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第20話 ネーミング師 ミハネさん

犬飼 治五郎の勧めで自分の異能力にネーミングをつけてもらう為、ネーミング師の所に向かう事になった京子と柳町。

その途中に案内役として烏丸 茜と合流する為に、タクシーに乗って釣り堀に向かう事になったのだが……

 タクシーに乗りながら外の風景を見てる限りでは、場所が何処だか分からなかったが、30~40分ほど乗っていたら目的地である釣り堀に着いた。

 京子先生が先に降りてしまった為、当たり前のようにタクシー代を払わされた僕は、邪魔になると思ったバナナを運転手さんにあげてタクシーから降りた。


「何でタクシーを帰しちゃったの!?」

「えっ!? 特に何も言われなかったので……」

「茜さんと合流したらネーミング師の所に行かなきゃいけないのに、足が無かったらどうするのよ!!」

「すみません……」

「本当にいつも考え無しね!! 呑気になって中身までパンダみたいになってんじゃないわよ!!」


 そうだった……僕の顔はパンダのように落書きされたまんまだった……


「新右衛門君に渡したバナナはどうしたの?」

「あっ……さっき邪魔になるかと思って、運転手さんにあげちゃいましたけどマズかったですか?」

「食べてないから分からないわよ!!」

「そういう意味の()()()じゃなくて、あげない方が良かったんですか?っていう意味です!」

「当たり前でしょ!! え〜っ!! お腹が空いたから食べようと思ってたのに!!」

「さっき食べたばっかりでしょ!?」

「何なのアンタは!? 私を餓死させたい訳!?」

「お腹一杯食べてたように見えましたけど、全然足りなかったんですか?」

「私のお腹が一杯かどうかを、なんでアンタが決めるのよ!! 柳町君にそんな権限があると思ってるの!? バカな事ばっかり言ってるとパワハラで訴えるわよ!!」


 そっくりそのまま返したい……


「早く2人分払ってよ! 中に入れないじゃない!」


 また僕が払うのか……


 僕はいろいろな事が納得行かないまま、釣り堀の参加料を2人分払った(1人1500円)。中に入ると、25mプールくらいの釣り堀に10人程度の人が参加していた。参加者の中に1人だけ尋常じゃない量の魚を釣り上げている、スーツ姿の女性がいた。

 眼鏡をかけたモデル体型のその人は、敏腕秘書といったようなイメージだろうか。釣りをしている姿勢も良くて、明らかにこの場にそぐわない美人だった。釣り堀の魚を全て釣り上げてしまうんじゃないかと思うほどのペースで釣りをしていたその人を、周りの人達は冷たい視線で見ていた。


挿絵


 釣り上げた魚はバケツに入れられていたが、彼女の周りには魚が溢れているバケツが50個近く置いてあった。

 そう言えば入り口に書いてあったが、釣った魚は1匹50円で引き取ってくれるらしい。

 間違いなくあの人は元を取っただろう。

 僕がその女性の釣りっぷりに目を奪われている隙に、いつの間に京子先生が釣りを始めていた。既に食いついているその竿は、レーザービームのように糸が張っていて、かなりの大物がかかっているようだった。

 そして京子先生は、片手でスナップを利かせて軽々と釣り上げてしまった!

 マグロかと思うほどのその魚は、1mは余裕で超えている。その大きさにも驚いたが、良く見ると針が刺さっているのが口ではなく、魚の横っ腹の所だった事だ! 釣り方を見ていた訳ではないので確信が持てないが、おそらく京子先生は竿を投げ入れる時に()()()()()()()()()()()()んではないだろうか……(おそらく京子先生意外には真似出来ないだろうが……)

 自分以外の人間に注目が行ってしまっている事に、対抗心を燃やしたのかなぁ……


「新右衛門君! 早く(さば)いて!」

「早いでしょ!! もう食べるんですか!! っていうかこの魚、このまま食べても大丈夫なんですか!?」

「私のもお願いするわ」


 僕と京子先生が激論をしている間に、その眼鏡の女性が僕の後ろに立っていた。


「あなた達が、一ノ条さんが言っていた柊さんと柳町君ね」


挿絵


「じ……じゃあ…………あ……あなたが茜さん……!?」


 何でそんな驚いたリアクション!?

 犬飼さんの話からすると、見るからにこの人が茜さんでしょ!!

