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私は俺らしく  作者: きのこる先生
依織スクール
14/16

第14話 『伊織ガール』

4/11 ストーリー改変、加筆を行いました。

前略、過去は精算できます



俺は舞と別れた後も電車に揺られている。

もうすぐ[みかわ駅]に着く。


『間もなく、みかわ、みかわ。』


あれってまだ先週の事⋯だよな⋯ついこの間までは俺は⋯


プシュー


ハッ

「降りなきゃ」

ドアが開いているのにボケっとしていた。

乗り過ごす所だった。


「ヤバい、何か1人になったら急にセンチメンタルな気分に⋯」


ゴトン⋯ゴトン⋯


通り過ぎる電車を眺めながら人の行き交うホームを死んだ様な目で見廻す。

死んだ者の目だ

先週、俺はここで死んだ⋯二つの命と引換えに


まだ、シッカリとは受け止められない。

というか、現実感が希薄なのだ


今が恵まれ過ぎて、満たされ過ぎている。

その優しさや、幸福感がカラカラに乾いた心を満たすのだ。

心が満たされると前回(安城)だった事など、『どうでも良くなってしまう』


それは、かつての安城()にとっては『猛毒』だ。

だが、俺は『猛毒』を自ら受け入れ__飲み干した。


いずれ安城()は完全に消えてしまうのだろう

伊織()が選んだのだ。


俺が私らしく生きる為に


その選択に後悔はない⋯ハズだ

例えそうするしか無くても、俺は伊織()として生きる事に異存はないのだ。環境に、人に恵まれていて、生きる事が求められていて、未来があって、『家族』が居る。


「帰ろ⋯」

俺はスカートを翻し、ホームから去ろうとし、偶然『ソレ』が目に入り、目を見開く。


ホームの片隅に『誰かに手向けたれた花束』が__


ふらふらと花束へ近付く。


おい、やめろ

安城()に添えられたとは限らないだろ?

