第23話 だからダブルスの選手紹介も遊び過ぎ!!
異能力ドラフト出場者選考会もシングルスが終わり、遂にダブルスが始まろうとしていた。
準備が整い、これから出場選手が紹介される……
ダブルスの出場者が、続々と闘技場に集まり出した。
4組8名で行われるこの戦い。メンバーが全員揃った所で、出場者の紹介がアナウンスされた。
「それではこれより、ダブルス戦の選手紹介を行います!
まずは1組目はエントリーナンバー36番、南国育ちの暴れ馬コンビ レイチェルとグレイチェルです!!」
「ヤダ!! 何かヤダその名前!! 言いたくなるけど何かヤダ!!」
「レイチェルとグレイチェルは、ロシアでは有名なブーメラン使いです!! この決勝戦では、果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!! 実に楽しみな2人です!!」
「育ちは南国だけど、ロシアで有名な人達なの!? それに武器の使用は禁止されているからブーメランは使えないけど大丈夫なの!?」
「レイチェルとグレイチェルは凄く仲の良いコンビですが、実は兄弟でもなんでもないそうです」
「そ……そうなんですね」
「仲が良いって言っても、時には喧嘩をする事もあります」
「そ……そりゃ人間だもの」
「先日も横浜中華街を2人で仲良く食べ歩きをしていた時に、つまらない事で喧嘩をしてしまったそうです」
「ちょ……ちょっと瀧崎さん……その話、長くなります? 戦いに関係無い情報だったら、出来れば控えて欲しいんですけど……」
【私は聞きたいわ】
僕は何故か会場中からのブーイングを浴び、レイチェルとグレイチェルの「横浜中華街ぶらり旅」の話を聞かされる事になった。
「その日、レイチェルとグレイチェルは大学のラグビー部の練習を終えた後、ご飯を食べる為にとりあえず渋谷で待ち合わせをしたそうです」
「アイツオソイナー」
「ちょ……ちょっと待って!! もしかしてですけど、こっからミニコント風に始まるんですか!?」
「ボクはココにイマスですよ」
「イマスですって何!? っていうか、どっちがレイチェルでどっちがグレイチェル?」
「あの~すみません。ちょっと道を教えて欲しいんですが……」
「……と、このように渋谷で会った2人に、道を尋ねてきたのがレイチェルとグレイチェルでした」
「道を尋ねたのがレイチェルとグレイチェルなの!? じゃ、先に待ち合わせしてたの誰だよ!!」
【真田 哲臣と桜岡 新吉よ】
「だから誰ですか!?そのゴリゴリの日本人!! そもそも何で浪花さんがその事知ってるんですか!?」
【私は昔、横浜中華街でバイトをしてた事があるの】
「にしても、場面はまだ渋谷だからあり得ないでしょ!!」
【真田 哲臣と桜岡 新吉が待ち合わせで待っていたのは私だもの】
「そ……そうなんですか!?」
【この後3人でスポッチャに行って、お腹を空かせてから横浜中華街に行く所よ】
「お腹を空かせてからバイトに行くんですか!? 大丈夫なんですか!? っていうか何で横浜中華街行くのに、渋谷で待ち合わせ!? もしかして時間は5時じゃないでしょうね!?」
「……そして殴り合いの喧嘩をした後、2人は仲直りしてセブンイレブンの肉まんを食べたそうです」
「僕のボケはスルーですか!? っていうかいつの間に話進行してたの!? 何か大事な所聞き逃したけど!! 結局、横浜中華街に行ったのに、セブンイレブンの肉まんに落ち着いちゃったし!! もっと良い物食べれば良いのに!!」
僕だったら、豚まん、エビチリ、小籠包は必ず食べる!!
