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第7話 朝だ!レベルアップだ!

「うーん……素晴らしい匂いだ!」


 俺は、馬糞スメルの中で目覚めた。

 うるさいとばかりに馬がいななく。


「ハルナは……まだ寝てるか」


 起こしては悪いと、音を立てずに外へ出る。

 そして、自分の手を見て思う。


(本当に強くなれてるのかぁ……?)




 バブリースライムとの戦いに見事破れた俺。

 ハルナに連れて行かれた先は、当然リルガの町。

 その宿屋に直行したのだった。

 カウンターでは、親父さんがハルナの顔を見て、にやけている。


「おや、今日は男連れかい? ロイヤルスイートを用意しようか」


「残念ながら、そんなお金は無い。いつも通り、馬小屋に泊めさせてもらいます」


「なぁんだ。ハルナちゃんにも男が出来たと思ったのになぁ」


「ユウジは仲間です」


 ふっ、そうだよな。

 仲間、か。

 いい響きだ。

 あれ、俺の目から汗が……


「ま、空いてるところ使いな! たまにはいいとこ泊まって女らしくしろよ?」


「マスターにも言われましたよ」


 苦笑しながら宿屋の離れに向かうと、無事馬小屋に到着。

 無造作に置かれた藁。

 それをベッド代わりに、俺をゆっくりと下ろしてくれる。


「今日は寝ましょう。それで明日、ギルドに行ってステータスの確認です。きっとユウジは強くなってます」


 相変わらず声が出ないが、首を縦に振る。


「いい子です。では、私も寝ますね。おやすみなさい」


 3本目の腕で頭を撫でられると、ゆっくりと意識が遠ざかっていった。




 というわけで、俺たちは冒険者ギルドに来た。

 早朝のギルドは思ったより人が溢れている。

 とりわけ、マスターのいる窓口がごった返している。

 そんな中、俺とハルナはその列に並んでいた。


「随分人が多いんだなー」


「朝起きて、レベルアップの確認をする人が一番多いんですよ」


「そうなのか。レベルアップって、一定の経験値を得たらその場で上がるもんじゃないのかね」


「けいけんち……? よく分かりませんが、基本的に人の身体は、寝て起きた後に成長するものですからね。その辺は、あの道具も敏感に読みとるようです。だから、どうしても朝に人が多いんです」


「なるほどなぁ」


 雑談を楽しんでいるうちに、俺の番になった。

 マスターは、なにやら楽しそうに笑顔を浮かべている。


「ユウジ様、早くも2回目ですか。これは期待出来そうですね」


「……もしかして、早かった?」


「いえいえ。来るタイミングは人それぞれです。毎日チェックする人もいれば、気が向いた時という人も。まぁ、今回はハルナちゃんの見立てでしょうから、何かしらの動きがあるでしょう」


 なるほど、ハルナの中では、あの無様な戦いの中でも、俺がレベルアップしたと思っているらしい。

 それはそれで、ちょっと疑心暗鬼にならざるを得ないが……


「では、こちらに手を置いてください」


 水晶玉に手をつける。

 すると。



 ぬちゃり。



「うぎょわうっ!?」


 読み取りには成功した模様。

 だが、俺の手には凄まじいヌメリ感。

 正体不明のヌメリに、思わず上げたことのない声を出してしまった。


「あら、ごめんなさい。そういえば、ユウジ様の前の方、ネチャ手で有名な方だったわ。久しぶりだったから拭き取るの忘れちゃった」


 舌を出して、コツンと頭を叩く。


「そ、そういうことか……良かった。いや、良くない」


「あはは、ごめんなさいね。でも、ステータスは良いのではないですか?」


 そう言って出してきたステータス表。

 そこには。



 種族  転生者

 クラス ノービス

 性格  中立

 レベル 3

 力   E

 知力  D

 信仰心 E

 生命力 C

 敏捷性 D

 運   B


 スキル  無し

 ユニーク 超強化



「レベル上がってるし?!」


「あら、一気に2も上がるなんて凄いですね!」


 あの無様な戦いの中、俺は何を学んだというのか。

 というか、気になるところがある。


「っても、レベル上がってても、ステータス変わってないように見えるんですが」


「あぁ、それはですね。転生者さんにわかりやすくいうと」


 一旦言葉を切り、頭を切り替えるように首を軽く回す。


「レベルアップすると、確かにステータスは上がっていると思っていただいて構いません。1から99までの数値があると仮定して、1から20はEランク、21から40まではDランクといった感じで判定されるわけですね。だから、2レベルが上がって力が2上がっていたとしても、元が10であれば、レベルアップ後は12。つまり、まだEランクのまま、というわけです」