 京子先生は、たまたま働いていたコンビニで、実は店長が生き別れた父親だったと判明した時の演技をしている、広瀬◯ずのようなリアクションをしていた。


「初めまして。私、烏丸 茜と申します。一ノ条さんからの命令で、あなた達をネーミング師の所まで案内するように言われています。いろいろな事を知りたいとも聞いていますので、道中に質問していただければ、答えられる事は全てお答えします」

「ありがとう。助かるわ。私は柊 京子。こっちは助手のライトセーバー青木よ」

「違います!! 柳町 新右衛門です!! そんなB級レスラーのリングネームみたいなの、やめて下さい!!」


 最悪の第一印象を与えてしまったが、僕はとりあえず2人が釣った魚を処理したかったので、店員さんを呼んで引き取ってもらう事にした。

 そして換金したお金を2人に渡して、早々に釣り堀を後にした。

 僕だけが釣りを堪能出来なかったのは心残りだったが、当初の目的はネーミング師に会いに行く事なので無理矢理自分を納得させる事にした。


「私は車で来ましたけど、あなた達も車なんですか?」

「私達はセクシー……いやタクシーよ」

「じゃ、ちょうど良いから私の車で行きましょう」

「柳町君は体重200kgあるけど、あなたの車、大事かしら」

「1時間もあれば着くと思うから乗って下さい」


 僕達は『()()()の茜さん』の言う通り車に乗り込み、ネーミング師の所に向かった。

 ※透かしとは『ボケ』に対して『つっこみ』や『リアクション』をとらず、スルーする間で笑いをる技術である。


「茜さん。あなたはいくつなの?」

「私は32です」


 お姉様……


「スリーサイズは?」

「78、51、82です」


 お……お姉様……!?


「彼氏はいるの?」

「いません」


 あの〜……


「最近キスしたのはいつ?」

「答えるのは良いんですが、もっと別に聞きたい事があるんじゃないですか?」

「そうですよ京子先生! もっとブレイブハウンドの事とか、裏社会の情報を知っておきましょうよ!!」

「柳町君が聞いてって言ったんでしょ!?」

「言ってません!! 流石に変態の僕でも、初対面の人にそんな失礼な事聞きません!!」


 危ねー!! 僕のせいにされる所だったー!!


「さっき、キスの所だけは必ず聞いてって、私にお金をよこしたじゃない!!」

「あれは京子先生が釣った魚を換金した分のお金です!! もしそうだとしても50円で買収されないで下さい!!」

「8年前よ」

「茜さんも答えないで良いです!!」


 答えてくれて嬉しいけど!!


「私達は毎日してるものね」

「してないです!!」


 したいけど!!


「茜さん、あなたも異能力者なんでしょ?」

「そうです」

「あなたも、これから行くネーミング師に能力名を付けてもらったの?」

「はい。私の能力は『手の届かない所を痒くする能力』です。付けてもらった能力名は『孫の手泣かせ(インポッシブルラブ)』」


 孫の手泣かせ(インポッシブルラブ)!!


「私は最初、ブレイブハウンドに入った時は、烏丸の妹というだけで誰も私の事なんか気にも止めませんでした。全然強くもなかったし、毎日雑用だけをこなしていました。しかし、このネーミングを付けてもらってからは、戦いではほとんど負けなくなって、いつの間にか私に歯向かう者が居なくなるほど強くなる事ができました。ブレイブハウンド内でもある程度の地位を与えてもらう事も出来たし、ネーミングを付けてもらう事で能力が上がる事は確かですよ」


 凄い……能力の質にもよるだろうけど、そんなに効果があるなんて……


「簡単で良いんだけど、ブレイブハウンドという組織の歴史や内部のピラミッド(勢力図)を教えてくれるかしら」

「創設者は、先日無くなった犬飼 治五郎氏。彼の出現のより、ブレイブハウンドが裏社会の頂点に君臨する事になったの。元々、イボルブモンキーとテラフェズントの間で抗争が絶えない時期があったんだけど、ブレイブハウンドがトップに君臨する事で、大きな抗争は起きずに裏社会全体のパワーバランスを保つ事が出来るようになったんです。犬飼さんは圧倒的な力でトップに君臨しているように見えてたけど、本当は争い事はあまり好きじゃない人なのよ。好戦的なイボルブモンキーやテラフェズントに比べて、ブレイブハウンドはどちらかというと、友好的にやっていきたいと思っている組織なの」

