第2話 赤スーツのブルーハワイ
B級の異能力者達が相談に来る相談所、サテライトキングダム。
美人先生の柊 京子とダメダメ助手の柳町 新右衛門の元に、また今日も新たな相談者がやって来た……
「次の方どうぞ」
今日の診察は彼女で3人目。
午前の部はとりあえず彼女で最後だろう。
1人1人丁寧に対応している為、あまり多くの病人……いや患者さん……いや相談者を捌く事が出来ないのが現状だ。
「新右衛門君」
「はい」
「………?」
京子先生は彼女の顔をじっと見た後、僕にアイコンタクトを送った。
僕もその合図でピンときて、部屋を出る。
「お待ちの相談者の方々。大変申し訳ございません。
急遽、先生のご都合により、本日の診察は午前だけとなりました。
すみませんが、午後はお休みとさせていただきます」
僕は京子先生の指示通り、不満顔で睨まれた芸人…いや病人…いや患者さん…いや相談者達に、揚げたてのコロッケを配り、待合室に居た人達全員をなんとか帰らせた。
僕は相談者に温かいお茶を出し、少し遠目から2人を見守った。京子先生は、彼女が喋り出すまで、じっくり待つつもりだろう。
彼女の名前は、黒川 桃子。
20才だという事以外、問診票には何も書いていない。
その容姿は、美人というよりも可愛い系だか、暗そうな性格でオシャレにはあまり興味が無いようだ。どこぞの野ブタのように、まだ磨けば光るのに、勿体無いと僕は感じてしまった。
元々の性格は分からないが雰囲気の重さから察するに、他の人には無い何か大きな問題を抱えているようだった。
「えの〜……」
突然喋り出した彼女は、緊張し過ぎて「あの〜」を噛んでしまったようだ。
「わ……私、今、赤い人達につきまとわれているんです……」
「赤い人達?」
「はい…。私の能力を狙っているんだと思うのですが、とにかく私の事をつけ回すんです。今でも外に、2人組の男が見張っています」
黒川さんは窓際に歩み寄り、窓の外を指さした。
「ほら! あそこに居る、真っ赤なスーツを着た2人組です!」
窓の外を見て見ると、確かにそこには赤いスーツを着た2人組が立っていた。
あの2人組は、隠れようとしているのか目立とうとしているのか全く分からん……
「あいつらは一体何者なの?」
重い雰囲気のまま、暗い表情で黒川さんは答える。
「真っ赤なスーツに真っ赤なサングラス。その色はターゲットにした相手の返り血だと恐れられている闇組織。通称『ブルーハワイ』」
「どっち!!?」
赤いのか青いのか白黒はっきりしていないので、つい本気でつっこんでしまったが、2人は黄色い目で僕を見ていた。
「あいつらがブルーハワイ!? 本当に存在していたのね。ただの噂だと思っていたわ」
「京子先生、知っているんですか?」
「ええ。私もこの業界で7年近く働いているけど、まだ駆け出しだった頃に少しだけ耳にした事があるわ」
「一体どんな奴らなんですか?」
「口の中が青くなるの」
「本物のブルーハワイじゃん! しかも、かき氷のやつ!!」
「さっきあいつらが、黒川さんの能力を狙っているかも知れないと言っていたけど、あなたの能力って一体何なの?」
そう! 大事なのはそこ!
