第13話 『依織トラウマ』
4/11 ストーリー改変、加筆を行いました。
前略、トラウマってギリシャ語だったんだね
日本語だと思ってたよ!
俺は舞と雑談をしながら駅まで歩いている。
学園中等部校舎から[学園南]駅が1番近い
周りの生徒も俺たちと同じように駅へ向かっている。
昼までのロングホームルームも終了して帰る生徒が大半だ。
残っている生徒は級友と雑談したり、ランチしたりするのだろう
俺と舞はその帰宅組だ。
今は前の逢妻依織について色々話を聞いている。
「印象ねぇ⋯逢妻さんは体育をいつもお休みしていたわ。」
「あー、依織は生まれつき心臓の病気だったからね。」
「え! 持病って心臓病だったの!?」
焦った様子で聞いてくる。
「うん、今は完治したって先生が言ってた。」
俺のあっけらかんとした様子に
「⋯何かもう無茶苦茶ね。」
「常識に囚われては柔軟な発想はできないよ?」
「いいの、私は常識人だもの。」
そう言いながらもクスクスと笑う舞。
こういう時に上品さというか女の子らしさが出るよね⋯頑張ろう。
きゅるるるる
「あー⋯もう11:30じゃん⋯お腹空いたよぉ。」
⋯女の子らしさとは
「ふふ、依織って本当に面白いのね。」
まだ笑ってる
可愛いからいいけどさ
そんな感じで俺達は、駅へ入る。
「あ、トイレトイレ。」
マメに行くのだ。
「お花を摘みにって言いなさい。」
はしたないと注意されてしまう
「はぁい」
言動には注意しないとね
ハンカチで手を拭きながらお手洗いを出ると、既に舞は外で待っていた。
早いね とは流石に言わない。
「そうだ。依織、これ あげる。」
舞は鞄を漁ると、ナッツが丸ごと入っているチョコレート菓子を取り出す。
お菓子!!しかもチョコレート!
ずいっと舞に接近し、その手を取る。
「いいの!?」
「えっ、あ、うん⋯あげるから、そんなにキラキラした目で見ないでよ。⋯は、恥ずかしいわ。」
驚いた顔で頬を染め、ドギマギする舞。
おてて握るのはいいんですね?
「あ、ごめんて。舞、ありがとう♪」
距離を戻し礼を言う。
嗚呼、チョコレート
もうチョコのチョの字でテンションが上がる。
口に含んでカリッと噛めば、カカオの香ばしい香りが鼻腔を抜け、優しい甘みが口いっぱいに広がる。
脳内から幸せ物質的な物がドバっと分泌されているのが分かる。
世界がヤバい
つまり、チョコレートはヤバい
「おいひぃ♡」
幸せが顔に出てしまう
「⋯依織ってチョコレートが凄く好きなのね。」
何か考え込む舞。
「うん!甘い物は大好きだよ♪」
味覚がすっかり女子だ。というか体もか。
「⋯知らない人にお菓子を貰っても、ついて行っちゃダメよ?」
「お菓子をくれる人はいい人」
マイジャスティス!
「ダメだこの子!!」
大袈裟に嘆く舞
やっぱツッコミの才能あるわぁ
新しいツッコミ役の登場で脳内ノリツッコミも卒業かな?
2人で改札を通り、ホームへ向かう。
帰る方面は一緒らしいので、一緒にエスカレーターに乗る。
「そういえば、舞は駅で言うと どの辺りに住んでるの?」
「[松平駅]の近くよ。依織は?」
「あー⋯あそこかぁ。私の最寄りは[みかわ駅]⋯だ⋯よ。」
「そうなんだ。[みかわ駅]って混むでしょ?」
完全に自爆だが、前世というか男の俺は[みかわ駅]で痴漢冤罪に巻き込まれたのだ。
「う、うん。混むかな。」
時間帯は違うが、明日から授業が始まればあの時間の電車に乗らなければならないのか⋯フクザツだ⋯
そんな俺のフクザツ心中には気付かず
「依織、痴漢には気を付けるのよ?」
舞はズキュっと特大ナイフを突き刺す。
言葉というなの刃物を
「ぐは⋯」
やめて! 俺のMPはもうゼロよ!!
