第3話 ステータス開示!
「おかえり、ハルナちゃん。今日はどうだった?」
「いつも通りです。1人では3階が関の山」
不機嫌そうに言いながら、カウンターに鈍く光る石をいくつか置く。
マスターと呼ばれたカウンターのお姉さんは、それを回収すると、いくつかの銅貨を渡した。
「はい、260リム。毎度あり」
「少ないですね……マスター、もう少しレート何とかしてくれないですか」
「残念、こればっかりはね」
「はぁ……今日も馬小屋です」
「ダメよ、女の子なんだから、たまには良い部屋取らないと」
「仕方ないでしょう。この収入では、食べるのにも事欠く有様です」
「あらあら、それは大変ね」
「その元凶がそれを言うんですね」
一息ついてから、彼女……ハルナと呼ばれた女の子の視線は、僕に来た。
「ところで、マスターは私に、この男とパーティーを組めと?」
ギロリと睨まれる。
とても好意的とは言い難い。
だが、むしろその視線に惚れ込んでしまいそうだ。
「あなた、転生者……? お高く留まって、お情けで拾うつもり? そんな理由ならお断りです。他を当たってください」
「いや、何も言ってないけど」
妙に警戒というか、突っかかってくるなぁ。
目つきが、マスターを見るのとは明らかに違う。
しかし、顔を見ればとても可愛い。
ボブカットの青いストレートの髪。
片目を何故か眼帯で隠しているが、蒼い目が綺麗で、整った目鼻立ちをしている。
身体はかなり小柄で、ロリっぽい。
正直なところを言えば……
俺の好み、どストライクだ!
ただ、服装は極端に大きく白いローブを羽織っており、なんだかお化け屋敷のお化けのようだ。
「まぁまぁ、ハルナちゃん。1人の限界は感じているんでしょ? それなら、まずはこの人と組んでみたら?」
「転生者と一緒になったことはあります。この世界の人間よりも忌避されましたけどね。マスター、少しは人を見る眼を養うと良いかと」
「あらら、手厳しい」
舌を出しながら、コツンと頭を叩く。
一方のハルナは、踵を返す。
「どこに行くの?」
「決まってるでしょう? ダンジョンです。この稼ぎでは、まともな食事も出来ません」
半ば不機嫌そうに、扉を閉める。
それを見て、マスターは嬉しそうな笑顔を見せていた。
「何がそんなに面白いんです?」
「いえいえ、あの子はツンデレですから。あれだけツンツンした後は、デレるのもそう遠くはないかなって」
「はぁ」
そうかな。
とてもデレそうには見えないんだが……
「さて、あの子を追いかけるのは今度にしてもらいましょうか」
「俺が追いかけるのは前提ですか」
「まぁ、パーティーがいらないっていうなら話は別ですけど」
「くっ」
残念だが、かなり足下を見られている。
その様子を見て、なお楽しそうに笑うマスターが続ける。
「さて、まずはあなたのステータスを見ましょう」
「ステータス?」
「はい。転生者には、ゲームのような感覚で見れます、と言うと、理解が早いようですね」
「そんなこと出来るのか」
「やっぱり、そう言うと分かりが良いんですね」
笑いながら、指をパチンと鳴らす。
すると目の前に、小さな煙と共に水晶玉が現れた。
「へぇ……まるで手品だな」
「魔法ですから」
うん、そうだ。
前の世界の常識より、遙か上を行くものなんだから仕方ない。
そこらへんは切り替えよう。
「さて、この水晶に手を乗せてください。そうすることで、今あなたの能力を測ることが出来ます」
「そうなんだ、すごいな。どれどれ」
水晶を掴むように、右手を乗せる。
すると、水晶が僅かに光り出したと思うと、まるでプロジェクターのように、俺とは反対方向に何かを映し出す。
「はいはい。よいしょっと」
マスターが、その映した部分に紙を当てると、紙にコピーしたように全く同じものが写された。
