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第2話 彼女との出会い

「おぉ、すげぇ……!」


 開口一番、自然に出た言葉がそれだった。


 俺は今、おそらく町の中央部にある噴水を背に立っている。

 この場所を中心として、大きな道が十字に開け、その道に沿うように、中世ヨーロッパのような建造物がズラリと並ぶ。

 建物もそうだが、道も噴水も、主に加工した石で作られており、イメージ通りのファンタジー世界が繰り広げられている。


 人はまばら。

 しかし、行く人行く人、鎧を着ていたり、魔法使い風なローブと杖を持っていたり、司祭のような格好の人など。

 俺のテンションを上げるのには充分なものだった。


 そして、俺の装備。

 胸と肩を守る鎧に、下鎧。

 マントもつけており、なかなかに格好良い。

 腰には剣を下げ、背中には小さな盾。


「これは……悪くないな」


 上機嫌故に出てくる独り言。

 目の前にある建物には、明らかに日本語ではないが、冒険者ギルドと読める看板が掛かっていた。


 なるほど、女神が言っていた、こっちの世界に適応させるようなニュアンスは、このことを言っていたのか。

 自然に文字が読めることに感謝する。

 あの女神、性格はともかく、なかなかの仕事をしてくれた。



 早速、記念すべき第一歩を踏み出す。

 その時。


「ねぇ、そこの格好良いおにーさん♪」


 言われて振り返り、俺の視界に飛び込んだのは、飛んでもない爆乳だった。

 可愛い顔立ちに、出てるところは出ていて、締まるところはキッチリ締まったグラマーなボディ。

 そんな犯罪スレスレな身体を、踊り子のような服で惜しみなく露出している。


 これぞファンタジー!

 ファンタジー万歳!


「何かね、お嬢さん」


 などという内心は一切晒さず、表面はどこまでも紳士的に。

 第一印象から、元は彼女いない歴イコール年齢童貞無職不登校などと悟らせてはいけない。


「あなた、転生者ですよねっ?! 今、そこから出てきたから、確信しました!」


「うむ、その通り」


「ということは、素晴らしいスキルをお持ちなんですよね?」


「ふっ……そこまで知られているとはなぁ」


 僅かに鼻の下が伸びるが、一瞬で補正する。

 危ない危ない。

 女にチヤホヤされたのは、赤ん坊の時に母親に向かって「ママ」と喋って以来ではなかろうか。

 だが、そんなことでボロを出すな。

 最初が肝心だ。


「是非、私たちのパーティーに入ってくれませんかっ?! あなたのような素敵な方なら、誰も反対なんてしませんよ!」


「ふふ、そうか? では、案内してもらおう」


「ありがとうございますっ! では、こちらへどうぞっ!」


 俺は、美女の背中……ではなく、尻ばかり見ながら後をついていく。

 あぁ、これが男のサガというものか。

 でも許してくれ。

 プリプリと形の良い尻を振りながら歩く様は、男なら誰もが釘付けだ。

 思春期だしね。

 仕方ないね。



 などと思っていると、到着したのは洞窟。

 入り口はかなり大きく、高さは10メートルはあるだろうか。

 山を切り開いて作られており、周囲は多数の切り株があった。

 恐らく、森だったところを切り開いたのだろう。

 おどろおどろしい雰囲気が漂い、遠くから聞こえるカラスのような鳴き声が、一層不気味さを醸し出す。

 しかし、俺に不安など有りはしない。


(何と言っても、強化スキルだろ? それってつまり、単純に腕力や脚力が強化出来るってことだろ? 基礎能力は完璧じゃん)