「そうなんですね。争い事はしたくないけど、結果的には犬飼さんにビビって周りが手出し出来ないっていう形だったんですね」

「そうね。イボルブモンキーのトップ猿正寺 光秀とテラフェズントのトップ鳥谷 紫園はライバル同士だけど、手を組んででもブレイブハウンドを潰すべきか、いつも駆け引きしていたようね」

「暇だ事……バカじゃないかしら」


 そんな身も蓋もない事を……


「犬飼さんはパワーバランスを考えて、いつもその2組織を気に掛けていたわ」

「どういう事ですか?」

「だから、そのどちらかが強くなり過ぎてしまっても、力関係が危うくなるって事でしょ? ちょっと考えれば分かるじゃない! 本当に安定してバカなんだから柳町君は!」


 安定したバカ柳町……

 京子先生の言葉はいつも間違っていないだけに、心に深く突き刺さる……


「異能力ドラフトも犬飼さんが発起人になって始めた事で、各組織が同じくらいの力が持てるようにって考えたのが最初みたいです。異能力者がやって行くにはまだまだ難しい社会だから、異能力業界の可能性を沢山切り開いてくれた人でもあるのよ」

「あのオヤジがねぇ……」


 茜さんがバックミラー越しに京子先生と目線を合わせ「この人、犬飼さんの事知ってるのかしら」という表情で不思議そうに見ていた。


「ブレイブハウンドは犬飼さんの死後、一ノ条さんがトップに立ち、私の兄、烏丸 悟がナンバー2、そして犬飼 京介さんがナンバー3となっているわ。最近は京介さんの下に派閥が出来始めて、治五郎さんの意志を継ぐ一ノ条さんの派閥と二分する形になり始めているの」

「内部分裂しそうって事ですか!?」

「そういう事です。亡くなった治五郎さんは人望も厚かったから、8割方は一ノ条さんについているけれど、2割位のならず者の武闘派達が一ノ条さんの2代目を良く思っていないんです」

「面倒くさいわね……何よその内輪揉め。タイマンして勝った奴がトップで良いじゃない!! 弱い奴が集まってグダグダやってんじゃないわよ!!」


 確かにそうだけど、武闘派っていうくらいだから、なかなか一筋縄では行かないんじゃないだろうか……。京子先生だから出来る発言ではあるが……


「そういえば柳町君。さっき焼いてたのハラミじゃないから」

「今言う〜!? 散々泳がせてたのに、今言います!?」


 あの時否定してくれれば良かったのに、何で今!?


「道が空いていたから、思ったより早く着きました。降りてください」


 ハラミのくだりが納得出来ないまま車から降りると、目の前には昔からやっていそうなアンティークショップがあった。

 茜さんを先頭にお店の中に入って行くと、50代くらいのおば様が1人で店番をしていた。


「いらっしゃい。……? お客様、以前にもいらしたかしら?」

「はい。烏丸 茜です。以前にお世話になりましたが、ミハネさんはいらっしゃいますか?」

「あぁ、ミハネさんのお客様の烏丸さんね……。ミハネさんなら奥に居ますわ。どうぞこちらへ」


 店の奥に通された僕達は、居間のようにも見える薄暗い部屋に案内された。

 魔女でも出て来そうな占い館のような雰囲気のその場所には、1人のお婆さんが座っていた。


挿絵


「あら、お客さんかい?」

「ミハネさん。こちら、犬飼さんの所の人達よ」

「お久しぶりです。ブレイブハウンドでお世話になっている烏丸 茜です。以前お伺いしたのは8年位前だと思いますが、覚えてらっしゃいますか?」

「あぁ……犬ちゃんの所の子ですか……」

「はい。烏丸 悟の妹の茜です。その節はありがとうございました。ミハネさんのお陰で私の人生は変わりました」

「烏ちゃんの妹さんですか……。すみませんねぇ、ちょっと覚えてませんでした。ごめんなさいね」


 優し気でどこか上品なそのお婆さんは、ずっと目を瞑ったままで目が見えていないようだった。


「いえいえ、お伺いしたのはかなり前ですから、覚えていなくて当然です。お気になさらずに」

「あなたにはどんなネーミングを付けてあげましたかね?」

「私の能力は『孫の手泣かせ(インポッシブルラブ)』と付けていただきました」

「あぁ~! 思い出しましたよ! あの時の子かい!? かなり雰囲気が変わったので分かりませんでしたよ!!」

「覚えていてくれてありがとうございます。私にとってミハネさんは一生忘れる事の出来ない大恩人です。ミハネさんには感謝しかありません」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないですか。長生きもしてみるもんですね。それで今日はどうしたんですか? 以前にもお伝えしているかも知れませんが、私は毒リンゴだけは作れませんからね」