「続いて2組目は、エントリーナンバー37番、横浜中華街でバイトするのが大好き、真田 哲臣さんと桜岡 新吉さんです!」
「まさかの2人!!」
【久しぶりね】
「(浪花さん、今は柊 京子じゃないけど大丈夫なんですか?)」
【大丈夫よ。浪花のブラックダイヤモンドというキャラは、中学時代から既に確立しているんだもの】
「中学時代からですか!? 結構、息の長いキャラなんですね! てっきりファルセット内だけのキャラだと思ってました。っていうか、途中からちょこちょこ相田みつをが入ってるのが気になるんですけど」
【それはしょうがないわよ、人間だもの】
「そこも入れます!?」
「おっとここで、真田 哲臣さんと桜岡 新吉さんから申告がありまして、お2人は決勝戦を辞退するそうです! 何でもお2人は決勝戦に残られた浪花さんのお知り合いらしく、彼女と戦って勝てる自身が無いとの事です!」
【賢明な判断ね。他の人達も怪我したくなかったら辞退した方が身の為よ。だもの】
「だもの、無理やり入れんな!! だものの詰め放題か!!」
「そして3組目はエントリーナンバー38番、優勝候補筆頭のこの人達、高柳 スーザン時男選手と西田 モンゴメリー翔子選手です!」
「何か、こっちも凄い名前のが出て来たよ!!」
【噂の奴らね】
「奴らは去年から一気に頭角を現し、コンビで戦わせたら右に出る者は居ないとまで言われた奴らです!!」
「名前が面倒くさいからって、奴らで統一すな!!」
「高柳 スーザン 時男選手は、元々アメリカンフットボールの選手でしたが、ルールが分からずに近所のスーパーに就職したそうです」
「どういう経緯!? 百歩譲ってルールが分からずに辞めたとしても、近所のスーパーに就職した経緯は、はしょりすぎでしょ!! 全然分からん!!」
「西田 モンゴメリー 翔子選手は、どういう訳か夜になるとしゃっくりが止まらなくなり、大爆笑してしまうそうです!」
「それこそ何の話!? 皆ぶっ飛んでんのか!? 頭おかしいにも程があるぞ!!」
つっこみで飛ばし過ぎた僕は、戦う前から既にクタクタだった。
そして、いよいよというかやっとというか、僕達の紹介の番が回ってきた。
「最後はこの人達、エントリーナンバー39番……」
「やっぱり30番代!!」
「言わずと知れた関西の寝起きの黒豹こと、浪花のブラックダイヤモンドさんです!!」
観客席の一角だけ異常な盛り上がりを見せていたが、どうやら浪花さんの隠れファンが陣取っていたらしい。
覆面を被っているとはいえ、やっぱり見る人が見れば美形なのは一目瞭然。それに加えてこのスタイルだったら、多少の変人気質は男だったら書き消されてしまうだろう。
「そして、浪花さんのお供に指名されたこの人、B級の中のB級能力者、蔑まされる為に生まれて来た男、ガヤ芸人の成れの果て、使えない召使いのキングオブキング、路上に落ちてるゴミ袋、枕の中のパウダービーズ……」
「肩書きが長い!! 僕を罵るのは良いけど、最後の方訳分かんないから!! 枕の中のパウダービーズって良いのか悪いのか例えとして分からんわ!!」
「失礼しました。最後は、ナギマチです」
「面倒くさがるな!!」
「柳町さん頑張ってー!!」
何処からともなく、僕を応援する声が聞こえた。ふと振り向くと黒川さんが凛ちゃんと一緒に手を振っていた。
僕がそれに応えようと手を振ろうとした瞬間、浪花さんのコークスクリューアッパーが僕のアゴを綺麗に捉えて、身伸のまま4回転で宙に舞った僕の体は綺麗な弧を描いていた。
それはまさに、ロケット風船が飛ぶかのごとくの見事な舞いだったそうだ。(黒川さんの後日談)
「言わずと知れた浪花のブラックダイヤモンドさんは、ファルセットのJr.ユースからの生え抜き選手で、ドラフト選抜に出場する事こそ今回が初めてですが、この業界では誰もが認める強者であります。そして何より、あの有名な犬飼三羽烏の1人と称されております」
「犬飼三羽烏!?」
「そうです!! あの西荻窪で有名な犬飼三羽烏です!!」
「西荻窪どうでも良い!!」
「犬飼三羽烏と言えば、タキシード烏丸さん(烏丸 悟)、浪花のブラックダイヤモンドさん、そして最後の1人があのアベンジャーズです!!」
「多い!! 最後多いよ!! せめてアイアンマンだけとかにして!!」
「失礼しました。最後の1人は田中 健太君です」
「あっさりした普通っぽい人出て来た!!」
「田中 健太君は………」
「いや! 誰だか気にはなるけど、出場選手じゃない人の紹介はとりあえずいいんじゃないでしょうか!?」
またもや僕は会場中のブーイングを浴びてしまい、完全にヒール扱いになってしまった。
【私も気になるから、田中 健太君の事は知りたいわ】
何故いつも、僕だけが間違っているような扱いを受けてしまうのだろう………
僕がおかしいのか!!??
