第22話 B級異能バトル!!
遂に始まった異能力ドラフト出場者選考会のシングル決勝戦!
長ったらしい選手紹介を終え、やっとの事でバトルが始まろうとしていた!!
遂に始まった異能力ドラフト出場者選考会のシングル決勝戦。
誰が勝ち残るのか全く分からないこの状況を、会場中全ての人達が闘技場の舞台に注目していた。
「浪花さんは、誰が勝つと思いますか?」
【1位はフィレオフィッシュ 牛尾。2位は犬飼 京介かコケコッコー 野上って所かしらね】
フルネームで答えてもらう必要はなかったが、とりあえずここはつっこまずに流そうと思った。敢えてつっこむのであれば、コケコッコー 野上さんは瀧崎さんが勝手につけた名前で、登録名は野上 敦だという事くらいだ。選手紹介はあったものの、実力に関する有力な情報が全く無いに等しかったので、戦況が読みづらい事は確かだった。
僕的には1位が野上さん。2位が京介さんか牛尾さんかなぁ……
大穴で田森さんというのもある気がするが……
いつの間にか有馬記念並みの予想をしている自分に罪悪感を感じ、決勝戦に集中する事にした。
6人のにらみ合いが続いている中、先に動いたのは野上さん、牛尾さん、京介さんの3人だった!
【当然こうなるわよね】
「どういう事ですか?」
【優勝候補として目をつけられている人達は、手を組まれて挑んで来られる方が厄介でしょ?】
「そうか! だから手を組まれる前に、1対1で先に潰しにかかるんですね!」
【そういう事ね】
野上さんは田森さんと、牛尾さんは菊地さんと、京介さんは二位さんと対峙する事になった。
野上さんは明らかに身体能力が高く、無口なコメンテーターとしての田森さんは、まともに戦っては歯が立たない事は目に見えていた。
それを既に悟っていたのか、田森さんは出し惜しみする事無く、いきなり自分の異能力を発動させた!!
「『売れない声優』!!」
そう発した田森さんの口元が異能力オーラを纏った!!
「ワンワンワンワンワン!!」
田森さんの叫んだ犬の鳴き声は、驚く事に物体化した!!それは漫画でいう擬音のような物で、ドラえ○んに出て来るジャイ○ンが、歌う時に出す「ボエ〜!!」のような物だった!!
普段無口で居るのは、言葉を物体化する事が出来るからなのか!?
「ニャ〜ニャ〜ニャ〜!!」
「ホーホケキョ!!」
「クックドゥードゥルドゥー!!」
彼の戦い方を見る限り、動物の鳴き声しか物体化出来ないのかも知れない……(もしかして彼もB級なのか!?)
※ちなみにクックドゥードゥルドゥーは、英語版ニワトリの鳴き声です。
多少の制限はあるようだが、飛び道具という能力を持っているのはかなり有利だ。現に野上さんは攻めあぐねていて、攻撃を避けるだけになっている。物体化した声の質量は声の大きさに比例するようで、大きい声で発すれば大きくなり、小さい声で発すれば小さく物体化するようだ。
なかなか近づく事が出来ない野上さんは、防戦一方のままだったが、まだ異能力を発動する様子も無く、ただただ避けているだけだった。
一方、闘技場の別の場所では、牛尾さんと菊地さんの戦いが行われていて、既に勝負がついているようだった。何が起こっていたのか分からないが、菊地さんは仰向けに倒れていてピクリとも動かなかった。
会場のモニターにリプレイ映像が流れた瞬間、会場中がざわめいた……
スロー映像でも追えないほどのスピードだったが、牛尾さんが放ったのはただのデコピンだった!!バク宙のように8回転した菊地さんの体は、大車輪のごとく転がって行き、闘技場の後方で大の字に倒れ込んだ!!