「今日はここに居る2人の方に、能力名を付けていただきたいのです」

「私は目が見えませんが、そこにお2人いらっしゃるのかね?」

「はい」

「気配で何となく分かっていましたが、1人は何か、地獄の大魔王みたいな大きなオーラを感じますが、恰幅の良い大きな男性ですかな?」

「いえ、肉付きは良いですが、比較的スマートで上品な女性です」

「女性でしたか!? これは驚きましたね! 大変失礼致しました。もう1人……いらっしゃいますか?」

「はい」

「……? あまりオーラを感じませんが……何か、死にかけの野良犬のような瀕死の小動物みたいに感じられますが……病弱な赤ちゃんですかね?」

「このお婆さん、信用出来るわね」

「京子先生!! 僕は超健康な成人男性です!!」

「あら! 男性の方ですか!? こちらの方が驚きましたね! 成人男性でこんなにも死にかけのオーラを出せる人は、そうそういません! 私もここまでの人は初めてです! 生きているのが不思議なくらいのオーラですよ!」

「あの~……あまり嬉しくないんですけど」

「あら、褒められてるのよ! 生きる価値の無い人間が、生きてるって言われんだから!」

「生きる価値はあります!! 生きる意味が……いやオーラが無いだけです!!」

「では、柊さんから始めましょうか」


 僕の話はぶった斬られたが、京子先生は茜さんに誘導されて、ミハネさんの目の前に座った。


「じゃ、始めますね。まずあなたのお名前は?」

「柊 京子です」


 占いみたいに、いろいろ聞きながらやるのか。


「おいくつ?」

「25です」


 サバ読んだ!! いきなりサバ読んだ!!


「誕生日を聞いても良いかしら?」

「10月20日です」


 今日じゃん!!


「おめでとうございます!!」

「ありがとう。正確には今日の11時22分で26になったわ」

「そうだったんですね!」

「スリーサイズはいくつですかな?」

「83、52、80よ」


 やっぱりナイスバディ……


「ちょっと顔を触らせてもらっても良いですか?」

「ミハネさんは目が悪いんですけど、人相が読めるの」


 ミハネさんは京子先生の顔を触り始めた。


「えらい美人さんですね。醸しているオーラと言い、この面構えと言い、天下を獲れる相の持ち主ですね」


 あながち間違ってないと思います……


「ちなみにさっきスリーサイズを聞いたのは、そこの若人が知りたそうだったから聞いただけで、ネーミングとは関係ありませんからね」


 ミハネさんは心も読めるんだろうか……


「では最後に、あなたの能力を教えてもらえませんかな」

「私の能力は弾丸をも避けられる『尋常じゃない反射神経』よ」

「それは凄い! 出ているオーラも凄いですけど、どことなく犬ちゃんに似た匂いを感じますね」


 やっぱり分かる人には分かるんですね!


「いろんなイメージが出てきました。柊さん、あなたの能力に1番適した能力名は『服従させる(エレクトリック)鬼女神(アマゾネス)』」

「『服従させる(エレクトリック)鬼女神(アマゾネス)』!? す……凄いネーミングだ!! 京子先生のイメージにピッタリの名前ですよ!!」

「確かに! 何か名前を聞いただけで、私の中に力がみなぎるのが分かるわ! 元々、誰にも負ける気がしなかったけど、ここまでくるといよいよ私も神の領域に行くのかしら!!」


