第23話 酒盛り再び!
「いやぁ、またやってくれたなぁ、ユウジ!」
二度目の酒盛り。
俺たちは、その中心にいた。
酒を勧められるがままに飲んでしまい、今の俺は何でもアリだ。
最初こそ抵抗のあるアルコールだったが、口が慣れてきた頃にはいくらでも行ける。
ついでに気持ちが超大きいぜ。
裸踊りでも何でもしてくれる。
「ティンダロスの猟犬を30もやったんだって? よもや人間レベルじゃねぇぞ、それ!」
「おのぼりさんを倒すなんて! しかもあの異常な数でしょ? もう尊敬しちゃう!」
どこぞの女かも知らないが、くっついてくるのは、決して悪い気がしない。
「ははは、まぁ任せとけってんだ!」
「さすがは英雄さんね。まぁ、一杯どうぞ♪」
酒を勧められ、一気に飲み干す。
それを見て、周囲から歓声が湧いた。
「さすが、いい飲みっぷりだ!」
「それ、もう一杯いけ!」
注がれた酒を、再び一気に飲む。
すると、やはり歓声が湧く。
「いいね、いいねぇ。それじゃ、ちょいっと失礼♪」
俺の懐に飛び込んでくる女。
ひゃっほう!
最高だぜ!
「こーら、イタズラは程々になさいな」
俺にくっついていた女を引き剥がしたのは、メルだった。
その女は、気まずい顔をしながら、俺のポーチを手に持っている。
「あ、あはは。さすがはメル……目ざといですねぇ」
「あんたが分かりやすいだけでしょうに。ほら、ギルドに通報されたくなければ、さっさと離しなさい。盗みは最悪ギルドから見放されるわよ?」
「ちぇっ、分かってますよ」
渋々ポーチを俺に手渡す女。
俺は、それをひったくるように取ると、腰に下げた。
つもりが、落としてしまう。
「まったく、仕方ない飲兵衛ねぇ」
メルがポーチを拾い上げると、俺のベルトに固定する。
「んあー、ありがとな。んで、何でお前生きてんの?」
「随分なご挨拶ねぇ。まぁいいけど」
俺の横に座り、足を組む。
そして、耳元で囁くように言う。
「私はグールだから、バラバラにされたって死なないのよ。身体も、ちゃんと残ってるなら、ちょっと魔力を注げば元に戻る。仮に身体が残ってなくても、相応の魔力を注げば作り出せる。便利なもんでしょ」
「なるほどぉ、そりゃ便利だぁ」
メルが注いでくれた酒……かと思いきや、水を一気飲みする。
「ちょっと飲み過ぎねぇ。少し休んだほうがいいわよ?」
「うるっさい! お前も飲めっ!」
「飲んでも酔えないのよねぇ。私、グールだから」
「ええい、いいから飲めぇ!」
「そーれす! 飲んで、ゆーじさんから離れるんれす!」
「ユウジ! 他の女とイチャイチャしてるんじゃないれす!」
俺の声に乗っかってきたのはリザだ。
一緒にハルナも来ている。
「全く、揃いも揃ってヘベレケねぇ」
「へへれけとはなんれすか! わたひはいたってれーせーでう!」
「はいはい、そうね。分かったから、普通に話しなさいな」
「わらひはいたってふつーれす!」
「うんうん、普通のリザね。そっちも普通のハルナってことでいいのかしら」
「その通りれす」
呂律の回っていない2人。
既に潰れる寸前と言って良いのではないだろうか。
「ところれ、あの時なんれゆーじさんにブレスをかければだいじょーぶって分かったんれすか?」
「それは私も気になりまふ」
リザとハルナが食いつく。
俺もそれは気になっていた。
普通、あの状況で、俺を強化する意味は無い。
だが、本物の聖剣であったエクスカリバーが本来の力を発揮したことで打破出来た。
その確信はどこから来たものなのか。
非常に興味があった。
「うーん、さすがにそればっかりはパーティーに入れてくれないと話せないわねぇ」
「それなら別にいいれす」
「私もいいれす」
「あらぁ、もうちょっと引き留めてよぉ」
即答するハルナとリザに、メルは冗談っぽく言う。
「メルしゃんがぱーちーに入るくらいなら、わたひがぬけまふ!」
「いやいや私がぬけりゅ」
「じゃあ俺が」
「どうぞどうぞ」
「コントやってるんじゃないのよ」
冷静な突っ込みが入る。
気を取り直すように間を置いて、俺が切り出す。
「前も言ったけど、俺は別に反対じゃないぞ?」
「なんでれすか!」
「そうですよユウジ! 悪名名高いメルでしゅ。絶対やめたほうがいいれす!」