犬飼さんが推薦する意味が分かった……
異能力なのかどうかは分からないが、ただのデコピンがこれほどとは……
この映像を見て会場中の誰もが、牛尾さんの実力が本物だという事を確信したんではないだろうか。
一撃で勝負のついた牛尾さんは、京介さんと二位さんの戦いに参戦しようとしていた。
卑劣な手口の京介さんは、女性である二位さんを弄び、チャイナドレス風の服を少しずつ破るようにして、肌を露出させようとしていた。
それを見かねた牛尾さんが、二位さんに手を貸すような形で戦いに割って入って行く。
「何だ? オヤジの推薦だか何だか知らねーが、女の前で良い格好しようとしてんじゃねーよ!! まぁ、俺に楯突く奴は、どんな奴だろうがただじゃおかねーけどな!!」
「二位さん。アンタはとりあえず下がってなさい。ここは私が京介の相手をする」
「………?」
「1位の出場権は私が頂く! 私は手加減しないから、あなたも本気で来なさい!」
「フン!俺もお遊びに飽きてきた所だ。ちょっとは張り合いがありそうだから、少し本気で相手してやるよ!」
そう言った京介さんは、おもむろに殺気を出して臨戦態勢に入った。
「『お前の物は俺の物』!!」
異能力を発動した京介さんは、右手を振りかざしながら牛尾さんに飛びかかった!!
牛尾さんは余裕のあるバックステップでかわし、京介さんの顔に軽くジャブを返した。綺麗にかわされたせいで、京介さんの異能力がどんなものなのか分からなかったが、牛尾さんは京介さんの動きを見切っているようだった。
「お前……俺の能力を知っているのか!?」
「………」
「どっかで会った事があるのか……?」
「………」
「返事をしないって事は、そうだと受け取るぜ!!」
今度は、さっきの倍以上のスピードで牛尾さんに飛びかかって行った!!
会場中の誰もが、目で追うのがやっとなほどの攻防戦を繰り広げていたが、牛尾さんはそれでも余裕があり、ヒラリヒラリと闘牛士のように攻撃をかわしていた。
牛尾なのにマタドールのような戦いぶりで………
確かに京介さんの言う通り、牛尾さんは京介さんの能力を知っているような戦い方だった。
会場中が沸いている中、今までかわす事ばかりしていた牛尾さんが、一転して攻撃体制に入った!!
バトルフィールドとして使用されている、闘技場の足場のプレートを、片手で1枚剥がしてしまったのだ!!
なんていう腕力なんだ!!
縦も横も3m以上はありそうな石のプレートを、片手で軽々と持ち上げるなんて!!
牛尾さんはそのプレートを、京介さんに向かってフリスビーのように投げた!!
ギリギリでかわした京介さんを通り越し、プレートは会場の壁に突き刺さったが、京介さんの真後ろには既に牛尾さんが回り込んでいた!
京介さんの後頭部を鷲掴みにした牛尾さんは、そのまま地面に顔を叩きつけ、京介さんを力で抑え込んでしまった!
顔面をモロに打ちつけた京介さんは、頭を抑えつけられたままで身動きがとれず、怒りの表情を浮かべたまま、横目で牛尾さんを睨み付ける事しか出来なかった。
「頭を抑えつけられただけで、完全に動けなくなってる!!」
早く降参しろと言わんばかりの圧力で抑えつけている牛尾さんに、二位さんが近寄って来た。
「牛尾さん。手を離して下さい。この人の相手は私がやります」
京介さんの攻撃で服が破れたままの二位さんは、片手で胸元を隠しながら、牛尾さんに歩み寄った。
二位さんの言葉を聞いた牛尾さんは、抑えつけていた手を緩めて京介さんを解放した。
京介さんは飛び退いて距離をとる瞬間、牛尾さんに一撃入れようとして、逆水平チョップのように腕を振り回したが、牛尾さんはそれすらも軽々とかわしてしまった。
「アンタの手に負えるのかい?」
「私は自分の力を試したいの。実力社会のこの世界で、自分が今、どの位置に居るのかを知ってもっと強くなりたいのよ」
「アンタじゃ勝てんと思うが、やるだけやってみるんだな」
牛尾さんは二位さんを置いて野上さん達の方に向かった。
野上さんを相手にしていた田森さんは、さっきまで異能力である『売れない声優』を連発していたせいか、既に喉が枯れていた。
持久戦に持ち込まれたせいで、田森さんは打つ手が無くなっているようだった。
身体能力でも異能力でも勝てない上に、戦闘慣れしている相手となると、田森さんに勝機はないだろう……
ここまで力の差があるとは思っていなかったような田森さんは、悔しがりながら降参した。
「お前が野上か。噂通りなかなかやるじゃないか」
牛尾さんが野上さんの後ろから話し掛けた。
「牛尾さん。アンタ、スカウト組らしいが名前は聞いた事が無いな。只者じゃないのは一目で分かるが、一体何者なんだ?」
「お前が勝ったら教えてやっても良いぞ」
野上さんは「だったら簡単なもんだ」と言いたげな態度で苦笑いし、牛尾さんに肉弾戦を挑んだ!