 ますます天狗になってしまった京子先生をどうしたら良いか分からず、とりあえずスルーしておいたが、続けて僕も見てもらう事になった。


「あなた、お名前は?」

「グラシオラス木下です」

「違います!! 柳町 新右衛門です!!」

「おいくつ?」

「おんとし82歳です」

「違います!! 23歳です!!」

「では、お誕生日は?」

「そんなもんは、とうの昔に忘れちまったよ」

「だから京子先生!! さっきから勝手に答えないで下さい!! 僕の誕生日は4月1日です」

「嘘をつきなさい!」

「嘘をつく日ですけど嘘じゃないです!! それにこのくだり、入社面接の時にもやりました!!」

「スリーサイズは?」

「は……測った事ないです」

「私が触った感じだと、75、56、10ね」

「どういう逆三角形!? ヒップ10って気持ち悪いから!! そんな体型維持出来ません!!」

「では、顔を触らせてもらってよろしいですかな」


 そう言うと、ミハネさんは僕の顔を触り出した。


「だから、京子先生も一緒に触らないで良いですから!! そこお尻だし!!」

「内緒にしてたけど、私はお尻占いが出来るのよ」

「出来ないで良いです!! 出来たとしても今やらないで良い!!」

「柳町君のお尻は野球選手向きね」

「そんな良いお尻してません!! さっき10って言ったじゃん!! 良い野球選手のお尻は、下手したら100ぐらいあると思いますよ!!」

「柳町さん。あなた、人相も珍しいですね」

「そ……そうなんですか?」

「人に馬鹿にされて、弄ばれて、罵られて、貶される運命にありますけど、決して折れる事のない強靭な心の持ち主ですね。オーラの方も風前の灯火のような小さな火種しか見えませんが、良く見るとその色は芯が青く、ガスでついている火のように、消そうとしても消えない力強さがありますね。あなたはどんな逆境にあっても、決して諦める事なく前を向く事が出来る人ですね。本当に素晴らしい!」

「ミハネさん。誰にお金もらったの?」

「いや!! 買収されて言わされた訳じゃないから!! たまには良い気分にさせて下さい!!」

「では最後にあなたの能力を教えて下さい」

「はい。僕の能力は『触ったものを少しだけ柔らかくする事』が出来ます」

「やっぱりエロいわね」


(どうか、趣味で使っている事は見抜かないで下さい……)


「フフフッ……なるほどね。本来、異能力を使えるほど強いオーラを持っていないのに、異能力が使えるという事は、普通の人よりも強い何かを持っているという事ですね」

「そうですか?」

「降りてきましたよ。あなたの能力にピッタリの能力名は『欲望の氾濫(リーリングアイズ)

「『欲望の氾濫(リーリングアイズ)』!?」

「中2の性欲って事ね」

「あまり嬉しくないんですけど!!」

「新右衛門君は、ネーミングを付けてもらっても力がみなぎって来ないの?」

「み……みなぎっては来ます……(抑えの効かない違うエネルギーが、下半身の方に……)」

「柳町さん。あなたのエネルギーの源は、性欲とつっこみです。今まで抑えていた、性欲とつっこみのエネルギーを解放してあげる事こそが、自分の力を最大限に発揮出来る近道となるでしょう」


 つっこみはまだ分かりますが、抑えている性欲を解放するというのは、今にも増して変態街道まっしぐらになると思うんだけど……。本当に解放しても良いものだろうか……


「後は、あなた達2人の相性もバッチリ合っていますね」

「本当ですか!?」

「あなた達2人は、前世でも関わりがありますね」


 ミハネさんって前世も見えるんだ! やっぱり目が見えない人とかって、別の能力が長けてたりする場合が多いのかなぁ……

 盲目の人でもR1を獲る時代になって来たし、僕も人より劣っている所がたくさんあるって事は、他に長けている能力がいろいろあるって事なのかも知れない……


「前世でのあなた達2人の関係は、パイロットとスチュワーデスね」

「意外と近代!! 転生すんの早すぎませんか!? ここ何年とかの話ですよね!? あと多分ですけど、僕の方がスチュワーデスですか!?」

「そうですね。前世では大体が現世とは逆の性別になりますから」

「やっぱり!」

「あなた達2人は本当に特殊ね。前世では2人共、豆腐の角に頭をぶつけて亡くなっています」

「実話であるんですか、そんな事!?」

「あなた達は前世でも異能力だったみたい。異能力も逆の能力が身に付く事がほとんどだから、柳町さんは触った物を固くする能力だったみたいです」

「それで豆腐を固くしてしまったという事ですか?」

「それとは関係無いみたいです」

「関係無いんかい!!」

「どうもありがとう」


 京子先生はミハネさんにお礼を言うと、ミハネさんから何も書かれていない1枚の紙を回収した。


「じゃ、行きましょうか」


 今の紙……なんだろう?


 京子先生が回収した紙を良く見ると、点字が書かれているようだった。


「も……もしかしてそれ、カンペですか!?」

「そうよ。私が書いた台本よ」

「え〜!! どこまでが本当なんですか!?」

「ネーミングの所までは、全部本当よ。前世の下りからは私の台本でお願いしたわ」


 いつ、そんな手回ししたんだ!?