「なるほど、非常に分かりやすい説明をありがとう」


 仕組みはよく分かった。

 レベルアップが根底にあるのは間違いないが、スキルを得るためのステータスランクアップこそ大事そうだな。


「これ、転生者以外の人に話してもピンと来ないんですけどね」


「まぁそうかもしれないね」


 ゲームという感覚があってこその説明だろう。

 マスターの苦労が見て取れる。



「おい、さっさとどけよ。終わったんだろ?!」


 後ろから、怒鳴り込むような声。

 ふと見ると、さっき俺たちの後ろにいた人間とは違う。

 どうやら割り込んできたようだ。

 しかも。


「おいおい、まさかお前かよ! 昨日の、バブリースライムに一方的にボコられてた奴じゃねぇか!」


 奇しくも、顔見知りだった。


「いやー、昨日は最高に面白かったぜ。なぁ、今日も俺ら、お前等の後ろについていっていいか? 変な見世物を見るよりずっと面白ぇからよ」


 笑い声が響く。

 なお、こいつ以外の人間は、バブリースライムに一方的にやられたという所で、失笑が相次いでいた。

 ふっ……慣れないものだな。

 狙わない笑いを誘うというものは。


「まぁ、とりあえず、ユウジ様もこちらにいつまでもいると迷惑ですよ。列から抜けてくださいな」


 マスターが優しい口調で言う。

 俺は、その言葉に素直に従う。


「あ、でもそのままどこかで座って待っててくださいね。ハルナちゃんとのパーティー登録はしないとですから。あぁ、忙しい忙しい。はい、次の方どうぞ」


 言いながら、嫌みなイケメン剣士が水晶の前に誘導する。

 マスターとしては、横入りも気にしないということだろうか。


「ふん、素直にどいてりゃ良かったんだ。さーて、いい加減レベル上がってねぇかなっと!」


 水晶に触れたその瞬間。




「うひゃんぴょぉっ!?」



 ヌメリのあまりの不快感に、飛び上がり飛び退き飛び上がる声が飛び出した。


 その声に、俺たちも含め、周囲はまたも失笑を漏らすこととなった。




 ◆ ◆ ◆




「はい、これを書いてくださいね」


 パーティー登録ということだったので、どんなに大がかりなことかと思ったが、何ということはない。

 紙1枚書くだけだった。

 だが、この紙がなかなかの難敵となる。


「パーティーリーダーか」


「ユウジですね」


「いや、そこはハルナでいいんじゃないか? 冒険の経験にしても、実力にしても、お前のほうが上じゃないか」


「確かに、今は私のほうが上なのは事実です。ですが、私はユウジについていくことに決めたのです。この身も心も、この剣も、ユウジのために尽くすことに決めたのです」


 いや、身も心も、とか言われると、ちょっと違う想像をしてしまうんだが……

 ハルナのほうは至って真面目だ。

 変な想像をしている場合ではない。


「次は……パーティー名?」


「ころっけちゃん」


「……は?」


「ころっけちゃん」


「な、なぜにコロッケ?」


「ころっけちゃん」


「ハイ」


 逆らえない何かにより、俺はパーティー名に「ころっけちゃん」と書いた。


「はい、書き込みありがとうございます。あら、可愛い名前ですね」


 マスターが紙を受け取ると、小さな青い宝石がついた首飾りを渡してくれる。


「はい、これが「ころっけちゃん」のパーティーの絆です。肌身離さず持っていてくださいね」


「これは?」


「パーティーの証、名付けて「アイ」です」


「ほらほら、ここから覗くと、パーティー名が見えるんですよっ! それにね、心の中で通じるように呟けば、パーティー内で会話も出来ちゃう優れ物っ! ね、いいでしょうこれっ!」


 何故かハイテンションなハルナ。

 顔を紅潮させ、今まで見たことのない浮かれた顔。

 まぁ、それが見れただけでも、今回は良しとすべきか。

 宝石は綺麗なダイヤカットをしており、上から覗きこむと、確かにパーティー名が見える。


「まぁ、今ハルナちゃんが説明した通りですね。アイはパーティーの証ですから、無くさないように」


「こんなもの配ってると、いざパーティーが解散したときは大変そうだな。どうしてるんだ?」


「全然大変じゃないですよ。パーティーを抜けたいって言うなら、アイを壊して貰えばいいだけですから」


「えっ、壊すのか?」


「はい。それこそ、お前とはもう組まねぇー! って叫びながら、踏みつぶして貰えれば。アイそのものは、簡単に作れる代物ですからね」


「な、なるほどな」


「だからって、粗末にしないで下さいね? アイは仲間の絆です。大事にして然るべきものです」


 それは全くその通りだ。

 物の価値が低いからといって、それを粗末にしていいはずがない。

 ましてや、これはパーティー結成のアイテムだ。


「さぁユウジ、早速洞窟に行こうっ! ころっけちゃんの記念すべき第一歩だ!」


「あ、あぁ。よし、行くか!」


「はーい、今日も元気にいってらっしゃい」


 マスターが優しく手を振り見送る。

 ウキウキ気分のハルナに手を引っ張られながら、町外れのダンジョンへと向かっていったのだった。

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