「田中 健太君は現在、逃走中で行方不明となっています」
「逃走中!? そいつ悪い奴なの!?」
「健太君は現在3歳で……」
「3歳!?」
「人で言うと28歳くらいです」
「人じゃないの!?」
「そうです。田中さんは人ではなく、異能力を持っている黒い色をしたミニチュアダックスフンドです」
「(小太郎〜さん!!?)」
人年齢では僕より歳上の28歳なので、さん付けさせてもらいましたが、まさかの小太郎さんが犬飼三羽烏だったとは……
浪花さんも初耳だったらしく、マスクの下の表情は明らかに驚いていた。
「浪花さんは犬飼三羽烏としてだけではなく、闇アイドル業界で異例の100万ダウンロードを記録したミステリアスデュオ『ブラックorホワイト』の黒担当としても有名です!!」
「浪花さん、闇アイドルもやってるんですか!!?」
【良かったら今度、私の活動と一緒に相方も紹介するわ】
まさか浪花さんがアイドル活動してるなんて……
休日に何をやっているのか気にはなっていたけど、本当に普段から幅広い事をやる人だなぁ……
何かブラックorホワイトの事が気になって、戦いに集中出来なくなりそうだ……
「そしてお供である柳町 新右衛門さんは、浪花さんの従順な僕であり、プライベートな事はほどんど謎に包まれております」
「別に隠しているつもりはないですけど、誰にも興味を持たれていないだけです」
「ただ、我々の情報網をなめてはいけません! 彼の情報として分かった事が、7つほどありましたのでここで紹介致します!」
7つって微妙だなぁ~……
「①男性である。
②パンダではなく人である。
③ネスカフェよりジョージア派である。
④フランスには行った事がない。
⑤女性ではない。
⑥クジラでもない。
⑦どうでもいい。
⑧早く引っ込んで欲しい。
⑨顔が気持ち悪い。
⑩つっこみとかマジうざい。
⑪マジ卍………」
「ちょ、ちょ、ちょっとー!!! 何言ってるんですかー!!?? 7つじゃないし!! 情報も訳分かんないし!! 最後の方、ただの悪口じゃないですか!!?」
【そのつっこみが、うざいって言われてるのよ】
「わ……分かってますけど」
浪花さんが、つっこみ頑張れって言うから日々頑張ってんのに、ヒドイわ〜!!
僕にはもう、黒川さんくらいしか味方は居ないのか……
ぞんざいな扱いに涙をこらえながら黒川さんの方を見ると、何故か黒川さんは周りの人達にサインをねだられていた。
既に黒川さんと凛ちゃんにも、隠れファンが出来たようだった。
「それでは、急遽3組で行われる事になりましたダブルスの決勝戦を行いたいと思います! 皆さん準備はよろしいでしょうか!」
レイチェルとグレイチェル、高柳 スーザン時男さんと西田 モンゴメリー翔子さん、そして僕達2人は三角形に対峙し、戦闘の構えをとって開始の合図を待っていた。
「異能力ドラフト出場者選考会、ダブルスの決勝戦。この戦いが、選考会最後の戦いとなりますので、皆さん是非注目してご覧下さい!! では、始めます!! レディー、ファイティング!!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
選手紹介だけで遊んでしまうこの癖を、何とかしたいと思いながらも楽しんで書いてます(笑)
次回はやっと京子と柳町の出番なので、是非期待して下さい!!