野上さんの攻撃は、さっきの京介さんの動きよりも早く、人の動きでは無いくらいのスピードだった!!
しかし、それでも牛尾さんには攻撃が当たらず、野上さんの一歩上を行っているような余裕が感じられた。
野上さんの乱打中に、牛尾さんが繰り出した1発のカウンターパンチが野上さんの頬をかすめた瞬間、野上さんの目が本気になり突然異能力を発動させた!!
「『ワンコの通院』!!」
そう叫んで牛尾さんに手をかざした瞬間、牛尾さんの首周りにメガホンのような物が現れた!!
それは、犬や猫が治療した後に顔をかかないようにする為の道具で、エリマキトカゲのような形をした首に巻く器具だった!!
牛尾さんは突然現れたエリザベスカラーに一瞬気をとられてしまった! 野上さんは、その牛尾さんの一瞬の隙を見逃さず、土手っ腹にトラースキックを叩き込んだ!!
初めて片膝をついた牛尾さんはニヤリと笑いながら、エリザベスカラーを両手で潰して破壊した!!
すぐさま『ワンコの通院』を再発動させた野上さんは、戦いながら自分の能力を解説し出した。
「俺の能力『ワンコの通院』は1度に5つまで出せる。1人の相手でも首周りと両手両足に同時に出す事が出来る!」
「それがどうした」
確かに!
牛尾さんに発動させても、簡単に破壊してしまうから一瞬の隙しか作れない!それに1度見ているから、今度は奇襲としても使えないし、説明するだけ自分が不利になるんじゃ……
エリザベスカラーに全く動じない牛尾さんは、そのままの格好で野上さんに襲いかかった!!
しかし次の瞬間、牛尾さんはいきなり頭を垂れて動きが止まってしまった!!
「話は最後まで聞くもんだぜ。俺のエリザベスカラーはもう1つ特徴があって、1個につき100㎏まで重くする事が出来るんだ」
100㎏!?
【1つで100㎏だったら、5つで200㎏ね】
「どういう計算!? 浪花さん、ちょこちょこ計算おかしいですけど、算数弱いんですか!?」
【毎日、うんこドリルはやっているわ】
「やらなくて良いです、その歳で!! っていうか、やってる割にはです!!」
この人、本当に計算出来るのかなぁ……!?
独立して相談所をやっているくらいだから大丈夫だと思っていたけど、僕の給料と言い、こういう計算と言い、算数に関しては僕より下なんじゃないかと思う事が多々ある。
まぁ、そんな事を考えてもしょうがないので、今はとりあえず決勝戦に集中しよう。
野上さんは牛尾さんの両手両足にも、エリザベスカラーを発動させた!! そして全て100㎏の重さにしているようだった!!
身動きのとれない牛尾さんに攻撃を仕掛けようとした瞬間、牛尾さんは全身に力を入れてエリザベスカラーを全て破壊してしまった!!
牛尾さんの姿は倍以上に膨れ上がり、ドラゴ○ボールの亀○人が本気を出した時のような肉体美だった!!
