7話 透明幽霊の末路
「今までありがとうパパ!幸せでした!私はもう泣きません!」
菜乃の別れの思いが、叫びとなって号車内に響き渡る。
俺はその覚悟を受け止め、取り押さえていた幽霊である菜乃の父親目掛けて、銀の小刀を振り下ろす。
刃が幽霊の首筋を貫こうとしたその時ーー
キィィィィィィ!
列車が突如急停車し、支えがなかった俺の身体は思わず転倒した。
「ガッ!しまった!」
俺は直ぐに体制を戻したのだがーー
1度離れた菜乃の父親の姿が消えていた。
次の瞬間、目の前の自動ドアが開きーー
バリーン!
外へと通じる出入口ドアの窓ガラスが、激しい音とともに割れる。
霊力『インビジブル』で透明化させて、外へ逃げ出したのだ。
外へ逃げる透明幽霊は追いようがない……それこそ、雲を掴むような話だ。
俺は思考をひたすら働かせるも、いい作戦が思いつかない。
こうしている内に、透明幽霊はどんどん遠くに逃げていくというのに……!
俺がそうやって考え込んでいたところで、ニールは俺の表情を覗き込む。
「渉。今ボク達に出来る事は、幽霊を追いかける事じゃないと思うよ」
「え?何言ってんだよ!あいつがまた何日菜乃を襲って来るか分からないんだぞ!?」
けれどニールは即答で言った。
「その時は、渉とボクで菜乃をまた守ればいいんだよ」
ニールはそう言って、無邪気に菜乃に抱き着いた。幼く見えるニールの身長との差で、菜乃はお姉さんのように見えたが、2人は同い年だ。
確かにニールの言うとおり、俺達が菜乃を守るんだ。
菜乃だけじゃない。ニールもだ。
俺の幸せは、もう何物にも壊させない。
もう2度とーー誰も悠里と同じ目に合わせたくないから。
なぁ悠里……
お前の最期に遺したかった言葉。その答えがまだ分からないけど……俺は必ずその答えを見つけるから。
俺はお前に、あの世で笑われないように胸を張って生きていくから。待っててくれ。
俺はまだ、お前の所へは行ってやれない。
ここで守らなきゃならない人たちがいるから……!
「そういえば渉。どうして窓越しでなら『インビジブル』見破れるって分かったの?」
俺は謙遜を混ぜてネタばらし。
「大した事じゃないよ。運が良かっただけなんだ。菜乃の親父さん、アタッシュケース投げて来ただろ?」
「うん。それで?」
「床に落ちた時、中からメイク用の手鏡が零れ出てたんだ。それには『インビジブル』で消えたはずの、菜乃の親父さんが映っていたからもしかしてって」
それを聴いていた菜乃は、こっそりニールの耳元で囁いた。
「にしてもトンネルに入るタイミングまで測ってたとか、渉の頭の良さは本当に気持ち悪いね」
聞こえてるからな……
※
闇のトンネルを走る音。
薄明るい灯りが、あちこちでポツポツとだけ存在する程度。
そんな灯りの下、透明になっていた幽霊ーー菜乃の父親は、姿を現して立ち止まる。
「クソっ……クソっ……!僕はまだ、死にたくない!」
その独り言の次の瞬間、突如闇の中から聞き慣れない男の声。
「お前はもう死んでるんだ。人間みたいな事を言うな」
男はうっすらと見える闇の中で舌を鳴らし、瞳を緑色に変える。
7話ご愛読ありがとうございます✨
連載開始してはや一週間。大好評いただいてます!
次話から新キャラ続々登場で、新章スタートです!
これからもよろしくお願いします!!