8話 闇夜に浮かぶ緑瞳
数少ない乏しい灯りが、不気味な闇を漂わせる車両トンネル。
そんな中、走って逃げ出した幽霊ーー露草菜乃の父親は、その男の声に立ち止まる。
「お前はもう死んでるんだ。人間みたいな事を言うな」
男はうっすらと見える闇の中で舌を鳴らし、瞳を緑色に変える。
声から感じる若さから、高校生くらいの少年であると感じ取った菜乃の父親は、見下した態度で言い返す。
「何だと!?子供が調子に乗るなよ!その緑の瞳……!お前もその若さで死んだのか!?ご愁傷様な事だな……!」
男はそう言って、闇の中へと姿を溶け込ます。
霊力発動ーー『インビジブル』
スーッと姿を消し、行方を眩ませる。
けれど緑の瞳の少年は、鋭い目付きで力を放つ。
少年は腕を真横に、大きくその場で振るう。刹那ーー
バチーンと鋭い音をトンネル内に響かせて、まるで見えない鞭状の刃で切り裂いたような切り跡が、トンネルの壁に刻まれた。
「お前らと一緒にするな……!反吐が出る……!」
次の瞬間、透明になっていた幽霊が浮かび上がるがーー身体が上下分かれた姿で浮かび上がった。
「な……に……!死にたくな……い……」
切られた菜乃の父親は、サラサラサラと煙になって消滅した。
少年はそれに背を向け、表情を変えることなくゆっくりと歩き出すのだった。
「僕を、お前達死に損ないと同じ土俵に立たせるな……!」
しばらく歩き、トンネルの外へ出た所で、月明かりに照らされていたもう1人の男が、少年に向けて笑顔で話しかける。
「今晩も幽霊退治ご苦労様ですクソ坊ちゃん。怖さで泣きわめく貴方を見たかったのですが、相変わらずのムッツリ顔でしたねぇ」
20代前後であるその男は、明らかに年下の少年に敬語を使っているのだが、笑顔で嫌味を台詞に混ぜる。
男は常に満面の笑みを絶やさない。しかし闇夜に浮かぶ違和感は、不気味な笑みだけではない。
クソ坊ちゃんと呼ばれた少年は瞳の色を元に戻し、冷めた口調で指摘する。
「室槙……毎回思うが、何故お前のその普段着は何時も浴衣なんだ?そしてその呼び方を止めろ」
月明かりしかない線路の上に、何故か浴衣姿で現れていた青年は、景色から完全に浮いていた。
室槙と呼ばれた、違和感全開の浴衣青年は笑って言い返す。
「これが私のトレードマークです。決してキャラ作りではありませんよ。それより貴方は、毎日毎日幽霊退治をしてますが、一体いつまで続けるのですか?」
それを聞かれ、少年はふっと笑う。
「愚問だな室槙。僕の目的は2つ……1つは全幽霊の殲滅。この世に無数の幽霊がいるなら、僕はその全てを滅殺するだけだ……!」
拳を強く握り締め、怒りを震わせる
「……もう1つは?」
「……もう1つ……それは、『犬神渉』を潰すこと……!」
8話ご愛読ありがとうございます!
謎の2人組……この2人が、今後の物語を大きく動かしていきます!
幽霊の敵……しかし渉の敵!?一体何者なのか!?
今後もよろしくお願いします!