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3話 狂気のアタッシュケース

亡くなった筈の、菜乃の父親を追い掛けている最中、謎の女性の悲鳴が車内に響き渡る。

俺達は急いで、その悲鳴の元へ駆けつけた。

するとそこには、見ず知らずの女性が血に染まって倒れーー

それに跨るように、中年男がそびえ立つという異様な現場に遭遇した。


「……パ……パ……!?」


その中年男には俺も見覚えがある。

間違いなく亡くなった筈の、菜乃の父親だった。

亡くなった父親が、目の前にいる。

それよりもーーその愛する父親が、人を殺めた姿でここにいるのだ。

菜乃はその耐え難い光景に、絶句して思わず言葉を失っていた。


菜乃の父親は、生前運送会社に勤め、日頃から身体を鍛えていた。

その凄まじい握力で、目の前で横たわる女性の身体を握りつぶしたのだ。

チラッと見えたその横顔は、目が血走っているように見えた。

俺はこの場に漂う空気に危険を感じ、菜乃の腕を掴んで逃げようとする。

「逃げるぞ菜乃!」

けれどーー

引っ張るその腕は動かない。

「……パパ!?」

その一言に、男はこちらに気づいて振り返る。

「……菜乃か?」

ヤバイヤバイヤバイ。

このままじゃ……そこの女性の二の舞に……!

「菜乃何やってんだ!?早く逃げないと!」

それでも俺の叫びは届かない。

「……パパ。私、会いたかった」

俺は何度も何度も言い聞かす。

「菜乃!お前の親父さんは交通事故でーー」

途中で菜乃の台詞がかき消した。

「だって今ここにいるじゃない!パパは生きてたのよ!」

「違う!菜乃の親父さんはーー」

俺のこの後の台詞の続きは、目の前の男と声が重なった。

「ーー死んだんだ!」

そう言って、次の瞬間……思わず目を覆いたくなるような行動。


ドスッ。

菜乃の父親は俺達に見せつけるようにーー自らの右手親指を、自身の首に突き刺した。

けれど痛がる素振りも見せず、涼しい顔をしてニコッと微笑んで言った。

「菜乃……すまない。私は『幽霊』だ。もう死んでいる」

衝撃の光景に、娘である菜乃の精神は崩壊する。

「止めてよパパ!どうしちゃったのよ!いやー!そこの女の人は何!?パパが殺したの!?何でよ!?」

言われた父親は、チラッと床に転がる女性の遺体を見てーー再度ニコッと微笑んだ。

それは狂気の笑み。

「いや何簡単な事さ。幸せそうに生きているこの女性を見たらね。何かムシャクシャしちゃってさ」

そこにはーー俺の知る、優しい菜乃の父親は完全に死んでいた。

「狂ってる」

俺は思わずそう呟いた。

けれど父親は、まるで俺がおかしい事を言ったかのような、頭を捻って問い掛ける。

「君は確か……あぁ犬神渉(いぬがみわたる)君かい?君の事は、よく菜乃が話してくれていたよ。君は今、僕が狂ってるって言ったね?狂ってるのは君達の方さ」

「何?」

「君は……死の怖さを考えた事はあるか?」

『死の怖さ』それは、誰もが1度考えた事ありそうな問いかけだった。

「死の怖さ!?そりゃ考えた事ある!そんなの誰だってーー」


「怖いんだ!」


それはまたも俺の台詞をかき消す叫び。

菜乃の父親は、表情を変え、震えながら死について叫びつづける。

「自分!物!世界!感覚!全てがその瞬間無くなっていくんだ……!あの苦しみを知らないから、お前達生前の人間はそうやってヘラヘラ笑ってられるんだ!」

そう言って怒りに身を任せ、側に落ちていたアタッシュケースを握り締める。

女性の遺留品であるアタッシュケース。

その次の行動は予想が出来た。だから俺は、菜乃たちの盾になるべく前に出る。

「止めろよお前!自分の娘だぞ!?菜乃だぞ!?」

けれど俺の言葉は、死の恐怖に取り憑かれる幽霊には届かない。


「菜乃ー!パパと一緒に死んでくれー!」


菜乃の父親は、そのアタッシュケースを俺達目掛けて投げ飛ばした。

凄まじい腕力で投げ飛ばされたアタッシュケースは、めまぐるしい速度で接近する。

当たればタダじゃ済まない……

そんな時……


後ろにいたニールが呆れ顔で、俺を退かして前に出た。


「全く聴いてられないよ。ちょっと代わって渉」

第3話ご愛読ありがとうございます!!

絶体絶命の場面で、お菓子大好き赤髪少女ーーニール・クルーエルが前に出ます。

渉たちはこれからどうなっていくのか!そして最愛の父親を前に、菜乃はこれからどうなっていくのか!

第4話もよろしくお願いします✨

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