「ち、痴漢冤罪もありうるし、うん⋯」
落ち着け⋯俺⋯何を言っているんだ⋯なぁ⋯もう済んだことだし、気にしても仕方ないだろ
「確かに、冤罪はあるかもしれない。でも痴漢は列記とした犯罪よ。許される事ではないわ。」
毅然とした態度で言い放つ舞。
「そ、そうだね。痴漢はよくないよね。」
俺は何とか堪える。
今回は流石に「冤罪も犯罪だよね」とは言わなかった。
俺だけが若干気まずさを感じつつ、ベンチに座り電車を待つ。
舞が話しかけてくれるが、さっきのように軽快なトークが出来ない。
つい、思い出してしまう⋯あの時の事を
何事もなければいいが
《 間もなく、2番線に列車が参ります__》
ドクン !!
おい、誰だ⋯フラグ立てたのは
「__ッ」 俺だよ!!
ノリツッコミの直後、激しい動悸に襲われる!
反射的にギュッと思いっ切り目を瞑る。
しかし、奇妙な⋯馴染みのある感覚に目を見開く__
〔両眼が正確に時間を捕捉る〕
「依ぉ__り__ぃ__?」俺の異変に気が付いた舞が口を開くが、それすら遅く⋯
ドクン
体がピクリとも動かない!?
おいおい、待てよ
こんなヤバい状況で体が動かないのは2回目だけど焦る時は焦る!
ドクン
ハイスピードカメラの再生映像のような超スロー速度で世界が動く⋯ホントに動いてんのかって感じだが、俺の思考だけが相変わらずの通常速度を保っているようだ。
ドクン
むしろ頭はフル回転で、ついでに饒舌だ。
なんで今なんだ?
反対側の2番線に電車はまだ来てすらいない
だって今アナウンスが鳴ったばかり⋯アナウンスか?
ドクン
ぐっ⋯ちくしょー不意打ちすぎんだろ⋯そうだ!
舞!ヘルプ!
舞は俺の様子がおかしい事に気が付いてはいるが、様子を見ている感じ⋯なのか?
ドクン
現実時間では今までで何秒経過したか分からん
舞の口がゆ~くり閉じているのを見た感じ、まだ1秒くらいってとこだろうか
ドクン
う⋯胸が⋯心臓が苦しい⋯?
自転車での山越えの時のような息苦しさだ
息が出来ないから余計に苦しい
ドクン
ぐぅぅ
心拍数190⋯いや、200くらいの尋常じゃない苦しさ⋯しかも緩める事は出来ない
ドクン
ハッ!
世界が止まって見えるくらいゆっくりなのに心臓は変わらず動いてる!?
ドクン
呼吸は自分の意思である程度止められても、心臓は自分の意思で止められないんだよな?
このまま⋯心臓が動き続けたらどうなるんだよ⋯
ドクン
ゾクッと2度目の死を連想して背筋が凍る。
冗談じゃない!
依織が死んだら⋯!!
せっかく生き返ったのに!
あんなに大切に思ってくれる家族を⋯!!
それだけはダメだ!!
終われよぉぉぉ! !
文字通り必死に、必死にアタマに働きかける
俺の祈りが届いたのか、それとも俺がスローを止めたのか
唐突に終わりは来た。
〈解除〉ドクン__ブツンッ
あ⋯ヤベー音した
アナログテレビが消える時のような音を残し、俺は意識を失った。
ーーーーーーー冷たい
ーーー冷たい場所へ
ーーグイッと引っ張られるような感覚を感じ、肩を掴まれる
体がある
ドッドッドッドッドッド
「はっ、」
「__おりッ!」
「依織!しっかりして!!」
ドッドッドッドッドッド
痛いほど心臓が暴れ周り胸が苦しい
「__あっ⋯はっ⋯はっ⋯」
涙でぐちゃぐちゃになった視界
涙と涎と鼻水がホームの床に染み込んでいく。
きちゃない
目が⋯見える 両目はハッキリ自分の足と靴を見ている
「はっ⋯はっ⋯まっ⋯まいっ⋯はっ⋯はっ⋯」
呼吸が乱れて上手く喋れない
「落ち着いて、喋らなくていいから。」
俺はベンチに座ったまま上半身が前へ倒れたようだ。
左側に倒れてたら床へ落ちていただろう。
俺は何とか頷き、暴れる心臓と乱れる呼吸を必死に整えながら舞に体を預ける。
「大丈夫よ。大丈夫。」
背中を擦ってくれる舞こと守護天使
向かい側のホームへ電車がやって来る。
呼吸はだいぶ落ち着いた。
