第3話 巫女の血筋
俺は何かしらの能力を持っているのだろうか?
祖母の能力は遺伝で受け継がれるものなのだろうか?
様々な疑問を胸に、俺は起き上がり、膝立ちでかえでさんに詰め寄る。
「どうなんですか、かえでさん!」
誰もが一度は夢見るであろう超能力や魔法。
ある種の憧れめいた期待と緊張を持って、俺はかえでさんに掴みかかるように問う。
「お、落ち着いて透弥君、--ちゃんと話すから……」
かえでさんの困惑した態度を見て、俺は少し冷静さを取り戻す。
「すみません、つい……」
「いいのよ、話すのを忘れていた私が悪かったわ」
かえでさんは俺の態度に気を悪くするどころか、逆に殊勝な態度をとった。天使かな?
「私にも何かあるのかしら?」と、母。
「ええ、それを今からお話します。……透弥君的にもマッサージは後にした方がいいでしょうし」
再び俺と母、かえでさんは畳の上で座り向かい合う。
「単刀直入に言うわ。透弥君達はいわゆる巫女の血筋の家系よ」
巫女……?
「巫女っていうと神社とかにいるアレですか?」
俺の親戚に神社に関係のある人なんていたっけ?
「あっていると言えばあっているけど、現代日本の巫女とは少し違うわ」
「と、言いますと?」
「現代のいわゆる『巫女』はなろうと思えばアルバイトなんかで簡単になれるの。特に資格も必要としないしね。それに対して透弥君達『巫女』は、神様の言葉を聞くことができるの。シャーマンと言ってもいいわね」
……イマイチピンとこない。
「えっと、それってどういう……?」
「簡単に言うと透弥君達には神様とのご縁、つまりご加護があるわ」
「加護っていうと、何か危険から守ってもらえる、みたいな……?」
かえでさんは首肯した。
「そうね。ーー透弥君、運が良いと思ったことはない?」
「ええと……。あ、ありますあります」
昔から何故か運が良いのだ。
いわゆるクジ運があるわけではないが、ここぞという場面で外さない勝負強さが、ーー運が俺にはあった。
「巫女の家系はオイシイ思いができるのよ。そのご縁を大切にしなさい」
「ーーはい!」
かえでさんから優しげな眼差しを注がれながら、俺は首肯する。
「……あの、それで俺の能力っていうのは……」
肝心なことを聞き忘れるところだった。このまま話を終わらせてたまるか。
「あー……それなんだけど」
「はい」
「えっと、その……」
「はい」
「うぅ……ゴメンね、わからない、です」
「はい」
は?
いやいや、ここまでいってそれはないだろ。
かえでさんの口ぶりからなんとなく、いい辛そうなことはわかってた、が……。
「透弥、顔が怖いわ」
母に窘められる。まあ当たり前だ。
「あー、いや、わからないなら別にいいです、はい。気にしてないんで、ホント」
「ゴメンね、変に期待させちゃって……」
何か能力があるのかわからなかったが、ともあれ、神様とのご縁があると言われて悪い気はしない。神様などの超常的な存在がいるとは本気で信じてはいないが。まあ、いればいいなあ、といった気持ちだ。
この後はかえでさんのマッサージを心ゆくまで堪能して、俺は母と共に帰路についた。