「いやいや、そう頭ごなしに否定すんなっての」
「ふふ、噂は噂。でも、火のないところに煙は立たぬ、とも言うんじゃない?」
「そうやって自虐するの好きだよなぁ、お前。そんなんだから色々言われるんだろ」
メルの表情が一瞬だけ固まる。
「あら、事実だから仕方ないじゃない?」
「うーん、そうかなぁ。俺は、お前がそこまで悪いやつには見えないんだがなぁ」
マジマジと見つめる。
高身長、グラマラスボディ、お金持ち。
これだけ見れば完璧すぎるが、実は死体。
だが、その心は……
「お前、さっきも俺のポーチを守ってくれたろ?」
「私の獲物に手を着けられちゃ、たまったものじゃないしねぇ」
「前の時、俺の財布を拾ってくれたことは?」
「たまたま気が向いただけよ」
「100万リムも入ってるのにか?」
「盗みはギルドから追放されちゃうしね」
何やかんやと理由をつけてくる。
だが、俺には分かる。
「パーティーが全滅したって、お前は当然のごとく生還出来るよな」
「死還って言うべきかしらね」
「お得意のグールギャグか」
「そうよ。鉄板ネタ」
「まぁ、そんなことはどうでもいい」
「あら寂しい」
冗談っぽく呟くメル。
だが、俺は生真面目に言う。
「お前、噂っぽく振る舞ってるだけだろ」
「何を根拠にそんなことを」
「何をって、ここしばらくお前を見ていた感想だ」
「随分と短い期間で決めつけるわね」
「期間は案外どうでもいい。お前の行動は、フラフラしてるようで、実は一貫している」
「ふぅん、例えば?」
「金儲けのため、とか言うけど、実際は想像以上に周りを見て動いている。俺にこの剣を買うために唆したわせたのも、悪気は無いんだろ?」
「武器屋の親父から手数料貰ってるわよ?」
「だが、俺に有用だと思えばこそ、買わせたはずだ。そうでなければ、あの土壇場で、強化のブレスを俺に掛けろなんて発想は、そもそも無いはずだしな」
「…………」
珍しく沈黙で返すメル。
それを肯定と受け取り、俺は先に進める。
「それに、結構可愛いところあるよな。俺たちを助けた時の問答だって、最初から300万リムも貰う気無かったろ?」
「あら、本気だったわよ? こうしてティンダロスの猟犬の群れを倒したわけだし、また賞金もらえるでしょ?」
「だとしたって、300万リムの代わりにパーティーに入れろってのは、暗に俺たちの仲間になりたかっただけだろ?」
「300万リムの価値には見合わないわねぇ」
「だったら撤回してるんじゃねぇよ。それに、正体もわざと暴かれたろ? そして、あの条件は最初から出すつもりだったんだろ?」
「…………くっ」
言葉に詰まるメル。
頭の回転こそ早いものの、正鵠を得られると、ほんの僅かだが、一瞬躊躇する癖がある。
それもまた、彼女がムキになって隠している素直な部分であり、可愛い部分だ。
俺は、いち早くそれに気づいた。
いや、誰にでも気づけるのかもしれない。
俺には、先入観が無かっただけ。
ただ、それだけだったのかもしれない。
「どうするよ。俺はお前のこと、惚れたぜ」
「惚れた女をどうするつもりよ」
「もちろん、俺のものにする。仲間になりやがれ!」
「はぁ、まったく。こんな誘われ方は、死んでこの方初めてよ」
手を出してくる。
俺は、その手を握る。
「よろしくユウジ」
「おう、こっちこそな!」
「あ、ちょっと……」
うれしさと酔いのあまり、思わず手を握ったまま腕を上下に振る。
すると。
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メルの腕が取れた。
「うわぁぁぁぁあああ!」
「あぁ、もう……ちょっとは優しく扱いなさい」
思わず手を離すが、千切れた腕は手のひらで見事着地。
そのまま指を立てて走り出すと、主人の足下に着く。
ゆっくりと拾い上げ、腕につける。
そんな様子を見ながら、悪態をつく女の子2人。
「もー、ゆうひさんは甘しゅぎなんれす」
「れも、そんなユウジがしゅきになっちゃったんれすから、私も大概ってことなんれすかね」
「そういうことになっちゃうんれすかねー」
珍しく2人、乾杯すると、一気に飲み干した。