ハンカチを取り出し、顔の液体を拭う。
「はぁー⋯もう大丈夫」
俺は何とか鼓動を落ち着け、体を起こす。
「本当に大丈夫?」
ずいっと顔を覗き込まれる。
舞の匂い⋯いい匂いだなぁ
余裕が出てきた証拠だ。
それが顔に出ていたようで、舞に余計に心配されてしまう。
「何でニヤニヤしてるのよ。」
「な、なんでもないよ! ほら、ほらこの通り」
立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねてみる。
おまけに胸がばいんばいんする。
「わ、わかった。わかったから、ね?」
舞は何故か赤くなってわたわた焦っている
「ん?」
なんぞ
「ほ、ほら、人が見てるじゃない」
舞が見ている向かい側のホーム
その車内から数人がこちらの様子を見ている。
否、すごい目で見てる。
窓に顔をムギュっと押し付けこっちを見ている2名の男⋯生徒だね。
だらしない顔で窓にべたーっと顔を押し付けてる様はシュールだが⋯あんな変な知り合いは居ない。と思う。
「あちゃ~」またやらかした⋯
「依織、やっぱり貴女は心配だわ」
溜息と共に舞はガックリと項垂れる。
ゴトン⋯ゴトン⋯
電車は動き出し、窓に顔を貼り付けた男の顔が遠ざかる。
「世の中には面白い人が居るんだね⋯」
「ええ、男は猛獣よ。依織は分かってないわ!」
何故か怒ってらっしゃる舞さん
「や、そんな事はない⋯かもよ?」
元男としては否定せずにはいられない。が、舞の顔が険しくなるので日和ってしまう。
「いいえ、依織は分かってないわ。さっきも痴漢冤罪がどうこうって」
舞からお説教オーラがユラユラと立ち上る⋯ヤバい。何かスイッチ入ってしまった。
「そ、そうかもね!」
人が何かを誤魔化す際に目が上を向くってのは本当なんだね。
今上見ちゃってるわ。俺
「依織さん。」
真剣な目で見られると緊張する。
「は、はい。」
「貴女は自分の意志とは無関係かつ無差別に人を誘惑するの。」
うん?なんだよ、その対人兵器みたいな奴は
「⋯はい」
まぁ美少女だしな、うん
「だから立ち振る舞いには特に気を付けなきゃいけないの。」
「はいぃ⋯。」
痛いところを突かれる。
お母さん監修の元、立ち振る舞い、仕草は女の子らしくなるよう目下矯正中だ。
生憎、元男でしてね⋯
「クラスでは私が傍で守ってあげる。」
ふと声色が柔らかくなる。
「うん。」
「でも、私だって部活もあるし⋯いつも一緒には居てあげられないの。」
申し訳なさそうに目を伏せる。
「そんな事気にしてたんだね…大丈__」
「大丈夫じゃないのよ?貴女は自覚が足りないの。男は野獣なのよ!」
再燃焼ヴァーニンした。やべぇ
「や、そんな事な⋯⋯ハッ!⋯無限ループって怖いよね。」
幸いにも俺はループ前に気づいた。
「え?」
舞は気が付かなかったようで困惑顔だ。危ない危ない。
「こっちの話だから気にしないで。とりあえず、ケダモノに気をつければいいんだよね?」
サッとお茶を濁す。あ、お茶飲みたい
「そうよ、貴女はいつも狙われていると思いなさい。」
えぇ⋯なんだよその被害妄想女は⋯俺は面倒臭い女は嫌いなんだ。
「なんか映画の主人公みたいだね」
被害妄想患者みたいとは言わない
「さっき追跡されてたじゃない」
もう忘れたの?とでも言いたげですね。
「そうでした。」
忘れてたよ!相変わらず俺は俺だった。
俺がすっかり調子を戻した頃には電車がやってきて普通に乗れた。
さっきのが再発したらどうしようかと思ったけど大丈夫だった。
やっぱりフラグがアカンかったのかもなー
なんて思いながら舞と途中まで楽しく帰ったのだった。
絶賛書き換え作業中です。
この作業はアイスボックスクッキーを切る時の心境に似ているなとおもいました。
クッキー作った事あると何となく分かりますよね⋯え?分からない?
あの厚みの美味しさと出来上がり枚数との葛藤じゃないですかー分かってー!