今まで何百人ものステータスを写してきたのだろう。
手慣れた様子が見て取れる。
マスターは、転写された紙を一つの箱に入れた。
「さて、このファイルはユウジ様っと。ユウジ様も1枚お持ちになりますか? 発行料はかかりますけど」
「いや、それならいいや」
「はいはい。ではちょっと説明しますね」
マスターが指を鳴らすと、水晶玉が煙と共に消え去る。
そして、紙を見せながら、綺麗な指をさして説明していく。
「種族は転生者、異世界からの転生者の意味ですね。ちなみに、首筋に極僅かな刻印が浮かんでいるので、他の人にも分かります。一応参考程度に覚えておいてくださいね。さて、ステータスは……」
種族 転生者
クラス ノービス
性格 中立
レベル 1
力 E
知力 D
信仰心 E
生命力 C
敏捷性 D
運 B
スキル 無し
ユニーク 超強化
「うーん、可もなく不可もなく、ですかね。運は上げようがないですから、高いのは良いことです」
マスターの、微妙な表情の変化にピンとくる。
「……これ、ステータスはランクっぽいけど、一番下は?」
「規格外のSを除けば、Aが上、下がEです」
「デスヨネー」
「まぁ、このくらいが普通かと……」
マスターは、フォローをそこそこに、咳払いをして続ける。
「クラスは……また珍しいですね。ノービスですか」
「珍しい?」
「そうですね。例えばウォーリアーと判定されていた場合、回復魔法などを取得出来ません。同様に、プリーストと判定されていた場合、回復魔法は取得出来ますが、ウォーリアーのスキルは取得出来ません。ですが、ノービスは大抵のスキルを取得することが出来ますよ!」
「おぉっ!」
「……ただ」
「…………ただ?」
「スキルの取得には、一定のステータスが必要になるのですが、その求められるステータスが通常よりも高くなります」
「えっと、つまり?」
「ウォーリアーの例で言うと、スマッシュというスキルを取得するには、力のステータスがE、つまり大抵の人は最初から取得可能ですが、ノービスの場合はDにする必要があります」
「な、なるほど……」
器用貧乏な分、必要なステータスは高めになるということか。
しかし、このマスターの僅かな言いよどみ……気になる。
「正直に言ってくれ。ノービスって弱いんだろ?」
「……はっきり申し上げて良いですか?」
「おう」
「最弱と言われるクラスです」
「歯に絹着せぬ言葉をありがとう」
そのくらいのほうが清々しいというものだ。
あれ、目から汗が出てるかな?
「ま、まぁでも、強化スキルとは相性が良さそうだな。自分の放つスキルを思い切り強化して撃てるってことだろ?」
「あっ、そのことなんですが……」
この言いづらそうな口調からして、嫌な予感しかしない。
「基本的に、スキルは2つ同時に発動出来ないんです」
「ほう……じゃあつまり」
「お察しの通り、自分のスキルを強化させて発動、なんていうことは、そう出来るものじゃありません。ユニークスキル、ダブルキャストがあれば別なんですけど……それも伝説レベルのスキルですね」
うーむ、なるほど。
強化スキル。
何故使われないのかという理由がよく分かった。
併用出来ない上に、威力も上がるのはそこそこ。
しかも、自分が撃つスキルが強化出来ない。
他人のものを強化することは出来るが、効果を鑑みれば、術者が戦うほうが何倍も役に立つ。
そんなスキル、誰も使うはずがない。
ただ、俺の強化スキルは通常の何百倍にもなってそうだけど。
それでも、俺自身が強くならなければ、パーティーの立場としては微妙なものになりそうだ。
「他の奴のスキルを強化することは出来るんだろ?」