違ったら恥ずかしいってレベルじゃねーぞ

もっぺん死にたくなるレベルだ

今なら間に合う、引き返せ


しかし、俺の足は止まらない。


周りが伊織へ好色な視線を送ろうが、妙な物を見る目で見ようが、どうでもいい。


花束の元へ辿り着いてしまった。


花束の下には紙が⋯メッセージが書かれた紙がある

『おにいさん、助けてくれてありがとう』

女児が書いたような拙い文字だ

「あっ⋯」

誰に送ったかなんて分からない

あの子かどうかも分からない

あの親子連れかどうかなんて確証はない

確証はないけど

でも、もし

もしも、あの時の子が

あの親子連れがこの花を備えたのだとしたら__俺は


俺の死を悼んでくれる人が居るのだとしたら


限界だった。


俺は静かに、泣いた。

だが荒れ狂う胸のうちを吐き出す事なく、咀嚼し、飲み干す。ひとつも零さぬように。

「っぐ⋯ん⋯ぐ⋯ひぐ⋯んん⋯」

肩を震わせ、今にも大声を上げて泣き出しそうな体を抱きしめ

俺が俺であり続ける為に、忘れぬように

静かに泣いた



俺は、初めて自分の『(現実)』と向き合ったのだった。








ひとしきり泣いたら無茶苦茶スッキリした。


「ふ、安城もこんな女の子と付き合えたら幸せだったろーに⋯」

でも、それはねーな

「だって女王様だよ?⋯っぷ、ふふふ⋯ふふ。」

想像できないというか、椅子にされてる図しか浮かばない。



「はぁ⋯あ、鬼饅頭⋯」ふと思い出す。


俺はゴソゴソと鞄を漁る。あった


中島さんが持たせてくれたやつだ。


「半分あげる」真ん中でパカッと⋯うまく割れなかった

「半分じゃないけど⋯1/3くらいあげるよ。」

大きい方は女の子に譲る。そういう奴だった。


俺は鬼饅頭1/3をお供えし、黙祷する。


いずれ、この男の事など誰もが忘れるだろう。

彼は天涯孤独なのだ。

でも俺は、生きている限り忘れたりしない。


だって俺は俺なのだから



「さよなら」


俺は安城()へ完全な別れを告げる。


今度こそ踵を返し、階段を登る。


鬼饅頭2/3を頬張りながら。

なんだか懐かしい味だ

少しだけ、元気が出た。




これは、始業式の帰りに偶然、花束とメッセージを見つけちゃった俺の__伊織()になってから初めて『ちゃんと流した涙』のお話。


そんなお別れのお話だ。





逢妻邸は駅から歩いて10分ほどのところにある。

伊織の足だと13分くらいかかったが⋯まぁ誤差範囲だ


逢妻邸の門のくぐり、広い庭を歩く。

相変わらずの広さに呆れる。

渡されている棒状の電子キーは、所持していれば門やドアノブに触れた瞬間にロックが外れる仕組みのようだ。


「お父さんが好きそうなシステムだなぁ。」


ハイテクっぷりに多少呆れながらも、玄関を開ける。


「ただいま。」


「おかえりなさいませ。依織さん、学校はどうでしたか?」

中島さんが迎えてくれる。

門を通過した時に分かるようになっているのだろう。


「うーん、大変だったけど…友達もできたよ!」

つとめて笑顔で応える。

初日から死ぬかと思った⋯とか言えねぇよ


「それはそれは、よう御座いました。」

中島さんも笑顔だ。

この人の安定感好きだわ~


調子が戻るというか、元気出る



靴を仕舞い。

リビングへ昼食を⋯


「あれ、そういえば、悠人もいるよね?」


「はい、坊っちゃまは2階の自室にいらっしゃるかと。」


「悠人はもうお昼食べたの?」


「坊っちゃまは依織さんが帰ってきてからにする と。いつでもご用意できますよ。」


「へぇ、可愛いとこあるのね。」

シスコンかな


「坊っちゃまは依織さんを慕っておいでですから。」


「シスコンだね」

女王様って呼ばれてんの知られたくねーなぁ


「そうともいいますね。では、依織さんの準備が終わりましたら、ぼっちゃまを呼んできて頂いてもよろしいでしょうか?」

シスコンの弟にサービスしろって?


「ん、任せて。どうせ自分の部屋で着替えたりするし。」

シャワーはご飯の後かな


「では、リビングで昼食の用意をして参ります。」

中島さんはそう言うとリビングへ歩いて行った。


俺は階段を上がり2階の自室へ行く。


「ふー、とりあえず着替えよっかな。」


俺は制服を脱いでハンガーへ掛ける。

「ふふーん、いい事思い付いた。」

オリコウな弟へサービスだ。

俺は着替る

無地のカップ入りタンクトップにショートパンツ。

そこへパーカーを羽織り、ニーハイソックスを履く

らくちん可愛いスタイルだ


「さ、ゆーとクンの反応を見ますか」


俺は自室を出て、向かいの悠人の部屋をノックする。


コンコン


「ゆーとー。ただいま!」


⋯ガチャ

「おかえり⋯ぶっ⋯ちょ!ねーちゃん!それはヴぁい!」

ヴぁーい

悠人は真っ赤になると手で自分の目を隠す


「ただいま。うん、楽そうでしょ。お昼一緒に食べよっか。」

俺はあくまで普通に振る舞う。


「な⋯なん⋯わ、わかったから、前締めて!」

手の隙間からチラ見してんじゃん…ま、健全な中1らしい反応で満足したよ。


「はいはい、ほら、行くよ?」

パーカーの前を程々に締める


「う、うん、ちょっと待って、接続切るから。」


悠人は慌てて部屋の中に戻って行く


ガシャ⋯バタン「痛ってー!」

あ、コケた


「あー⋯大丈夫?」


「だ、大丈夫。」


悠人はゲームの置いてある机まで行くと、置かれていたヘッドセットに何やら話しかけている。

オンラインでゲームしてたのか?