ブルーハワイという組織のやつらも謎だけど、やつらに狙われている黒川さんの能力って一体……
「まだ誰にも言った事が無いのですが、私の能力は………舐めた物が黄色くなる能力です」
珍……沈黙が流れる……
いろんな事が頭を駆け巡ったが、話が全然掴めない………
「彼らが私の前に現れたのは、ほんの1週間前からなんですが、実はその時私……嘘をついてしまったんです」
「嘘?」
「はい。私は大学の授業を終えた返り道に、真っ赤なスーツを着た3人組の男に突然話し掛けられました……」
それは、あ〜る〜晴れた〜昼下がり〜♪……の並木道……
ソフトクリームと肉まんを食べながら、クレープ屋さんの前で立ち止まろうとした時でした。
「お嬢ちゃん。黒川桃子ちゃんだよね」
「そうですけど……どちら様ですか?」
「お嬢ちゃん。質問をしているのはこっちの方なんだよ」
「そっちの質問には答えたんだ。今度はこっちの番だろが!! ボケが!! どこの組のもんじゃ!! 赤組か!!」
と、ブチ切れそうになりましたが、そこはグッと抑えて冷静に対応しました。
「すみません。これから帰って豚小屋の掃除をした後、登別まで行って卓球の練習をしないといけないので、急いでいるんです」
「お嬢ちゃん。嘘はいけないぜ。もう調べはついているんだ。黙ってこの車に乗ってもらおうか」
目の前にあったのは人力車でした。
本当に彼らは、目立ちたいのか隠れたいのか良く分かりませんでした。
「これを見ても、この車に乗らずに帰れるかい?」
そう言って赤スーツはBIGBA○Gのチケットを私に見せました。
「とりあえず今日は手荒な事をするつもりはない。家まで送る道中、ちょっと話をしたいだけだ」
私は迷わず人力車に乗りました。
帰りにいつも食べているたい焼きとメロンソーダを買ってもらい車内でくつろいでいると、赤スーツは突然ボイスチェンジャーを使って喋り出したんです。
「さぁお嬢ちゃん。さっそくだが、あんた異能力者だろ?」
私は一瞬、かき…………氷つきました。
誰も知らないはずの事を彼らは知っていたのです。
「な……何の事ですか?」
「俺達は通称『ブルーハワイ』赤をモチーフとした裏社会の住人だ。怖い思いをする前に正直に答えた方が身の為だと思うが、答えるか答えないかはお嬢ちゃんの自由だ。ただお嬢ちゃんが異能力者だって事は、ある方法で調べて既に分かっているんだが、一体どんな能力なのかを知りたい」
「………」
「その能力がうちの組織にとって、有益なものになるのか脅威になるのか、うちのボスが知っておきたいと言っているんだ」
そこで私は、この場を切り抜ける名案を思い付きました。
「確かに私は異能力者ですが、私は自分自身の能力についてあまり良く分からないんです」
「というと?」
「ただ分かっている事は私の周り5m以内に近づいている人達が、私と長い時間一緒に居ると、何故か不幸な事が起きるという事です」
「……!!………具体的にはどれくらいの時間なんだい?」
「約1時間です」
「不幸な事っていうのはどんな事なんだい?」
「人によって様々ですが、家の中に居るのに頭に鳥のフンが落ちてきたり、焼き肉を食べていたら魚の骨が喉に刺さったりといった小さい事から、大きい不幸ですと、知らない人にいきなり目を突かれたり、突風で駅のホームに落ちてしまったりと、命に関わる事も多々ありました」
「し………死んだりした奴もいるのかい?」
私は迫真の演技をしました。
「……そこまでは分からないですが、全て確認している訳ではないので、居ないとは言い切れません……」
「勿論それは自分の意思で能力を発動しているんだよな」
「基本的にはそうですけど、無意識で発動している時もあります」
「ちなみに今は使ってないよな?」
「………それに答える事は出来ませんが、あなた達と会ってもうすぐ1時間が経つのは確かです」
「お嬢ちゃん。あんたの家はすぐそこだ。これをやるから、ここからは歩いて帰りな」
そう言ってBIGBA○Gのペアチケットを私に渡すと、赤スーツ達は小走りで去って行きました。
「それからというもの、監視するように、毎日私の事を見ているんです」
「そして、今もその状態が続いているって事ね」
「はい」
京子先生は難しい表情で少し考え込んだ後、意を決したように口を開いた。
「黒川さん。あなたには答えにくい事かも知れないけど、どうしても1つだけ確認しておきたい事があるの」
「はい。何でしょう?」
かなりの間が空き、突然場の空気が変わった。
宝くじの発表を待つ瞬間というか、受験の合格発表を見る前のような独特な雰囲気が漂い、言ってはいけないような事を言ってしまう前フリの後、京子先生は自分の発言に全注目を向けるような状況を作り、今世紀最大の問題発言をした。
「あなたは、あんまんより肉まん派なの?」
どうでも良い〜!!
