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淫魔の御付き  作者: aono
第一章 現
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第1話 片岡整体院



「いらっしゃい、村上さん、透弥君」


ドアを開けると、明るい笑顔でお姉さんが出迎えてくれる。かえでさんだ。

「こんにちは、かえでさん」

「こんちわ」

母に倣い、俺も会釈する。

「あら?透弥君、今日は制服なのね。午前中授業だったの?」

「いえ、今日は終業式でして、明日から夏休みなんです」

「そっかあ、もう夏休みかあ……。まあ、立ち話もなんですし、奥へどうぞ」


俺と母は言われるまま奥へ進み、靴を脱ぎ置き畳に上がる。

白色のチノパンと、ケーシー型白衣を身に纏うかえでさんも、黒髪ショートをほんの微かに揺らしながら、サンダルを脱ぎ畳に上がる。


ここ片岡整体院は、ベッドではなく畳の上に布団を敷いて施術をする。前にそれについて話を聞いたが、かえでさんの父親かつ院長でもある裕之さんによると『この方がやり易い』とのこと。今はいないようだ。


「すみません休業日なのに…、それに院長先生にも話を付けてくださり、ありがとうございます」

「いえいえ、今からするような話はあまり人に聞かせられませんし、お父さんも霊感とかさっぱりなので、こういうことは私にほとんど任せているんですよ」


母の恐縮した態度を安心させるように、かえでさんは微笑みながら返答する。


「さて、今日は村上さんのお母様についてのご相談ですよね?」

「ええ、病院のお医者さんは『異常はない』とおっしゃるのですけど…」


俺の母親の母親、つまり俺の母方の祖母のことだが、ここ1年程様子がおかしいのだ。


具体的には、『隣の家の人が電話で話している声が聞こえる』とか、『今あそこにいる人に年寄りだと笑われた』などの、尋常では無いことを突如言い出すようになったのだ。

所謂認知症というやつなのか、と思い認知症テストを受けさせても異常が無い。


では単なる精神病なのだな、と決め付けることを母はしなかった。




母は3年前、仕事の帰りに突然悪寒と、身体中を駆け巡る猛烈な痛みに襲われた。

なんでもいいから兎に角楽になりたい、と車を何とか走らせ丁度いい所に整体院があったから診てもらおうとしたそうだ。


病院に行けよ、と思ったが結果的に見れば母の判断は大成功だった。

なぜなら片岡整体院は普通の施術だけではなく、霊などの超常現象に対しても心得があったからである。


『予約してないんですけど大丈夫ですか?』と母が尋ねると、かえでさんは『アンタ何してんの』と、返したらしい。正確に言えば母に取り憑いていたという霊に。


当時飛び込みで片岡整体院に訪れた母は、そりゃもう大変驚いたらしい。


かえでさんは『ごめんなさい、あなたに言ったわけじゃないの』と謝りながら、何やらお香を焚き始め、困惑する母をよそに霊を叱り始めたらしい。


『その人は何も関係ない!』『自分が苦しんでいたら関係無い人を巻き込んでいいの⁉︎』


かえでさんは烈火の如く怒り、気が付けば、母を取り巻く悪寒と痛みは綺麗さっぱり消え去っていたらしい。


実際の所、母と霊は全く関係ないという訳でもなかった。かえでさん曰く、その霊は俺の父方の祖父の妹で、旦那が浮気やら何やらをやらかしたのに心を痛めて何年も前に自殺したらしい。

更に悪い事に、親戚連中は自殺したからと、供養も何もしなかったのだ。

旦那もクズだが、世間を気にして死を隠す親戚連中のクズっぷりが伺える。

勿論、母も俺もこのことを知らずにいたわけだが、俺の父方のご先祖さんに墓参りした際に『この人なら何とかしてくれる』と件の霊がひっついて来たらしい。

しかし、いつまで経っても何もしてくれないというので--当たり前だ--暴走した、と言うわけだ。

当時の俺は半信半疑で、というより全くと言っていい程信じていなかった。

しかし、かえでさんの話を裏付ける話が聞けたので、俺も信じない訳にもいかなくなった。


父方のご先祖さんの墓がある寺で住職さんに話を聞きに行ったのだが、『いやぁ、供養してないけど大丈夫なのか、とは思ってましたけどぉ』とか何とかのたまう始末。いやいやそこは引き止めろよ、と思わずツッコミを入れたくなったが、元はと言えば親戚連中が悪いし、仕方ないのかもしれない。



さて、そういうわけで母はそういう霊的なものに理解があり、祖母の言っていることは本当なのではないかと思ったらしいのである。



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