「あ、BOFじゃん」

画面に写っていたのは大人気のFPSゲームだった。

「知ってるの?」


「あ、うん、ネットの広告で見てさ」

しまった、男の頃にやった事あるから反応していしまった。


「ねーちゃんがBOF知ってるなんて意外。よかったら後で一緒にやらない?」

そんなキラキラした目で見るなよー

ま、断る理由もないし


「ん、いいけど、私は初心者だよ?」

嘘だけど、経験者ッス


「いいよ、ギルメンも喜んでるし!」

ギルドメンバーが?


「そうなの?私歓迎されるような事してないけど」


「カニが言ってるんだけど、女の子が混じった方が楽しいんだってさ。ボクもねーちゃんと遊べえるし⋯その⋯嬉しいだ」


「そこまで言われちゃ混じらせてもらおうかね!」

カニってギルメンか


「うん、大丈夫。僕のサブ垢あげるから、使ってよ。」


「プレイヤースキルがアレだけどいいのかねぇ」


「大丈夫だって、僕らのギルドは中々強いんだ。」


「ふーん、お昼ご飯とシャワー終わったらね。」

1人くらいお荷物が居ても問題ないくらい上手いんだろう⋯それならいいや


「約束だよ!⋯わかった。(じゃ、皆また後で。いってくるね)」


うん⋯姉弟の交流だって大事なコミニュケーションだ。

弟の友達ってのも姉として見ておくのも悪くない。よね?


俺はゲームをやりたい欲求に大義名分を与えるのだった。

大事だよねそういうの



「お待たせ、行こ」


悠人と一緒にリビングへ向かうと、既にいい匂いが⋯


「この匂いは!」


間違いなく!


「やっほぅ!カレーだぁ♪」


「やったー!カレーだぁ!」


中島さんがカレーライスを用意してくれていた。


「お飲み物は何をお持ち致しましょうか」


「あ、私コーヒー牛乳がいいな。甘くないやつ」


「僕はぶどうジュースで」


「かしこまりました。」



悠人と並んでテーブルに着く。



「「いただきまーす!」」


俺達は仲良くカレーを頬張るのであった。





□□昼食後■■


「「ごちそーさまでしたー!」」


「あー、満足!」

お腹が満たされると元気が出る!


「ねーちゃんマジでよく食べるようになったよねー」


「前の私が少な過ぎたんじゃない?」


「あ、それはあるかも」



「さて、じゃあ姉はちょっとシャワー行ってくる。」


俺は立ち上がり、二人分の食器を片付ける。

軽く流して食洗機へGOだ。


「依織さん、ご入浴の用意は整っております。」

でかした!


「ありがと!」


「ねーちゃんのまた後で」


はいはーい、と手を振り、リビングを後にする。




俺は脱衣場で手早く服を脱ぐ

もう自分の裸で狼狽えたりは⋯あんまりしない。


芯は男だけど、外面に纏うくらいの女の子らしさは学んでいきたいな


急速に、より女の子らしく、なっているのかもしれない。心が


「ま、気にしても仕方ないよね。今日は嫌な汗いっぱいかいたから、はよシャワー浴びたいのだ。」


浴室の扉をあけ、中へ入る。


シャワーを出し、お湯を浴びる


しゃわ~


「♪」


ああ^〜 気持ちいいんじゃ~


ついでだし、頭も洗っちゃえ。

そんな感じでフツーにお風呂を堪能する。


優雅に湯船に浸かる。

「はぁ~極楽」


この後は久しぶりのBOFだ。


「楽しみだなぁ」

ウキウキするのだった。


眠たい所に寝られるって良いですよね。

本当の贅沢って、やりたい時にやりたい事をできる事なのかもしれませんね。

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