もう一回言います。
どうでも良い〜!!
確かに甘い物ばかりを食べながらの話だったのに、何故、中華まんだけ甘くなかったのかは気になったけど、このタイミングでそれですか〜!?
「そ……そうですけど、それが何か?」
「私の持論なんだけど、こういうことわざがあるの」
持論なのかことわざなのか、もはやつっこむ事さえ許されない勢いだった。
「甘い物は甘くあれ。辛い物は辛くあれ。薄い物には醤油をかけろ」
何が言いたいのか分からず、僕と黒川さんの中で時間が止まった。
この瞬間、京子先生の能力は時を止める能力なのかも知れないと思った……
「今のは年に一度、見れるか見れないかの京子ジョークよ」
残念ながら、今この状況で、誰も京子ジョークは期待していなかった。
「話を元に戻すけど、奴らはあなたが嘘をついたその能力が、本当の能力だと信じているかしら?」
良く戻せるな〜……と思いながら、逆に感心してしまった。
「分かりません」
「京子の勘だけど、奴らは警戒はしているけどまだあなたの言っていた能力が本当の能力かどうか確信していなかった気がするの」
「確信していなかった?」
「ここに来る前までは信じていたかも知れないけど、ここに来た事で疑い始めたかも知れないわ」
「何故ですか?」
黒川さんは京子先生の話を食い入るように聞いていた。
「ここはそもそも、B級の能力者が相談に来る所なの。相手の命に関わるような、危険な能力を持っている人が来る所じゃないのよ」
確かに……
「ただ、あなたの本当の能力の事を知っても、奴らはあなたに固執するかしら?もしかしたら、あなたに興味を無くすかも知れないわよ」
「じゃ、本当の事を言った方が良いんでしょうか?」
「奴らにつきまとわれたくなければ、まずはそれが一番かも」
「そうですよ。まずは本当の事を伝えた方が良いですよ。嘘は駄目です、嘘は」
「そうよ! 柳町君みたいに、平気な顔をして嘘をつくのは駄目よ!」
「京子先生!! 僕は嘘つきじゃありません!!」
「あら。じゃ、あなたは誰の事が好きなの?」
言葉に詰まった……
「嘘をつかずに言ってごらんなさい」
「そ……それは、言うべき時が来たら言います!!」
僕と京子先生は長い時間睨み合い、沈黙のままにらめっこ状態が続いていた。途中から変顔対決に発展したが、決着がつかないままになったので、お互い握手をして健闘を称えあった。
「そんな事より、黒川さんは何処へ行ったの?」
辺りを見回すと、さっきまで目の前に居た黒川さんの姿が無い。廊下に出て待合席を確認したが、そこにも彼女の姿はなかった。
「新右衛門君!」
窓から外を見ていた京子先生が見つけたようだ!
黒川さんは、張り込みをしていた赤スーツの方に歩いて行ったが、赤スーツ達は後退りしながら距離を保ち、最終的には走って逃げた。
「柳町君! 早くあの子達を追って!」
「ぼ……僕もですか!?」
「まだお代ももらってないし、何よりあなたは女の尻を追うのは得意でしょ!」
「変なキャラ付けないで下さい!」
「これも京子の勘だけど、とにかく嫌な予感がするの!! 急いで!!」
「分かりました!!」
京子先生の勘は当たる。
部屋の出入口にある、等身大のタイガーマスクの銅像の横を走り抜け、僕が廊下に出た後に、後ろから京子先生が一声掛けた。
「状況が分かったらモールス信号で教えてね!」
僕はモールス信号を知らないが、つっこむには遠すぎる距離だったので、ジェスチャーでつっこんだ。
うっすら微笑みを浮かべる京子先生を尻目に、僕は全力疾走で彼女達を追いかけた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。あきらさんです!
第2話、楽しんでいただけたでしょうか?
今後も、コンスタントに投稿して行けるように頑張りますので、よろしくお願いします!!