第二話『裏野ドリームランド』
〈△月○日(木)17時42分〉
私はちょっと大きめなカバンを背負いながら電車にゆられていた。電車は一両しかないうえに、人は乗っておらず、快適な移動をしている。
なんで私が電車にゆられているかというと、昨晩やっていたオカルト番組、それで紹介された『裏野ドリームランド』に行くためだ。
『裏野ドリームランド』はかなり遠く、何回も乗り継いだ先の終点にある。駅からも歩き、森の中に入って進んでいったところに廃遊園地がぽつんとある。遊園地自体がかなり古く、もう何十年前に建てられたものだ。
周りも森に沈んだ廃墟が多くあり、廃墟マニアの間ではかなり有名な場所らしい。だけど、彼らも遊園地の中までは入らない。
その理由は、未だに取り壊されていない理由に直結している。
この遊園地に入ると二度と出てこられない。そんな噂が出来上がるほど、ここに入った人間は死んでいるのだ。
そもそもこの遊園地が遊園地として機能している時から事件があったという。
最近もこの辺を開発するために工事しようという話もあった。
まぁでも、工事は中止になっていたけどね。作業員が変死体で発見されたり、突然発狂して死ぬからだ。多分、これがあったからオカルト番組の特集として挙げられたんだと思う。
誰かが入ると事件が起こる。だから誰にも手を触れられず、未だに廃遊園地が残ったままとなっている。
でも、そんなこと関係ない。たとえ危険があったとしても、私は秀樹にもう一度会いたいんだ。だから、怖いとすら感じない。呪いだとなんだの言われている場所が、私には一筋の光に見えたから。
『次は終点、○○駅、○○駅』
長いこと揺られながら、目的の駅にたどり着く。周りには何もなく、木々が生い茂った寂しい駅。
人が誰もいない無人の駅に小さな小屋のようなものがぽつんと立っている。いわゆる秘境駅と呼ばれる場所だ。この駅は一日一往復しか電車が来ないので、今日はもう帰れない。それにこのあたりは人が住んでいないため、泊まれる場所すらないだろう。
ただ、この電車がまだ残っていて良かった。一部の廃墟マニアがよく利用しており、そのおかげで一定の利益が出る。だからまだ駅が活用されているんだろう。本当にありがたい話だ。
もし、この電車がなかったら、私はこの場所にたどり着くことすらできなかったんだから。
顔も知らない廃墟マニア達に感謝しつつ、私は『裏野ドリームランド』に向かってゆっくりと歩く。
しばらく歩いた先に、『ここより裏野ドリームランド敷地内、ここからの入園はご遠慮ください』と書かれた不気味な看板があった。
根元は完全に折れていて、倒れた看板が木に立てかけてある状態。
その状態になって、始めて読みやすくなる、不自然な形の看板。もし、普通に立てたなら、縦書きの文章を横にして読むような状態になり、非常に読みづらい。その奇妙さに、ちょっとだけ背筋に冷たいものを感じさせた。
「ふふ、くすくすくす」
「えっ……」
不意に聞こえた笑い声。声色は女性的で、子供っぽい感じの笑い声。だけど周りを見渡しても誰もいない。でも、どこかで聞いたことがあるような、そんな気がした。いったいいつなんだろう。わたしはここに来たことがないはずなのに。
もう一度、耳を澄ませてみるが、声は聞こえない。一度深呼吸をして、落ち着いたあと、わたしは看板の忠告を無視して先に進もうとする。
生い茂った草木を分けて、ずいずいと中に入っていくと、すぐに行き止まりに着いた。
といっても、フェンスのようなものがあるだけだ。わたしはそこから中の様子を伺うが、そこから見えたものは……。
「なにこれ……」
フェンスの先は不気味な建物が立っていた。窓には全て柵が設置されており、まるで牢獄を豊富とさせる。でも、驚いたのはその奥にあるものだ。
実態が不安定で、なにかを求めているような黒いなにか。それが何体も、何体も、何体も、まるで何かを探しているかのように彷徨っていた。もし私の存在がバレたら、どうなるかわからない。だけど幸い、私には気がついていないようだ。
あれは何か危険な感じがする。このまま行かずに引き返そう。
私は一旦その場を後にする。あの立ち入り禁止の看板があった場所まで戻ると、少しだけさっきと違った。看板の真下、そこには見覚えのない一体の人形が置いてあったのだ。
それはボロボロの関節球体人形。ゴシックロリータな服装と洋風の顔立ちで、綺麗だったら可愛らしいことだろう。
だけどその人形はボロボロで、ところどころ破損しており、目の部分は汚れのせいか、死んだ魚のようだ。
「さっきまでなかったのに、これは?」
気になって人形に近づいてみる。それからあたりを確認してみるが、他に変わった場所はないようだ。
これは一体何だろう。誰が、何のために置いたんだろう。いや、もしかしたら、わたしはすでに、何かしらの怪奇現象に巻き込まれているのかもしれない。でもそんなのは関係ない。わたしは秀樹に会いたいのだ。そのためにわたしは頑張るし、必死にもなる。
だけど『裏野ドリームランド』に入る手がかりがなくなった。きっとあそこから入ったら、絶対に危険なことが起きるだろう。秀樹に会う前に怪我をしてしまったら会えなくなってしまう。それだけはなんとしても避けたい。いま手がかりになりそうなものといえばこの人形。とりあえず確認だけして見よう。
私はそっと人形を持ち上げる。ぐったりとした状態の人形。当然動かないはずなのに、いきなり顔がぐるりと私の方を向いた。
人形と目が合うと、にやりとした笑みを浮かべ、呟き出す。
「オカ……オカエ……リ……オ………カ……エリ……」
「きゃぁああ!」
私は咄嗟に人形を投げ捨てた。放物線を描き、人形が地面に落ちる。
「なんだったの、今の……」
私は地面に落ちた人形を凝視する。素材が脆かったのか、体がバラバラになってしまった人形。だけど、目だけは私をしっかり見ている、そんな雰囲気を感じられる。
割れた人形のお腹あたりに赤黒い塊がドックン、ドックンと鼓動していた。
「一体何なのよ。気味が悪い……」
その気持ちわるい何かを無視して、別の入口を探そうとする。人形を避けて、元来た道を戻ろうとするのだが、私は運がいいらしい。避けるために人形を凝視していたら、きらりと光る何がに気がついた。どうやら光ったそれは赤黒い何かに刺さっているようだ。
「どうしよう、これを触らないと取れないけど……」
これは私の勘。だから確証なんて全くないんだけど、何故だか、このきらりとしたものが『裏野ドリームランド』に導いてくれるような気がした。さっき人形が言っていた言葉が示したとおりに、誰かが私を呼んでいる。そんな気がしてならない。
もしかして、秀樹が呼んでいるのかな。もしそうなら嬉しいな。
私は勇気を振り絞って、赤黒い何かを手で触る。ぬめりで手がべどべとになり、肉を触っているような感触が手全体で感じ取れる。かなり気持ち悪いそれに刺さっている何かを
引き抜いた。そして、手に入れたそれに視線を向けると……。
「えっ……鍵?」
取り出したそれは『裏野ドリームランドキャストルーム』と書かれた鍵だった。
一体何でこんなところにあるのかわからないけど。ただ、中に入れる手段を見つけたことはありがたい。
私はキャストルームを探すために、再び歩き出そうとしたけど、急に頭が痛くなる。視界がだんだん狭くなり、私は意識を失った。
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