「むしろ、そのためのスキルということになりますね。スキル使用時に現れた魔法陣を介せば、そこを通ったスキルは、強大な力になって飛んでいくと思います。ご自身のものを強化するとなると、例えば、洞窟内でやったような、自分が発生させるスキルを介さない現象を増幅させること、くらいでしょうか」
「ふーむ……」
「せっかくのユニークスキルなんですけどね……正直、使いどころが無いです」
「ふっ、それは既に学んだことさ」
マスターの言葉には、遠い目をして応えるしかない。
1人ではどうしようもない。
それは、さっきの戦いでよく分かった。
だからこその仲間だ。
俺にはどうあれ、強力な仲間が必要。
しかも、出来ればこの強化スキルが上手くハマる味方が。
「ちなみに、さっきの子は、俺の強化スキルにハマると思う?」
「ハルナちゃんは、立派な剣士ですからね。強化スキルとの相性はともかく、前衛としてピカイチですよ」
「そうか。じゃあ、これも何かの縁だし、是非パーティーを組んでもらいたいな」
「ありがとうございますっ! 今度来たら伝えておきますね」
「よろしく。ところで、彼女は何でそんなに拒まれ……」
と、言っている側から、扉が勢いよく開かれる。
さっきの子、ハルナが怒りの表情でこちらに向かってくる。
「マスター! さっき魔石のレートを確認してきた。ここでは、随分な独自レートを採用しているのですかね?」
「あらあら、どこか間違えたかしら」
「安すぎると思ったんです。是非、確認をお願いしたい」
「ちょっと待っててくださいね」
ハルナの剣幕を受けても、全く表情を変えない。
後ろを振り向き、何やらごそごそやっていると。
「あー……ハルナちゃん、ごめんね。レート表の8と6を見間違えちゃったみたい。これは他のお客さんにもやっちゃってるっぽいなぁ」
そう言って、頭をコツンと叩きながら舌を出す。
ほう、アラビア数字は一緒なのか。
って、考えてみればステータス表のアルファベットも同じだったか。
などと横で考えていたが、ハルナのほうはお冠だ。
「マスター、今後は気を付けて欲しい。私はマスターに全幅の信頼を寄せている。今回は、たまたま通りのレート表が目に入っただけなんです」
「ごめんなさいね。気を付けるわ」
そう言いながら、差額を渡したようだった。
その時、マスターが俺にウインクしてくる。
(あぁ、なるほど。そういうことか)
このマスター、なかなか人が悪い。
俺が、ハルナとパーティーを組む約束をさせる時間。
ハルナがレートを確認し、戻ってくる時間。
それらを全て計算しての行動らしい。
このマスター、恐るべし。
「では、失礼」
用は済んだとばかりに、踵を返し、外へ出る。
マスターは、追いかけろと言わんばかりに笑顔で手を振る。
「まったく……本当に大丈夫なんだろうな」
やれやれと言う間もなく、俺は外へ出る。
右、左、右。
「あれっ……?」
右手に行ったと思い、目を凝らしてみると、この短時間のうちに結構な距離を歩いている。
白いもぞもぞが、遠い場所にあるのが確認出来た。
「ま、まじか……早すぎるだろ」
ハルナの、徒歩の速度はかなりのものだ。
中央通りの道の真ん中を歩いているから、まだ見つかるものの、もし小道にでも入られれば探しきれない。
走ったくらいで間に合うのか?
そんな思案が過ぎったが、何やら立ち止まり、キョロキョロと周囲を見渡している。
(よ、よし……今がチャンス!)
全速力で走る。
が、彼女が再び歩き出す。
その速度は、やはり俺が走るよりも早い。
(ま、まじか!)
どんだけ速いんだ!
懸命に走るが、向こうは気づく気配も無い。
そうこうしているうちに、距離はどんどん離れていく。
そして、また立ち止まり、周囲を窺っている。
ここがチャンスとばかりに走るが……
また歩き出した。
「ちょ……!」
これでは追いつけない。
いやマジで、あいつどんな足してるんだ!