 聖剣にも匹敵するスキルなのだ。

 どんな状況も乗り越えられる気がしてならない。



 彼女は、更に洞窟の奥へと入っていく。

 続いている俺も、当然中へ入る。

 しばらく歩き続けると、大きい両開きの扉があった。

 その扉を彼女と共に潜ると、突然ドアが閉まった。


「お、いいねぇ。もしかして、転生者リレイザーかい?」


 思わず振り返ると、そこには男が5人。

 全員が全員、悪人面を引っ提げて笑っていた。


「ごめんねぇ、おにーさん♪ 痛い目見たくなかったら、ぜーんぶ置いていって? 私からのお・ね・が・い♪」


 あれだけ可愛かった顔がどこへやら。

 思い切り悪女になっていた。

 そんな彼らを前に、俺は笑いしか込み上げてこない。


「なるほど、嵌めたつもりなのか」


「つもりじゃないな、嵌めたんだよ。ま、全部置いていけば、命だけは取らないでおいてやるぜ、坊や?」


「ギャッハハハハハハ!」


 笑いが響く中、俺はなおも続ける。


「ふっ……そのくらいは、予想の範囲内だ!」


「へぇ、なるほど。そんな自信がつくほどのユニークスキルを持ったわけか」


「そうさ。てめえらみたいな小悪党相手に使うのもどうかと思ったが……ここらで試させてもらうぜ!」


 念を込める。

 使ったわけじゃないが、使い方は身体が教えてくれている。

 手を前に出し、身体の魔力を集中させる。


 そして……!


「スキル、強化!!」


 同時に、みなぎる力。

 腕力だけでなく、全身のありとあらゆる能力が上がっていく。


「うおおおおおおおおっ!!」


 剣を抜いて、吶喊。

 奴らは、驚きのあまり、茫然自失。

 俺は、1人の男の前に立ちはだかると、思い切り剣を振り上げる。


「くらえっ!」


 同時に振り下ろす。

 その瞬間。



 カキィン!



 剣が一本、宙を舞った。

 それは紛れもなく……



 俺の剣だった。



「…………あれ?」


 目の前には、剣を構えた男。

 どうやら、その剣技で、俺の剣を飛ばしたようだ。

 僅かな沈黙。

 そして。


「ギャッハハハハハハ!!」


 またも笑い声が響いた。

 困惑する俺に、目の前にいる男が笑いながら解説する。


「おいおい、笑わせるなって! もしかして、お前が持ってるユニークスキルって「強化」なのか?」


「そ、それがなんだ?」


「おいおい、マジだってよ!」


 再び笑いが反響する。


「残念だったな、兄ちゃん。強化なんざ、どこの誰にでも使えるけどよ。誰も使わねぇだけなんだよ!」


「……ど、どういうことだ?」


「そうだなぁ。例えば、俺みたいな筋肉バカにでも使えるんだぜ?」


 そう言って、いきなり口をすぼめて息を吹きかけてきた。

 本来ならその息を感じることなど出来ない距離だが。


「あぁん……!」


 こそばゆい風が届き、妙な声をあげてしまった。


「ガハハ、兄ちゃん感度いいねぇ。俺、燃えて来ちゃう!」


「ギャハハハハハハ!!」


「いいぞいいぞ、いっそ身包み剥いだ後はおまえにやるよ!」


「おいおい、いいのか? ノンケでも食っちまうような男だぜ?」


「……本気か?」


「……すまん、冗談だ」


 仲間内に、何か違う意味で亀裂が入ったと思ったが、元の鞘に収まってしまったようだ。

 標的は、再び俺に戻る。


「ま、そういうことだ。こうした、自分や他の奴の発生させた現象を増幅させるのが強化ってスキルなんだ。だが、使い勝手は最悪。使ったところで、倍にもなりゃしねぇ」


「クズスキル貰っちゃったわね、おにーさん」


 ……まじか。

 そういえば、女神が言ってたっけか。


 「そんなものもあるのか」と。


 ここにきて「そんなもの」という意味がようやく理解出来た。

 こんなクズスキルも出てくるのか、という妙な納得だったのだ。


「さて、諦めもついたところで、装備品から金まで、全部置いていけや」


「そうそう。大人しく置いていけば、痛い目は見なくて済むわよ?」


「くっ……」


 まずい……これはまずいぞ!

 もっと強いスキルだと期待していただけに、これは厳しい。

 何とかして、この状況を打破しなければ。

 身包み剥がれるのが嫌なのは当然だが……


 さっきの男の発言。


 目がマジだった!

