い。
「犬飼さんが生きていた事には驚きましたが、話を戻してA級能力者集団誘拐事件の解明に移りましょうか」
さすが茜さん。動揺しているように見えたけど、彼女は思ったより冷静だった。
こういう時、話を上手に進行してくれるのは本当に助かる。
「まずは犬飼さん。……いや牛尾さん。あなたが一番心当たりがあると思う人達を、いくつか羅列して欲しいんですがよろしいでしょうか?」
「構わんよ」
「出来ればその相手との関係と誘拐する理由も、予測出来る範囲で良いのでお願いします」
突然、浪花さんが手を挙げた。
【ちょっと待って! その前にせっかくだから配役を決めたいんだけど】
「配役ですか?」
【もちろん私は水谷 豊で行くけど、柳町君は舘 ひろしで良いの?】
「な……浪花さん……何言ってるんですか?」
「私は柴田 恭兵が良いな」
お父様まで何を……
「ふふふっ………これがいつ何時でも楽しむ事を忘れない、犬飼イズムなんですね。流石です」
「そうですよね! もしかしたら、好きな俳優に成りきって捜査した方が早く解決するかも知れないですよ! 何でもそうですけど、好きでいる時のパワーって思っている以上に凄いですから!!」
何故か黒川さんと茜さんまでノリノリだった……
「黒川さんだったかな? キミは若いのに凄いな。実はそうなんだよ。何事でもそうなんだが、辛い時や悲しい時、そして下を向きたくなるような時が人生の中では多々あると思うが、それでも前を向かなければいけないと思ったら、結局の所、最後は笑うしかないのだよ。全ての苦しい事を胸の内にしまい込み、自分に悲惨な体験をさせた神様を恨みながら、涙を流して笑うしかないんだ。
私は60年しか生きていない若輩者だが、そういう気持ちでこのブレイブハウンドを作り上げて来たつもりだ。B級扱いされた行き場の無いやさぐれた奴らが、暴力だけでなく笑いを通じて影から社会を支える事が出来る場所を作る為に……。
そして、ここまでこの私に付いてきてくれた人達に、最後の恩返しをする為にも、皆の力を貸して欲しいと思っている。すまんが宜しく頼む」
牛尾さんは、僕達みたいな者に頭を下げた……
凄い……『実るほど、頭を垂れる稲穂かな』とは、こういう事なのか……
裏社会のトップになった人間は、人としての器が違う……
「牛尾さん頭を上げて下さい」
牛尾さんを気遣う茜さんの横を見ると、浪花さんが鼻提灯を作りながら居眠りをしていた……
流石に浪花さんも器が違う……
自分が振った話なのに、面白くないと思ったらこんなにも分かりやすく集中力が切れるなんて……
かなり良い話をしてくれて僕は少し感動したけど、浪花さんには眠たい話だったんですね……
そんな話するくらいだったら、笑える話の1つでもしろと言わんばかりの態度に、浪花さんはある意味牛尾さん以上の器だと思った。
そして僕は付いて行く人を間違っていないと、無理矢理自分に言い聞かせた。
「私は天海 祐希で行きます」
茜さん! いや、Boss! それ意外と良いです!!
「じゃ私は、堀北 真希でお願いします」
黒川さんも行くね〜!
「もちろん銭形 舞時代ですけど」
なるほど〜……それも良いですねぇ〜!
「私はコナンで……」
凛ちゃんはそっち系なのね……
【新右衛門君はさっき言った通り、ミニスカポリスで良いの?】
「何で僕だけ女装なんですか!!」
僕は周りから失笑をいただいた。
「僕は反町 隆史さんでお願いします!」
【却下】
「却下とかあるんですか!?」
【私の相棒には程遠いわ。アンタみたいな者は、百歩譲っても仲村 トオルよ】
「全然良いです」
っていうか、仲村 トオルさんに失礼でしょ!!
僕達は何故かヤバい空気を感じて、とりあえず皆で見えない何かに向かってお詫びをした。
「「どうも、すみませんでした!!」」
良く考えると、仲村 トオルさんに失礼って言った時点で、僕に対しても失礼だった事になるんだけど、その辺はややこしくなるのであえてつっこまなかった。
【では配役も決まった事だし、事件の話をお願いしましょうかね。大下さん】
覆面の上から眼鏡をかけ、何処となく右京さんに似せた浪花さんが、大下 ユージ役? であるお父様に話を振り、やっと状況が進展しそうだった。
注)配役の人達の意味が分からない方は、あぶない刑事や相棒を検索してお楽しみ下さい
「行くぜ!!」
バックミュージックでは、場にそぐわないRunning shotが流れ、牛尾さんが今回の事件の推理を始めた。
「オレが怪しいと思う線はいくつかある」
牛尾さんも負けずに柴田 恭兵さんに寄せてきた。
「普通に考えれば、イボルブモンキーかテラフェズントの仕業だと思うが、俺は最近力をつけてきている、ある組織の方が怪しいと思ってる」
【ブルーハワイでしょうか?】
「さすが右京さんだな。そうだ、俺もブルーハワイが怪しいと思ってる」
「ブルーハワイって、あの赤スーツの奴らですよね?」
そうだ! 黒川さんにとっては苦い思い出だった!