走れど走れど、まったく追いつかない。
ついには小道に入ったのか、姿を見失った。
「ぜはぁー、ぜはぁー……」
膝に両手をつけ、肩で大きく息をする。
もう限界だ。
全速力なんて、そう維持出来るもんじゃないってのに、どんだけ走ったと思ってるんだ。
身体が重い。
考えてみれば、しばらく引きこもりをしていたから、こんな運動は久しぶりだった。
転生したというのに、そこは変わらないようだ。
くそう、せっかく転生したのなら、ステータスもチートでありたかった!
いい加減、座り込もうとしたその時。
小道の先から声が聞こえた。
(あれは……あの子の声か?)
いや、それだけじゃない。
明らかに男の声が聞こえる。
しかも1人じゃない。
最低でも4人はいる。
その小道に入ると、男6人に囲まれたハルナがいた。
全員が全員、ガタイが良いところを見ると、冒険者のようだが……卑下た笑いを浮かべ、1人の少女を取り囲む姿は、異様そのものだ。
「よう、化け物。大手を振って通りなんか歩いてるんじゃねぇぞ」
「そうだそうだ。お前、少しは自分の分ってもんを弁えるべきだぜ」
「ギャッハッハッハ!」
笑いが上がる。
一方のハルナの表情は見えない。
だが、小さく震えているように見えた。
(あいつ、絡まれてる……!? もしかして、あいつらの追跡を捲くつもりで、失敗したのか?)
そう思うと、いても立ってもいられなくなった。
小道へ思い切り飛び出す。
そして、叫んだ。
「ハルナ!!」
「おっ、なんだこの小僧」
注目が俺に集まる。
その視線は、それこそ百戦錬磨の冒険者たちの殺気そのもの。
鋭い視線を受けた俺は、たじたじになってしまう。
「あ、いや、その。何やってるのかなーと思いましてー……」
思わずヘコヘコしてしまう。
その様子を見て、容赦のない呆れた表情をこちらに向けるハルナ。
(す、すまない……だが、この状況は!)
かなり分が悪い。
少し様子見するしかない。
「何だ、こいつの面白い物が見たくて来たのか?」
「え、あ、はい。そうっす」
「ほう、素直な奴だ。まぁ、男だしなぁ?」
俺の肩に手を置く1人の男。
その表情は、悪役そのものだ。
1人の少女を前にしてこの表情。
そして、面白い物を見せるという言葉。
それはつまり……!
(こいつら、まさかハルナに乱暴する気じゃ……!)
まさに、あのダボダボなローブに手を掛けようとしている。
だが、それを絶対拒絶するように、身を翻した。
男たちは、そんな反応を楽しんでいる。
「へへっ、さっさと見せてみろよ。化け物が」
2人の男が咄嗟に襲いかかり、ハルナの腕を押さえた。
「くっ……!」
「へへへ……!」
ハルナもかなり手練れだという話だったが、この男たちも、かなりの手腕に違いない。
動きに無駄が無く、機敏だ。
悔しさと憎しみの感情を視線でぶつけるハルナ。
その様子を見て、満足げな表情を浮かべる男。
「さぁて、御開帳だ!」
ローブに手を掛け、思い切り捲り上げる。
その瞬間、ハルナの右腕を押さえていた男が、急に倒れ込む。
おそらくは、ハルナが仕掛けたようだ。
左腕を押さえていた男は、びっくりしてローブを掴んだままハルナから離れていく。
「くっ!」
そのままでは態勢が崩れるのを悟ったハルナ。
自らローブを脱ぎ捨て、後ろへ飛び距離を取る。
その姿に、俺はハッとした。
かなり軽めの武装。
腰に下げた3本の刀。
だが、俺が驚愕したのはそこではない。
丁度尾てい骨のあたり。
そこから、まるで尻尾のように……
1本の腕が生えていたのだ。
気にしていただけたらブクマしていただけると幸いです。
とても励みになりますっ!