 最悪の場合、掘られる!

 童貞卒業前に、俺が処女奪われちまう!


(くそっ、こうなったら!)


 もうヤケだ。

 敵に塩を送られたんだ。

 その塩を振りまいてくれる!


 魔力を集中すると、目の前に魔法陣が浮かぶ。

 その魔法陣向けて、口をすぼめて息を吹きかける。

 すると。



 ビュォォォォォ!



「うおおおおっ!」


「な、なんだとっ?!」


 追い剥ぎ団に動揺が走る。

 なんと、吹きかけた息が、魔法陣の先から台風にも似た突風となり、吹き荒れたのだった。


(おっ……?)


 あまり期待せず、軽く吹いただけだった。

 それがこの威力。

 これって、かなり凄いのでは……?


「ふぅぅぅぅぅぅっ!」


 今度は思い切り吹きかける。

 すると、追い剥ぎ団が壁に吸い込まれたように打ち付けられていた。

 しかもそれだけじゃない……

 あの悪女の衣服が吹っ飛んでいた!


(うひょぉっ!)


 ……とか喜んでいられない。

 そう、今は逃げることが先決だ。

 奴らが壁と友達になっている隙に、俺は入ってきた扉へ。

 そのまま、うろ覚えな記憶を頼りに、何とか外まで出ることに成功した。


「はぁ……なかなか世知辛いじゃないか」


 さっそくの美女との出会いが、世界に降りたった最初で最悪の思い出となってしまったのだった。




 ◆ ◆ ◆




「それはそれは、災難でしたね」


「全くだよ」


 その後、俺は無事に冒険者ギルドに到着。

 事の次第を、カウンターにいるお姉さんに話していた。


「でも、大抵は女神フォイニー様から警告を受けるものなんですけどね」


「言ってたけど、とても警告って言えるもんじゃなかったぞ?」


 それこそ、捨て台詞のように、適当に言い残した感じだ。

 とても警告とは言えない。


「まぁ、こちらに来て早々、色々と大変でしたけど……改めまして、冒険者ギルド・リルガ支所へようこそ! あなたを歓迎します!」


 あぁ、これが本来あるべき冒険の幕開け……

 心躍る展開が俺を待っているわけだ!


「さて、転生者の勇二様は、こちらのお名前もユウジ様でよろしいですか? それとも、お名前を変えられますか?」


「えっ、変えられるの?」


「はい。転生されたのですし、これを機会にと変えられる方もいらっしゃいますよ。もちろん、ユウジ様でも結構です」


 ふむ、早速難しい問題だ。

 俺にとっての、ゲームを始めるときの第一難関。

 それがキャラクター作り。

 つまり名前だ。

 スイッチを入れて1時間は掛かる行程だ。

 ただ、今回に限っては……


「うーん、ユウジでいいかな」


 どうあれ、親につけて貰った立派な名前だ。

 何事にも勇気を持って、二の足踏まず。

 そういう願いを込めて付けられたのが勇二。

 まぁ、実際は名前負けしちゃってるけどな。


「わかりました、ではユウジ様で登録致しますね。ただ、申し上げにくいのですが……」


「うん?」


「実は今、登録された冒険者の全員が、某かのパーティーに所属していまして……紹介出来る人がいないのです」


「そ、そうなの?」


 それは結構切実な問題だ。


 1人でもいいのかもしれないが、やはり味方がいると心強い。

 ちょっと入った洞窟だけど、やはりあの暗がりは正直怖いと感じた。

 それに、どんな危険が待ち受けているかも分からない。


「あとは、あまり組みたがらない子が残ってますね。個人的には、是非この子たちと組んでくれると嬉しいんですけど」


「組みたがらない? 孤高の狼気取ってるとか?」


「そういうことじゃなくてですね、実は……」


「マスター。余計なことは言わない約束です」


 突然割り込んできた声。

 気配をまったく感じなかった。


 しかし、俺の真後ろには、いつの間にか、女の子が1人立っていたのだった。

お気に召したらブクマお願いします!

とても励みになります!


評価・感想いただけたら感涙です!

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