そして、まだまだ余裕のありそうな牛尾さんは、野上さんとの距離を縮めながら威圧してきた。
「お前の技はそこまでか? まだ奥の手があるなら、今のうちに見せてみろ」
たじろぐ野上さんがモニターに映し出された瞬間、会場中がざわつき出した。
良く見ると牛尾さんの姿にざわついた訳では無く、二位さんと京介さんの戦いに動きがあったようだった。
闘技場の端では、さっきよりセクシーに服を破かれてしまった二位さんと、それを涎を垂らしながら見ている京介さんの姿があった。
「な……何があったんですか?」
【モンハンやっていて見ていなかったわ】
「今やんないで下さい!! もっとリアルな戦いに集中しましょうよ!!」
良く見てみると、京介さんの足下に水溜まりのようなものが出来ていた。
ふらつき気味の京介さんは、少しずつ前のめりになり蹲りそうな勢いだった。
会場のモニターに映し出された京介さんは、何故か痩せ細っていて、それはもうサムゲタンだった。
「も……もしかすると、足下の水って……」
【京介の涎なんじゃ!!?】
尋常じゃない量の涎を出していた京介さんは、既に脱水症状を起こしていて、もはや戦える状態ではなかった!
体中、アザだらけになって弄ばれていた二位さんは、どこかのタイミングで異能力を発動したらしく、ボロボロになりながらも京介さんを倒してしまった!
闘技場に堂々と立ち尽くしている牛尾さんとその強さに戦意を喪失してしまった野上さん。そして、もはや戦える状態ではない二位さんを見て、誰もがこの戦いに決着がついた事を悟った。
タンカで運ばれた京介さんと二位さんが居なくなり、負けを認めた野上さんを確認すると、場内にアナウンスが流れた。
「今回のシングルス戦!! 勝者はフィレオフィッシュ 牛尾選手です!! そして、牛尾選手に負けを認めてしまったものの、ここまで選抜選手として相応しい戦いをしてくれた野上選手が2位となり、異能力ドラフト3戦目の出場者として選ばれます!! 皆さん、お2人に盛大な拍手をお願い致します!!」
会場中が拍手で包まれた後、闘技場の壊れた床を直す為に整備の時間が設けられた。
「凄い戦いでしたね」
【終わってみればフィレオフィッシュの独壇場だったわね】
「そう言えばさっき、牛尾さんの事知ってる風でしたけど、あの人は一体何者なんですか?」
【多分だけどあの男は………】
「(犬飼 治五郎だと思うわ)」
「え~っ!!」
浪花さんは周囲にバレないように小声で教えてくれた。
「(あれがお父様ですか!?)」
【さっき出場登録をする前に、あの人から連絡があったのよ】
「そう言えば、急にダブルスに変更しましたよね!」
【詳しい事は聞かなかったけど、私はあの瞬間、あの人も出るんだと解釈したわ】
「そういう事か」
【結局は目立ちたがりなのよ】
そこは親譲りって訳ですね……
それにしても……
「あの姿は一体どういう事なんですかね? あれがお父様の異能力なんですか?」
【違うはずよ。噂でしか聞いた事はないけれど、あの人は怪力をウリにしてたはずだから】
確かに、さっきの怪力はハンパじゃなかった! 全然本気を出してる感じもしなかったし、正直強さの底が見えない……
【おそらく誰かの異能力で、姿を変えているんだと思うわ】
そうだとしても凄い……
そんな能力を持っている人が居るなんて、本当に世の中が広いと感じてしまう……
僕なんかまだまだヒヨッコ同然だからな……
しばらくすると闘技場の整備が終わり、今度はダブルスの出場者が上がるように指示された。
【いよいよ私の出番ね】
「そうですね。出来るだけ浪花さんの足を引っ張らないように頑張ります!」
【新右衛門君も戦う気なの?】
「えっ!? 勿論、ダブルスなんでやる気でいますけど……」
【出場登録はお願いしたけど、私は1人でやるつもりだから邪魔しないでね】
そ……そうだったんだ……
確かに僕は居ない方が戦いやすいかも知れない……
【とりあえず闘技場には上がりなさい。その後は私の後ろで、金魚のフンみたいにくっついていれば良いわ】
「か〜しこまりました〜!!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
次回はダブルスも始まりますので、乞うご期待!!




