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四月一日裕翔の仕事



ダークエルフのサラは言った。


「四月一日さんには、内閣府直轄の異文化交流委員会、極東温泉文化発信部門の代表に就任してもらい、ここに政府協力のもと四月一日さんが考える理想の温泉街を構想して頂きたいのです。」


「代表ですか……?」


「はい。エリアス王国と日本との国交を開く為には文化交流が一番穏和的で、身近な手段ですので、その文化交流の1つとして貴方方が誇るその温泉という日本国の主要文化を私達の国にも伝えて欲しいのです。」


「なるほど、大体仰っていることは分かりました。

先程の自己紹介ではダークエルフ族の族長の娘としか聞いていなかったので、サラさんがそちら側の政府の外交官だったとは、少し驚きました。

まさか此方の世界のリクルートスーツを着ているなんて、思いもしませんでしたから。」


俺は微笑気味にそう言うと、サラさんは端正な顔をきょとんと放心状態にさせて、透き通った目をぱちくりと開けていた。


「そうなのですか?私はてっきり、四月一日さんの目からはこの格好が似合っていないものだとばかり思っていまして、今回張り切って其方の正装に着替えたぶん、内心少し不安に感じました。」


「い、いえ、そんな事はありません。

とてもお似合いですよ。

特にサラさんは私の国の女性が羨むほど素敵なお体をお持ちですので、清楚なスーツ姿が目に見えてそれを引き立てせていて、凄く魅力的に見えますよ。」


そう自然に零れた俺のお世辞を後ろで聞いていた西田さんはふふふと、含み笑いを零しながら「流石だね、四月一日君。アパレル業界に務めていただけのことはあるよ。」と独りごちていた。


それを後ろ耳に聞いていた俺は、あんな拙いお世辞が効いたのかわからないが、恥ずかしさで顔を火照らせていたサラさんを見て、ただ苦笑するしかなかった。



「それで……その西田さんにもお聞きしたいのですが、これはやはり政府非公式で行っている事で間違い無いのですよね?」


サラさんがやがて平静に戻って、まともに会話を進められるぐらいに空気が整ってきたのを確認すると、俺はそう念押しするように言った。


俺がそう思ったのも、単にここが国内はおろか世界でも未公開の極地であるという事を知ったためである。


今のところ、俺はこのテントに入るまで俺以外の民間人を誰も見かけなかった。


衝撃と驚きで頭がごちゃごちゃしていて、約数十分前の事なのにあまり鮮明には覚えていないが、

迷彩服を着た自衛隊員か、白衣姿の何処かの研究機関の研究員のような人、それと官僚である西田さんと現地政府の外交官サラさんしか見ていない気がする。


だから、やはりこの場所は民間人は立ち入るどころか知ることすら許されない門外不出の地なのではないかと考えた。


とはいえ、だとしたら、一般人で正社員ですらないフリーターの俺に機密情報を公開して、更には異世界の国との国交を開くための重要仲介人として非公式ではあるが政府に組み入れるのはあまりにもおかしい話である。


俺は、その歯がゆくも不可解な點を知りたいとおもった。

だが、どうやら既に俺のその疑問は西田さんの考えの余地の中に組み込まれていた。


「君の言いたい事は分かる。

確かにこれは政府の援助があるものの、民間には知られてはならない非公式の活動だ。

機密保持を強固にするため、ここに来ている人間は全て日本への帰省は許可されていないし、寝食に関しては全てテントか仮設住宅での生活を強いられている。

そういう意味では、求人票にあった住み込みで働くというのも、間違ってはいないね。」


そんな悪い冗談を至極平気な顔で言いのけて、西田さんは突然表情をこわばらせて、かなり低い声音で続けた。


「今から言うことは脅しと捉えてもらっても構わない。

全国1億5千万人以上の人間のなかから、親や親族との生活を断ち切り、友人もいなければ恋人もいなければ、職にすら就いていない今日明日にでも誘拐されても、誰も見向きもしないような正に非公式で運営する事業の役員としては好都合な人間が君だった。

それに、君は事温泉とそれに関わる知識や雑学については誰よりも精通している。

30年間温泉の為に大枚はたいてきた私よりもね。

これから、君は数ヶ月間それとも数年何十年とかかるか分からないが、ここで国家の利益の為に働いて貰いたい。

しかし、そうは言ってもここを知ってしまった以上君を向こうに返すことは出来ない。

もはや、君には選択肢はないんだよ。」


薄々思っていた事はやはり的中していた。


政府の非公式の事業であると察した時、俺は何となくそんな事が頭によぎっていた。


確かに俺は退職して以来、家族や親戚とは疎遠になり、元々友人や恋人すらいなかったので、西田さんが言うことは脅しと言うよりも、事実としか聞こえなかった。


ここはダークエルフや、言語を介さず意思疎通をできるなんていう優れものが存在する未知の宝庫のような場所だ。


もし、これが発表させれたら国内はビューイングが起き、パニックになるだろう。

国外では日本国と他国の国益をめぐる熾烈な争いが生まれるに違いない。


絶対に知られてはならない世界。


そこに降りたてる民間人など果たしているのだろうか?


いや、いる。

ここにいる。


だから、西田さんは政府は俺を選んだのだ。

異世界人との温泉文化交流の大使として




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