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9話 スクールデイズ 菜乃とアップルパイ

時は翌日。新幹線の1件から、既に24時間が経過していた。

あの後俺達3人は、乗客の女性と車掌の2人の死亡事件について、殺人容疑及び重要参考人として警察で取り調べを受けた。

しかし車内監視カメラや、現場の状況からして証拠不十分と判断され、釈放されて今に至る。


何故か監視カメラには、犯人の姿が映っていなかったのだ。



とあるマンションの305号室に少女が1人。部屋の中は陽気なメロディが鳴り響く。

流行りのJ-POP『スクールデイズ』。今高校生の間で男女問わず人気なのだ。

そんな曲と、少女の鼻歌が重なっていた。

少女ーー露草菜乃(つゆくさなの)は心踊らせながら、キッチンのそれをまじまじと見つめていた。

高校の制服にエプロン姿の菜乃が、光るそれーーオーブンレンジの中を覗き込んでいた。

そして……ピーーーーー

「できた!」

菜乃は嬉しそうに、ミットを身につけた手でオーブンの中の物を取り出した。丸く満遍なく焼けたアップルパイだ。

「うわー美味しそう」

かなり上手に焼けている。本人の中で会心の出来だ。

「ほんとに美味しそう。って自分で言っちゃうけど美味しそうね。よかった。後は明日、あの2人の口に合うといいけれど……大丈夫よねきっと。こんなに美味しそうなんだもの」

『星条学園』

菜乃の通うこの街の私立学園。菜乃が口にした2人も同じ学校に通っている。その2人に食べてもらうため、学校から帰宅してこうしてお菓子作りに励んでいるという訳だ。


菜乃にとってその2人はとても大切な2人であるから、より楽しみにより真剣に、気合を入れていた。

そんな時だったーー

不意打ちのようにそれは訪れた。


プルルルルル……プルルルルルル……


制服のポケットに入れていたスマートフォンの電信音。

とてもシンプルな、電信音と言えばこのメロディ。

だがそれは妙だった。なぜなら菜乃は、自身の着信音を変更していたはずなのだ。

普通ならここで、『スクールデイズ』が鳴り響くはずなのだが……


プルルルルル……プルルルルル……


スマートフォンがポケットの中で、揺れる。揺れる。

菜乃は首を傾げながら、スマートフォンを取り出してーー

画面を確認する。

「……え」

そこには『非通知』と書かれてあった。

どれだけ思考を働かせても、非通知で掛かってくる電話に身に覚えが無い。

「……イタズラ、かな……?」

それでも無視は出来ず、直ぐにミュージックプレイヤーの停止ボタンを押しーー

スマートフォンの通話ボタンを押しーー

電話をゆっくり耳へと近づけた。そしてーー

後悔へとゆっくり近づいている事にまだ、その頃はまだ気づいていなかった。


それは聞き慣れない声だった。

《もしもし……あのねあのね》

電話の相手は女の声。それも幼い女の声。声からして女子中学生くらいの子だろうか。

菜乃は反応を返そうとした直前。またも先に相手の女の子が台詞を続ける。

《もしもし。お姉ちゃんあのね》

あのね。何なのだろうか。用件をなかなか言い出さない女の子に、菜乃が年上として対応しようと、そう思った。けれど何をどう言えばいいのか、それを悩んでいた。

更に電話の少女は『あのね』を続ける。

《あのねお姉ちゃん、ごめんなさい。せっかくお菓子作りの最中だったのに……》

確かにお菓子作りの最中であった。しかし、もう既にアップルパイは焼きあがっていたため、「別に謝らなくてもいいのよ」と初めて電話で声を出した。

しかし、全く面識もない何処の誰か分からない相手と電話を続けられる程暇でもないので、通話を終わらせようと、そう思った。

そう思ったーーところで気づいてしまった。

気づいてしまった菜乃は、急激に『違和感』と言う単語に襲われた。


……あれ……?

数秒間のやり取りを、消え去られようとしていた記憶の断片から振り返る。

その単語が、大きな矛盾を作り出す。

菜乃の感じた『違和感』が、一気に不安と絶望に染まっていった。

ーーこれは、イタズラ電話なんかじゃ……ない……!

なぜならーー

菜乃は何度も、記憶を脳裏で繰り返し再生させる。けれど答えは変わらない。

「……わ、私……まだ何も喋ってないのよ……!それなのにどうして、私が今『お菓子作り』の最中だって分かったの……!?」

もしこれが、ごくありふれたイタズラ電話であるなら、まだ声の発していない菜乃が、何をしているかなど断定出来るはずがないのだ。

そしてーー

電話の向こうの声とーー

それとは別の声が重なって聞こえてきた。


「《あのね。今お姉ちゃんの後ろにいるの》」

新章スタートの9話ご愛読ありがとうございます!

菜乃が渉たちと別れ、1人お菓子作り中に謎の少女がーー

次話をお楽しみに!!

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