「ミハネさん。本当にありがとう。何か私も新右衛門君も一皮剥けた気がするわ。あら! 柳町君の前で一()()()()とか言ったらマズかったかしら!」

「別に変な意味でとってないので大丈夫です! そういう事を言うから、変な意味になっちゃうんです!! っていうかミハネさん、ありがとうございました! 京子先生に何言われたか分からないですけど、忠実にやらなくても大丈夫ですからね!」

「ごめんなさいね。私もこういう事嫌いじゃないから、のせられちゃうとついついやってしまうのよ。では、また何かあったらいらして下さい。いつでもお待ちしていますよ」

「ありがとうございました!」


 僕と京子先生は先にお店の外に出て、茜さんの車の前で待っていた。

 後から茜さんが出てきて、一緒に車に乗り込んだ。


「一ノ条さんからの命令だったので、お代の方はブレイブハウンドから出しておきました。次回、個人的にミハネさんにお会いに行く事があるようでしたら、それなりのお代を準備しておいた方が良いですよ」

「ありがとうございます。そうですよね。タダな訳ないですよね」

「一ノ条もたまには気が利くじゃない」


 おごってもらうのが当たり前になり過ぎている京子先生を見ていると、最近怖くなる……


「そういえば、この車何処に向かってるの?」

「あなた達は、ファルセットから来たんじゃないんですか?」

「そうですけど」

「そう思ってファルセットに向かっていますけど、何処か寄る所ありましたか?」

「さっきから柳町君がラブホテルに行きたいって、私の足をつっつくのよ」

「やってません!! 京子先生が僕の足を、ずっと踏んづけてるんです!!」

「あなた達に聞きたい事があるんですけど、1つ質問して良いかしら?」

「何かしら?」

「一ノ条さんを呼び捨てにしていますけど、あなた達は一ノ条さんとどういう関係なんですか?」


 ヤバい……一応、京子先生の存在は内密だったんだ。それに、一ノ条さんを呼び捨てにしているのは、京子先生だけなのに一緒にされている……


「一ノ条は私の弟子よ」

「弟子?」


 何言ってんのこの人!?


「私がパンツを脱げって言ったら、目の前で脱ぐわよ」


 それ、力ずくじゃないんですか!?


「ねぇ師匠」

「誰が師匠ですか!! こんなに弟子に使われてる師匠いません!!」

「2人居るわ」

「実名出しちゃダメですよ!! そういう師匠にも面子があるんですから!!」

「そうやってはぐらかされる所を見ると、話たくない理由があるみたいですね」


 茜さんは何気に勘が良い……


「本当の事を言うと、一ノ条とは古い知り合いなのよ。今回、異能力ドラフトに参加して欲しいっていう依頼があったから、しょうがなく出るだけで、別に一ノ条と柳町君が変な関係である訳ではないわ……私の知っている限りでは」

「ちょっと! 変な含みを残さないで下さい!! 僕は純粋に女性オンリーですから!!」

「その感じだと、あまり詮索しない方が良さそうですね。一ノ条さんの命令とはいえ、知らない人達を信用しすぎるのもどうかと思いましたので、素性や経緯を何となく知りたかっただけです」

「そうね。人は秘密が多い方が魅力的なものよ。あなたも意外とミステリアスだし、大人しくしてた方がモテるわよ」

「ありがとうございます」


 その後、たわいもない話をしながらファルセットに戻ってきた僕達は、茜さんと別れてエリアBに向かった。最初は分からなかったが、途中で建物内の雰囲気がおかしい事に気付く事になる。

 葬儀の関係で人気がない事は予想出来たが、何かがあったであろう、ある一角の土地が丸々無くなっていた……。まるで何かに抉り取られたように……

 後から京子先生に聞いたら、その場所は何か緊急な事が起こった時に、皆が集まる為の小さめの体育館があった場所らしい。

 敷地内に全く人が居なくなってしまったファルセットを目の前にして、呆然と立ち尽くす僕達は、状況が飲み込めずフリーズしたままだった。


 異能力ドラフトの2週間前に、ブレイブハウンドの施設を襲ったこの出来事を理解する事が出来ず、嫌な予感だけが心に残ったまま、ただただ立ち尽くすだけだった……

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!

次回から『異能力ドラフト選考会編』が始まります!

乞うご期待!

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