6話 犬神渉の戦い方
「いや……!透明幽霊はこの号車にいる!」
俺はそう確信して立ち止まる。
その場にいたニールと、追いかけてきた菜乃は当然不思議がる。
「相手は透明幽霊なのに、どうしてこの先に逃げてないって分かるの?」
キョトンとした表情を見せるニールに、俺の考えを話す。
透明な幽霊がいつ襲ってくるかは分からない。だから、銀の小刀を盾にするため、突き出して固定する。
「『自動ドア』だ」
俺はまず結論から話し始める。
「自動ドア?」
「ここに来るまで、逃げた菜乃の親父さんが通ったはずの自動ドアが、全部開いていた」
そして俺は向こうのドアに、片方の指で指し示す。
そこまで言ったところで、後ろにいた菜乃は理解した。
「そうか!」
「うん。あのドアだけ閉まってる。この新幹線の自動ドアは安全の為、閉まるまでちょっと時間がかかるんだよ。でも閉まってる……ってことは。誰もこの先へは出入りしてないってことだ。」
そして車内は勿論一本道。
たとえ相手が透明幽霊でも、俺達を超えて後ろへは行けない。ましてや銀の小刀が怖くて近づけないはず。
となれば、相手はこの号車に閉じ篭っているという事になる。
そしてーー俺はもう一つ策を用意していた。
「ニール。俺がカウントするから、そのタイミングで『キャンセル』を頼む」
「へ?『キャンセル』は分かったけど……相手が透明だから見つけられないよ?」
大丈夫。多分、相手の霊力『インビジブル』は、俺の考えで見破れるはず。
「いいから俺を信用して。カウントが0になったら、俺の言う方向を見るんだ。5……4……」
菜乃は後ろから、俺の表情がチラッと見えていた。俺本人気がつかなかったが、菜乃はボソッと口ずさむ。
「……渉は運動神経が良いんだけど、本当に凄いのはそれじゃなくてこれなのよね……全く、楽しそうにニヤけちゃって。勝てるゲームをしてる時いっつもその表情」
「3……2……」
菜乃はよく知っていたのだ。
犬神渉という友人のーーIQの凄まじさを。
「私は何時も貴方に驚かされるの」
「1……0!窓を見ろニール!」
次の瞬間。
ガタンガタンガタン……
夜景が流れていた車窓の景色が、一瞬にして黒一色に変わり、線路の音や空気を切る音が閉じ篭ったような音へと変化する。
トンネルーー
そして窓には車内の様子がくっきりと映りーー
透明なはずの幽霊が、窓を通して姿がハッキリと映し出されていた。
ニールは直ぐにそれを目で追って、車内で幽霊が立っているであろう場所へと掌の向きを変えた。
ニールの瞳が、霊力発動と同時に白色へと変化する。
「霊力『インビジブル』を取り消して!『キャンセル』」
唱えた瞬間。透明化の効力が取り消され、姿全身をさらけ出す。
「そんな馬鹿な!?」
俺は待たずに、急接近して地面に倒して取り押さえる。
小刀を逆手に持ち替え、取り押さえた幽霊の首筋目掛けて振り下ろす。
「これで成仏だ!あの世で罪を償ってろ!」
小刀が首筋到達する直前。死が怖い幽霊は、最期に悪足掻きで叫ぶ。
「菜乃ー!パパを助けてくれ!パパを見殺しにする気か!」
その答えに菜乃は涙を袖で拭い、覚悟を決めて叫び返す。
「今までありがとうパパ!幸せでした!私はもう泣きません!」
それはーー菜乃の別れの台詞だった。
振り下ろされた銀の小刀は止まらない。
主人公ーー犬神渉の作戦が炸裂。
今後も物語を大きく引っ張っていきます!
第7話もよろしくお願いします!
次話序章幽霊新幹線!決着!!