いや……それよりも気になるのが黒川さんが全然、堀北 真希に寄せていない!! 言った割りには似せる気無しか!?
「奴らにそんな力があるとも思えないが、最近の動きを見ていると妙な活動が目につくんだ」
【確かにそうですね。でも、とりあえずその3組織が怪しいとしたとして、これからどうしましょうか?】
「タカと一緒に直接話に行っても良いんだが、末端では意味が無いし、上の者はしらばっくれて終わりだろうな」
「じゃ、一体どうしたら……」
「真実はいつもひとつ!」
凛ちゃんが、突然決め台詞を言い放った。
何も答えを持っていなかったのか、いくら待ってもコナン君の名推理は発動しなかった。
【性には合いませんが、力ずくでやるしかないんですかね。トオル君はどう思いますか?】
「せ……先輩達に分からないものが僕に分かる訳ないじゃないですか!」
僕も頑張って似せていた。
【私とトオル君は、一度赤スーツ達のアジトまで行った事があるけど、もう一度踏み込んでみましょうか?】
「それは良いかも知れないですね。でも右京さん達は何故赤スーツ達のアジトに行く事になったんですか?」
Bossも意外と似ていた。
「それは私が赤スーツ達に誘拐された時に、助けに来てくれたからです」
黒川さんは、役者には向いていないようだ……。最初は全く似せる気がないのかと思っていたが、黒川さんは頑張って似せようとしてこの演技だったという事が、改めて分かった。
とりあえず堀北 真希並みに可愛いので誰もつっこもうとしなかったが、右京さんだけがおもむろに大根をかじっていた。
「そんな経緯があったんですね。私はたまにファルセットに出入りする事もあるので、コナン君と右京さんの事は何となく顔だけは知っていましたが、銭形さんやトオルさんとの関係がいまいち把握していません。今後の事もありますので差し支えなければ、その辺りの事を教えていただけないでしょうか?」
右京さんは「差し支えあるけどBossの頼みならしょうがないわね」といった感じで語り出した。
【私達3人は、実は仕事場の同僚なんですよ】
「そうなんですか?」
【私の素性は明かしたくなかったんですが、私はサテライトキングダムというB級能力者相談所で働いている柊 京子という者なんです】
「噂では聞いた事があります! 美人で優秀な先生が居るけど……(クセが凄いらしいと……)」
【顔が売れると仕事がしにくくなるから、ファルセット内や裏の世界では浪花のブラックダイヤモンドとして活動しているんです】
「そうだったんですね」
「黒かわ……いや、銭形さんはB級能力者相談所に来た相談者でしたが、後に僕達と一緒にうちで働く事になったんです」
「その時に相談した件が、赤スーツ達に追われている事だったんです。私もその時に危ない目に会いましたが、奴らはB級能力者達に目を付けているようでした」
【その後の噂でも、奴らは能力が発動したての中学生を中心に誘拐を繰り返しているらしいですね】
「いよいよ、赤スーツの方が怪しいな……。イボルブモンキーよりはテラフェズントの方が、やって来そうな手口ではあるから、俺はテラフェズントを探ってみる。右京さんとトオルは赤スーツを。Bossと舞ちゃんとコナン君は、イボルブモンキーの最近の動向や内部の組織図がどう変化してるか探ってくれ」
「分かりました」
Bossの命令で僕達は連絡先を交換し、それぞれ言われた任務を遂行する為に解散した。
「皆さん、くれぐれも危険な目に会わないように注意して動いて下さい。危ないと思ったらすぐにブレイブハウンドの誰かか、この中の人達に連絡して下さい。有力な情報が得られたらすぐに共有しましょう」
【トオル君。赤スーツの所に行くから車を回して来て下さい】
「わ……分かりました。そ……それは良いんですけど、いつまでこのキャラを演じてれば良いんでしょうか?」
「ノリが悪いわね。じゃ面倒くさいから、とりあえずここで本来の自分達に戻るわ」
自分から率先して始めたのに、面倒くさいって言うな……
僕は京子先生に言われた通り、瀧崎さんの車を回した。どこで手に入れたのか分からないが、何故か京子先生は瀧崎さんの車のキーをいつも持っている。僕が車を回してくる間に、京子先生はどこからか小太郎を連れて来ていて、一緒に車に乗せていた。
僕は京子先生の指示通りに運転し、京子先生の記憶を辿りながら赤スーツのアジトがあった場所に向かった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
ちょっと分かりにくい回になってしまったかも知れませんので、もしかしたらこの回は今後の編集対象になってしまうかもしれません……(苦笑)
次回は小太郎が活躍するとかしないとか……
次回もよろしくお願いします!




